「アナタと、じゃないのか?」
アナタで遊びに来た、と茶化すフェイに、そう聞き返す
『何をバカな事を言ってるんですか?
アナタで遊ぶならば兎も角、アナタと遊ぶではデートではないですか。ワタシは別に、デートなんてしに来た訳ではありませんから』
なんて、そんなやりとりは、もうあるはずのない俺が俺でしか無かった頃の、他愛の無いやりとりのリピート
「分かったよ。俺で遊びに来た、それで良い
それで、どう遊ぶ気なんだ?」
『どう、とはこれはまた無粋な事を聞きますね。少しは自分で考えてみたらどうですか?』
「……つまり、丸投げか」
『そうとも言います
折角、アナタを遊ばせる為に祭なんてものを狐が開催した訳です。幾らでも、ワタシと過ごす選択肢はあるでしょう?』
それはデートじゃないのか、なんて言ってしまえば多少不機嫌になるだろうから、言葉にはせず。わざわざフェイの心に波風をたてることは無い。新たなる盟約を果たす時に、フェイの警戒は枷となるから
こんなことを考えて良いのか、という疑問は無い。モルガン・ル・フェは千里眼を持ち、ブリテンという限られた自身の領域に限り過去現在未来を見通す。だからこそ、聞いた限りでは戯言としか思えないヴァルトシュタインの計画を、タイプ・アースの誕生を正義と認めた。だが、見通すのはあくまでも行動。ブリテン内で未来に誰がどう動くかは基本分かるかもしれないが、あくまでも行動が分かるだけでその理由は分からない。『探偵としては伝説の迷探偵にして世紀最大の名探偵です。犯人も手口も何もかも分かりますが動機の推察だけはどうにも苦手で』、と昔他愛ない話の中で茶化して話していた通りだ。あの時は、助手が居ないだろ、俺に頼られても動機推察なんて無理だぞと答えたのだったか。だから、何を考えてようがそんなものは関係ない。バレることもない
まあ、己の行動は分からないとは思うが、逆にそこから推察はされるので過信はしない。同格以上の存在の行動はしっかりと見通せない、つまりは、しっかり見通せない未来があれば、其処で見通せない何者かが何かをやらかすとバレバレな訳だ。時間は絞られる。俺が仕掛けるのは良いタイミング、俺は何時仕掛けるのか未来を知らないが、フェイは何かを仕掛けてくるタイミングは知っている
なので、何を気にしても一切無意味
適当に遊ぶことにする
「それで、何で今なんだ?」
ふと、横で伸びをする少女に問う
アサシンが消えたのは、恐らくはフェイに会うことを警戒したのだろうと分かる。俺に任せろと言ったから、空気を読んでなにもしないために隠れたのだと。ならば呼べば出てくるだろう、気にしなくて良い
『何故?簡単な話ですね
適当にあの娘と遊び、あの暗殺者と過ごし、ならば順番的には』
「そろそろミラという事にはなるな」
『ええ。ワタシが来なければ、あの裁定者と何処かで過ごしたはずです』
「それで?」
『それが既に答えですが?』
「フェイ、ミラと俺が会わないようにって」
『言ってます
あの裁定者にざまぁないと言いたいから、今なんです。当たり前でしょう?』
「酷い話だ」
『ワタシのものを泥棒猫しようとする手癖の悪い初恋拗らせた阿呆、その存在自体が中々に酷いものだと思いますが?』
こてん、と首を倒すフェイ
外見は可愛らしい。だが、紡がれる言葉はどこまでも物騒なもの
「まあ、そうかもな
俺は別にフェイのものじゃないが」
『……何を言ってるんですか?』
不意に、頬をつままれる
そのまま小柄な少女の顔を見下ろすと、魔術で浮かびでもしたのか、ぐっと顔を近づけられた
『アナタはワタシのものです。ザイフリート・ヴァルトシュタイン
アナタの全ては、いえ、違いますね。アナタ自身が俺と呼んでいるアナタは、ワタシがそうであって欲しいと願い、そうであるように誘導した偽物の
そのまま、唇を押し当てられる
逃げようと思えば、幾らでも逃げられたろう。その右手に光を集め、腹を抉ろうと思えば、抉れた気もする。その心臓を喰らおうと思えれば、胸を開き、心臓を無造作にその小さな体から引き剥がし、そして捕食する事だって、出来ないはずがあろうか
それらの想いが狂おしいほど駆け巡りながら、結局はなにも出来なくて。ただ、既に体温の無い屍の唇に触れる、あまりにも熱いヒトの体温を貪るに留まる。首筋に腕を回され、体重の全てを預けられながら、ただ、霧がかかった頭でぼんやりと熱を味わう
『と、そういうことですよ
あまりにも後手後手な、慌てん坊にもなれなかったサンタクロース』
不意に、フェイは唇を離し
そのまま、首筋に腕を通したまま、そうあまりにも優しい笑みを浮かべる
嘲りはない。憐れみも混じらない。ただ、嬉しそうに笑う
戻ってきた、狐の和服を身に纏う、金髪の少女に向けて
『旧キャスター!』
『真名で呼ばないんですか?
