『アレス、否、マルス!』
眼前の城壁のような、盾のようなパーツのくっついた巨大な林檎の機神が吠える
「……軍神は己の手に
万が一貴様が他の神々の残骸の道標となろうが、真の星船は降臨する事はない。星渡る船の最終型の核は……この手に在る!』
コクピットに飛び込み、制御系を起動
各所に負った己ーいや、正確に言えばこの世界では最終的に星の断末魔により放たれた最期の星の聖剣の一撃により完全撃破されたらしいこの世界の遊星により付けられたのだろう傷はそのままに、桜色の光を瞳の部分に湛え、機神の全身が駆動音を立てる
「吠え猛れ!怒り狂え!未だ終わらぬ星を滅する軍神の宿星。
ブースター展開。己がこの真紅の機神を見たのは現在以外にはたった一度。嘗ての戦い、己が俺ではなく純粋な遊星であった決戦の時に捕食したその一度のみ。だがしかし、あの時に放った力は、捕食遊星の支配は機神アレスの中に渦巻き、己に全てを伝えている。扱えない事はない!
ブースターの炎で森を焼き、飛翔する。星より来る軍神。元よりその
『マルス!星船の原型よ!』
林檎の巨体が浮かび上がる
その全身から放たれる魔力光。恐らくはビーム兵器の予兆だろう
この真紅の機神なれば、真っ向から……いや、違う!
「当たると、思ってんのかよぉぉっ!』
最初の一撃を降下しながら回避。万が一への布石を組み込みつつ、雲を蒸発させるその神威の一撃を掻い潜り、アテナの眼前、というよりも林檎の前へと飛来
「はぁぁぁぁぁっ!』
名付けるとすれば、軍神の
大きく機体が揺れ、アテナの体は距離を離す。だが……
「ちっ、硬いな流石に』
コクピットで毒づく。林檎の外郭に大きな外傷はなく。せいぜいが少し拳の形に凹んだ程度。流石は船団の防衛機械と言うべきだろう。その分、一射を見て理解したが火力はそうでもない。硬いが此方に対して有効打点は無い、と結論付けるのは早計だろう。この世界においての己は記録媒体が破壊されていてリンク不能、完全破壊出来ず月に封印されているこの己の本体の記録では、機神アテナは巨神体の性能がこの真紅の機神の全力全開を上回るスペックまで進化を遂げた後に撃破している。即ち、現在の戦力と記録に差が有りすぎて参照しても何一つ参考にはならない。この機神の全力ならばまあ破壊は出来るだろうが、それは逆に問題がある
そう、機神マァズの全力とは軍神の剣の本領。あれはこいつが放っている。そこに、一つ問題がある
俺である時に散々放ったし、たまに軍神の剣コアキューブのみ招来して照射等もやったが、基本的にはあれは己に向けて放たれる力。遊星に支配されて尚抗う機神の魂、地球生命を護るために生命無き火の星より降り立ち何れ命を故郷に届かせんとした最強種の意地とでも言うべきだろうか。ならば、この機神を招来している今そんなものぶっぱなそうとしたら、結局狙われるのは機神アテナではなく己だ。だから撃てない、撃つわけにはいかない
『……機神マルス!そのような力で、都市の守護を撃ち破れると』
「思って無い!』
『……今こそ、一万四千年の前に倒れた父ゼウスの代わりに悪魔を撃滅する時』
「大きな口を、叩くものだな!神様!』
ならば答えは一つ。コアを砕くまで殴り続けるのみ!凹む以上、ダメージは通るのだからな!同じ場所に攻撃し続ければ……砕ける!
一撃!二撃!三撃!
真紅の装甲は防衛用のビームを弾き、ひたすら殴り続ける
本来、機神アテナは足止めの為の機体。アテナが攻め込む敵を抑えている間に、アルテミス等が撃破するというのが機神の在り様。アテナ単機であるならば……敵ではない!
……妙だ
神秘の秘匿など欠片もない。時折飛んでくるアメリカ軍だか自衛隊だかの戦闘機から飛んでくるミサイルを無視し、機体を喰らいながらそう思う
パイロットは緊急脱出しているので無視。ミサイルはアテナのビーム以下、傷一つ付かないどころか衝撃すら伝わらない体たらくなので放置だ。この真紅の機神は外殻のような形であり、本体である人を使ったコアに捕食したエネルギーを用意して何かに備えておく事は出来た。数機の戦闘機程度だが、そこそこの量の文明ではある
だが、そんな余所事をしているのにも関わらずだ。アテナの抵抗は少ない
そもそも、銀の翼の己と戦った女神形態からして弱かった
何故だ?もうちょっと強くなかったか?
