「……ライダーか、来るなら来な!」
自分を鼓舞する意味を込めて、俺はそう叫んだ
『流石に見付かる、か』
やはり、現れたのは金髪の騎士……ライダー。交渉する気は無いのか、既に白に近い銀の鎧を身に付け、背には剣を背負っている
「隠れるのは下手だからな。そちらとしては見るのは四度目か」
空気を握る。握ったものを光の剣とする力……宝具の代用となる魔術を繰り始める
昼間にセイバーから借りた切り札は今は使わない。ヴァルトシュタインと同盟しているならば俺が何なのかは知っているだろうが、この切り札の存在までは流石に知覚していないだろう。光の剣を見ているからこそ、それこそがどうにも頼りないが、不完全なサーヴァントにピッタリの俺の宝具だと誤認する
『……森から見ていた際は、距離的に見つからないかと』
「誰も見てなければ、あんな場所で同盟を切り出さないさ」
『……それもそうか』
ライダーの足が止まる。距離は10m程。縮地が成功すれば一瞬で詰めきれる距離、逆に言えば相手もそう不自由しないであろう距離。いや、相手がもしもガウェインであれば相手有利もありえる。
『何がしたいんだか』
「ヴァルトシュタインを裏切って、か?」
『勝ち目など』
「ゼロに近い、とゼロとは違う」
多守紫乃とアーチャー、そしてシュタール・ヴァルトシュタインとバーサーカー。俺一人では、いや俺とセイバーでも正面からでは勝ち目の見えない相手は居る。だとしても、ヴァルトシュタインの正義に挑まねば聖杯を望む事すら出来はしない
「!?」
一瞬、走る悪寒に気圧されかけ、気を保ち直す
ライダーが背負った剣を抜き放っていた
無骨な剣。堪えられる程度ながら、その刀身と同じ外気に触れているというだけで腕の震えを抑えきれない。恐らくは、いや間違いなくライダーの宝具
剣を突き付けながらも、ライダーは動く気配は無い。腕を伸ばしている以上、今すぐに斬りかかる事は出来ない格好だ
中央線の入った幅広の両刃剣。鱗で装飾された牙のごとき想定で僅かに湾曲した、刀身と十字に拵えられた鍔を持ち、刀身そのものも僅かに波打っている。斬る……のではなく、叩き斬る為の武器であるだろう
その形状から、記憶の中を辿る。目は切先から逸らさぬように心がけながら、この一年の間にヴァルトシュタインと対峙しうるからと叩き込んだ知識……初代ヴァルトシュタインが召喚したというキャスター、アヴァロンの魔術師☆Mによる資料の頁を脳内で捲る
剣を見て理解した。彼はガウェインでは無い。資料にあったガラティーンとは大きく形状が違う。あえてあの資料にあった五本の剣(カリバーン、クラレント、エクスカリバー、ガラティーン、アロンダイト)の中から似ているものを挙げるならば……
だが彼は女ではない。よってモードレッドでも有り得ない
よって、彼の真名で有り得るとしたらそれら五本の持ち主以外……例えば、ペルスヴァル……パーシヴァル等だろう
著名な騎士についてはよく読んだ。ライダーが彼等であれば今の時点で真名に想像は付くだろう。だが、特に有名な彼等でないとすると、どうしようもなく絞りきれない
『……諦めることだ。私には勝てない』
剣先を突き付けたまま、ライダーがそう言い放つ
「どうだろうな」
『ジークフリートであるというならば、勝ち目は無い。私の一刀の前に地に伏せるだろう』
「ふざけた事を!」
痛みにすら感じる程に強くなる手の震えに対抗するように、声を張り上げ……
『投降を』
「な、に?」
突然の言葉に、心が揺らいだ
突如として、気力が霧散する。ライダーと対峙している事すら忘れ、血管に流していた魔力が途切れ、魔力回路としての外付け機能を喪失してゆく
頭に霞がかかり、ただ耳元に鳴り響く心地よい囁きに身を委ねようとして……
「……がっ!」
奥歯を噛み締め、意識を保つ。僅かに展開した光の剣で、自身の肌を斬り、血を滲ませた痛みで霞を振り払う
何時しか、ライダーの後ろに一人の少女が立っていた
いや、何時しか……ではないだろう。彼女はきっと、最初から其処に居た。どこか心此処にあらずな雰囲気と、それに比例したように薄い存在感に誤魔化され、ライダーの気配に呑まれていたのだろう