ああ、フェイは止めてください、アナタごときに呼ばれたら不快ですから』
『何をしに来たの、フェイちゃん!』
『ふざけてるんですか?』
『ちょっと怒ってるからね。嫌だって言うなら、その名前で呼ばせて貰うよ』
バチバチと、スパークが走る。なーんかラブロマンスしてますねぇとフェイと俺を眺めていた人々は、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていて、もう辺りに人通りは無くなった
『……もう一度聞くよ
フリットくんに、何してるの?』
『アナタに聞かれる筋合いなんてありませんが?』
『フリットくんはっ!』
『ワタシのものですよ、ザイフリート・ヴァルトシュタインは
言ったじゃないですか。これ以上は嫌われるから貸します、と。あの時は、放置してるとまあ、アナタ方を全員抹殺することになりかねなかったので名残惜しいものの、一時的に貸したんです。流石にアナタ方を殺したならば、ちょっとは精神的に辛いでしょうし。そこから立ち直る際に、恨まれないとも限りません。そんなのは嫌ですからね』
『そんなこと、聞いてるんじゃないよっ!』
落雷が落ちる
『嫌ですね、脳味噌まで初恋に溶けたバカはこれだから困ります』
『わたしの前に、ノコノコと出てくるフェイちゃん側も、人の事言えないと思うけど、そこはどうなのかな?』
謎の争いから、気配を消す
全ては、一撃の為に。確実にあのサーヴァントを倒すために、時を待つ
変にあの二人は目線をぶつけ合っている。フェイに抱き付かれたままだというのに、俺自身をどちらも見ていない
ふと、フェイが腕を離し、地面に降りる。完全に蚊帳の外
だからこそ、時を待つように、何も言わず、空気に溶け込む
『おや、
『妖精の血を持つけど、あくまでも人間寄りの魔術師でしょ?わたしが勝てない道理って無いと思うけど、どうかな?』
『そもそも、何で邪魔をするんです?彼はワタシのもの。人のモノを取ったら泥棒。お偉い裁定者サマが、泥棒に手を染めるなんて、神が聞いたら嘆きますよ?』
『それで嘆くなら、中世は主の涙で止まない雨が降ってたと思うよ?
わたしは、フリットくんを救うって決めたから。だから、貴女達を倒すよ、ヴァルトシュタイン
そして、貴女を止めるよ、フリットくんを悪魔になんてさせないから』
雷光一閃
ミラが突如話を遮るように踏み込み
『<
けれども、何処とも知れぬ次元の境目で、その神鳴は止められていた
『摂理に還す神の慈悲、ですか。確かに恐ろしい力です
ですが、幾つの世界を越えて、それが轟くというのです?神の威光は、この次元にのみ燦然と輝くものです
次元を8つ……とは言いませんが、せめて3つくらいは飛び越えて出直してきて下さい』
『なっ、これ、は……』
ミラの目が驚愕に見開かれる
『そもそも、あの子をアーサー王なんて最低最悪の地位から取り戻す為に、鞘を奪ったのはワタシです
まさか、使えないとでも思いましたか?』
『違うっ!妖精郷じゃなくて……』
ミラの顔が歪む。いや、違う。姿そのものが、水に映った像に向けて、石を投げ込んだときのように揺れ、形を失って行く
『ええ、<
ってまあ、あの腐れ裁定者のことですから、どんなチートそのうちか帰還するとは思いますが。せいぜい暫く邪魔しないで下さい、殺意が湧きますので』
そんな、淡々としたフェイの言葉が響くなか、金髪の裁定者の姿は、次元の狭間に消えた