Fake/startears fate   作:雨在新人

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六日目ー刻まれる鎖

「では問おう、少年……いや、ザイフリート・ヴァルトシュタイン」

 真剣な面持ちで、神父が俺の眼を見つめる

 ああ、この眼を見たことがある。何度か、ミラもこんな眼をしていた

 嘘を付くことは当然出来る。何ら魔術的な効果は無い。だけれども、嘘を付きたくない、誤魔化したくない、はぐらかせるとは思えない。そんな思いを抱いてしまうような、そんな心の奥底までも見通そうかという瞳。懺悔の際に見せる目だ

 

 「君はこの聖杯戦争を越え、聖杯でもって何を成す、万能の力に何を託す」

 「前も、言ったはずです」

 そう、神巫雄輝の救済。俺なんかになって消えてしまった理不尽の破壊

 その意思を込めて、強く見返す

 「……変わりは無いか?」

 「有って良い訳がない。俺が彼を見捨ててしまえば、誰があんな理不尽を恨んでくれる。……そういう事です」

 「あの少女が

 君が何もせずとも、恐らくはあのアーチャーが、反則そのものが、かの少年を蘇らせるだろう」

 少し皮肉げに、神父は告げる

 ……ああ、そうだ。アーチャーは化物だ。まともに闘った事なんてないが、それでも分かる。そして、多守紫乃の願いも、神巫雄輝を救わんとするもの。止まる手だって、きっとあったのだろう

 ……だが

 

 それでは、彼の悲劇はそのままだ。例え改造された体を元に戻せたとして、俺なんてものが居なくても問題ない程にまで壊れた彼の魂が修復されたとして、あの呪詛が、憎悪が、苦痛が、悲鳴が、慟哭が、喪った一年が、あるはずの無かった不幸が、無くなる訳ではないのだ。あったはずの幸福は欠落したままに、あんなものを抱いたまま、彼はその先を生きて行く事になるだろう。それは、果たして幸福なものだろうか。あんな深い傷と共に、本当にあの先生きていけると言えるだろうか

 俺には出来ない。あの怨詛を識っているというのに、運が無かった、なんて割り切って何もせず居ることなんて出来るわけがない。俺なんてものが、S346なんて人間を礎にした降霊兵器、人造サーヴァントなんてものが造られなければ、きっとそんな悲劇なんて無かったろうに。その元凶の一つがのうのうと生きることなんて赦されるものか

 俺ですら、近しく、されども記憶の欠片と一部知識と肉体を継いだだけの別人であるはずの俺ですら、そこまで苦しいのだ。幾ら俺が弱くとも、彼がそこまで弱くなくとも、それでもあの慟哭を抱いた彼が、蘇ったとしてまともに生きれるとは思わない

 ……傲慢だろうか。彼を馬鹿にしすぎだろうか。だけれども、俺はそう信じている

 

 ……だから、俺は神巫雄輝を救う義務がある。元凶の一つとして。そして、あの慟哭を唯一記憶するものとして

 だから、俺の答えは変わらない。変わるわけがない

 「悲劇そのものを破壊してはじめて、彼は救われる。俺はそう思います

 だから、俺の答えは変わりません。過去を変えてでも、神巫雄輝(かれ)から、ザイフリート・ヴァルトシュタインという理不尽を取り除く」

 「あの方に泣かれるような答えだな、少年」

 少しだけ意地悪く、神父は笑う

 「もう、散々に言われましたよ」 

 「ああ、ああそうだろう。あの方は、少年を救いたくて救いたくて堪らないのだよ」

 「俺には、そんな価値はない」

 「そう思っているのは、君だけではないか、少年

 あの方は、誰かの為に戦えもしないのに、それでも誰かの為に苦しみながら戦う、そんな君だから助けたいのだろうから、な」

 ……聞きたくない。聞いてはいけない。それは、俺を弱くする。弱い俺の逃げ道になってしまいかねない

 「そもそも、何故そんな質問を」

 だから、話を逸らす。それが逃げであろうとも

 「言っただろう、少年?私が好きなものは第一に他人の不幸話、第二に惚れた腫れたの話なのだから」

 幸い、それを知ってか知らずか、神父は話に乗ってきた

 

