Fake/startears fate   作:雨在新人

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四日目ー昨夜の顛末

ネットカフェに当然置かれているPCの時計が、九時を示した

 何だかんだ未だアーチャー陣営が、多守紫乃が起きていた時間。時計は持っていないし見ていなかったが、昨日の戦闘は最も遅くても午前一時を回らない位のものだと推測出来る

 と、いうことは……戦闘がそれから1時間だったとして、眠っていた時間は大体7時間程だろうか

 寝過ぎだ。寝坊だ。7時間も眠っていて良いなんて何処の幸福野郎だ。少なくとも体を鈍らせて良い訳がない俺の取って良い睡眠時間ではない

 

 「アサシン、そろそろ出なければ不味い」

 言って、ベッド……というより、限界まで倒された椅子から立ち上がる

 問題なし、立ち上がれる。足は、心は折れてなどいない。ならば問題ない。ひしゃげた銀霊の心臓の鉄板は心の歪み、折れているらしい肋骨は単なる弱さ。それだけだ、気にしなければ折れてないも同じ。痛みは無視出来るものなのだから。彼の抱いただろう苦しみには足元にも及ばない程度で、苦言など呈してはならない

 

 暫くは俺に付け、とでもマスターに命令されたのだろうか、大人しくアサシンは付いてきた

 仕切りを開け、部屋を出る

 

 『全く、良い御身分ね』

 横のスペースの扉を開き、セイバーがほぼ同時に顔を出した

 「セイバー」

 『片方が酔い潰れたカップル、みたいな扱いされたのよ。最悪の気分だったわ』 

 どうやら、セイバーがあの後情けなくも倒れたのだろう俺をネットカフェへと連れてきてくれたらしい。全くもって頭が上がらない。俺が自分で何とかしなければならなかったのに、俺のエゴに力を貸してくれている側であるセイバーに迷惑をかけたのだから。俺よりも、もっとしっかりしたマスターの方がセイバーもやり易かっただろうに

 「すまない、助かった」

 『そこはすまないじゃないわよ。全く、礼儀としては』

 「間違えたよ。有り難う、セイバー。お前が居なければ、俺はきっと……5度位は死んでるな」

 『誠意は行動で示して欲しいわね。口だけならばどうとでも言えるわ』

 「分かってる」

 『後、道具(マスター)を運んだのはそこのよ。だって貴方、無駄に重いもの』

 「まあ、一部骨も金属で補強してるしな

 君にも言わないとな。有り難う、アサシン」

 言いながら、ネットカフェを出る

 払う代金はは……金をマスターから貰ってなさそうなアサシンを含めて三人分。高いと言えば高いが、まあ……他のホテルよりはマシな額だ。シャワー代も一人分入っている。サーヴァントに必要なのかとは思うが、まあ良い。サーヴァントとはいえセイバーは女性だ、気になる事もあるのだろう

 そうなると、自分もシャワーを浴びるべきだったか、と少し考えるが……。昨日と違って傷は内出血や骨折程度のものであり、外傷は無く流血はしていないのだから、洗い流す必要性は薄い。鈍い痛みを腹から胸にかけて感じるし、痣位は出来ているかもしれないが、痛むだけで端からは見えないのだから気にする意味はない。自分に無駄金を使う程の事は無さそうだ

 

 ネットカフェを出ても、相変わらず無言のままアサシンは付いてくる

 僅かに歩くとネットカフェのある通りを外れ、通りに取り付けられている天井が無くなる

 雨が降っていた

 夜は戦闘に巻き込まれ薬が割れるといけないからととある貸しロッカーに預けてあるバッグから、折り畳みの傘を取り出す

 ショッピングモールで適当に買った赤い傘。セイバーの好みなんて知らないからとあくまでも適当、何か考えていた訳ではない

 『私の分は無いの?気が利かないのね』

 傘をセイバーに差し出す

 「霊体化すれば気にならないだろうとは思いつつも買っておいた」

 『一言余計よ』

 言いながらも、セイバーは傘を受け取った

 霊体化すれば気にならないだろうというのは本当だ。だが、究極的には必要無い食事を求めたりと、セイバーにも当時とは違う現世というものを楽しみたいという気持ちがあるのかもしれない。そう思ったから買っておいたのだ

