Fake/startears fate   作:雨在新人

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十一日目日常 不意討ち対処は裏目に出るという、戦闘狂の弊害

「うーらーめーしぃぃやぁぁぁぁぁ!?」

 語尾が調子っ外れに上がる、情けない半分悲鳴染みた声が、仕切られたお化け屋敷の一角に響き渡った

 

 「何だよ、人を幽霊でもみたように」

 俺は敢えて言うならば幽霊っていうよりもゾンビだってのに。いや、化け物って意味では欠片も変わらないか

 考えてみれば、神巫雄輝の遺体を血管やら神経を魔力回路に偽造して動かしている俺に関しては、寧ろお化け役の方が向いているのかもしれない。心臓も動いてない……ってか銀霊の心臓に置き換えられてるしな

 

 「おいおい、お前だってお化けだろう、もう少し頑張れ」

 「お、お、お、お化けぇぇぇっ!?」

 ダメだこれは。プロ根性ってものが足りない。精々片目潰れて顔に傷があるってだけの、ぱっと見生きてるのと変わらないゾンビを見てお化けは無いだろうお化けは。義足義手で欠損は隠れてるんだし。脅かす側なんだからそんなもの慣れてなければ、お化けメイクした同僚と会う度にぴゃーぴゃー鳴く事になるだろうに

 「かーくん。とりあえず、抜刀姿勢止めよ?私だってちょっと怖いよ」

 「……悪い」

 言われ、つい腰に手を当て、抜刀術っぽい体勢を取っていた事に漸く気が付く。まあ、フェイ産の剣は折れたし今や芯なんて無くても紅の光は扱えるので帯剣なんてしておらず、抜刀術も形だけなのだが。というか、カッコつけてるだけで、抜刀術なんて知らないのだが、まあそれは置いておこう

 

 「アサシン、ひょっとして殺気放ってたか?」

 俺の言葉に、こくりとアサシンは頷いた

 「……すまない、お化け役の人……」

 ぴゃーぴゃー叫びながら逃げてしまった職員の少女に、聞こえないだろうが頭を下げる

 不意討ちに対して、殺気というものは中々に有用なのだ。貴様の存在は見えているぞ、という意思表示。それは、相手の手を鈍らせる事もある。不意討ちなんて気が付かれる前に殺せば良いという考えなのだから、殺気を受ければ気が付かれたと迎撃を警戒して逃げ出して潜みなおす者だって居るだろう

 まあ、だが。反撃なんて警戒していないお化け役が、自分を殺しかねない殺気を隻眼ゾンビから受けたら……それはもう逃げるわ、仕方ない。下手をしたら返り討ちと称して俺が真っ二つにしていたかもしれないので、誰も責められないだろう。でも次の人が入ってくる頃には戻ってこいよ

 

 懸念が見事に的中した事にため息をつきながら、順路を先に進む。入ったばかりなので、止まっていても仕方がない

 通路を曲がると、青白い火が見えた

 ……おいこらフォックス、その火は良く見ると魔術じゃねぇか何やってんだおい

 そうして、何処かから何かを数える声が聞こえてくる。一枚、二枚と

 

 ………………フォックス?これ皿屋敷じゃないのか?今は江戸か?

 と、言葉にしたくなるのを抑え、先へと進む

 成程考えてみれば良い手かもしれない。卑劣にも人の生を奪い現代(A.D.2016/12/21)を生きる俺なんかにはおいこらと思える話ではあるが、成立は江戸、原型は……確か室町か何処かである皿屋敷など、平安からしてみれば後世に成立する怪談をお化け屋敷に盛り込めば、新鮮な恐怖を味わわせることだって出来る訳だ。実は欠片もオリジナリティは無いが、当時の人々にとってはオリジナリティ溢れるエンターテイメント。良いじゃないか

 

 ゆらゆらと青い火が道順を指し示す中、歩みを進めると井戸らしきものが見えてくる。こんな本来は市の真ん中にある以上実際の井戸では無いだろうが、中々に本格的なぱっと見石造りのものである

 きゅっと、袖を握られる

 「……紫乃?」

 『のー』

 「ってお前かよニア」

 口をついて出るのは、誰でもない……というか誰かでしかないはずのアサシンに与えた識別名。あまり呼ぶことはないが、ついそう呼んでいた

 『ぐっど』

 「いや、何がだよ」

 『ぐれーと』

 「グレードアップするな、何がだ」

 『その名前で呼んでくれた』

 「……たまには呼ぶさ」

 『ずっとでも、構わない』

 「こっぱずかしいだろ。行くぞ」

 そうやって言葉を打ち切り、袖を掴まれたまま歩みを進める

 紫乃ではなくアサシンということは、多分雰囲気作りだろう。あのアサシンが、今更お化け程度にそう驚くのかという話である。血みどろの化け物との対峙なんて、記憶を漁ればそれはもう売るほどあるだろうに

