「……教会……」
戒人さんの言葉を受け、ぼんやりと私は呟く
『いや、怪しいっちゃ凄く怪しいんだけどよ、本当なのかねぇ。流石にあのルーラーってバケモンがそんなに見落とすか?って言いたくもなるわ』
アーチャーが、私の言いたいことを代弁するような事を口にしてくれる
「帰ってきたの、ミラちゃんなんじゃない?」
『それはそうなんだけどよ』
「まさか、知り合いなのか!?あんな危険人物と!」
戒人さんは、驚愕の表情を浮かべる
「大丈夫なのか!?何か変なことされてないか?」
焦るように、戒人さんの手が私の肩を掴む
「さ、流石に大丈夫。何もされてないから」
「良かった……」
ほっ、と息を付き、戒人さんの手が引っ込む
「紫乃ちゃんにまで何かあったらどうしようかと」
「心配、してくれたんだ」
「そりゃするさ。大切な子だからな。変なことになってたら雄輝に申し訳が立たないだろ」
「うん」
……かーくんは、ザイフリートっていうかーくんっぽいような、そうでもないような良く分からない存在になって、今も居るんだけど
……けど、死んじゃったんだっけ?
「アーチャー」
確認のために、アーチャーに声をかける
『ルーラー曰く、心ないキャスターによって死にかけの所をパクられたから、生き延びてるらしいぜ?あんな苦しそうなのもう見たくないって嘆いてたわ。いやー、聖人様の救いってのは怖いねぇ、此処で死んだ方がマシって話なんだから。いや、そもそも獣案件なりかけの方がヤバイってか、対処しなきゃ世界滅ぶけどよ』
全く面倒くさいとばかりに、アーチャーは頬を掻く
「うん」
良かった、と続けようとして、言葉が出ない
本当に?本当に良かったの?かーくんが生きてたなら、それは本当に幸福。だけど、彼はかーくんとは違うのに。少しだけ似ていて、心の平穏の為に同一視に近いことをしちゃってるけど、彼は彼。かーくんそのものとはやっぱり違う
一番の違いは、独自に何かを……獣扱いされるくらいの大きな何かをやろうとしていること。私は、そんなのどうでも良いのに。ただ、かーくんに会いたい、謝りたい、やり直したいだけなのに。何で、何で……あんな事を言うんだろう。私とまた未来をやり直すんじゃいけないの?どうして不満なの?
私には、ザイフリートを名乗るかーくんに近い彼の意識が分からない。これは、私がかーくんの事を分かってたと思ってるだけなの?それとも……彼が可笑しいだけなの?分からない、どうしても、答えなんて出ない
そんな彼が世界に喧嘩売るのを、止めて欲しいって気持ちは、当然ある
だから、私は口ごもった。それしか、出来なかった
「ん?どうかしたのか紫乃ちゃん?」そんな私達を見て、戒人さんが首を傾げる
「ううん、何でもない。ちょっと確認したい事があっただけ」
少し誤魔化すように、私は答える
「なら、良いんだ」
話を終え、戒人さんがタッチパネル式のコントローラーを手に取る
「さて、んじゃあ折角のルームなんだし、歌うか!」
……えっ?
突然の転換に、ちょっと付いていけない
「紫乃ちゃんも、歌って気分を変えようぜ、暗い暗い話はさ、気が滅入って仕方ないだろ?そのままじゃ、何も良いこと無いからさ」
にっ、と戒人さんが笑う
かーくんが居なくなって、塞ぎ混んでた頃の私にも、確か戒人さんはそう言ってくれた
「うん。そうだね」
ずっと、聖杯戦争だ何だで息が詰まっていた。少しくらい……良いよね?
