「……良いの?ミラちゃん」
飛び去っていく赤い光に、私はそうそれを何もせずに眺める少女に問い掛ける
『うん、これで良いんだよ』
「……何で?」
説得は失敗した。紅の翼を広げ直したかーくんは飛び去ってしまった。なのに
『すぐに折れるなんて思ってないよ
でもね、フリットくんは気が付いてないかもしれないけれども、そこで紅の翼を翻す事そのものが、フリットくんが迷ってるって何よりの証だよ
って感じかな。俺はザイフリート・ヴァルトシュタインだ。その言葉を、わたしはずっと聞きたかったから』
「?どういうこと?」
全く分からない、説明が欲しい
『うん、紫乃ちゃんにも分かりやすく言うとね。彼にとっての根底にあるのは銀の翼、星の尖兵としての存在なんだ。神巫雄輝じゃない。
本来に近い状態からわざわざ不完全になる必要なんて何処にも無いよ。あるとすれば、完全でありたくなかったって時だけ。アンチセルじゃなく、アンチセルになった原型を尊重した場合は、わざわざ原型っぽくなるよね?ならば彼は今、星の尖兵と尖兵に力を求めた人間に近い人格の間で揺れてるって事だよね
わたしは星じゃなく、星に願ってでも足掻いた彼を助けたくて、だから彼に戻りかかってるあれで良いんだよ』
ふわりと、金の少女は笑う
『漸く、君に手が届くよ、フリットくん』
『……届かせません』
其所に、ずっと見ていた少女が黄金の剣で斬りかかった
『ううん。届かせてみせるよ、貴女が何をしようとも
自分を呪って、それでも頑張ろうって思ってたザイフリート・ヴァルトシュタインを助けたくて、わたしはこうしてずっと聖杯戦争に関わってるんだからね
全く、ルーラー業務はもう終わってるしそもそもわたしから願い下げなヴァルトシュタインを勝利させろって話だったから、本来もう居る義理なんて無いんだからね』
その剣は届かず。手袋の甲で受け止めて、ミラちゃんは笑みを消す
『ならばとっとと座に帰って下さいワタシと彼の邪魔です』
『そっちこそ、そんなだからフリットくんがこんなに星であらなきゃって追い込まれてるんだよ?』
『ええ。彼にはどこまでも星の危機、
『それが、可笑しいって言ってるの!』
雷鳴一閃。ミラちゃんの拳は、銀髪の少女の頬を確かに撃ち抜いた
『……やはり今の状態で防ぐのは無理がありましたか』
けれども、別に何にも堪えていないように、銀の少女はのんびりと語る。その頬にはちょっと朱が残り、決して無傷ではないのに
『というか、そもそも此処でアナタと遊ぶことに意味はありませんし、とっとと消えて貰えます?』
『ううん、わたしにとってはとっても有意義な時間かな
わたしだって、怒るときは怒るからね!』
『そんなこと知ってますよ。キレてやりすぎて破門された事もあった馬鹿の事ですから』
軽く光の玉でもって攻撃するくらいで、銀の少女はのらりくらりと雷撃をかわす
それに構わずミラちゃんはその素の手で殴りかかる……けれども、何時もより遅い。殺す気というよりは、殺さないけど一発殴らせろって感じ
それを見てるだけの私はどうしようって迷って
でも、この手の中にはアーチャーが残してくれた武器があって
「お願い!」
その手に握った如意棒に、私はそう願っていた
景色の揺らぎを貫いて、空を紅が走る。如意棒が私には反動がないんだけどとてつもない勢いで延び、一瞬だけ銀の少女の眼前の空間の歪みに突っ掛かるも止まらずに歪みを粉々に砕いてその脇腹を掠めた
すっと、少女が目を細める
ずっとミラちゃんと半分本気ってくらいでやりあっていた少女が、私を見る
それは、底冷えのするくらいの冷たい目で。これが、明確な殺意なんだろうか、なんて事だけは頭が働くんだけど
蛇に睨まれた蛙のように、私の体は動かなかった
『恵まれ過ぎた、邪魔者が』
魔法の……じゃなくて魔術の光玉が迫る。ノーモーションで少女から放たれたそれを、呆然と私は眺め
「うわっ!」
突然金の雲が私を振り落とし、私の体は自由落下に飲まれる
その私の頭の上を、光が通りすぎていった
『マスターさんを殺す気かな?』
『ええ。当たり前でしょう?
アナタを殺す意味は正直ありません。アレは殺さなければ気が済みません
あまりにも恵まれていて、それが基本自分の努力と何ら関係なくて
……反吐が出ますね本当に』
ミラちゃんと軽く戦っている時は見えなかった感情。かーくんと居た時とは違う剥き出しの心。それが、また筋斗雲に拾われた私に向けられていて
怯える私の心を汲んでくれたのか、雲はミラちゃんの後ろに私を隠す
『……フリットくんを追い込んだ貴女が言うかな、それ』
『本当にどうするのが一番良いかを考えなかったアナタに言われたくはないですね
せめてとっとと聖杯戦争から排除しておくべきだったんですよ。あまりにも邪魔です』
『……うん、ちょっとだけね』
「ミラちゃん!?」
思いがけない言葉に、思わず目をしばたかせ
『うん、フリットくんはまだ自覚あったけどさ、あのアーチャーさん反則過ぎだよマスターさん一人で戦えるだけのものを残しておくなんて。サーヴァントじゃなくて、それでもサーヴァントにその気になれば普通に勝てる力。マスターさんは気が付いて無かったみたいだけど、星の聖杖を貸し出されてからのキミは、わたしたちサーヴァントからしたらちょっと怖かったんだ
でもね、わたしはフリットくんを助けるって、助けたいって思ったから。マスターさんを殺させる訳にはいかないんだ!』
『いい加減、ここで死ぬ未来に確定して欲しいものですから、ね!』
チリン、とミラちゃんの胸元の鈴が鳴る
『<
ミラちゃんの服が変わる。同じサンタ服なんだけど、纏う空気が違い、各所に金の装飾が増える。そして、バチバチとスパークが舞う
そして……
『あいよ、ストーップ』
そんな声に、ピリピリした空気は引き裂かれた
「この声……旧アーチャーさん?」
『ヴィルヘルム兄さん、な』
「……此方に進みますか」
ふわり、と
銀の少女は高度を下げて地上を目指す
それを追い、そして追い越すように雷鳴が走り抜けた