 それでも、怖がってしがみついたりというのが、男女でのお化け屋敷のお約束……というものでもあるのだろう。だから、その一環として袖を握った。随分と楽しんでいるものである

 「紫乃、お前は大丈夫か?」

 「うん。ちょっと怖いけど、これって皿屋敷だって、心構えは出来るから」

 少しだけいつもより血色の悪い青ざめた顔で、少女は答えた

 「心構えしてたらお化け屋敷としてはダメな気がするんだけどな」

 「でも、怖いよ。大丈夫大丈夫って言ってないと」

 「アーチャーが聞いたら笑うぞ」

 いや、笑わないか。あのバケモンは

 軽くからかうように笑うかもしれないが、嘲るような笑いは決してしないだろう

 『怖いなら、貸す』

 「いや俺の腕だからな。お前のじゃないだろニア」

 持ち上げられる袖を振って、心なしか緩んだ顔のサーヴァントに釘を刺す

 『令呪があるから、実質「ボク」のもの』

 「おいこら、それならセイバーのものって事にもなるだろうが」

 『……こまった』

 「令呪どうこうの考えを止めれば良いんだよ」

 

 そんな話をしている間に、数えを何でか9ではなく5でループしている井戸の前を通りがかり……

 「四枚、五枚……」

 一拍の間

 「一枚、足りない……」

 いや5枚足りてないぞ、皿屋敷の皿は10枚ワンセットだろ、と言いかけて……

 「三途の川、渡れない……」

 っておい

 「六文銭、置いてけぇぇぇっ!」

 どばぁん、と井戸の蓋が吹き飛び、中から針……というか磨いた簪を構えた血みどろの女の幽霊が飛び出した!

 

 「えっ?ひゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

 六文銭は想定していなかったのだろう。悲鳴と共に、暖かなものが俺の右半身を覆う

 「か、かーくん……」

 「魂消(たまげ)れば、銭は要らんぞ」

 左袖はアサシンに掴まれ、右腕は抱きつく紫乃によって固められ。流石に魔力も何もない簪なんぞ、宝具ではないので例え毒が塗られていようが紅翼を展開する程ではなくて。ただ血色の光を微かに鎧のように纏わせて睨み返す

 「……ひっ」

 やってから、しまったと思う。またお化け屋敷だというのに、お化け役に何時もの感じで反応してしまった。随分と物騒な思考になったものである

 「我は貴様を封じに来た陰陽師、悪霊、退散!」

 なので、実はお化け役がいると聞いてそういう陰陽師ゴッコやりに来たんだぞーっと、苦しい感じで誤魔化して、適当に札を投げ……られないじゃないかこれじゃあ

 仕方がないので歯で唇を軽く切って血から適当に札っぽい形状のものを生成、口でくわえて横を向き、頭を振った勢いでぶん投げる

 「ぎゃー、実は人間なんです調伏しないでぇぇっ!」

 脳天に血札を貼り付けられ、お化け役の女性が呻く

 「いや、こちらもゴッコだから」

 ……札の本領を発揮すれば、その限りではないが。捕食くらいならば出来るだろう。絶対にやらないが。やったらミラに殺されるだろうし、それは嫌だ

 「あ、何だそうなんですか」

 けろっとして、女性は脳天に貼られた札を右手で剥がした

 

 「か、かーくん……」

 「大丈夫だ紫乃、怖くない怖くない」

 寧ろ多分一番怖いのは俺だろう。銀翼の己ではなく、紅翼の俺ですらなく、鋼の軍神竜とは程遠くとも、この中で一番の危険とは俺だ

 

 「あのー、やり直します?きちんと今度は陰陽師だなんて、うわー、やーらーれーたーしますから?」

 そんな風に今もまだ抱きついてきている紫乃をあやしていると、女性が少しだけ申し訳なさそうにそう聞いてきた

 「いや、良いよ。こっちが突然振ったのが悪い」

 咄嗟にネタに変えられなければ、そしてアサシンが袖を握って止めていなければ……下手したら簪くらいはぶった斬っていたかもしれないので、落ち度は此方にしかない

 

 そうして、先に進む

 俺の歩く速度に合わせ(大分遅くしている)て、まだしがみついている紫乃の体は暖かく、柔らかくて

 命の危機なんて無いこんな日々も、悪くなくて

 故に。だからこそ。何よりもはっきりと解るのだ

 

 俺にこんな幸福な人生を謳歌する権利など無いのだと。還さなければならないのだと。噛み締めれば噛み締めるほどに痛感する

 こんな幸福、俺なんぞが、神巫雄輝から奪ってはならないのだ。幸福は、地獄にはあってはならぬ眩しすぎる光。『回帰』を。血塗られた俺がそれを果たさなければ、何のためにそれだけの血は流れたのだ

 あらゆる不幸を『破壊』し、幸福への『回帰』を。やらなければならない。還さなければならない。幸福はこんなに甘美なものなのだから。捨てるなんて、やりたくはないが。そんな甘さをも、『破壊』して

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