Fake/startears fate   作:雨在新人

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六日目ー再会(多守紫乃視点)

「……紫乃、ちゃん?」

 街を歩く中、ふと、そんな声が聞こえた

 

 それは、私にとっては良く聞いた声。けれども、彼は此処に居るはずが無い。私は彼に何も言っていない。彼が、私が伊渡間に居ると知っている訳がない。なら、彼がわざわざ伊渡間に向かう意味なんて無い……はず

 だけども

 「やっぱり紫乃ちゃんだ!」

 二度目の声に振り返る

 彼……かーくんの従弟、神巫戒人は、確かにそこに居た

 「戒人……さん?」

 「良かった、紫乃ちゃん!」

 ぱあっと表情を明るくし、戒人さんはそのまま私に向かってきて

 

 『あー悪りぃけど、ちょいとストップだ』

 アーチャーに止められる

 「何だお前!紫乃ちゃんの何なんだ!」

 戒人さんが、アーチャーの胸ぐらを掴みかねない勢いで食ってかかる

 けれども、黒いコートを身に付けた、2mはあるアーチャー相手だと寧ろ無謀に見えてしまう

 『オレかい?オレはマスターの忠実なる猿さ

 オレとしちゃあ、突然出てきてマスターに馴れ馴れしいお前の方が、何か怪しいって寸法よ。これでもある程度警戒していてね、ちょいと答えちゃくれねぇか』

 「アーチャー、彼は知り合い!かーくんの従弟の戒人さんだよ!」

 少し眉を潜めて私の前に立つアーチャーに向けて、私はそう告げた

 『まっ、そりゃそうだろうけどよ。とはいっても、あの獣擬き(バカ)みたいなもんの可能性や、ニセモンの可能性だってあんだろ?』

 「俺を疑うのか!」

 『そりゃあ当然。オレはマスターの忠実なる番猿なんで、さ。非常事態だってのにホイホイと信じちゃあ無能の烙印を押されちまうさ』

 「紫乃ちゃん、君は信じてくれるよな、な!」

 アーチャーに遮られ、体の壁の合間合間から必死に顔を出すようにして、戒人さんは問い掛けてくる

 そのぐいぐい来る感じは、確かにかーくんと居る時にも何度も味わった。かーくんと二人で居たかったのにやって来て、こんなこと考えちゃ悪いけどちょっと邪魔だなって思った事もあったっけ。出会った瞬間に抱き付いて来るのも、かーくんが居なくなってから最初に会った時にだってあった、彼なりの愛情表現の一種だって分かる

 ……だけど

 

 アーチャーが言ってくれた事で、私にもちょっとだけ、警戒する心というものが生まれている。アーチャーが居なかったら、ザイフリートを名乗る彼が元々はかーくんで、不完全でもかーくんの心を、記憶を、持っているって事を知らなかったら、きっとそのまま信じていた

 だけど、もしかしたらというものはあるから

 「……ちょっとだけ、クイズいいかな?」

 私は、そう言っていた

 「紫乃ちゃん!それで信じてくれるんだな!」

 よしっ、と戒人さんが拳を握る

 

 「じゃあ、貴方の真実の夢は?」

 まず一つ。彼自身か、よほど知ってる人でもなければ、そうそう答えられないだろう問題。将来の夢なんかで、幾つか書いているものはあるけれども、そこにあるような無難な答えじゃなくて、けど、彼ならもしかしてって思えてしまったような、その答えは……

 「正義のヒーローに決まってる。当然だろ?」

 正解。神巫戒人とは、そんな人だ。自分の中の降霊魔術の適性を最大限に肯定し、それを使ってアニメや特撮みたいなヒーローになりないと本気で願っている、子供っぽくて、だけど凄いと思う、強い人。悪の魔術師なんかを倒す魔術師ヒーロー、彼は今も本気で、そうなりたいと思っている

 「うん、正解」

 ……これが答えられるなら、彼を信じてもいいかもしれない

 けど、もう一つ

 「戒人さんが初めて呼んだのは?」

 「地縛霊のおっさん、だろ?」

 これも正解。私とかーくんと共に道に迷った時、彼は初めてまともに降霊を成功させ、その地縛霊の知識でもって知ってる道まで案内してくれた。その事は後から教えてもらった事で、当時の私はそれを知らなくて、良く覚えてるなーって思ってたことを覚えている

 