 全くもって無駄遣い。フェイが折角くれた好意の金を浪費するにも程がある。だが、まあ……使えるときに使ったって構わないだろう。俺が後何日生きられるのか……いや違う

 俺が聖杯を手にするまで後何日のうのうと生きるのか分からない以上、きっと使えない額は出る。だから、使えるときに使う

 

 『所で、お腹が空いたのだけれども、道具(マスター)

 セイバーが、そんな事を言い出した

 

 ならば、と言いかけて気がつく

 今の俺が、どんな面をして教会に顔を出すというのだ

 ミラは間違いなく正しい。その正義を振り切って、俺は自分の醜いエゴの為に彼女と戦ったというのに。抵抗するなというのは、ミラの優しさ、もしくは迷い。俺の勝手なエゴを少しは理あるものとしてくれたのか、或いは単純に彼までも消してしまうことを躊躇ったのか。どちらにせよ、令呪による必殺を回避された際に直接手を下す覚悟を決めきれなかったから、だろうか。そして俺は……それを良いことに聖杯を手にする為に、悪を成す為に生き延びた。彼女に殺される事が世界の為には正しいと知っていながら

 ならば、既にミラを裏切った俺が、どうして彼女に朝御飯を集れるだろう。最早当たり前の事として思考に組み込まれていたのかもしれないが、そんな無理をまず考える自分に、考えられる程の時間を過ごしてきた自分に呆れ果てた

 「ジャンクで良いか?」

 『酷い選択ね。もう少しマシな答えは無かったのかしら』

 「悪いが、俺が伊渡間に関して知っているのは竜脈の流れ方と大まかな地理、後は教会の中ぐらいだよ。期待するな」

 『「ボク」はジャンクで良い』

 「アサシン。お前まさかとは思うが、集る気か」

 『「わたし」、恩人』

 『厄介事ばかり拾うわね、道具(マスター)

 呆れたようにセイバーがため息を吐いた

 「……拾いたかった訳じゃないんだが

 分かった。もしも居なければ死んでたのは確かだ、奢るよ」

 『ぐっど』

 言うと、アサシンは歩き出す。今までのように俺に付いてくるのではなく、自分の意思で

 「何処へ行くんだ?」

 『「余」のオススメ。美味しそう』

 「美味しい、じゃないのか」

 『憧れ』

 「体よく行ってみたい店のお試しに使われた訳か」

 まあ、良い

 アサシンに関しては現状良く分からないというのが本当の所だ。気にしてもどうしようも無い。寧ろ、主張は何れバーサーカーを……正義たるヴァルトシュタインを倒し、敵対した際に役立つ何かに繋がるかもしれない。有難い事だ

 

 アサシンが歩むままに歩き、辿り着いたのは……有名なチェーンであった

 早くて安い。高級思考はあまりなく、独創的なメニューも無く、完全なジャンク。だがそれが良い。そんな店

 「此処……なのか?本当に」

 『憧れ』

 アサシンが、やはり分からない。俺自身入ったことはないが、俺以外そこまで憧れるようなものだろうか。寧ろこのチェーン以外の高級思考店の方が入りにくくて憧れになるのではないだろうか

 『はあ。全く……』

 「命の恩人の願いだ。そう邪険にしないでくれセイバー」

 『呆れてるのよ。注文は任せるわ、せめて品位があるものをお願い』

 行って、セイバーはとっとと階段を登る

 まあ、セイバーだ。そんなものだろう。ジャンキーなものに目を輝かされても驚きだ

 

 一方アサシンは動かない

 「金は?」

 『貰ってない』

 「ならば、注文内容だけ言ってくれ、買ってくる」

 言いつつ、俺自身壁に貼られたメニューを眺めてみる

 

 ジャンキーだ

 実にジャンクフード。当然ながら清々しい程にメニューはそれしかない。色々と書かれてはいるが、結局の所はハンバーガーと、ポテトかチキンナゲット、そして飲み物の三種と言えるだろう

