数時間後、俺は森を進んでいた
アサシンも当たり前のように付いてきている。フェイの元に残るなんて事は無かったようだ。あくまでも、現在のマスターの命による俺への助力を続ける気らしい
森の中にはやはりというか魔獣が放たれている。この森自体がヴァルトシュタインの領域、僅かに世界の位相がずれた世界であり、こういった化け物達を準備する為のものでもあるといった側面がある以上当然ではある
が、その数は少ない。妙なまでに
数日前、相当に暴れまわったとはいえ、精々殺したのは数百体。この森全土からすれば一部でしかない。だというのに、これだけ少ないというのは……アーチャーにでも狩られたのだろうか
まあ、理由はどうでも良い。無駄な力を使わずに済んで助かる位だ。この手にはあの時は無かった剣があり、頼りすぎる訳にもいかないとはいえサーヴァントも
無視される理由は簡単だ。命令が無いから
この森、ヴァルトシュタインの領域は侵入を見逃さない。アヴァロンの魔術師☆Mによって作られたこの森は、かの
逆に言えばそれは、入った瞬間は誤魔化せず確実に発見されるものの、それさえ誤魔化してしまえば何とかなる、という話でもある
死にかけていたからか、それとも許可を取ってライダーが連れてきたからか、フェイが見てきてくれた限り、俺に関しての警戒は無かった。侵入は見過ごされたということだ。ならば、森を進むことに何ら障害はないということである。命じられなければ魔獣は死にには来ない。魔獣を圧倒しうる力があるならば、ライダーやキャスターといったヴァルトシュタインの協力者に出会わぬ限りこの森は安全だ
ライダーに話を聞く手を考える
却下。そもそも居場所が分からない。マスターが分からない。ある程度回復したとはいえ、本調子でもないのに、マスター命令でライダーと激突する事になるかも知れない手は避けたい
ライダーの真意等、知りたいことはあるのだが
そもそも、あの時空から見た光はライダーの宝具ではないのか?ならば、何故ライダーが俺を回収するのに間に合った?色々と謎は多い。いずれ、聞く必要があるだろう
「そういえばアサシン」
聞きたいことは、他にもある
アサシンが、首を傾げる。この反応は、特に問題ないのだろう
「アサシンは、今からも俺に力を貸してくれるのか?」
正面から聞いたことは無い、その言葉を
俺は獣だと、マーリンらしき人物は言った。フェイは昔、獣とは人類に滅ぼされる悪だと言っていた。ミラは、獣を絶対に滅ぼさなければならない存在としていた
ならば、アサシンにだってそういう思いはあるのではないか。少なくとも、俺に従う気は本当にあるのか、気になるのだ
第一だ。俺は過去を変える。ならば、サーヴァントは例え勝ち抜こうとも、聖杯を手にすることは出来はしない。考えてみれば、セイバーには本当に非道い事をしていた訳だ、俺は。戦うだけ戦え、但し勝利した事は無かったことに過去を改変し絶対に聖杯は与えない。全く、どんな極悪マスターだという話だ。セイバーが微妙な顔をするのも当然も当然、寧ろ良く斬られなかったと言えるだろう
ならば、アサシンの目的も恐らくは……
『いえす』
だが、アサシンは何事も無かったように頷く。迷いすら見せず、当然の事だというように
「俺は」
『問題ない。例え世界を変えるとしても、それは「ボク」にとって希望な事に代わりない』
「消えると、してもか?」
……そんな訳はない。消えたくない。こんな俺ですらそう思うのだ。自身の罪を呪詛し続けなければやってられないのだ。消えたいなどと、そんな事軽々しく言える訳がない
『それで、「わたし」は……「我」や「ボク」に戻るから
集合した
だというのに、アサシンは表情を変えずにそう告げる
……恐らくは、それは嘘なんかではない。何故だろうか、フードを取っている限り、前よりもしっかりとアサシンを認識出来ているからか、それは良く分かる
自分が誰なのか、それすら定まらない、分からない。それは、そんなにも苦しい事……なのだろうか
いや、苦しい。俺が俺になる直前、あの虚無は、確かに耐え難い違和感があった。だから、俺は最初に名を求めた。ザイフリート、と
名前をもって、漸く俺は俺になれた、そんな気がする
「アサシン、名は?」
だから俺は、気が付くとそう問いかけていた
『分からない』
帰ってくるのは、当たり前の答え
当然といえば当然。分からないから自分を求めている以上、名前なんて分かるわけがない
「いや、俺が」
付けようか?と続けようとして、気が付く
深入りだ。深みに嵌まっている。マーリンの思う壺そのものじゃないか。名前を付ける?今の彼女を示す事で、ある意味俺と同じにする?なんだその深みは。完全に幸福に落ちかねない。そもそもアサシンとは呉越同舟、あくまでも同盟関係でしかないはずだ。それを忘れすぎている。何て甘い。このままでは、アサシンが何時か敵になるという聖杯戦争では当然の事実からすら目を背けかねない
こくり、と小さくアサシンが首を傾げる
『名前?』
その動きに、拒絶の意思は無い
……決断しろ、ザイフリート。俺は、貴様は
「……悪い。今のアサシンにだって、名前は有って良いと思ったんだが、どうせなら良い名にしたくて」
何をやっている。それは深みだ。だというのに、言葉は止まらない
「まだ、しっかりと考え付かない」
出した言葉は先伸ばし。寧ろ、後で良いものをと期待させる、最悪一歩手前の選択肢
『楽しみ』
僅かにアサシンははにかむ
そんな俺は、あまりにも……弱かった
ああ、マーリン。正解だ。あの無駄なフェイのごり押し含めた幸福になれ論だけで、俺の心はこんなにも揺れる
『……少しだけ、話』
少しして、アサシンが呟く
「マスターとか?」
『いえす』
「ああ、分かった。集合は……何だかんだ見つけるか」
こくり、と頷いて、アサシンの姿は消える
大丈夫だ。発見されずに入れないのが何よりの森の問題。入れてしまった以上、バーサーカーにでも喧嘩を売りにいかない限りそこまで問題はない。恐らくマスターだろうフェイに会いに行く位ならば何事も無いだろう
そうして割り切って暫く歩き、ふと可笑しな事に気が付く
不可思議な何か。立ち上る煙。左目の視界の端に、崩れた壁を認識する
森の外、即ち教会。その壁が崩れていた
「アルベール神父!」
ミラは問題ない。彼女がどうにかなる訳もない。だが、神父は別だ。何かあったのかもしれない
ミラとの遭遇すら考えず、まだ歩きを越える運動をすると少し痛みが走る体を無視して俺は駆け出した