『ようマスター、朝だぜ』
そんな、アーチャーの呑気な声に目を覚ます
体が重い。疲れが全然取れていない。あれだけの事があって、ゆっくり眠れるか……なんて言われると、無理としか返せないし仕方はないけれど
「アーチャー、あの後……」
アーチャーの宝具の解禁を許可した所までしか、私の記憶はない。あの後、どうなったのだろう
アーチャーが此処にいて、此処が私が借りたホテルの一室である以上、アーチャーが負けたなんて事は無いだろうけれども、勝てたのだろうか?周囲の被害は?それとも、逃げてきた?何も分からない
『ああ、あれな
流石に被害出るからって裁定者に止められたわ』
何処か軽く、アーチャーは返した
「止められた?それって、ひょっとして無駄だったの?」
『流石に完全に無駄にゃしてねぇって、安心しなマスター』
「安心出来ない。結局どうなったの?」
『まあまず、バーサーカーの野郎にゃ、50回程死んでもらった……と言えば聞こえは良いように思えるが、実際の所50回しか殺せなかったって話だな。悪りぃマスター、格好付けた割にゃショボい結果に終わったわあれ』
少しだけ申し訳なさそうに、アーチャーが頬を掻く
……50回殺した。スケールが色々と違いすぎて、言葉が出てこない。多くの人を殺せる攻撃で漸く一回死ぬって言っていたはずだし、本当に想像が追い付かない。こうして良くしていてくれても、やっぱり遠い存在なんだなって事が良く分かる
『んじゃあ止めにって所でルーラーに止められてよ。結局止めは刺せず、ならば火力不足で中々あのバーサーカー殺せないだろうしって感じでマスター回収して逃げてきた訳だ』
「そもそも、宝具撃ってたら倒せてたの?」
少し、気になる
『どうだろうな。案外1000近く魂残ったかもしれねぇ』
「6000は殺せる自信あるんだ……」
『最近海の向こうの人類が研究してるらしいけどよ、原子爆弾とかそんな辺りと比べれられる兵器扱いっぽいぜ?』
言葉が出ない
「アーチャー、それ、私まで死なない?」
『そうならねぇように着弾前に回収するんだぜ?そりゃ巻き込まれりゃそれこそ伝説の
「確かに、それならバーサーカーを倒しきれても可笑しくないけど……」
『だろ?』
そんな物騒な人には見えない笑みで、アーチャーは答えた
『んで、マスターに対しては悲報だけどよ』
少しして、ベッドから起き上がった私に向けて、アーチャーは言う
『あのセイバーのマスター、生きてるか死んでるか全くもって分からねぇ。恐らく死んだんじゃねぇか?』
「……どうしてわかるの?」
『多分あいつ以外にゃ有り得ない気配が生まれ、そしてぱたっと消えたからさ
少なくとも死にかけてなきゃ、あそこまで気配が消える訳もねぇ。んで、恐らくはあいつがやべー奴って事に気が付いてたからあんなに裁定者は辛そうな事やってた訳で』
「敵は裁定者なんだから、きっと止めを刺してるはず……って事?」
『その通りさマスター』
「……けど」
『殺せないんじゃないか、って顔してるなマスター
いや、流石にアレを見逃すってのは真っ当なサーヴァントじゃ有り得ねぇよ』
「……そんなに?」
怖かったけれども、元々がかーくんだと思うと、そんなに悪い人には見えなかった。私とは違う方法で、かーくんを助けようともしていてくれたみたいだし……
『そんなにさ、マスター。アレは危険過ぎる
ってか、何がセイバーだよ、詐欺じゃねぇかって話になるしさ』
「セイバーじゃ、ないの?」
『違う違う。彼奴は人類全ての敵。最低最悪のエクストラクラスさ
まさかあんなもん出てくるとは思ってなかったわ』
頭が痛い、とばかりにアーチャーは左の手で額を押さえた
エクストラクラス。あの子……ミラちゃんの
けど、エクストラクラスで特別なのはルーラーくらいではなかったっけ。アーチャーも言ってた気がする。ルーラーは特例だって
私がベッドに腰かけると、それに合わせてアーチャーも椅子に座る
