Fake/startears fate   作:雨在新人

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プロローグー英霊降臨

『ちょちょいと待った、その絶望!』

 迫り来る(けん)は、あまりにも呆気なく弾かれた

 

 「ちっ!」

 飛び退きつつ男が初めて言葉を発する。雰囲気がつい先程まで……戦闘体勢へと戻る

 

 剣閃を弾いたものは……紅い光を反射し、鈍く輝く金属の矢だ。鉄だったとしても斬るであろう剣を、地面に突き刺さったそれは、どういう訳か弾いたのだ

 

 『あいや待ったそこなお嬢』

 姿は無いが声が響く

 

 『その悲しみ嘆き、共感したからには見捨てりゃ男が廃る』

 虚空から何者かが私の横に降り立つ

 粗削りな木の弓、何も入っていない……ように見える矢筒を背負い、纏うもの……服は赤いジャケット

 『悪魔も炎も乗り越えて、三界制覇なんのその。

 サーヴァント、アーチャー。お望みとあれば幾多の苦難から嫁……いや婿奪還までお供しやしょうや』

 目の前に現れたアーチャー、と名乗った謎の青年はそう軽く言い放った

 

 「アー、チャー?」

 召し使い(サーヴァント)弓兵(アーチャー)?どういう事なのだろう。そもそも彼は何なのだろう。第一、避けられぬ死を破壊したとはいえ、彼は本当に味方なのだろうか

 考え事は尽きないが今は彼を信じるしかない

 

 「……弓兵の、サーヴァントだと」

 『あんたは……セイバーか?何か引っ掛かるけどな』

 セイバーと呼ばれた赤い瞳の男の目が揺らぐ。殺意のみに満たされていたはずの瞳に、理性の光が点る。さっきは警戒していた事に気付かなかった私ですら理解出来る程の、剥き出しの警戒心。それに対し、アーチャーと名乗った彼は、一見あまり警戒しているようには見えない

 

 「どういう、ことなの」

 思わず声に出た疑問。だが、対峙する二人に答える余裕は……

 『まずは話をするのに邪魔者を追っ払うとしますかね、マスターはちょっと待ってな』

 あった。更にアーチャーは私を主人(マスター)と呼んだ。だが主従関係なんて結んだ覚えはない

もう訳が分からない

 

 アーチャーが、矢筒から矢を取り出す……動作をする。やはり、そこには何も入っておらず、手の中にも矢は無い。剣閃を弾いた矢も、誰も触れていないままに何時しか刺さった場からから消え失せていた

 

 「不可視の矢か」

 『って事だ、セイバー』

 「……何者だ、貴様」

 『それを言っちゃあサーヴァントとして三流(おまぬけ)さ。そっちだって光の剣とかいう正体不明でおあいこってもんだろ』

 

 アーチャーが矢を弓につがえ、引き絞る。いや、矢は見えない以上、本当につがえたのかは定かではないがきっとつがえたのだろう

 それに対し、セイバーと呼ばれた男は開けた距離を詰めるように、不思議な構えを崩さぬままに半歩歩みを進める

 

 剣と弓、それなりの距離がある状況であれば勝負は見えている。が、あの男は充分あったはずの距離を無視し、体勢を崩す隙を見せた私へと打突を行う事が出来たのだ。今アーチャーとの間にある距離も、一瞬で詰められるかもしれない。そうであれば勝負は分からない

 

 見ていることしか出来ない私を余所に、先に動いたのはセイバーと呼ばれた男であった

 音を置き去りにする踏み込み。縮地(しゅくち)、という言葉を思わせるそれは、アーチャーとの距離を有り得ない早さで詰め……

 

 そして、吹き飛んだ

 「がっ!?」

 鮮血が飛沫(しぶ)

 砕けた切っ先が、光を失い、私の前に突き刺さる

 

 ……アーチャーだ。解き放たれた弦が震えている

 彼の放った不可視の矢は、過たず迫り来る敵を捉えた

 そして、咄嗟に体勢を崩す事で輝く剣を盾にした敵に激突、剣を根元から砕き、右肩を穿ち、吹き飛ばしたのだ

 訳が、分からない。ついてけないよ

 幼馴染と見た、バトルアニメの世界が、そこには広がっていた。おいてけぼりにされる非戦闘員のぼやきが、良く分かる。全てが終わってから、漸く何が起きたのかを理解できる

 

 『ん?案外脆いなその剣。本当にセイバーか?』

 「……やはり、サーヴァントか」

 噛み合わない言葉を交わしつつ、二人の対決は第二ラウンド(二射目)へと移行する

  

 キンッと軽い金属音と共に、男の頬に()が走る

 根元から折れた剣の柄から、それでも尚赤い光の刃が伸びている。恐らくだが、再度射たれた不可視の矢をそれで逸らしたのであろうって、予想はつく

 

 「……化物が!」

 セイバーと呼ばれた男が、その場で剣を振るう

 アーチャーとの距離は、縮地で詰めようとした時よりも尚離れている。届く訳がない

 

 刹那、光が視界を満たした

 届く訳がないというのは、一般的な剣の間合いの話。赤い光が構成する刃、常識を越えたそれには当てはまらない

 柄を離れた光の刃は、その姿を保ったまま、剣閃の速度で私を狙う!