そんな弱気な疑問が浮かび上がる。これは、己となった俺の疑問。かの神が、機神がこんなに弱いはずがない。一方的に殴られ奴は何かを待っている、このまま真紅の機神で破壊するのは待つべきかもしれない、と
その人間の想いを、己は……
無視した。放棄した
眼前には己に対してロクな抵抗も出来ぬ機神。コレを破壊すれば、真紅の機神の出番も終わる。後はティアマトが出てくる前にヴァルトシュタインを落とし、聖杯を得るのみ。それをもって、己は完全に遊星に還る。俺が願ったように、全ての理不尽を破壊しよう
真紅の機神の拳は、そのまま遂に林檎の殻を打ち砕き……そのまま、その奥の巨拳を、アテナ・コアをぶち砕く!
……だがその寸前、拳は停止する
機神アレスが、動きを止める
「……何!?』
弾け飛んでいく林檎の殻。崩れて行く拳を覆うフィールド。砂のように、壊れていくソレが……
「っ!」
紅の翼へと変化。銀翼を消し、人に戻って即座に縮地。俺の中で己が疑問を呈するがコクピットから飛び出して……
「<
今撃てる最大出力をもって、拳を晒すアテナへと突貫。あわよくば、これで撃破出来れば……なんて、甘いことは無いか!
……だが、何故?何故俺は突然の違和感に襲われて逃げ出した?
分からない。眼前の機神は防護の林檎を剥がされ、後は真紅の機神に打ち砕かれるのみで……
『あ、ああ、ああああああああっ!』
と、叫んでいるではないか。何で俺は、そんなアテナが遊星である銀翼の俺が逃げるべき何かと判断したの……
バキン!と、脳内で何かが割れたような音がした
「っ!」
飛翔。すんでの所で、次元を切り裂かんとする横凪ぎの一閃を飛び越える。これは……
この、力は!
「マァズぅぅぅぅ!」
放棄してきた真紅の機神の手には、俺は顕現させなかった剣。
『否!』
「なっ!」
『戦神アテナよ、休むがいい』
……可笑しい。そんな雄弁な存在では、今やあの機神は無い筈だ。遊星に捕食され支配された哀れな傀儡。その、はずだ。だからこそ、己はアレを招来した
だが、眼前のこいつは、まるで……
「……ちっ、クリロノミア」
右目がその答えを教えてくれる
『その通り!』
まるで騎士のように機神アテナを守るが如くポーズを取り、俺の数十倍はある真紅の機神が吠え猛る
『遠き世界より舞い戻りし遊星よ!
アテナ・クリロノミアが眠れるアレス・クリロノミアを目覚めさせた!』
……そう。それが、俺が感じた違和感
クリロノミア。機神の多くの部分を構成する液体金属のようなナノマシン。当然ながら、アテナの林檎のような殻もそれで出来ている。そして、オリュンポス十二神のクリロノミア同士にはそれなりの干渉の性質がある。自分を破壊される事で、アテナを構成するアテナ・クリロノミアが周囲へと撒き散らされる。当然ながら、あの時の俺は遊星の銀翼。それを文明として吸収する。結果的に、その際には外殻として使っている真紅の機神アレスにクリロノミアの大半は蓄積されるという事態が起こる。それこそが、機神アテナの策。恐らく、機神アレスを己が呼んだその瞬間、アテナは捨て身の戦法に賭けたのだろう。己が自身を破壊して得たクリロノミアを、未だ遊星の力によって支配されたアレスに注ぎ込むと信じて……
「アテナぁぁぁぁっ!マァズぅぅぅっ!」
『否!我は既に遊星の傀儡に非ず!人に愛され、愛を知り、人を愛する神として何時か人と
我!軍神アレスが此処に在り!』
輝く真紅の機神ー今こそ本来の役目に立ち返った軍神に向けて、吠える
「アレスぅっ!てめぇぇぇぇぇぇぇぇっ!
咄嗟に、己が取り込んでいたアレス・クリロノミア、アテナ・クリロノミア、そして魔力に還元し捕食しておいた数機の戦闘機の素材から、機械の悪魔を組み上げる。俺の脳内の最強の姿。人にして龍である機械龍人を組み上げる
『この地に我が在る限り、貴様に勝利はない!』
けれども、それはあまりにもちっぽけで。全長にして10m無いその姿は眼前の真紅の機神とは比べ物にならないほどに小型
「だとしても!終われ!無いんだよ!
だから!俺に!応えろ!ヴェルバァァァァァァァッ!」