『んじゃあ、おサルでも分かるエクストラクラス講座、ビースト編をやるとしますか』
言って、アーチャーは自分の首筋から何本かの毛を引き抜く
すると、あっという間にその毛は7つの駒になった。7つのクラスを示すものと変わらない外見の、けれども赤い7つの駒に
「これが、ビースト?」
『便宜上、区別を付けるために外見は通常クラスのものを使ったけど、本来は関係ねぇから注意だ。ただ、7種居るってだけさ
もうちょい分かりやすくするか』
アーチャーが駒を叩くと、姿が変わる
Ⅰ~Ⅶの数を刻んだ駒に
獣のクラス。バーサーカーに近い、理性の無いクラスだったりするのだろうか。けど、それなら最悪のクラスなんてアーチャーが口にしない気がする
『ビーストってのは人類の天敵だ。大体の場合、放っておけば人類を滅ぼす化け物だ』
「……そんなに、怖いの?」
『そもそも、英霊召喚自体が元々は対
「……危険過ぎるよ、それ!」
アーチャーは強い。それは何度も見て痛感した。そんなのを7体呼んで立ち向かうのが基本の存在は、とても危険に決まっている。あの彼がそうだと言われても、ピンと来ないけど
「あれ、でも」
『どうしたマスター?』
「分かってるならば、最初からその本当の英霊召喚何かで何とかならなかったの?」
『それが奴の厄介な所の一つでさ。例えば、剣を扱った英雄だから
ふっと、アーチャーがⅡの駒を手に取る。するとその駒は……白いセイバーの駒に変化した
『けれども、ビーストってのは後天的なクラスだ。ビーストとして召喚されるのではなく、条件を満たす事でビーストとして覚醒する』
白い剣士の駒が赤く染まる
『恐らく、今の奴はこの状態。ビーストにゃなりきっていないが、ビースト化はそのうち間違いなく起こるし、第一既にその力の一部は覚醒してるだろうよ』
……後天的なクラス。彼がビースト認定されるのはまだ先。最初からビーストじゃないから、先手を打って召喚なんて出来ないという事だろうか。確かに厄介だけれども
『んで、他のに出てこられる時点で世界終わってるんで紹介は省くが……』
6つの駒が毛に戻る。戻らないのは、赤い剣士の……Ⅱの駒だけ
『まあ、あのセイバーのマスターならほぼ間違いなく認定されるとしたらⅡだろ』
「ビーストⅡ?」
『そう、ビーストⅡ、回帰の獣。過去への回帰、未来の否定と考えりゃしっくり来る』
「……過去改変?」
全てを還す、ザイフリートを滅ぼす、それは確かに、かーくんが浚われて自分に改造されるという過去を無かったことにしてしまえば達成できるかもしれない
その場合、きっとかーくんが居なくならなかった私はこの聖杯戦争に釣られたりしなかったし、大きく……とは言えないけど、きっと未来は変わる
それは、かーくんを喪ってしまった
……けど、おかしい
「アーチャー。人類の天敵なんだよね?」
『ああ、そうだぜ?』
「なら、どうして……彼は獣なのに、全力でかーくんを救おうとしているように思えるの?」
『ああ、その疑問は正しいぜ』
にやり、とアーチャーが笑う
『奴等は、ビーストは……本気で人類を救おうとしている事が、そもそもの条件だからな』
「矛盾してるよ」
『だから、奴等はビーストなのさ
ビースト認定されかかってるって事は他にも過去であのヴァルトシュタインが言ってる化け物共を倒して人類そのものまで救おうとか考えてるのかもしれねぇけど、あのセイバーのマスターは基本的に視野が狭い。なんで目覚めきって無いんだろうが……
本来のビーストⅡは、もう一度我が子たる人類の母に戻るために、世界をやり直そうとしたらしいぜ?母への裏切り、親殺しという原罪から人類を救う。そのために今の人類を滅ぼしやり直す。ビーストってのは基本そんなんだ
全ては人類への愛故に。世界に、そして人類にすら牙を剥く獣。それが……人類悪だ
ったく、はた迷惑なヤンデレかっての』
「そ、そうだね……」
頭の整理が追い付かないながらも、私はそう笑った