何処かフェイに似た、だが違う存在。一見してライダーのマスターのようだが、本能が、マスターとしての力がそんな油断は死を招くと叫んでいる
彼女は、サーヴァントだ
「……二騎目とはな!」
叫び、霧散しかけた魔術を再起動する。手の中に光の剣を出現させる
改めて、二度と見逃すまいと少女に対し目を凝らす
この気配の感じなさはアサシン……だろうか
だが、アサシンであればさっきの現象に対して説明がつかない
思考に霞をかけたのは恐らく魔術。洗脳や暗示の類であろう。俺自身の対魔力なんてゴミみたいなものだが、それでも気配すら無く思考を乱すのはただ事ではない
キャスターであれば可能だろうが、アサシンとしては似つかわしくない
少女に武装は無い。いや、例えあったとしても、武装として杖を持っていたとしてもそれが暗殺用の仕込み杖でない保証はない。測れるのはランサーであるかどうか程度だ
『やはりバレるものだ』
反応はライダーだけ。二騎目のサーヴァントは何も反応しない
「ここまでされれば、な。まさか虚を付く為に降伏を持ち掛けるとは思ってなかったが」
『……言葉は本当だ。降伏すれば命は取らん』
「無理な相談だ!」
ライダーへ向けて斬り掛かる
使うのは飛刃、光の剣がある程度融通が効くことを利用し、形成した剣を飛ばす小技。どうしても威力は下がるが、小手調べには使える
『無駄だ』
腕を伸ばしたまま、ライダーは僅かに横へと切先を動かす事で飛刃を切り裂く
「効くとは」
再度剣を形成しつつ、懐へと飛び込む。横へと剣先がずらされた、その空白を埋めるように
「思ってない!」
縮地で空間を飛び越えれず、数瞬で辿り着く。残念ではあるが、大きな竜脈の無いこの公園ではそう成功するものでもない
目指すは刺突、中段からそのまま、形成されてゆく事で目測しにくい光の剣で喉を穿ちにいく
『分かりやすい!』
だが、騎士には流石に通用するものではない。引き戻された無骨な剣が光の刃を右方向へ撥ね飛ばす
だが、それは俺の思惑から外れていない
元より円卓の騎士という時点で精々一年のにわか剣技がまともに通用するとは思っていない
真に見極めるべきは謎のサーヴァントの実力の方、逸らされた剣先は勢いを殺しきられずにライダーの右から姿を除かせていた少女を狙う
焦点の合ってない瞳は特に此方を映す事もなく
駆け抜ける。此方を見ていないように見えながら、少女はあまりにもあっさりと剣を回避してのけた
背に軽い衝撃。赤い光が後方で瞬く
魔力弾か何かだろう。だが向こうも小手調べであるのか威力はそう高くはない、
剣を斜め下へと横凪ぎに振り返る。飛んできていた二発目の魔力弾を切り裂く
爆発。拡散した魔力が降り注ぐが赤い光が全てを弾き、無力化する
「それだけか!」
再び地を蹴る。目指すは少女
ライダーとの位置関係は駆け抜けた事で逆転した。今や少女サーヴァントとの間にライダーという壁は無い
縮地
今度は竜脈に乗ることが出来た
自分でも驚きながらも、その一手を潰さず逆袈裟懸けに剣を……
まるで縮地成功がわかっていたかのように、少女は飛び上がっていた。足先は、俺の顔の前まで
頂点に達した少女の足が閃く。俺の縮地が失敗していれば間違いなく着地しようというその瞬間に届いたであろう光の剣は何も捉えることはなく
「ぐがっ!」
逆に、俺の顔に蹴りが突き刺さる
視界が揺れる。衝撃で足が一歩下がる
軽い脳震盪、だが相手は一人ではない。せめてもの追撃回避にと勢いを殺され逆に後ろ向きとなったベクトルを殺さず飛び下がる
「ちっ」
『逃げたか』
追撃の剣を振るっていたライダーに向き直る
歯は折れていない。魔力は篭っていたが単なる蹴り、光の鎧が軽減出来はする。致命傷には程遠い
一瞬、思考をクリアにする意味も兼ねてセイバーの居場所を探る
突然の魔力消費の増大、サーヴァントとして俺と繋がっているセイバーならば、俺が戦闘に入った事に気が付いただろう
確認終了。割と近くまで戻ってきていた。再び姿を隠しているようだが、流石にサーヴァントとのパスまでは当事者には誤魔化せない
これで良い。少し後にはセイバーの乱入により、事態は動かせる。相手は1vs2を前提としているだろう。それを突き崩し、流れを変える切欠にはなる
