そうして、多少興味の目で道行く人々に眺められながらー流石に、この時代となるとミラの綺麗な金の髪は非常に珍しくて目立つのである。あの狐共が和装してる癖に当たり前のように桃色だったり銀髪だったりするし、おれ自身も白髪のせいで銀髪扱いされたりしていたので日本人は大抵黒髪だという当たり前がすっかり頭から抜け落ちていた、おのれフォックス共ー辿り着いたのは……
お化け屋敷であった
そう、お化け屋敷であった
フォォォォォォォォックス!調子乗んなフォォォォォォォォックス!
見るからにお化け屋敷である。荒れ果てた幽霊屋敷、という訳ではない。文字通り、それはもう朧気ながら修復している神巫雄輝の記憶の中に遊園地に二人で遊びに行った際のものがあるが、そこに映ってるアトラクションの一種に酷似している。というか、デフォルメされたシーツお化けのイラストが看板に掲げられているのはお化け屋敷以外に言い様は無いだろう。いやせめて平安ナイズしろ
恐らくは市場全体を黒い布でもって囲い、その中に衝立なりなんなりを立てて順序を作り、お化け役を配置したのだろう。急造にしては本格的だ。時おりキャーキャー騒ぐ音が外に漏れている辺り、野外に急造したが故の防音の乏しさが見てとれるが、それはまあ逆に客を呼び込む事にも繋がるのだろう。キャーキャー言う客は入っているのだし、入り口らしい場所にも列が出来ている
男性は兎も角、女性客のうち若い女の大半が着ているものが色こそあまりついていないとはいえこちらの女性陣ーアサシンは自前で逃げたがーの服装と似通った和装なのが印象的だ。大抵白いのは染めたり色刺繍したり何なりは金がかかるから……という平民故のアピールなのだろうが、ならばあの狐服なんて凝ったもの着るなという話である。ズレ過ぎてて笑いが出る
「寧ろ、アサシンが一番浮いてるな。柄で少し浮くかと思ったが、それ以前の問題だ」
『……着て、ほしい?』
「いや、良い。目に毒だ」
『そこ、保養じゃ無いんだ』
少しだけ不満げな少女に
「毒だよ。取りすぎれば、救うべき
と、視線を向けずにそう返す
そう、可愛い。可愛いのだ。シスターやってる時はしっかりした服装であるし、サンタクロースとしての服装でも本人の趣味からか単純にロングだと蹴りにくいからか割とスカートは短いがそれでもまともな露出は太股くらい。胸元から肩まで出た状態は、見た限りでは一番の露出といって良い。だから、毒だ。見るな、眺めて問題ないほど、俺なんぞ精神強くはないだろう。本来の俺の存在理由を忘れすぎだ。いっそ、己に変わるか?
『うん、それは良かった』
「良くない」
『けど、もうちょっと素直な言葉の方が、女の子って嬉しく思うものだよ?』
可愛いって言って欲しいものなのです、と続けるミラに向けて、わざとらしく溜め息を吐く
「今更だろ。催促してから言われて嬉しいか?」
『それもそうだね。上手く返されちゃった。それじゃあ、この話は御仕舞い』
なんて、話していると列が掃ける。というか、割れる
「お待ちしておりました」
「……何だ、差し金か?」
「いえ、これこれこういう風体の一行は、ぶい、あい、ぴー?待遇をしろと言付かっておりまして」
「桃色狐の手回しか。準備の良いことだ」
恐らく、自分に似た胸元ぱっくりの改造和服を配ったのも奴だろう。そう、願われたものを取り出すというミラニコラウスの宝具、
「お化け屋敷……行くの?」
無駄に広いおれの袖を軽く掴み、紫乃が訪ねる。そういえば怖いもの苦手だったか。いや、待て。神巫雄輝の記憶手繰っても紫乃がお化け屋敷に入るのに躊躇した覚えはないな
「怖いのか?昔は怖がっていなかった割に」
「かーくんが居れば、守ってくれるって思えたから」
「ああ、そうだな。神巫雄輝となら、怖くないか」
「こわかったけど、安心出来た」
そうだ。だから、……今、此処に居るべきは
神巫雄輝でなければならない。返さなければならない。彼が本来持っているはずだった未来を。幸福を。俺はその為に……無数の願いを踏みにじってきたのだから
「それで、アサシンは来るのか?」
だが、それでも。極めて近い何時の日か、世界を覆う悲劇を『破壊』する為に。事態の進展を待たなければならない。フェイの脅威となるとあるサーヴァントを倒すという新しい盟約にしても、条件が整うことを待つしかない
だから、まあ、今くらいは休息も良いだろう。なんて、名分で弱さを塗り固めて誤魔化して。今は身に過ぎた幸福を、卑怯にも味わう
『んっ』
こくりと、少女は頷く
『背中、まもる』
「いや、そんな危険無いだろお化け屋敷だぞ」
『?お化け、居るのに?』
こてん、とアサシンは首を傾げた
「いや別に旧アサシンの残党のアジトじゃないからな此処」
『でも、居る』
ひょう、と空を裂く音。何処かから取り出したボウガンでもって、アサシンが屋根ー正確にはその上の空間を射ったのだ
隠れきれず、透明化していた何者かが落ちてくる。それはヴァルトシュタインの魔獣。異様に小さく細い手足をもった小鬼の妖怪餓鬼、それに周囲に身を隠すカメレオンを合体させたキメラ妖怪である
「ヴァルトシュタインのだから旧アサシン残党じゃないだろ。仕掛けては来ないよ
わざわざ来る必要はない」
俺の右目にはずっと映っていたのだし
『なら……行く』
「結局行くのか。名分か今のは」
『いぐざくとりぃ』
「いや、格好付ける必要ないだろ今」
苦笑しながら、金髪の少女に向き直る
「ミラは、来るか?」
『ううん、わたしは止めておくよ』
けれども、返ってきたのは割と予想外の答え
「別に、お化けが怖いなんて話は無いだろ?」
『うん、無いよ
お化けなら専門……ってほどじゃないね、何度か生前に退治した事はあるけど』
……これである。ミラのニコラウス、聖堂教会がまだしっかりと成立していなかったかもしれない頃に、今で言う執行者とかそのレベルで暴れまわっていたらしい聖人。無垢の守護者
そんなものが、偽物のお化けを
『うん、怖くはないんだけどね
別のことが怖いかな』
「別のこと?」
『うん、ほらわたしって分からず屋さんには拳で語ってきた訳だよね?
そのなかには不意討ちしてくる吸血種さんとか沢山居たんだ』
「ああ、そういうことか」
『うんうん。不意に
気をつけてれば問題ないんだけど、流石にそれじゃあ楽しくはないかなって
だから、わたしは外で待ってるね、フリットくん』
そういって、少女は笑った
……いや待て、俺も一年とはいえヴァルトシュタインのホムンクルス相手に殺すか死ぬかの不意討ちやらの訓練させられた訳で……。大丈夫か、俺?ミラの懸念と同じことやらかしたりしないか?
本当に大丈夫か?