「……正直、今でも信じきれてない。けど、今の雰囲気は、私を襲ってきた時とは違う
だから」
ライダー、キャスターとの邂逅の次の日の朝
教会の前で俺はそんなことを言われていた
目の前に立つのはハシバミ色の瞳の小柄な少女……多守紫乃
「だから私は、一度だけ信じてみる。アーチャー、それで良い?」
『マスターが受けるって言うなら、異存はねぇや
けどな、マスターを傷付ける素振りでも見せた時には容赦しねぇぞ』
「俺自身の個人的な話としても、それは無い」
『何だ、惚れたか?まっ、マスターは普通に見ても美少女ではあるか』
「そんなんじゃない」
茶化しにくるアーチャーを遮り、左手を差し出す
「……これ、は?」
「同盟締結、その握手だ」
紫乃の瞳が揺れる。僅かな迷いが見える
だが、結局手が差し出される
「うん」
「我が名、ザイフリート・ヴァルトシュタインに誓い」
手を握った瞬間、俺はそんな言葉を口に出す
自分なりの宣誓、魔術的な要素は特にはない
「えっ?」
「気にするな、単なる宣誓だ」
「此処に、ヴァルトシュタインを滅ぼす同盟を多守紫乃との間に結ぶ事を宣言する」
そんな姿を、アーチャーはじっと見ていた
『……成程、ね』
不意に、アーチャーがそんな事を言い出した
「どうした急に」
『いや、何だそういうことかって話さ
ちょっくら誤解してたかもしれねぇわこりゃ』
アーチャーが頬を掻く
『ん、まあ、マスターの信頼を裏切らねぇ限り、オレも手を貸すとしますかね、セイバーのマスターさんよ』
「えっ?アーチャー?」
「……知らなかったのか」
「えっと、ザイ……フリート?これはどういう事なの?」
「単純に隠していただけだ。流石に同盟を組むためにと情報開示はしたが、全情報を明かしてれば交渉も何もない」
一息つき、背後で自身が空気な事に不満を持っていそうな俺のサーヴァントを呼ぶ
「セイバー」
『……全く、一人蚊帳の外にするなんて、随分と偉いわね、
セイバーが霊体化を解く。俺の後ろに、ドレスを纏った銀髪の女性が降り立つ
「……これが、サーヴァント」
「うちのサーヴァント、セイバーだ」
『貴方のものみたいに言わないで貰えるかしら?私はあの人のもの、それ以外ではないわ
』
「と、言ってるけれども、何らかの目的で俺に召喚されてくれている訳だ」
紫乃が目をしばたかせる
「サーヴァントなのに?」
『いやいやマスター、これでもオレ、相当マスターに忠実な方よ?世界には、令呪三角の使用で三回、それしか言葉を交わさなかったビジネスライクなサーヴァントも居るらしいしな』
『と、いう事で、サーヴァント、セイバーよ。あの人以外の元なんて本当は御免だけど、今度こそ彼女を殺す為に仕方なく契約したわ』
「……お名前は?」
『流石に言うわけないでしょう?それとも、貴方のサーヴァントの真名も教えてくれるのかしら?』
紫乃が固まる。やはり、元が大人しい性格。こういう事は苦手なのだろう
『まあ、オレは案外予想付いてるから、後で教えてやるよマスター』
「出来れば此方にもヒントの一つ無いか?そちらだけが予想が付くというのは」
アーチャー。間違いなく神性……それも、風の層でもって武装を不可視にしている事から、風に関わる神格であろう、という所までは予想が付く
だがそれだけだ。矢……としているアレが何なのかも分からない現状では、その先を詰めきれない
いや、一つ仮説は立つ。だが、それはきっと有り得ない。その仮説は……神話を鵜呑みにするならば、そもそも座に居ないであろう存在を呼び出した事になる。アヴァロンの魔術師☆M……恐らくはマーリンとヴァルトシュタインでもされている初代ヴァルトシュタインのサーヴァントも似たようなものだが、相当な準備が出来たであろうヴァルトシュタインの取った方法が、魔術に関して素人な多守紫乃に出来たとは思えない
『いやいや、流石にな
んで、真名といえば、何となく襲撃者の予想はついたのか、セイバーのマスター?』
「ライダーはな。というか、昨日の話に付いてきた時点で大体分かるだろう、アーチャー」
『つまり、ユーウェインか。成程な、そりゃああもなっさけねぇ状態まで追い込まれる訳だわ』
「そういう事だ、キャスターは分からん。宝具……らしきものからみて古代ギリシア関連の魔術師であろう、と思ったが、予想はつかん」
『んで、何であの時攻撃を逸らせと?』
「天罰だとさ。恐らくはダメージを受け止め、逆に攻撃者に跳ね返す……多守のガンドの超上位互換宝具
直感だか何だかで先を見てたのかもしれねぇキャスターがじっと待っていたって事は、俺に向けて不完全に使ったものの完全版を、乱入してくるアーチャーに向けて撃つんじゃないか?と思ったわけだ」
『んで、とっとと消えてった理由は?』
「分からん。何かを確認しに来た……ようだが、想像も付かん」
『明確に、お前を狙ってたんだろ?何か縁は?』
「無い……はずだ。ジークフリートに惚れてただとかも多分」
『んじゃ、今はお手上げって感じかねぇ』
『それで、今日はどうするマスター?』
アーチャーが話を切り上げ、紫乃に話を振る
「……終わったの、お話?」
『相変わらず失礼ね
情報交換にに入ってこなかった二人が各々反応する
「私は……。昼間は聖杯戦争はやらないんだよね?」
『基本はな。これでも魔術儀式、真っ昼間にやっちゃあ目撃されやすすぎて敵わねぇよ』
「じゃあ、お昼はゆっくりしたい……かな」
『まっ、マスターだしな。了解
んで、セイバー陣営、お前らは?一応同盟してんだ、行動の共有くらいしとこうぜ』
「俺は……」
セイバーの方を見る
ずっとこのドレスで居ろ、というのかしら?と瞳が訴えている気がした
考えてみれば、フェイからの荷物に入っていた着替えは二着。うち一着は既に血を含みすぎてボロ雑巾だ。状況によっては着れる服すらなくなりかねない。買い出しに行くしかないだろう
『あっ、フリット君、おはよー』
言い出そうとしたその時、背後からそんな声が聞こえた
「ザイフリートだ。揚げ物になってるぞ、ミラ」
『けどさ、ザイフリートってかっこいいけどちょっと言いにくいしね』
「少し前はザイフ君じゃなかったか?」
『こっちの方が言いやすいかなって』
話し声が聞こえたのか、ミラが教会から顔を出していた
『えっと……一人新しい人が居るね』
「知り合いだ」
『フェイちゃん?』
「……荷物を受け取った時に」
『会ってないよ?外出中に来たみたいだからね』
「……フェイとは別人だ」
『朝御飯?』
「朝御飯」
『りょーかい。人増えてくねー、明日には五人かな』
言って、ミラは僅かに悩むような素振りを見せ、言葉を続けた
『そうそう、フリット君。今日時間あるかな?昨日言ったけど、お買い物の手伝いとか欲しいなって』