そんな思いを込めて、アーチャーの方を向くと……
『成程成程、この曲あんのね。割と良いじゃねぇか』
もう一つのコントローラーで、入ってる曲のチェックをしていた。器用にタッチペンを操るその姿は、外見の割に馴染んでいて……
「ってアーチャー!?」
『ん?マスター歌いたい曲多いのか?ならば、おサルはマスターにマイクを譲るぜ?』
「あ、うん、ありがと……ってそうじゃなくて!」
ぶんぶんと、手を振ってしまう
「アーチャー、それで良いの?」
『良いに決まってるさ。マスターにゃ休息も重要だ、マスターは一般的な感性持ってて優しいんだから、こんな本来は
だから、遊んでも良いじゃねぇか、とアーチャーが私の頭を一瞬撫でる
それは、私の意識を汲んでくれたようで……
「ってそうでもなくて!
アーチャー、カラオケの歌なんて分かるの?」
そう、言いたいのはそういうこと。ハヌマーン……は良く知らないけど、孫悟空はとても昔の妖怪?仏?だったはず。とてもその時代の歌なんてカラオケに入ってない。そもそも歌というより漢詩だったりするんだろうし
『ああ気にすんなマスター。これでもオレ、流石に神の時代は終わったしあまり干渉しないようにって隠居したみたいなモンとはいえ神な訳よ
当然現代でも人は危なっかしいねぇと思いつつ見守ってるし、特に進化したのは娯楽の多様性だなと思いつつ、人間の発展した娯楽も見てる。案外歌えるぜ?』
ピッ、とアーチャーが一曲入れる。
「……歌えるのか、それ」
戒人さんが、驚いたような声をあげる
無理もない。アーチャーが入れたのは……かーくんも、来ているときは戒人さんも、テレビにかじりつくように見ていた、7年くらい前の日曜朝のヒーローの主題歌だった。日曜日はその後かーくんと遊びに行くのが基本だったし、その後の番組は私も見たかったし、で日曜日は朝起きたらかーくんの家に行って、朝御飯をごちそうになる事が何時もの事だった
『決まってんだろ?ドラマとかも、色々と見てたぜ?』
「最初にあの番組を選ぶとは、センス良いじゃないか」
対抗するように戒人さんが入れるのは、そのヒーロー番組の劇中歌
『案外、仲良くなれそうな気もするな、こりゃ』
あ、これ、私が居ない扱いされてしまう展開かもしれない
そんな、何処かかーくんが居た頃を思いだしつつ、私も昔好きだった番組の主題歌を入れるのだった
『ははっ!中々のモンじゃねぇかよ、戒人!良い歌だ』
アーチャーが、そう言って戒人さんの肩を軽く叩く
「そちらもさ。あの曲なんかはプロかと思った。戦うヒーローを鼓舞するに相応しい歌声で、心が震えたよ」
もうほぼ完全に、二人は打ち解けていた
あれから約2時間後、アーチャーと戒人さんは、色々と有名な曲やヒーローものの曲を歌い続けていた。というか、アーチャーがそんなに色々と知っているなんて思いもしなかった。最近のばかりでなく昔の有名曲なんかもいけるし。入れる歌の感じは少し違うけど、かーくんと居るみたいで、少し落ち着いてしまう。まるでかーくんが居た日々みたいに楽しく思う……今は、聖杯戦争という理不尽な戦いの最中なのに
そんな自分が嫌で、でも、この空気を好ましく思う自分も居て、少し頭がこんがらがってしまって。私は少しの間歌うのを止め、アーチャーと戒人さんの歌を聞くだけの役になっていた
『さらば
アーチャーの力強く、低い歌声が聞こえる。これは、大分昔、私が生まれるより前のアニメの曲だったっけ。かーくんも、昔の曲だしちょっと古臭い歌詞だけど、そこ含めてカッコいいだろ?と歌うことがあったのを思い出す。本当に、馴染んでいる
『で、どうだ、マスター?』
歌い終え、そろそろ歌うか?とばかりにマイクを此方に差し出しつつ、アーチャーがそう問いかけてくる
「ううん、少し疲れたし、アーチャーの声カッコいいし、もっと聞きたい」