ならば、俺自身にある切り札は切ってしまっても構わないだろう
邪悪なる竜は失墜し
「まだだ!」
三度目の踏み込み。既に少女とライダーは並び立つ形に移行している、どちらであろうが狙いは付けられる
世界は今、落陽に至る
狙うはライダー……そう思わせる
縮地の形は兜割り、構えは大上段
撃ち落とす
やはり空間は飛び越えられない。自身を狙っていると理解したライダーの剣が迎え撃つ
だが構わない、本命は別。そもそも別事に集中している、空間跳躍は望む意味もない
右手が灼熱する。あくまでも魔力である光の剣が、しっかりとした実体を持つ。実体化により魔力が大きく削られるが構わずこの一撃に注ぎ込む
セイバーから借りた切り札。俺がジークフリートであるならば使えるはずの宝具。すなわち……
<
「
全神経をかけ、顕現した剣を振り降ろす
「
黄昏の剣光が、視界を埋め尽くした
少しして吹き荒れた魔力が終息する。普通の存在にとって絶対的な死を意味する黄昏が消えてゆく
魔力の消費に、肩で息をする。無理矢理に宝具を放った剣が、役目を果たし空気に溶けて消えてゆく
「……な、に」
消えてゆく霊子の光に思わず目を疑う
『それなりに効いたな、流石は大英雄の剣』
バルムンクと同じく霊子となって消えてゆくのは、ライダーではない
突如その場に現れていた、幾本もの謎の柱であった。黄昏の剣光はそれらを蹂躙するも、あくまでも偽物にすぎない宝具ではそれが限界、柱に護られたライダー達には僅かな傷を残しただけであったようだ
荒い息を吐きつつ、消えてゆく柱を観察する
ボロボロでありよく分からないが……あえて言うならばギリシア風だろうか
『天罰……覿面』
ふと、そんな声が聞こえた
「がっ!?」
突如、俺の体から血が噴出した
服が内側から血に染まる
全身に無数の細かい傷が付き、それらの傷口が一斉に開いたのだろう
個々の傷は深くはない。寧ろ相当に浅い。だが数が多すぎる。正に無数。血が噴出するほどの深さは一瞬であったことから、恐らくは魔術
だが、服を傷つけることなく、身体のみをここまで傷つける等そうは出来ない
「……天、罰……」
だとすれば、天罰というのも
確信する。あの少女は……キャスターだ。恐らくは古代ギリシアの魔術師
神代の存在だ
「全く、勘弁してほしいな」
つい一人ぼやく
あの神なアーチャーに、神代の魔術師に、円卓の騎士。そして吸血鬼
現状知っているだけでも十分
不可能だ、なんて言う事は出来ないしそんな気もないが、難易度ハードは間違いなくあるだろう。正直もう少し低めの難易度にしてほしい所だ
『……うん』
再び聞こえる声
ふと気付くそれはあの時、耳元でささやいていた心地の良い声によく似ていて……
「お前が……お前さえ居なければ!」
身を
何か、とても心地良い夢を見ていたような
『これが最後だ、降伏を』
ライダーがゆっくりと言葉を発する
現実を見直す
何時しか俺は彼等に向けて歩み寄っていて
ライダーの剣は、しっかりと俺の首筋に当てられていた
「成程」
二度も同じ魔術に掛かるとは
自分で自分が情けなくなる。恐らくは宝具使用後の心の隙を付かれ、再度洗脳だかに掛かっていたのだろう
よく覚えていないが心地良かった。ずっとあのぼんやりとした霞の中で漂っていたかった程に
だが、俺という悪にそんな逃避は許されない。それは死と同じだ
『私としても個人的にあまり殺したくは無い』
ライダーが、ほんの僅かずつ首に剣を食い込ませながら言う
流石に逃げられはしない。体に痛みが走っていないということはあの夢心地により魔力回路代わりに酷使していた血管や神経系は本来の役目に戻っている。起動に少し時間がかかる、そんな隙を見せれば首を叩き落とされかねない
『降参し、全てを放棄すれば命までは取らない』
それでも、降参するなんて事は、この
だから、叫ぶ
「セイバー!」
その瞬間、キャスターの少女は予めその場所が危険だと知っていたかのように軽やかに身をかわし
ほんの一瞬前まで少女が居た空間が切り裂かれた
『なっ』
一時、ライダーの意識が逸れる
それは僅かな隙。だが構わない。神経断裂程度許容して無理矢理再起動するだけならば、そのほんの少しの時間で十分!
