『名をユーウェインという』
そう、ライダーは名乗った
アヴァロンの魔術師☆Mによる資料を思い起こす
騎士ユーウェイン。或いは獅子を連れた騎士
かつてはその名を語られるも、トマス・マロリーによるアーサー王伝説の集大成、アーサー王の死においてはその名はほぼ語られることなく、結果的に円卓の騎士の中では無名に属する存在。アーサー王の姉、モルガンの息子であり、獅子を助け竜を倒した竜殺しの英雄
「成程、自信がある訳だ」
そう一人ごちる
竜殺しの英雄。その逸話を持つ英霊は、多くの場合竜に対して特別な強さを発揮するという
それに対しジークフリートは竜に縁深い英霊、竜の血を全身に浴び、菩提樹の葉が張り付いていた為に血を浴びなかった背中の一点を除き不死身となった存在だ。竜の血による不死、彼そのものも竜とされても可笑しくはないだろう
ならば、紛い物とはいえジークフリートである俺に対し、ライダーが圧倒的優位というのはあながち間違いでもない
「ユーウェイン卿。ああ、ついさっき知ったよ」
そう吐き捨てる
大きく食いちぎられた右腕は完全に感覚が無い。魔力回路の代用であった血管や神経すらも麻痺したかのようだ
いや、実際にそうなのだろう。ユーウェイン卿は旅の中、竜と争う獅子を発見し、不利な状況に陥った獅子を助け共に竜を打ち倒したという。その助力の恩として、彼は獅子を連れた騎士となったり。ならば、共に竜を打ち倒したというライダーの友、あの獅子とて竜殺し。俺に対して特攻を持つのだろう
特攻は確かに、俺を蝕んでゆく
『……絶望したか』
「残念ながら」
『そうね、絶望するようならあの人じゃないもの』
セイバーが俺の背中近くに現れる
既に身隠しの布は無い。あの一撃を受けた際に魔力が乱れ、維持しきれずに消えたのだろう
改めて活路を考える
現状は……お世辞にも良いとは言えなくなった。セイバーが到着したとはいえ2vs3、数の上では不利。此方は切り札を大半使ったのに対し、相手は未だ真名解放まで見せた宝具は無い
更に此方は一人が手負いで機能停止しかけ、向こうもジークフリートの宝具で傷ついてはいるもののあまり深くない
だが、絶望的……という訳ではないだろう。根拠はない。理屈ではない。キャスターの真意は分からないが、少なくともそこに未来はきっとない
ただただ、諦めが悪いタチだというだけのことだ
だからこそ、まだだ、と言うのだ
心臓の軋みが酷くなる。本格的にどうしようもない。完全な薬切れの症状だ
宝具解放までやったのだ、寧ろ良くもったと言えるだろう
不幸中の幸いは、この痛みは心の奥底まで貫くもの、悠長に洗脳だかに掛かってやる余裕が無くなる事だろう
流石にこの状況から気を抜けば終わりだ。気を抜かされないだけ良い
魔力回路が麻痺し人間レベルまで戻った右腕を思考から切り捨て、左手に光の剣を形成する
その不安定さに顔をしかめたくはなるが、今の薬切れでは上出来だろう
『情けないわね、
セイバーがそう呟く
事実故に何も言えない
『そんな体で何が出来る』
ライダーが問う
「大人しくしろ、と?」
維持しきれず光の剣が消失し、再生成される
「御免だ。みっともなく足掻くのをやめた時点で悪は正義に負ける」
『ならば……』
「足掻くとは、こういうことだ」
モヤが掛かり始めた思考では、それに続く言葉を発しきれなかった
だが、寧ろそれが有り難い
令呪をもって命ずる
「撃て、セイバー!」
相変わらず感覚はない。だが確かに、一画の令呪が使用されたと確信した
『仕方ないわね、あの人の真似ならば』
その瞬間、体に既に残っていなかったはずの魔力がみなぎった
俺も偽物とはいえセイバーの端くれ、宝具解放の為に令呪によって増大した魔力を一部流用すること位は出来る
「この剣は正義の失墜……」
『邪悪なる竜は失墜し』
『ならば!』
『……なっ』
初めて、キャスターの口から驚愕が漏れた
逆にライダーは驚かない。寧ろ、活路はそれしか見えないだろうという感じで、迎え打つべく魔力を繰る
セイバーが大上段に剣を構えるのを感じながら、剣閃の残光を束ねる
「世界は今、光無き夜闇へと堕ちる!」
『世界は今落陽に至る、撃ち落とす!』
『Limit Extra Over、限定解放!』
赤い光の剣が、十数条の斬撃を敵へと吹き飛ばす
黄昏の剣気が、刃に渦巻く
無骨な刀身と思っていたものが展開する。中から本来の刀身が煌めき、竜の甲殻で作られた外刀身により封じ込められていた魔力が噴出する
「<
『<
『エクスカリバー……L・E・O!』
此処に、三つの宝具が激突した
一つは赤き血の光
一つは黄昏の光
一つは大地の青い光
『ぐうっ』
ライダーが呻く。ライダーの剣から噴出する魔力は、剣を離れるとビーム化することなく霧散し、魔力の塊となってゆく
ビームとして撃てるほどに洗練出来ては居ないものの、剣の刀身を二重にし、内刀身に無理矢理魔力を押し込む事で自身の限界を越えた魔力を叩きつける、それがライダーの言うエクスカリバーL・E・Oなのだろう