 実にジャンクで、そんなものを買う体験が楽しくて仕方がない。これもまた青春の謳歌というものだろう。無学な俺にはどれを選ぶべきなのかとか全くもって分からないが、選べるというのはそれだけで楽しい

 

 品位のあるメニュー……無いな

 一通り目を通してそう結論付ける。基本的にハンバーガー、品位とは遠いだろう。ミラが何時だったか作ってみたと用意してくれたハンバーガーは美味しかったが、あのケチャップの味は間違いなくジャンク。品位では選びようがない

 

 『LTバーガー追いトマトピクルス増量ケチャップ抜き』

 「すまない。もう一度言ってくれ」

 アサシンの注文が理解出来なかった

 『LTバーガー追いトマトピクルス増量ケチャップ抜き』

 アサシンは繰り返す

 やはり、理解が及ばない

 LTはレタストマトなのだろうが、トマト増加とケチャップ抜きの相関関係が分からない。ケチャップはトマトではないのか

 「まあ、良いか。買ってくる」

 言って、レジに向かった

 

 「御注文を」

 笑顔を向けてくる店員に

 「ハンバーガーMセット二つ、LTバーガー追いトマトピクルス増量ケチャップ抜きのセット一つ。ドリンクは……全部コーヒーで」

 「はい?ケチャップ抜きですか?」

 「知り合いのポリシーらしいです」

 「トマトは……」 

 「追加。これもポリシーらしいので」

 「あ、あの」

 「ポリシーらしいのでそのままお願いします」

 押しきった。少し疲れる

 

 注文を受け取り、店の二階に上がる

 セイバーは自分の分を受け取り、一口かじる

 微妙な顔になった

 『サンドイッチの時も思ったのだけれども、微妙ね』

 「そう言うな。これはこれで行ける」

 俺も一口かじる。広がるのはやはりケチャップの味。俺が知識で知っている、青春の味

 「料理の平均レベルが上がったんだと思っておいてくれ」

 『仕方ないわね。ランクが下ならば下なりの味だと思っておくわ』

 

 一方でアサシンは黙々と食事をしている

 「で、アサシン。旨いのかそれ?」

 『ぱーふぇくと』

 「トマト味ならケチャップでも良いだろうに」

 『ケチャップはNG。「俺」は食事まで血を想起したくない』

 「そんなもんか」

 流す。あまり意味のあるものは聞けていない

 

 「そういえばアサシン。マスターって結局誰の事なんだ?」

 落ち着いた中で、俺はそう切り出した

 

 『秘密、しーくれっと』

 返ってきたのはやはりというかそんな答え

 まあ、すぐに返ってくるとは思っていないので想定内の返答だ

 バーサーカーを倒すまで、あくまでも同盟関係は期間限定。それはそうだ。最後まで同盟していては勝者は無い。俺にも聖杯を他人に譲る気は無いし、他のマスターだってそうだろう。ならば、アサシンとも生死を賭けて戦う時は来るはずだ

 「知らないと連携は取れないと思うが」

 『マスターは秘密主義。狙われることを警戒している』

 ならば、これは本来の正解。多守紫乃以外のマスターであれば、万が一フェイがマスターな場合でも無い限り、迷わずマスターを殺した方が余程早い。マスター殺しを迷う気もない。セイバーも俺も、個々では他サーヴァントを圧倒出来やしないが、サーヴァント擬きがマスターである為、魔術師を圧倒する存在(サーヴァント)の数の差という明確な利点は活用する

 俺との敵対を見据えたならば、それは何処までも当たり前の話

 「連携取れないのは困らないか?一応アーチャー陣営とは定期的に話している訳だし」

 『問題ない。「僕」が伝える』

 「戦闘中は?」

 『貴方に従う。それはマスターの命令でもある』

 現状、食い下がっても無駄のようだ。とりあえず、アサシンが従ってくれるらしいのは有り難いが、過信は出来ない。マスターの命令は俺より優先されるだろう。何時か裏切るかもしれない、それは頭の隅に残しておく

 

