そのため、気分を害しかねない……主に他人を呪う暴言に対して不快感を感じる人はこの話を飛ばし、次話へ進む事を強くオススメします
ちょっとした補完断章の為、今話は読まなくても問題ありません
気が付くと、森を歩いていた
一体何なの?
声を発したつもりが、ただ自分の中に響いただけであった
見回そうにも首が動かない。何も出来ない
ああ、そういう事ね。全く……
心の中で、私は呟く
つまり、これは……視覚の全てを覆う何かが、私に別世界を見せている……ようなものなのだろう。今見ているのは、私の視点ではないのだ
そう思うと色々と気が付く。灰色の空、ぽつぽつと雨は降り、地面に落ちた葉に当たって音を出している……はずだ。だというのに、感じるものは何もない。体の感覚が、視覚しかない。昨日……ショッピングモールとかいうよくわからない城のような塊に連れていかれた時に見た、巨大な絵が動き回る……ディスプレイといっただろうか、そういうものに思える
(森の薫りか……良いな)
ふと、私の心の中にそんな思考が紛れ込んできた。聞き覚えのある……契約したその時から、何度も何度も聞いた声。なまじ惜しい為に、彼っぽくか、それとも全く似ていないか、どちらかであって欲しい、半端でイライラする声
私であるはずはない。嗅覚は無いし、そもそもこんな落ち葉が腐りはじめた雨の冬の森の臭いなんて嫌いだ
そう、つまり、これは……
サーヴァントとしてのつながりから、あの
なんでそんなもの
そう考えても、森を歩く視界は途切れることはない。私自身には何の権限も無いからか、眼を閉じてこの夢を終えることすら出来ない
折角夢は……夢だけは、あの人に会えるというのに、これでは台無しだ。何が悲しくて、唯一あの人の姿が見える時間をあの人の偽物の過去なんてものに
苦痛だ
釣り合いが取れない
こんなもの……拷問だ
せめて
見たくもない夢を他所にそんな事を考えているうちに、視界は森を抜けようとしていた
見えてくるのは、やはり教会。何度かお世話になった場所だ
視界はその前で立ち止まる。動かない。なにもしない。ただ
(教会……か。森を出て直ぐに珍しいそんなものを見れるなんて幸福だな)
という理解出来ない思いが少し流れ込んでくるだけ。本当に気分が悪い
『あれっ?貴方は?』
ふと、声が聞こえた。聴覚までこの夢に囚われてしまったのだろうか
嫌な話だ、と思うも、
教会から、黒い司祭服?を着たあの無害なふりをしていたルーラーが顔を出していた
視界は動かない。固まっている。煩い。(可愛らしい人が見えるなんて何て俺は幸福だ今世界で一番幸福かもしれない)?そんなふざけた惚気なんか聞きたくない
『雨、濡れるよ?傘無いの?』
僅かに瞳に困惑を映して、ルーラーはそう言う
「雨が感じられる。幸福だ」
『風邪引くよ?傘無いなら此処に入って良いから』
ルーラーは手招きする
見たくない、破局を知っている青春なんてもの、見せつけるな気分が悪い
視界が動く、大人しく言葉に従い、教会の中に入るようだ
どうせ色々とふざけた事を考えているのだろうが聞き流す、知ったことではない
気が付くと、世界が一変していた。一変する前に
一応どうなったか見渡す。見渡せない。相変わらず拷問時間は続くらしい
周囲の状況は、と確認する
視界の真ん中にでかでかとしたカレンダーが映っている。日付は……2016/1/1。その上の時計を見ると00:01。カレンダーのかけられた塔らしきものの上には人が乗っている。何かを叫んでいるらしいが、聞こえない。相変わらずこのふざけた夢はルーラーの声位しか耳に入らないらしい。新年、元旦、聖母マリアの祝日
そして見えるのは人、人、人。多くの人。あまりにも多い、ふざけている
「……これが……新年。祭りだな」
(こんな大騒ぎに参加出来るなんて、やはり俺はとてつもなく恵まれている幸福だ)
……煩い。本当に煩い。
『まあ、誕生日と違って知らない人も含めて皆で共有する、今年一年無事でよかった、来年も頑張ろうって出来る日だからね』
……横にルーラーも居た
場面としては、ルーラーと共に、あの中央公園での何かを、少し離れた場所から見ていた……という事だろう
「カウントダウン……凄かったな」
『みんな、新年を心待ちにしてたからね』
「悪い」
『何がかな?』
「よく考えたらさ、ヴァルトシュタインの新年には邪魔になるからって外出してきたけど」
(何て情けない。聖堂教会の彼女は、日本でのこんな行事に参加する必要ないのに、来てもらうなんて)
『問題ないよ。ミサは朝になってからだし、わたしだってお祭り気分は味わいたかったしね』