赤い光と青い光が激突する
此処の威力で言えば一番低いであろう赤光が、黄昏の光と合わさり逆に青い光を押し込んでいく
キャスターは動かない。動けないのかもしれない
獅子も動かない。黄昏の剣気はドーム状に広がってゆき、此方への攻撃を阻む。だからといって魔力の激突に飛び込む事も出来ず、じっと主人を見つめている
決着は、すぐに付いた
『……やるじゃ、ないか』
威力の大半を減衰するものの吹き飛ばされ、立ち上がりながらライダーが言う
ライダーの右腕の鎧はへしゃげ、血が流れている
状況は好転。だが、それはキャスターの動かなさあっての事、油断は出来ない
だが、ライダーという脅威を一時とはいえ減衰出来たのは大きい。切り抜ける未来は見えてきた
令呪消費は痛いが、使わなければ光明は無かったのだ、後悔はない
僅かに、近づいてくる存在を知覚する
数は二つ
令呪を切り、迎撃により致命傷とならない可能性を理解して宝具を叩き込んだもう一つの目的、魔術師への狼煙。きちんと意味はあったようだ
『友よ、行くぞ』
ライダーが左手で剣を構え直す
「焦ったか?」
『何?』
挑発行為。時間稼ぎだ
「他のサーヴァントが来るぞ」
『それで何があるというんだ』
「はっ、朝のやり取りを見てたなら分かるだろう、同盟者さ」
ハッタリだ。俺は答えを聞いていない。多守紫乃という少女であれば、きっととは思うが確証なんてあるわけがない
狼煙は賭けでもあった。万が一彼女が敵対を決めていれば、どうしようもなく詰みだ
だが、それでも賭ける価値はあった。だからこそ、大きな魔力のぶつかり合いを演出し、魔術師を呼び込もうとした
『成程な。だが……』
獅子が動く。駆け出し、俺へと飛び掛かってくる
『追い詰めた相手を、先に倒せば終わりだ』
「セイバー!」
『まったくもう情けない!』
俺と獅子の間にセイバーが剣を振るい割り込む
獅子は器用にも空中で宙返りし、剣の範囲から逃れた
ライダーの言葉は正解だ。限界ギリギリから宝具を放った事で心臓の軋みは限界、もはやまともに動く事すら面倒な状態。それが今の俺だ
単なる人間……としても強くはないだろう。英霊ならば剣の素人のセイバーだろうが軽く基本スペックで捻り潰せる
ライダーが迫る
「セイバー!」
獅子の方をセイバーに暫し任せ、俺はライダーと対峙する
対峙といっても、これは俺が一方的に勘でライダーの剣を避けるという鬼ごっこだが
右へステップ。何度も後ろへ飛ぶのを見てきたであろうライダーの剣が宙を切る
今の俺は人間並、後ろに逃げれば避けきれなかっただろう
左手でコートに仕込んだナイフを抜く
出来れば光の剣で補強して投擲に使いたかったが、場面がそれを許さなかった以上仕方がない
ライダーに走る僅かな動揺。もしかしたら自身を傷つけうるかもしれないという疑惑からか、ライダーの動きが一時止まる
投擲
ガタがきた体ではまともに飛ばないが、ライダーまでは届く
明確に時間を取られるが、疑惑を振り切りきれず足を止めてライダーがナイフを迎撃する
『了解だぜマスター、任せときな!』
そんな声が響く
間に合った、と気を抜きかける
ふと、キャスターの瞳が揺らいだのが気になった
「アーチャー、下だ!」
どうしてそう叫んだのかはわからない。気が付くとそう叫んでいた
『……<戦神』
紡がれ始めたキャスターの声が途切れる
炸裂、爆発音
地面が唸りをあげる
明らかに普通の矢を撃ったにしてはおかしな大きさのクレーターがキャスターの眼前に穿たれた
『っと、うっかり従っちまったが、何だったんだ』
そのクレーターに弓を携えた一人の男が降り立つ
アーチャー、4騎目のサーヴァント
「敵のカウンターだ」
『なるほど、なっと!』
空気が震える。アーチャーの二射目
ライダーが大きく左へ逃げた
遠くで街灯の柱が一本吹き飛び、倒れる
『っと、やりすぎたかねぇ』
アーチャーは軽く言い、三射目をつがえる……ふりをする
本当にアレが矢を撃っているのかはよく分からない
『……やっ、ぱり』
よくわからない言葉を残し、ふっとキャスターの姿が消え失せる
『……勝手に逃げて欲しくはなかったが』
ライダーがぼやく声が耳に入った
『んで、家のマスターはしょうがないからってこの野郎と組む事にしたらしいが、そっちはどうすんだ?』
弓を下ろし、アーチャーが問う
『今回の私はキャスターに乞われただけ。真正面から戦うのは御免こうむりたい』
『って、大人しく逃がすってのも』
獅子がライダーの前に立つ。ライダーを守るように
『まっ、逃がすんだけどな。全サーヴァントを知らないうちに下手に欠けさせても面倒だしな
あと、健気な動物ってのはどうにもやりにくくて叶わねえ』
『全くだ。同盟の誘いは、出来れば貴方から受けたかったよ』
そう言い残し、ライダーも去っていった
こうして、アーチャーの介入を引き起こし、どうにか俺はライダーとキャスターの襲撃を潜り抜けたのだった