 「そもそも、そんな話を神父が好むというのが、少し」

 こういった職業は神を説き、俗っぽい話は嫌う……ものではなかっただろうか

 「人が人たる理由は何より愛だろう?主の愛、自己愛、恋愛、慈愛。愛と言っても一概には括れはせんが、それは構わん

 愛が人間を獣でなくヒトたらしめる。確かに淫売は唾棄すべきものだが、愛までも否定する者は居るまいよ

 君の言う私達が嫌うだろうというものは淫売だ、愛ではない」

 ゆっくりと、説法するように重い口調で告げつつ、神父は首を横に振った

 「では、第二の質問だ。少年は如何なる(えにし)か、アサシンとも行動を共にしていると聞く」

 ……待て

 「どうして知っている」

 少しだけ、警戒を強める。クラスカードはコートのポケットに入ったまま

 だが、万が一に備える必要はあるだろう。ミラから聞いたという話かもしれないが、そもそもだ、ミラはアサシンを消したと思っているかもしれない

 「まずは、セイバーから聞いた」

 事も無げに、神父は続ける

 「昨日の夜、まともなホテルに行こうとしたら手続きとか面倒過ぎたわ、とやって来たのでな、話を聞く代わりに泊めた」

 だが、それは答えになっていない

 セイバーの前で、アサシンは一度消えたのだから

 「第二に、そもそもアサシンの駒は壊れていない。ならばセイバーが何と言おうと、アサシンは消滅してはいない、何らかの方法で生き残っているだろう?」

 ……ああ、そういえばそんなものもあった。少し警戒を解く

 「君はどう思った、少年」

 「俺は……」

 これは、言って良いのだろうか、少し悩む

 いや、悩んでも仕方ない事だ

 「……少し、共感しました。こんな自分で居てはいけない。消えなければという事に。それは、考えてみれば俺とは大きく違うけれども」

 「そうか」

 神父は笑う

 「不幸なのは彼だけではない。不幸と戦っているのも、君だけではない。例えば、あのアサシンもそうだ。そんな事は知らないと言い張る事も出来るだろう。知らなければ思い至ることすらきっと無かろう

 それでも、知ってしまったのだろう、少年

 その上で、君は彼だけを救うと言い切れるか?」

 その瞳は、何処までも俺を責めるようで

 「それでも、傲慢でも、俺は彼を救います。それだけが、俺に赦された事だから」

 「では、アサシンはどうする?話を聞くに、それでもアレは君を希望と呼んだのだろう?」

 「……悪いとは思っています。アサシンとも何れ戦わなければいけないことも理解は

 それでも、もしも許されるならば、なんて心の弱さはあります。俺は、あのアサシンをどうしても嫌いになれない。今の関係性が有り難くて心地良いとすら」

 それは、偽らざる俺の本心

 「だからこそ、その想いに勝てなければ彼を救える訳がない。敵対したら……倒します」

 そして、弱さ

 あまりにも当たり前の言葉を、詰まりながら俺は呟いた

 

 「全てを、救いたくはないか、少年」

 「それは、主の御技じゃなかったんですか、アルベール神父」

 そんならしくない神父に、主を信じている訳でもないのに俺は冗談めかして言う

 「俺の手はこんなにも小さく情けなくて、人一人救う事ですら手に余る。勝手に救われてくれるというアサシンすら、本当に救えるとは言い切れない」

 無くなってしまった左手を、その証拠品だとばかりに振る

 「今の俺には、神巫雄輝一人すら救えない。人一人すら救えなくて、世界を救える訳もない」

 ……ああ、けれども、但し

 獣であれば、どうだろうか

 

 「だ、そうだ。アサシン」

 そんな言葉を受けて、神父が厳かにそう告げる

 ふと気が付くと、気配もく何時しか少しだけ開いていた部屋の扉の隙間から、アサシンの青髪が覗いていた

 「……聞いてたのか」

 自分勝手で、随分と気恥ずかしい事を言ってしまった気がする

 『「ボク」が見に来たから、神父は「儂」の事を口にした』

 「そこからか」

 ……駄目だ、あまりにも勝手で、普通の関係性ならば下手をしたら愛想を尽かされるレベルの発言をした気がする

 だが

 『……満足』

 あまり表情の出ない顔に僅かな(ほころ)びを浮かべ、どうしてかアサシンが頷く

 「満足って、あんな答えで良いのか」

 『産まれない事が「ワタシ」の救い。「我」として現界した以上、無意味に消えたくはない。それでも、「余」という状態を解除する礎なら悪くない』

 アサシンは、そこまで口数が多くはない。少し無理をしてそこまで言ったからか、少しだけ苦しそうに息を吐き、それでもアサシンは言葉を続ける

 『けれども、新しい「ボク」になるのも……』

 此方を見据える澄んだ紅い瞳を、やはりというか、直視しにくい

 アサシンへ悪感情を持っていないからこそ、勘違いをしそうになる。それは弱さに直結し、神巫雄輝を救う義務から逃げそうになるというのに

 『もーると、べね』

 「悪い、分かりにくい」

 いや、分かる。モールトベネ(molto bene)、イタリア語か何かでかなり良しだとかそういう意味だった気がする。何故俺がイタリア語と理解したかなんて俺にも良く分からないが、恐らく神巫雄輝の読んだ本にでも出てたのだろう

 だとしても、アサシンの中には当然イタリア出身の狩人もいるだろうけれども、突然では分かりにくい

 『悪く、ない』

 ……意訳はそうなるのか。やはり、少しアサシンは分かりにくい。それとも、俺の緊張を少し解そうという、アサシンなりの気遣いだったのだろうか

 少し話が逸れたからか、アサシンの眼を見れる

 「悪い、まだ名前は思い付かない」

 新しい「ボク」も悪くない。俺みたいに、明確な新規自我を求める手も、無くはないという言葉。つまりは、名前の催促

 そう考えて、俺はそう答えた

 『ん、待つ』

 アサシンが、視線を俺の左瞳から、腕に下げた瞬間

 「っ!」

 軽い痛みと共に右腕に魔力の赤光が走る

 

 「ああ、良く理解した。君との会話は中々に愉しいものだった。この一画を君に託そう、少年」

 その光が消えたとき、俺の右腕には、最初の三画とは離れた場所にされども痣の鎖で繋がるように、四画目として新たな令呪が刻まれていた

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