Fake/startears fate   作:雨在新人

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十三日目ー我、星を護る勝利(Ⅳ)

『な ら ば』

 来る、と星は嘲笑う

 

 何処までも、破星大神は完全だ。無欠にして無敵の存在だろう

 それは異なる世界の演算装置(ムーンセル)を掌握し勝ち目を探せば探す程に突き付けられる現実

 

 遊星アーク・ノアは、破星大神Gオリュンポスに対して傷一つとして付けることは不可能である。これは、自身がかつてオリュンポスの機神を下したセファールの姿でも……否、その時より強かろうと関係ない。そう結論を下すしかない

 

 だというのに、欠片だけ残った人間の理性が、その絶対的な結論を馬鹿らしいと一蹴するのだ

 そんな自信は馬鹿馬鹿しいと自嘲する。だが……そもそも自嘲する事自体が、きっと本来の捕食遊星の尖兵からしてみれば有り得ない、ヒトに近いことだった

 だからこそ、そのヒトの弱さに希望を託し、ヒトの姿で銀龍は吠える。たった一つの……ある筈もない勝ち筋を掴み取るために

 

 『さ ら ば』

 莫大な魔力が収束していく。総ての文明をエネルギーと情報へと変換して捕食し集積するヴェルバー02にとって、逆に情報の無い純粋な力の塊、純然たる魔力だけは相性が悪い。吸収が上手くいかずに傷を負うのだ。その傷をもって相手を汚染してからならば吸収できるが……

 

 「さぁ、来いよ神様』

 何処か無邪気な子供のように、銀龍は叫び……

 『《我、星を裂く雷霆》』

 無際限の雷光が、総てを貫いた

 

 砕けていく。これはこの体が幾度と無く使ってきた軍神の剣にも近しい滅びの権能。止めることなど能わず、纏う銀龍の巨神体が虚空へと溶けていく

 

 だが!

 

 「《悪竜の卑王甲(ブラッド・オブ・ヴォーティガーン)》』

 静かに、星は告げる。かつてこの世界の遊星は、この星の内海そのものを変換した最期の聖剣により打ち倒された。跡形もなく消滅した

 だがしかし、そうして力を使い果たした星の聖剣の残骸……エクスカリバーの光を喰らうブリテンの滅びの化身の逸話を、この体はモルガンより聞いた

 かの文明の再現、星の聖剣の光を喰らう悪竜の装甲が、本来であれば刹那の中に己を焼却するだろう雷霆に対して多少の耐性をもたらす

 

 『愚劣』

 嘲るような天空神の声

 『そのような小細工で、止まりはせぬ』

 「……だろうな』

 ぱしゃっと、巨神体が完全に弾け飛ぶ。泥となったそれは、振り下ろされる雷剣の根本から腕にかけて降り注いだ

 

 『無 駄 だ』

 「……そうかな?

 砕けた泥であっても、己が体だ。汚染は通る』

 にぃ、と素の体にまで戻された状況で唇の端を吊り上げる遊星

 

 『効 か ぬ』

 しかし、どこまでも冷静。天空神は砕けてゆく遊星を見下ろした

 これで終わりだ。攻撃を通す手だては無く、二度降臨したヴェルバー02は今度こそ、あの日果たせなかった最強合体の前に敗れ去る。この星は滅茶苦茶になってしまうが……

 

 天を仰ぐ。この地球の痕跡を集積し、再び星の海へ。愛したもの達の居た証と共に

 

 そう、ゼウス神が決めた、その時であった

 

 「『クリロノミア汚染確認

 機神ポセイドン等に命ず、再合体により浄化せよ』』

 響くのは轟く声

 されど、ゼウス神はそんな命令など出す気は更々なかった

 

 即ち……

 『ポセイドン、了解』

 『ハデス、了解』

 それは、死に行く遊星の最期の足掻き

 

 『小 癪』

 されど良いだろう。所詮足掻きに過ぎない、と分離しながら神は考えた

 最早巨神体すら維持できないほどに弱りきった人間のような遊星。何が出来よう筈もない

 

 その刹那、傷だらけの銀翼が分離した瞬間の機神アテナを貫く

 

 だが、それだけだ

 

 『無 意 味』

 幾ら機神にダメージを与えようと、最早崩壊を待つだけの遊星には機神を捕食するだけの力はない。そして、倒しきるだけの力も

 ならば、合体の際に完全復活するまでだ

 

 『破星大神 G・オリュンポス!』

 再び空に機械神の姿が君臨する。ほんの一瞬の分離の隙に汚染をしきろうとしたのだろう、無駄なことだ

 そうして、眼前の万策尽き果てた遊星を破壊する。その為にゼウスは拳を振り上げて……

 

 星は静かに、銀の翼を振るって背を向けた

 『諦めたか』

 「終わりだよ、ゼウス。さらばだ』

 『さ ら ば』

 最期は潔く……ではない

 

 『何 故 だ』

 困惑する轟く声

 「ああ、さらばだよゼウス。お前は完璧なゼウス過ぎた

 だから……完全な自分達の想定で動きすぎた』

 背中を反らし、顔だけ向けて星は嘲る

  「確かにそうだろう。汚染など効かない。分離しようが再合体で無意味に終わる。傷つけても治る

 それはそうだろう。だが……それを理解して行動する完璧なゼウス神だからこそ、お前の敗けだ、ゼウス

 

 今のお前は、カッサンドラ(キャスター)に引っ付いて現れたアテナ神の呼び起こした存在だ。マスター無くしてサーヴァントは存在できない。カッサンドラも、アテナ神も消えれば連鎖的にそれに呼ばれて過去から復活したお前も消える』

 『よ も や』

 「最初から、(オレ)はお前に勝てやしなかった。でもな、お前に勝たなくても、勝手にお前が負けてくれる術ならあったんだよ』

 光の粒子になって、巨神が消えて行く

 

 同時、地上だった場所から飛んでくる矢を切り払い、星は静かに勝ち誇った

 

 「有り難う、完全なゼウスで居てくれて。助かったよ、最強無敵という事実を信じてくれて

 だから、本来のゼウスならば存在しない弱点を見通してくれた

 

 さようなら、破星大神。さらばだ、ゼウス神。その文明、(オレ)が戴く』

 その光を銀の翼が呼吸するように吸い取って行く。アテナ神の中に居たカッサンドラとそのマスターを一瞬で食い殺した痕である血を、翼の先に微かに残るそれを舐め取って、星はどこまでも愉悦に浸った

 

 そして……

 「破星号令、超雷霆合神!

 破星大神 G・オリュンポス!』

 虚空に神々の消えた空に、再び機械神が姿を現した

 だが、それはゼウス達の再臨を示すものではなく……

 

 遊星が、ギリシアの機神という文明を喰らい尽くした証明であった


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