意識が逸れながらも、一拍を置いて首を落としに動き出す剣
だが遅い。剣を前に痛みをより強く発していた右手ではなく、起動が間に合った左手で刀身を掴む
叩き斬る剣故に圧力はあれど斬れはしない。光の鎧がしっかりと威力を弱めてくれている
「これでぇっ!」
そのまま、心臓の軋みを無視して光の剣を生じさせようと、全ての気力を振り絞った
『てめっ』
刀身を柄とし、柄を刀身とし、光の剣が顕現する
赤い光に焼かれ、思わずライダーは一瞬剣の握る力を緩めた
刀身を握りこみ、剣を奪い取り、一歩飛び下がる
空いている右手で剣の柄を握る
軽い痛みと、重い感触。近くで見ると異様だ。鍔の装飾に使われているのは蛇の牙、だろうか
俺は決してこの剣の使い手ではない。まともに使うことは不可能であろう。出来ることといえば精々が光の剣の核にしてしまう事だが、威力は元より下がりかねない
だが、それがどうした。重要なのはこの剣を持っていること、即ち、ライダーの弱体化だ
何か忘れている気がする
セイバーと合流する
『
「希望があるだけで十分!」
さっき使った剣……バルムンクと同様の剣を構えるセイバーに合わせ、銘の分からぬライダーの剣を構える
状況は2vs2、薬がいよいよ切れてきたことを示す心臓の軋みが発生している限界ギリギリが此方に一人居るが、逆に相手にも不意討ちにより宝具を奪われたライダーが一人居る。状況は十分好転したと言えるだろう
本当に?という心の声を振り切る
「悪いな、ライダー」
『次はねぇ』
動揺からか、少し粗野な言葉遣いでライダーは応えた
だが、次の剣は出てこない。やはりこの剣がライダーの宝具なのだろう
風が吹く
ふっ、とセイバーの姿が消える
俺が呼ぶまで潜む際に使っていた<
分かっていたとしても、僅かな動揺は誘える
その隙に踏み込む。狙うはキャスター。幾ら剣を持たないとはいえ、騎士であるライダーの相手は一人ではやはり厳しい
よって、キャスターを二人でまずは叩く。まるで直感していたかの様に回避してのけた事など懸念はあるが、キャスターはそこまで近接戦闘は強くないだろう。予測なり直感なりで回避されても、その先をもう一人が潰せるならば手はある
キャスターに迫る
キャスターは何も行動を見せない、それは、何かを確信しているようで……
突然、とてつもない悪寒が走った。俺が忘れていた、いや、希望を持つ為に考えないでいたなにかが、俺に向かって牙を剥く、そんな感覚
咄嗟にセイバーの動きを邪魔しうる方向、左に跳ぶ
一瞬、強風が吹き荒れた
「があっ!」
右腕の前腕部が灼熱する。
前腕を食いちぎられて腕が麻痺し、剣を取り落とす
こぼれ落ちた剣が吹き飛ばされ、正確にライダーの手に戻る
ほんの一瞬の役目を終えた黄金色が消えてゆく
身を貫く痛みに、漸く理解する
これが、俺が忘れていたもの。考えようとしなかった、希望的観測を打ち砕くもの。ライダーを騎兵のサーヴァント足らしめる、剣ではない宝具
黄金の
嫌でもライダーの真実を理解する
「イヴァン、ウ・ル・シュヴァリエ・オ・リオン」
イヴァン、あるいは獅子の騎士
『友と共に改めて名乗ろう、元ヴァルトシュタインの人形』
ライダーの横に獅子の姿が現れる
『私はライダー、円卓の末席に籍を持つもの。名をユーウェインという』