 『ちっ!』

 だが、それは不可視の三射目により吹き散らされ消え

『っ、マスター!』

 アーチャーが叫ぶ

 

 どういう事だろう。私を殺さんとした一撃はアーチャーが対応してくれたはずだ

 その安堵に邪魔をされて、事態に気が付くのが一拍遅れた

 折れ突き刺さった切っ先、光を失ったはずのソレが、再び柄から形を形成しようとする男の手元の光の刃に呼応するかの様に、輝きを取り戻し始めていた

 切っ先は折れ口を私へ向けて突き刺さっている。もしも剣の形に光が形成されるのであれば、やはり此方へ向けて伸び、私を串刺しにするのだろう

 気付くのは遅すぎた。回避なんて出来ない。再生する光の刃は私を殺すべく放たれる

 

 が、その一閃は止められていた。アーチャー自身の背中によって

 

 「アーチャー!」

 誰かは知らない。何なのかも知らない。それでも、自分を守ってくれた人だ。思わず、私は叫んでいた

 『熱っつ。いや大丈夫だマスター』

 アーチャーはそう答えた。答えられるってことは死んでしまっていたりはしないのだろう。けれども、私の手の指を消し去った光だ、無傷では居られないかもしれない

 『いや、大丈夫じゃないか、お気に入りだったのになこのジャケット』

 そう言って、アーチャーが此方へと背を向ける。其処には、少しの赤さのある肌と、無惨にも灼けて大穴の空いてしまったジャケットがあった

 

 良かった、無事なんだ……

 と思った所で気付く。その一撃を放った相手を忘れている事に。自身を庇ってくれたアーチャーに注視しすぎて、根本的な原因を見逃していた。アーチャーが救ってくれたとはいえ、アレは私を殺しかねない存在であることに違いはないというのに

 「アーチャー、相手は……」

 焦って言葉を発する。もう遅いかもしれないと思いつつ

 

 だが

 『……奴さん逃げやがったぜ。このオレがマスターを庇う為に目を離すだろうって魂胆さ!まんまと乗せられた』

 アーチャーの言葉で気付く。私を殺しに来た彼が居ない事に

 「けど、」

 『大丈夫さマスター、このオレの偽物の千里眼(千里眼(偽):D)をもってしても見えない、近くにゃもう居ないぜ。』

 アーチャーが胸を張る

 「偽物の千里眼って……」

 

 節穴ってことなんじゃ

 思わず、そう口に出してしまった

 冗談のような言葉。ひょっとして、未だに緊張している私の緊張を解そうとしてくれたのだろうか

 

 『心配すんなマスター、居ないのは本当さ』

 その言葉に、詰まっていた息が溢れる

 

 あっ、っと気がついた時には、極限の緊張で保たれていた糸は切れていた

 崩れ落ちる人形のように、足が力を無くす。体勢を崩した訳ではないというのに、重力に抗えず、体は地面に吸い込まれていく

 

 『っと疲れてるのかマスター?』

 その体は左手を引っ張ったアーチャーによって、その体に抱き止められる形で中断される

 

 ……左手?そんなものは、もう私には無かったはずだ

 

 抱き止められたまま、左腕を目の前にかざす

 

 1、2、3、4、5

 そこにあるのは5本の指。あったはずの傷痕はそこに無く、無くなったはずの全てがある。傷一つない綺麗な左手が……

 

 違う。赤が手の甲に走っている。傷一つなくは、ない

 

 『あっちゃー、無茶っぽかったからなぁ。なんかあるかと思ったけど、一画潰しちまってたか』

 不思議そうに左手を眺めていた私が気になったのか、私の視線の先……左手を覗き込んだアーチャーがそう言った

 

 一画……?