 「うん、信じるよ、戒人さん」

 アーチャーが、少し憮然としながらも、彼との間から退いてくれる

 『マスターが信じるって言うならば、まあ良いけどさ。変な事はすんなよ』

 アーチャーは、まだ疑っているようだ。どうして、そんなにも疑うのだろう

 もしかしたら、吸血鬼なんじゃないか、既に何度か見たあの人達みたいになってるんじゃないかって話だろうか

 

 ……あるかも、しれない。それは、とても怖い事

 「アーチャー、もしもの事があったら、御願いね」

 すると、アーチャーは

 『分かってるさ、マスター』

 にっ、と口の端をあげて、そう応じた

 

 「それで、戒人さんは、どうして此処に?」

 彼が本物の戒人さんだとして、気になる事を聞いてみる

 「手紙、さ。ヒーローをバカにするような、紫乃ちゃんの事を思うなら来いとかそんな感じの手紙が届いた

 その手紙を出してきた犯人はヴァルトシュタイン。ならば行ってそんなバカな敵役を倒して紫乃ちゃんを救ってやる、ヒーロー舐めるなって感じで」

 にっ、と彼は笑う。何時もの笑顔で

 「それで、行ったは良いんだけどさ

 油断して捕まっちまった

 そこをフェイってヒロインみたいな子に助けられて、更に敵と一戦交えて、漸く一息付いたら紫乃ちゃんを見かけた訳さ」

 わかった?とばかりに、昔みたいに人差し指だけを伸ばした右手を振り、彼は告げた

 

 「それじゃあ紫乃ちゃん、ちょっとこれからの俺の武勇伝は長くなるし、お店行こっか」

 戒人さんが、手を出してくる

 けれど、ぱしっとその手ははね除けられた

 『悪りぃな。忠実な番猿的に、まだまだおさわり厳禁で頼むわ』

 飄々とした感じで、手を払ったアーチャーがそう告げる

 「ん、まあ仕方ないか。雄輝にもちょっと悪いしな

 それじゃ紫乃ちゃん、付いてきてくれ」

 少しだけ肩をすくめると、戒人さんは歩き出す

 「戒人さん、お金は?」

 「大丈夫大丈夫、奴等はヒーローによって壊滅する悪の組織だけどさ、強盗団じゃなかった

 なんで、此処にちゃーんと……ちゃんと……」

 ごそごそと、ポケットを弄り……

 「逃げるときに落とした」

 しょんぼりと、そう返してきた

 

 ちょっと、笑ってしまう。肝心でない時には何処か抜けた所もある。そんな所も戒人さんで

 「……私、ある程度持ってきてるんで」

 「良いのか!?」

 「はい」

 だから、私はそう言っていた

 

 『ああ、悪いマスター、ちょいと用事が出来た

 んで、ちょいと話してくるけど、男はみんなケダモノの精神で、近づきすぎんなよ』

 アーチャーは、何かを見掛けたのか、そんな事を言って、ふらっと消える

 どうしたんだろう。アーチャーが離れるんだから、重要な何か何だろうなーって事は分かるけど。来て、と言えばきっと令呪で飛んでくるだろうし、不安は無いけれども、少し気になる

 「いやー、彼、何者だい?恋人じゃないだろうけど、怖いね」

 そんな事を言ってくる彼に

 「あはは……慕ってくれてる協力者、かな?」

 上手い答えが見付からず、誤魔化すように笑うことしか出来なかった

 

 戒人さんに連れられて入ったのは、駅前のワンドリンク制カラオケボックス。流石に、武勇伝を後悔の場ではという配慮。ドリンクもあるし、冬の寒さも防げるし、その気になればルームサービスで暖かいものだって頼める良い場所。追い付いてくるだろうアーチャーの分を入れて三人分前払いして、部屋に入ると

 『ようこそ、おサルの園へってな』

 悪い顔をした数匹の猿が、其処に待っていた

 ……先回りしてまで何やってるんだろう、アーチャー。浮いてる、すっごく浮いてるよ

 

 「な、何だ!?」

 『突然だが、死んでくれや』

 その中の猿の一匹が……

 「ちょっ、アーチャー!?」

 振りかざすのはあの棒、つまりは神造兵器だったか何だかという宝具、如意棒。人なんて軽く殺せちゃうもの

 「くっ!降霊(アドベント)始ど(コネクショ)

