Fake/startears fate   作:雨在新人

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十一日目日常 味の好みは人により分かれるという、当たり前の昼飯

「……旨いか、それ?」

 ふと、無心に横でタコヤキを頬張るアサシンに、そう問い掛ける

 

 『ぐっど』

 「そうか。あまり食う気しないが、俺の分も要るか?」

 綻ばせた顔に、ついそう自分の分まで差し出す

 味など知らないが、それでも魔力に変換は出来るため、食べるのが無意味という事はない。なのだが、だ。無意味だなと思いつつも、その微笑を見られるのならば、まああげても良いか、と。そんな阿呆な事を思い、タコヤキを串に刺したまま、一個差し出す

 

 『あいすくりーむ』

 「いや売ってないだろ、冷凍庫なんて無いんだぞ」

 だが、返ってきたのはそんな答え

 ……考えてみれば、タコヤキで熱せられた口内には良いのかもしれない。冷たいものだって欲しくはなるだろう

 

 「って売ってんじゃねぇよフォォォォックス!」

 最早天丼と化した言葉と共に俺の瞳が捉えたのは一人の男の開く屋台。其処には、あいすきゃんで~とあった

 ちょっと右目で探知してみると、見事に魔術で産み出した氷でもって冷やしている。氷式冷凍庫という古式な奴だろう。この時代からそう考えると氷って既に魔術だったのか……。いや、元々自然が作り出せるものだから魔術の域かあれは

 「かーくん、私も……良いかな?お水無くて……」

 と、申し訳なさそうな紫乃の声

 アツアツだからお水貰ってくるとちょっと離れていたのだが、無かったらしい。まあ、井戸水や川の水でどうこうの時代なので、持ち運べる水なんてそんな現代なものはそうは手に入らないのだろう。タコヤキやらを作るのにもかなりの水が要るだろうというのはあるが、そこは知らんどうせダキニだとか陰陽だとか天照パワーチートだとかで誤魔化してるんだろう、狐に聞いてくれ。右目で検索かければ分かるとは思うが時間と魔力の無駄だ

 

 「……好きな味を取っていけ」

 「うん、三種類も味あったんだね……」

 『ぱーふぇくと。感謝』

 何でか5つも味があった中から適当に3種をチョイス、手紙同封の玉藻通宝でもって買ってきて、それぞれの棒を別々の指の間に挟み、差し出す

 味としてはバニラ、グレープ、アップル

 とりあえず、アサシンは兎も角紫乃用は買ってある。最近修復した神巫雄輝の記憶を覗き見る限り、両親を水難事故で失う前の多守家には、何時もリンゴ味のアイスキャンディが常備されていた。そして良く減っていた。一本しか無い日に、これにする!と選んだら、ちょっと泣きそうな顔をしていた事を見て知っている

 俺からすれば他愛ない、割とどうでも良いそんな記憶の破片も、きっと彼にとっては大事なもので。そんなもの、俺が手にしていて良い話はない。還すべきなのだ

 

 でもまあ、別に良いだろうとそれはそれとして記憶は活用する。実にダブルスタンダード、やはり悪魔か、と適当に自分を呪っておく。そうでもないと、弱さに呑まれる気がして。己が居てくれる以上、本来そんな心配など必要ないはずなのだが

 

 想定通り、紫乃はアップルを取る。アサシンがどちら?と首を傾げたので好きな方と答えると、グレープを持っていった

 自分だけ残してても意味無いかと残りのタコヤキを口の中に放り込みー熱さも感じないので特に問題はないー残されたアイスキャンディに手を伸ばす

 

 ……やっぱり、味はしない。そこら辺は、微妙な所だ。とはいえ、味覚なんぞを復活させる理由はあまり無い。この体を返すわけでも無し。返したところでこの体は既に死体、意味はないしな

 けれども、ペロペロと舌を出してキャンティを舐めているアサシンの顔は何だか幸せそうだ。紫乃の方は……そこまで割り切れないのかキョロキョロしとそこまで味わってはいないが

 「……次に、何処か行くのか?」

 そうして、聞いてみる

 ……別に、どこでも良い。これはある種時間を潰しているようなものだ。魔力を使ってどうこうというのも意味の無い時間である為、こうして本来俺が味わうには過ぎた一般的な幸福というものを謳歌している。それは有りがたいことではあるのだが……

 まだか、まだ動かないのか、お前は。と、思ってしまうこともある。こうしてゆったりとしたものを過ごすのは楽しいと言えばかなり楽しいのだが

 

 『じぇっとこーすたー』

 「……あるのかよ。いや、式神ゴンドラによる観覧車がある以上、あっても可笑しくはないんだろうけれども」

 とはいえ、空にはそんなレールらしきものは見えない

 けれども、無言でアサシンは下を指差した。つまりは地面の下、地下。一部の遊園地では、外ではなく屋内コースターというものも実際にあるのだったか。紫乃が行きたがっていた……ということは無いのだが、どうせならと戒人の中学卒業旅行で関西圏の巨大遊園地に一緒に遊びにいった時に乗ったという記憶はちょっと前に修繕した。どうでも良いかと無視していたが、そんな記録はある訳だ

 「……地下か……」

 成程地下ならばスペースはとれなくもないし、見かけなかったのも良く分かる

 「ちょっと怖いね」

 「紫乃は怖いか」

 「う、うん……やっぱり苦手かな

 コーヒーカップとかあるなら、良いんだけど」

 「流石に遊園地じゃないんだ。あるとは……

 あるかもしれないな」

 実に遠慮というものを知らない狐である

 「……どうする、紫乃?」

 『もしも一人って言うなら、わたしが代わりに見てるよ

 一人っきりじゃ寂しいもんね』

 と、気が付けばミラが戻ってきていた

 

 「戻ったのか」

 『うん、そりゃね?

 でも、ちょっと酷くないかなーって、そんな事を思ってしまったりするのです』

 イタズラっぽく、昔シスターとして俺と関わってた時にも見せたように……ちょっとだけ笑ってみせる。別に怒っているという事は無さげだ。だが、何が酷いと……まあ、普通に分かるのだが

 

 「一本要るか、ミラ?」

 半分ほどかじり取ったアイスキャンディの棒を振り、そう聞いてみる

 『ううん、わたしは別に良いかな。今更だしね

 けど、その分あとのお休みで何か欲しいかな』

 「ああ、分かったよ

 それで、紫乃はどうするんだ?」

 改めて、聞いてみる

 

 「やっぱり、怖いから私は止めておくよ」

 『それじゃあ、わたしとだね』

 『……行こう、「ボク」の希望』

 こうして、俺達は二手に別れた

 別れる意味などあまりない、日常的な話ではあるけれど

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