 疑問を抱きながら、改めてあるはずのない自分の左手を見つめる

 其処にはーー二つの三日月が重ねられたような、赤い傷痕が刻まれていた

 

 「……これ、は?」

 刺青なんて入れたことは無い。痣だとしても、今日までそんなものは無かった。第一、痣であるにしては、余りにも赤すぎる。血のような、という言葉が似合うような色の痣は出来ないだろう

 

 意を決し、右手でもって傷痕に触れてみる

 痛みは無い。(ぬめ)りは感じない。血の色の下に、他と変わらないしっかりとした皮膚の存在を知覚する。これは、傷……という訳でも無いようだ

 

 「アーチャー、一画潰したって」

 『いや、だからそれに関してはすまねぇと』

 「この傷がどういうものか知っているの?」

 その質問に、一瞬アーチャーは虚を突かれたように呆ける

 

 『そういや、マスターはなんも知らねぇんだったな。こりゃまたうっかり』

 ばつが悪そうに頬を掻きながら、アーチャーは答えた

 『その痣は令呪(れいじゅ)って言ってなマスター、オレとの契約の証であり、オレへの命令権みたいなもんだ。とりあえずそれだけ知ってれば良い』

 「……命令権?契約?」

 非常識の中で忘れていたが、召し使い(サーヴァント)主人(マスター)とアーチャーは言っていた。それに関係するものだ、というのは分かるのだが、逆に混乱してしまう

 私には、彼と契約したつもりも何もないのだから。第一、見えない矢なんてものを持っていて魔術に対しても耐性があるらしい、私よりもよっぽど凄い魔術師であるのだろう彼が、私と契約する事に意味があるとは思えない。主人と仰ぐ理由が無い

 

 『んまあ、それはぼちぼち明日にでもだなマスター』

 言いつつ、アーチャーは抱き止めたままの私を抱えあげようと……

 

 「って何してるのアーチャー!?」

 急なその行動に体が震える。幼い頃に父さんにやってもらって以来の状況に、頭が沸騰する

 『いや、幾らなんでも敵地のど真ん中でのーんびりとお喋りするのはどうかと思うぜ?移動だ移動。夜も遅いし、美少女は寝る時間だ』

 「移動って、抱えあげる必要なんて」

 『大人しく背負われなマスター。ついさっきの今で、大丈夫立てるなんて言わせねぇからさ』

 

 抵抗は無意味だった。あっさりと背負われてしまった

 恥ずかしさで顔が赤い。筋肉質な肩が、背中が腕に当たって妙にこそばゆい。赤い髪が顔の前でゆらゆらしてくすぐったい

 だというのに、そういった事を気にしていないように、背負った私を片手で支え、アーチャーは歩き出す

 

 「ちょっ、危ないってアーチャー」

 『大丈夫大丈夫、流石にマスター背負っててもこの辺りに放されてる魔獣辺りにゃ負けないさ。弓を引けなくても手投げで十分』

 ………………何だろう、凄く、会話が噛み合っていない気がしてならない

 

 「って魔獣!?」

 一瞬遅れて、大変な事を言われた事に気が付いた

 『いや、正確に言えば魔獣じゃないな。魔術的に強化されたり改造されたりした、単なる獣だ』

 「魔獣ね」

 事も無げにそう言うアーチャーに対しそう返す。アーチャー的には何だかロクでもない基準があるのかもしれないけれども、魔術的に改造された獣は魔獣で良いだろう

 『いやいや魔獣なんて』

 アーチャーの右腕が閃く。風が頬を撫でた

 

 恐らく見えない矢を投げた……のだろう。鈍い音と共に鮮血が飛沫(しぶ)き、近くの木に一匹の獣が縫い止められる

 『こんなバレバレの気配遮断しか出来かったりするもんじゃねぇよ、英雄すら殺しかねないバケモンだ』

 

 「……えっ?」

 縫い止められたどことなくカメレオン……絵では見たことがあるそれを思わせる獣。今の今まで、そんなものが居ることに気が付かなかった。其処に何かが居るなんて思いもしなかった

 ひょっとして……彼等はこの森に私が入ってから、ずっと近くに居たのではないだろうか。だとすれば、私は……もしもセイバーと呼ばれたあの男に遭わずとも、何処かであの化物に殺されていた……のだろうか。今更ながらの恐怖が、心を縮こまらせる

 

 『心配すんなってマスター。このアーチャー、仲間内では忠誠心の高さで有名ときた。あんな獣共にマスターを傷つけられるようなヘマはしないさ。安心して休みな』

 そんな心を読んでか、アーチャーは器用に右手で背負っているはずの私の背中を軽く叩いてくれる

 

 その存在感に、暖かさに、大切な人(かーくん)とはまた違った安心感を感じ、何時しか、私は彼の肩に頭を預け、船を漕いでいた

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