 『おサル仙術、破魔ってな』

 バチッと火花が散り、戒人さんが呻く

 「降霊の、無効化だと」

 『この天を斉する大聖者、仙術の一つも使えないとお思いかい?既に降りてるあいつにゃ無意味だろうけど降霊される前なら妨害可能か、術も案外出来るもんだなこりゃ』

 にやり、と悪い顔で、猿……アーチャーは笑う

 「化け物め……ならばっ!」

 けど、戒人さんも諦めない。カラオケに当然あるもの、つまりマイクを咄嗟に右手で掴むと

 「降霊(アドベント)武装(アームズ)!」

 刀匠の霊か何かを自分とは別に武器に降ろし、持った武器を強化する、戒人さんのオリジナル。かーくん以上に使いこなせる事の証明

 けど

 「ぐっ」

 それすらも、アーチャーが振るう見えない何かに吹き飛ばされて

 

 「アーチャー!もうやめて!」

 戒人さんの右手が、なくなっていた。恐らくは、アーチャーの一撃で……

 『悪いなマスター、もうちょいだ』

 なのに、アーチャーは止まらない

 どうして?どうしてなの!このままじゃ……

 「見えない武器……だと」

 『そう、不可視の矢(インビジブル・アロー)……いや、不可視の杖(インビジブル・ロッド)かねぇこりゃ』

 吹き飛んだマイクは、ご丁寧に何故か居る他の猿が受け止めていた

 何匹かの猿が、戒人さんの四肢を拘束する。もうどうしようもない

 ……令呪を切るしかないのかもしれない。絶対命令なら、乱心したアーチャーだって止まるかも。もう、それにしか賭けることなんて

 『んじゃ、名高き如意棒を脳天に受けれた事、冥界で自慢でもしてな』

 無慈悲にも、恐怖を与える為か、棒が纏った風が剥がれ、赤い棒が見えていて

 「令呪をもって命ずる」

 ……ダメ、間に合わない

 けど、やらないと戒人さんまで失っちゃうから

 無情にも、棒は振り下ろされ……

 「アーチャー!や」

 

 ぽふっ

 『冗談、単なる発泡スチロールの棒さ、これ』

 「……へっ?」

 言いかけて、固まった

 発泡スチロール?どういうこと?

 『いや、追い込んで試してみた。悪りぃな』

 「……腕が、ある」

 『そりゃ、腕に毛付けて、隻腕に変化させて無いように見せかけてただけだしよ』

 「どういう、事なんだ」

 「説明してよ、アーチャー!」

 突っかかる私達に

 『ああ良いぜ。但し、部屋入ってからな』

 ふっと沢山の猿を消し、アーチャーは答えたのだった

 

 『んで、離れた理由は簡単。何か思い詰めたような裁定者(ルーラー)が歩いてたんで、ちょいと吸血鬼って奴の見分け方聞いてきた』

 「それで?」

 私はちょっと怒りたい。どうしてあんな事したんだろう。アーチャーの事だし、何か考えはあったんだろうけど

 『魂見れりゃ一発だ。吸血鬼(バーサーカー)化した奴は、本体、つまりはバーサーカーに魂を吸われるから魂が無い

 んだけど、オレだって万能じゃねぇし、分かんない訳よ』

 アーチャーが頬を掻く

 『なんで話聞くとさ、幾つか懺悔ってか相談受けた中にあった吸血鬼案件ってのは、どれもこれも今までやった事無い何かをしようとした際に誰それが可笑しかったって奴な訳』

 「だから、試したの?」

 『そう、その通り!

 行ったことがない遊園地に、子供も大きくなったし初めて子供の誕生祝いで行く計画立ててたのに、当日朝、妻が可笑しかった。遊園地行こうと言うと少しの間フリーズして、何も無かったかのように普通の生活を始めた

 これは一番可笑しかった例らしいけどよ。魂の無い吸血鬼ってのは、生前の行動ってプログラムに添って、現状正しかろう行動を取る。なんで、生前では無かった事やらせようとするとそんな感じでバグ出るらしいぜ?』

 「だからって」

 あんなことして良い理由になんて

 「だから、追い込んで試したってことか

 全く、ヒーローにはありがちな突然のテストとはいえ、肝が冷えた」

 『バーサーカーにやられたとして、どうせあいつそこまで興味ないと瞬殺してるだろうし、多分追い込まれた事無いなって事よ

 ……魂の発露みたいなもんすら感じた。まっ、間違いなく魂入りの神巫戒人だわこりゃ。疑って悪かった』

 軽く、アーチャーが頭を下げる

 「ヒーローには誤解も付き物、か

 んじゃあ、ドリンクが来たら語ろう。俺の武勇伝と、更なる敵の事」

 苦笑して、少し重苦しく戒人さんは言った

 

