『さらば』
言葉と共に、機神デメテルより発した巨大なエネルギーの剣が振り下ろされた
それは、過たず回避行動を取らぬ銀の龍を二つに引き裂き、その背後の人理というテクスチャすらも両断して世界を貫くフォトンの剣
かつて機神アレスが善戦するも敗北したあの時に蓄積された対遊星のノウハウ……星の聖剣エクスカリバーと同様の機構を携えた輝く剣は、確実に降り立った遊星の尖兵を殲滅した
「……撃滅、完了!」
光の柱の中に消滅して行く銀龍の姿を確認し、既に死に行くガイアに呼ばれ遂に遊星を討ち果たしたギリシャの神々が天に向けて咆哮する
……けれど、けれども
彼等は気付かない。最強であり全能であるが故に、神であるが故に、そのちっぽけな違和感に至ることはない
理念も違う、思想も違う、されど知的生命体に作られた己よりも次元の違う強さを持った星船という一点だけは、彼等も捕食遊星も同じこと
だからこそ……彼等は、弱者の戦い方を知らない
「ごほっ!」
完全消滅を免れた俺は、情けなく大地に激突する
そう……巨神体は消滅した。捕食遊星ヴェルバー02の尖兵は確かに破星大神G・オリュンポスに倒された
けれど……俺という破片だけは、消えきらなかった
その理由は単純だ。合体の寸前、危機感にかられた……俺という人に近い思考回路のノイズを受けた己を越えた遊星としての回路が、俺を切り離したから
それがどういう意図での行動だったかは分からない。俺は……まだザイフリート・ヴァルトシュタインであって、アンチセルそのものではないのだから
単純に要らないとして捨てたのか、俺の警告を受けたのか……どちらにしても、俺は切り離され、そして生存した
「ごはっ!」
いや、生存したと言えるのだろうか?
コアたるレガリアは半ばから砕けてかつて指輪であった3つの残骸と化し、下半身と翼は完全消滅。残されたのは右腕、頭、右胸辺りのみ
もうそろそろ、俺も消えていくかもしれない。いや、既に消えかかっている
それでも、諦められるか
もう既に、俺の中に彼の要素なんて何処にもない。この体は既に、彼であった
消し飛んだ肉体を、消え去った彼の痕跡を、俺が勝手に遊星のデータから作り直しているだけだ
もう、俺が戦う意味も、最初の願いも何もかも、意味を為さなくなった
奇跡にも手は届かない。この手に聖杯は得られない
なのに?
何故?
どうして俺は、なおも手を伸ばす?
その理由は、誰よりも俺が知っていて。何よりも俺が、眼を逸らし続けていたものだった
『……
今にも消えかけそうな声がする
映らない瞳で、上がらない頭で、その消え行く声の主を見上げる
『ボロボロね』
「お前もな、セイバー」
『そうね。でも、いい気分
貴方のお陰。言いたくはないけれど、貴方以外のマスターならば、私は復讐を果たすことなんて出来なかった
最後も、貴方との……遊星との同期に呑まれて動きが止まった隙を貫いたのだし、ね』
「いや、俺じゃなければ、彼女はあんなに化け物な強さとして君臨しなかった」
『全くよ。殺せる算段がなければ、普通復讐なんて流石に考えないわ
でもね、相対したブリュンヒルトが化け物だったのは事実。貴方が
光となって、片腕しかない女性の姿は消えていく
その白いジークフリートの横で共に生えて目立つような紅のドレスは血で少しだけ黒くなり、綺麗というよりは可愛いが少し強い顔は、最早焼けただれて原型を残さない
そうして、俺の戦いの最中に漸く夢を果たした俺のサーヴァントは、小さく、初めて俺に向けて無邪気な笑みだったろう顔を向けた
『……だから、ね
負けてんじゃないわよ、アッティラ・ザ・フン。異なる世界で私の復讐心を掬い上げてくれた英雄
諦める素振りなんて見せないで、妖精騎士ジークフリート。あのモルガンがそう呼んだ、例え偽物でもあの人を目指した誰か
私の夢は、貴方と叶えた。なら、本当に癪だけど、これはあの人の宝だけど……
貸してあげる。私のもの、あの人のくれた光……ラインの黄金』
セイバーの手から、左手の薬指から、指ごと黄金色の指輪が転がり落ちる
『サーヴァントとしてふざけていた私の復讐を終わらせたマスターが、自分に嘘ついたままなんて……あの人になんて顔向けすれば良いの?
戦いなさい、飛びなさい、その為の力なら……』
指先が、黄金の指輪に触れる
竜と化すラインの財宝。龍を目指した遊星へ至る思考回路
それらが……砕けたレガリアにより消え行くパスを繋ぎ直す
『大丈夫。私にあの人が居たように、貴方にも大事なものくらいあるでしょう?
さようなら、貴方のサーヴァント、悪くなかったわよ……ザイフリート』
同時、ひとつのパスが切れ、同期して使っていたが完全には取り込んでいなかった最後の力……
「そうだ、セイバー!
終わらない、終われない!例え相手が何だろうと、神だろうと!全能だろうがっ!
俺は、俺はぁっ!終われる、ものかぁぁぁぁぁっ!」
ラインの財宝の呪いが、黄金龍へと己を変えていく。再度俺の中に灯る遊星の力が、それを喰らい、そして……
"俺"という人であることを止められなかったノイズ故に、今度はそのノイズを自己として受け入れて新生する
「《
俺に応えろ!■■■・N■A!」
『……ぬぅ!?』
光の柱を見ていたゼウス神が、最初にその違和感に気が付いた
が、動くことはない。かの大神を護るは65535層からなる対粛清防御障壁。巨神体最終段階でもなければ、圧倒的質量と出力を誇る
それが、消えていなかったとはいえ消えかけの遊星の残骸ごときに揺らがされる等有り得ない
有り得ない、筈だった
『ぬぐぅっ!?』
されど、それは常日頃の話
有り得ない衝撃に、希望の星船はその理解を越えた事象を確認する
『汝、は』
「……
『やむを得ん
クロノス・クリロノミア、展開』
されど、言葉を紡ぐようになった遊星の再燃を受けても全能の神の復旧は早い
即座に、時を支配するクリロノミアを展開、相手が此方を喰らいに来る前に、その時を停止させ……
『不快、さらば』
再度、輝ける光が銀龍を両断する
しかし
「……効かないな、オリュンポスの最強神話』
断ち切られ消えたと思われた銀の龍は、即座に再び姿を現す
『虚数潜航。汝、それは……』
「
この体が、ちっぽけな光が吼えるままにしたまで』
『貴様!』
一つとなったオリュンポスの神は、眼前の不可思議な遊星に向けて吼える
『何者か』
「……
弱さを喰らい、故に如何なる時も諦めず強者に立ち向かう術を知ったモノ』
銀龍の4つの眼が全て輝き、背の翼が3色の光を解き放つ
「我は罪を越えし星船。
アンチセル、個体名を……アーク・ノア』