ああ見たくない見たくない。いっそ私が介入出来たならば、あの時の決裂を言ってぶち壊してあげるのに
『っと、そろそろ移動しよっか』
公園の謎の塔の元から人々が動き出す
「もう少し見ていたい……というのは」
(恐らく、二度と見れない光景だから)
ああ煩い不幸ぶるな
私自身でも少しキツく考えすぎ……だとは思う。だとしても、私の唯一の安らぎを奪っているのだから、それくらいは許して欲しい
『けど、此処はすぐにあそこで騒いでからすぐに初詣に行こうって人達の通り路になるよ?危ないし邪魔だしはぐれちゃう』
「なら」
視界がずれる。
二人の体がずれる。公園の広間は少し見にくくなるが、通り路にならないであろう電柱近くの木陰へと移動する
「移動すれば良い
……悪い」
そして、すぐに手を離す
ああ勝手にしてろ。あの人ならば私以外にそんな事しない。イライラする
(……ミラさんに悪いな、勝手な事して。けど、ああ、幸福だ)
ああイライラする。とっとと終われ
ふと、考えた。実はもっと下世話な事も考えていないのかと。それを見るならば、少しは面白いかもしれないし、完全にあの人とは違うとして、冷めた目で見れるかもしれない。少なくともイラつくことはなくなる
もっと何か考えてるんでしょう?イヤらしい事とか。あの人に半端に似ていても別人だもの、どうせ……
(何様だ何様だ俺何だ貴様罪人罪人俺罪人何の権利があるどうしてこんな事が出来る罪人俺ふざけるな貴様ふざけるな俺ああ幸せだなんて幸せだ幸福に過ぎる楽しいだろう罪人貴様俺なぁ俺ふざけるなふざけんなふざけるなふざけるな俺どうして奪う何故貴様が楽しんでいるんだ罪人お前は無いものだろう居てはいけない居るな消えろ消えろ死ね死ね死ね死ね消えろ滅びろ楽しいか楽しいよなぁ奪った幸福過ぎた幸福はもう十分だろう死ね破壊を破壊を死ね死ね死ね消えろ破壊しろ消えろ罪人消えろ喪った時間は戻らない返せ罪人これ以上彼の幸福を奪うな返せ返せ返せ俺返せ罪人ふざけるなふざけるな破壊を死ねふざけるな何故生きている俺さえ俺さえ俺さえ貴様さえ俺さえ罪人さえ貴様さえ俺さえ俺さえ俺さえ俺さえ居なければ奪われなかった持っていられた失わなかった何故罪人それを平然と持てる罪人罪人罪人破壊罪人俺罪人罪人俺罪人簒奪者罪人破壊破壊破壊罪人彼のものだったはずだ返せ返せ罪人罪人返せそれは返せ罪人罪人それは罪人俺が持ってて良い罪人のものか違う違う返せ違う罪人ふざけるなふざけるな奪うな返せ十二分に幸福だっただろう破壊をふざけるな罪人一生分以上楽しんだだろう罪人罪人貴様さえいなければ幸福になる権利を返せ返せ返せ破壊を貴様にあるかそんなもの返せ返せ罪人貴様がいなければ罪人罪人
返せ、返せ返せそれは
『おえっ』
吐きかけ、手で喉を抑える
抑えられる。どうやら、とんでもなくイライラして、とんでもなく気持ち悪いあの夢からは帰ってこられたようだ
『……気持ち悪い……』
それにしても、あれは何だったのだろう、と一瞬考えようとし……忘れる事にする。あんな不快感抱くもの、二度と思い出したくもない
とりあえず、分かったのは
私が、あの
『あれっ?貴方は?』
さも今気が付いたかのように、わたしはそう声をかけていた
と、同時に気が付く。これは夢、彼と出会った……冗談だと思っていたその始まりの時の夢だと
目の前に見えるのは、雨に濡れた、今よりも髪に黒が残り肌も白っぽいけれども、大元が何も変わっていない少年……ザイフリート・ヴァルトシュタイン。これから、今はまだ半分以上残っている黒髪は白髪に変わっていくし、肌は血管に流した魔力が焼き付いて、浅黒くなってしまうけれど、今はまだ元になったっていう男の子っぽさを残す外見
けれど、今では隠すようになった、心を締め付けるあの目は、逆に輝いていて。とても綺麗で見たいけれども、見たくない。
当時のわたしはどう考えていたっけ、と思い返す。確か……
ルーラーとして呼ばれて、聖堂教会のシスターとして人間に混じって過ごしていく為の準備を整えて……その直後に、わたしという裁定者が呼ばれた原因だと思える相手と出会った事に驚いていたはず
当時の彼は今よりもっと弱々しくて、それでも既に、片鱗は見せていた。このまま行けば、きっと……彼の中のセイバーの影響で、英霊に引き摺られるように、彼の魂は英霊に近いものに届いてしまうだろう
『雨、濡れるよ?傘無いの?』
だから、その時わたしがやるべきだった事は、即座に彼を殺す事で、それは本当に正しいことで。少なくとも、行き場も無いように雨に濡れた彼を保護することでは決してなかった
何でそんなことを言ってしまったのか、当時のわたしには分からなかった。今は分かるけど
「雨が感じられる、幸福だ」