 最初のワンドリンクを手に、一息つく

 私は紅茶、アーチャーは珈琲、そして戒人さんは林檎ジュース

 それを一口し、戒人さんは話し始めた

 

 

 「あれは……そう、俺が油断から悪の組織(ヴァルトシュタイン)に捕まっていた時の事だった」

 少し大げさに、戒人さんは語る

 「悪の組織に捕まったヒーローの御約束のように、俺も改造されようとしていた

 だが!それは人造ルーラーなる謎の悪の切り札へと俺を改造するものであり、その手術は難航していた。俺は、何度かの改造失敗を受けて傷つきながらも、まだ自分を保っていた」

 ……ルーラーって、そういうものだっけ?と言いたくなる。けど、同じく改造されてしまったかーくんも普通のセイバーかというと違うし、そういうものかもしれない

 『成程ねぇ、あのバカの従兄弟だかなんだかなんだっけ?

 まあ、アレは失敗というか、もっと可笑しなものを完成させちまったというか……、とりあえずある程度の成果は見込めるだろうから吸血鬼にしなかったって訳ね』

 「そんな中、俺を多少なりとも心配してくれていたのはフェイちゃん……、ああ、あのヒロインになってくれそうな少女だけだった」

 ……かーくんも語ってた気がする。唯一味方だったって

 何だろう、ちょっとだけ気になる

 「そして昨日の夜、何者かの襲撃という事で大きく監視が外れたその時!フェイちゃんによって俺を捕らえていた手錠が外され、そのまま俊足の霊を降霊、その力でもって混乱に乗じて脱出に成功した

 ああ、それは……24分の特撮作品になる程のものだった。時に魔獣と戦い、時に追っ手らしきものから隠れ、ただ森の外という希望を目指すスペクタクル……」

 更に林檎ジュースを一口。恍惚と、戒人さんは語り続ける

 ……ヒーローの事になると止まらないのも戒人さんではあるけれど、自分の事でもここまでなのは少し珍しい。ひょっとして、悪の組織に捕まったりで、遂に自分の英雄譚が始まったとか思っているのかもしれない。何も知らずに、アーチャーが居てくれなきゃ死んでいた私が言うことじゃないけれども、そうだとしたら危険だし、突っ込んで行くのは止めて欲しい

 

 「そうして、凄くヒロインっぽいフェイちゃんとの再会の希望を胸に抱きつつも、(ようや)く森を抜けたその時、俺の前には一つの教会があった」

 ……確かに森を監視する名目もあるからか、凄く近い。見つけるのは普通だ

 だけど、そこからどうして前に言っていた敵と一戦に繋がるのだろう

 「俺は思い出した。ああ、そういえば聖堂教会にも神秘に関する機関があるらしい。魔術教会寄りだろうあの悪の組織があるならば、聖堂は正義の味方なんじゃないかと

 

 だが、それは間違いだった。グルだったんだよ!あいつら!……あの外道神父!」

 ぐっと戒人さんが自身の左手の袖を捲りあげる

 其処にあったのは、幾つかの刺し傷

 「助けを求めた俺に、最初は優しくしてくれた。けど、それはあの外道が、人の不幸を楽しむ糞野郎だったからだった

 安心しきった俺に向かって、突然あいつは襲いかかってきたんだ!『助かったと思った瞬間に地獄に突き落とされる。その時、人は最も美しい絶望を抱く。それが、私の愉悦』だとか何だとか言って」

 ……神父様に会ったことは、あまりない。だけれども、そんな悪い人になんて見えなかった

 ……いや、けど待って欲しい。最初に会ったとき、私が自殺行為をやりかけたと、神父様は笑わなかっただろうか。それが、もしも戒人さんの言う不幸を好む性格が漏れたのだとしたら。ミラちゃんが居るんだし、そんな事はない。そう言いたい。けれども、結構ミラちゃんはお人好し。きっと、人の善意を信じている。だから……騙されないとは言いきれない気もする

 

 「そりゃ、俺だって必死に戦ったよ。だけど、奴は強かった。俺に負けないくらいに

 奴を少し傷付けたは良いけれども、俺も刺され……たって所で更に何か帰ってくる気配がしてさ」

 ……恐らく、ミラちゃん

 「1vs2とかよくあるシチュだけど、今は無理だって思って逃げてきた

 紫乃ちゃん、あの教会は危険だ」

 そう、彼は締めくくった

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