 言い終わると、アサシンはセットのポテトを一つ摘まみ、小さくかじる

 『……しょっぱい』

 「塩多目の部分だったか。手を付けてない、俺のと変えよう」

 アサシンの好み等知らないので、注文は付けていない。セイバーは塩辛いとジャンクだ品位が無いだ言うと思ったので塩少な目にしてもらっていたが、それ以外のフォローを忘れていた

 一本アサシンの所から摘まむ。やはり塩の振り方の偏りか塩辛い。俺のと比較して、そこまで差は無いが、やはり変えた方がマシだろう。一番は塩少なめにしたセイバーのとだが

 「セイバー」

 『交換?嫌よ。あれ以上辛いなんて、舌が馬鹿になるわ』

 「悪かったな、ジャンクで」

 アサシンの前に置かれたポテトと、自分のを変える

 頷いて、アサシンは少しずつポテトをかじり始めた

 『反省しているならば、昼は私の望む店に行って欲しいわね。といっても、現界してから、集った時以外にまともなものを食べさせて貰った記憶が無いのだけど』

 「分かった、昼はセイバーに任せる。アサシンは」

 『「私」はそれで良い』

 『……微妙な反応ね。そこは、君に合った店に連れていく、と言う方が余程甲斐性があるもの』

 「俺は俺だ。甲斐性を求められても困る」

 『はあ、情けないわね

 御馳走様。あんまり良くは無かったわ』

 ポテトまで食べ終え、セイバーはコーヒーを手にし

 『不味っ』

 一口で顔をしかめた

 

 「砂糖なりミルクなりあるだろ。3つづつ持ってきたぞ」

 此方でも一口飲んでみる。普通のコーヒーだ。それなりに美味しい。夜に試験だ何だと伝えられた日にフェイが差し入れてくれたものよりは劣るが、あれはコーヒー好きだという現当主の祖父、グルナート・ヴァルトシュタインが道楽で買っている夜の一杯を一部貰ってきたものらしいし、劣るのは当然だ。寧ろ、そんな豆に劣るとはいえ、悪い味ではないというのはジャンクフードの店としては良いランクだろう

 『不味いものは不味いわ。薬みたいなものを良く飲めるわね道具(マスター)

 「苦手だったのか?」

 そういえば、セイバーの生きた時代、コーヒーはヨーロッパには無かった気がする。ということは、セイバーからしてみればコーヒーとは未知の苦くて少々酸味まである黒いお湯。慣れれば美味しいかもしれないが、初見ではなかなか辛いものがあるかもしれない

 そこまで思い至っていなかった自分に……いや、これは仕方ないかと腹立たしくはあまりない

 『苦い。……ミルク』

 ふと気付くと、アサシンが2つめのミルクを投入していた

 砂糖とミルクを各3つ。貰ってきたのはとりあえずそれだが、残っていたのは砂糖一つ。セイバーはとりあえずといった形で砂糖とミルクをいれ、尚も微妙な顔。アサシンはというと……

 「あと幾つ必要だ?」

 『3つ』

 「半分ミルクだなそれ」

 『あの日のコーヒー牛乳は美味しかった』

 「そうか。少し下でミルクを貰ってくる」

 言って、俺は席を立った

 どうやら、アサシンはミルク大量派らしい。半分ミルクというのは言い過ぎだが、5つも入れれば相当ミルク味になるだろう。コーヒー牛乳にするならば足りないが、まあ良い

 俺としても格好付けでなければブラックは辛いし、フォローしなければセイバーの不機嫌は直らないだろうしで、丁度良い機会だった

 

 貰うものを貰い、セイバー達の元へ戻る

 セイバーにとりあえずで買ってきた紅茶、アサシンにミルクを渡す

 『……最初からこうして欲しかったわね。けれども、何も無しよりは良いわ』

 一口紅茶を啜り、セイバーはそう言った

 「で、今日の方針を言っておこうか」

 『簡潔に頼むわ』

 一度コーヒーに口を付け、切り出す

 「日中は探索、特に何処かに居るだろうランサーのマスターを探りたい

 夜は……」

 一息入れる。セイバーやアサシンにとって、これは良い選択ではないだろうから

 「今日は休息に努める。戦わず、探らず、流石にガタガタな体を休める事にする」

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