嘘だ。ううん、嘘じゃないけど嘘。今でなく、当時から分かっていた
幸福だというのは本当。それなのに、彼の赤い瞳は、喜びなんか見えなくて。ただ、使命感しか無かった。とても純粋で、自分を幸せだと言い聞かせているようにも見えた
『風邪引くよ?傘無いなら此処に入って良いから』
そう、昔のわたしは彼を教会のなかに呼ぶのだった
ああ、それはきっと、わたしがやりたかった事で。つまりは、わたしにとっての初めての逃げの始まりだった
「……これが……新年。祭りだな」
場面が変わる
視界の真ん中には、新年のカウントダウンを行うための特設ステージが見える
新年のあの時だと、すぐに思い出せた。あれはわたしにとって、どうしようもないものだったから
特設ステージからは既に2016年1/1を示す垂れ幕がかかっていて、カウントダウンに使っていた時計は00:01を示している。場面としては、カウントダウンが大盛り上がりで終わった直後
『まあ、誕生日と違って知らない人も含めて皆で共有する、今年一年無事でよかった、来年も頑張ろうって出来る日だからね』
過去のわたしはそう返す
「カウントダウン……凄かったな」
『みんな、新年を心待ちにしてたからね』
凄かった、という彼の瞳には、もう使命感は見えなくて。けれども、それは彼が出会ったあの日から数日で、幸福感を顔の表に貼り付けてあの瞳を誤魔化せるようになった、というだけだった
それでも、多くの人の騒ぎを見る彼は、きっと何かに感動していて、それは何故か嬉しかった
「悪い」
『何がかな?』
「よく考えたらさ、ヴァルトシュタインの新年には邪魔になるからって外出してきたけど」
ヴァルトシュタインはきっと、新年という多くの人の騒ぎ、魔力の増大等を狙って、何か……彼のようなものを更に産み出そうとしているのだろう。その為には、干渉しそうな彼が邪魔だった。
その行動自体は、わたしに、裁定者に止める権利はない。一目で確信できた。彼の同類は、作れないと。彼以外に、英霊の影響で同類になりかける程の……参加者である八騎目になりうる存在はきっと産まれないと。例え人間を使ってもそうならば、ヴァルトシュタインは少しでも使いやすく人間以上になりうるホムンクルスを使う。ヴァルトシュタインの聖杯は、あくまでも聖杯戦争の勝利の為に行うこれらの行動を止める事を許していない。多くの一般人を巻き込んだり、一般人の前に魔術を晒し、神秘を喪わせる。そういった聖杯戦争の根底を揺るがす事でない限り介入は禁止、それが裁定者としてのルールだから、わたしは口を出さない……出せない
『問題ないよ。ミサは朝になってからだし、わたしだってお祭り気分は味わいたかったしね』
彼はきっと、聖堂教会のわたしを、聖堂教会とは関係ない、寧ろ別の宗教のものに近い……気がする行事に連れてきた事を謝ったのだろう。けれども、それは別に良い
わたしだってどんなものか見たかったし、彼にまた会って……殺す覚悟を決めたかった
『っと、そろそろ移動しよっか』
少しして、わたしは言った
公園の特設ステージの元から人々が動き出す
「もう少し見ていたい……というのは」
『けど、此処はすぐにあそこで騒いでからすぐに初詣に行こうって人達の通り路になるよ?危ないし邪魔だしはぐれちゃう』
「なら」
彼がわたしの手を握る
それは、今までに無い事で……
「移動すれば良い
……悪い」
彼に引っ張られ、わたしは木陰まで連れていかれる
もう少し、祭りを見るために
けれども、わたしにとってそれはどうでもよかった
彼を殺さなきゃいけない。それは知っている。それが正しい事も分かっている
けれども、手を握ることで見えた彼を、見てしまったあの彼を、殺すと決める事は当時のわたしには出来なくて、結局は彼を殺さずにあの日を終えてしまった
目を覚ます。夢にのめり込み、夢の頃の心を思い出していたわたしが、元のわたしに戻ってくる
『出来ない、なあ』
ぼんやりと呟く。昨日も、だ。結局わたしは、殺せたはずの彼を殺せず、しかもあの死人……恐らくはバーサーカーが手を出し、眷族とした吸血鬼……を見て、多くの一般人に手をあげる、聖杯戦争を破壊する別の行為かも知れないからと大義名分を付けて逃げてきた
本当に、わたしらしくない。やりたいことだけやって、それを貫いて。ちょっとは強い人間だって思ってた
けれども、やらなければならない正しい事と、絶対にやりたくない事がぶつかり合った時に、こんなにも弱いなんて……思ってもみなかった
『一目惚れなんて、するんじゃなかったなぁ……。きっとわたし、裁定者に向いてないよ』
どうしようもない心を抱え、ぼやく声は朝の空気に溶けた