『嬉しい事言ってくれるじゃねぇかマスター。歌は良い文明だわこりゃ、と色々と自分でも歌ってみてた甲斐があるってもんだ』
「そんな事してたんだ」
『まっ、これでも俗世ってのに染まった神様だからなオレは。神霊の中にはそういったの嫌いなのや、認識すらしてないのも居るけどよ。オレはそんなのじゃねぇ訳。神への贄だって、血生臭い生け贄な所もあれば、歌やら舞の奉納だった場所もあるだろ?オレ後者寄りなんで、そりゃあ文化文明は肯定するし楽しむぜ?』
「じゃあ、これ、歌える?」
私が表示するのは、一つの歌
かーくんと来ていた頃、何時もかーくんと歌っていたデュエット曲。私の好きな歌なんだけど、一人でも歌えなくもないんだけど、けれどもどうしても、かーくんが居ない空虚を思い出してしまって、この一年絶対に歌いきれなかった、そんな
『デュエット曲、ね。歌えるけどよ、相手オレで良いのか、マスター?』
「紫乃ちゃん、その歌、歌えなかったんじゃないのか?」
うん、だから歌う
戒人さん、そしてアーチャー。こんな昔を思わせる雰囲気を味わえたから。今なら歌える。この歌は、覚悟。かーくんを取り戻そうという覚悟そのもの。もう一度、かーくんと歌おう。その為に、アーチャーと共に。この恋歌は、負けられない決戦へ赴く者への恋歌なんだから
「大丈夫だよ、アーチャー。もう、歌えなかった私じゃないから。一つのけじめとして、アーチャー、一緒に歌ってくれる?」
『ああ、そんな思いがあるなら良いぜ、マスター。マスターに負けないように、このおサル史上最高に格好良く歌いきってやろうじゃねぇか』
「うん、お願い」
アーチャーが左手で差し出したもう一本のマイクを受け取って、私はそう笑った
『いやー、歌った歌った、気分は晴れたか、マスター?』
それから更に2時間、延長までして散々に歌い、私達は帰路に付いていた
「うん。寧ろ、昔みたいで、聖杯戦争の事なんて忘れかけちゃったよ」
『それで良いんだ。聖杯戦争や根源到達以外に興味が無く、日常なんて糞食らえ、そんな魔術師なんて糞野郎共の所まで落ちる必要なんて無い。そんなマスターだから、オレは見捨てられやしなかった訳だしよ』
ぽんぽんと、アーチャーが私の頭に触れる
「……そういえば、戒人さん」
ふと、聖杯戦争に関してのアーチャーの言葉で思い出す
「戒人さんは……」
「聖杯戦争、だろ?聞いたことは昔あるし、ヴァルトシュタインの悪魔共に捕らわれた時にも、フェイちゃんから色々聞いたさ
ヴァルトシュタインに歯向かう正義の味方と、裏切り者の悪が居るってのもさ」
……問題なかったみたいだ。考えてみれば、ずっと話してたのに、戒人さんは何も聞いてこなかった。それは、知っていたから
「にしても驚いたよ、紫乃ちゃんがウワサされてた歯向かう正義の味方だったなんて」
『何時気が付いた?』
「アーチャーと呼ばれてた所と、後は俺を試したあそこさ」
『まっ、そりゃそうだわな』
軽くアーチャーは笑う
「それで、戒人さんはどうするの?」
私の心配事はそれ。ヴァルトシュタインが、私とアーチャーを忌々しく思ってる事は、戒人さんの言葉でも良く分かる。戒人さんが狙われる可能性もある
アーチャーは強いから、私も戒人さんも守ってくれるかもしれないけど、不安はどうしても拭えない。かーくんだけじゃなくて、戒人さんまでなんて嫌
「俺は、紫乃ちゃんと一緒に戦いたい。正義があんな悪に負けないと証明したい」
それに、と戒人さんは少し笑って続ける
「戦場での再会と、苦難の末正義へと寝返る、ヒロインの定番だろ?」
かーくん……ザイフリートも言ってた、フェイという助けてくれた少女。信じて良いのか、良く分からない
『マスターと共に控えて、ちょっとしたホムンクルス共からマスターを守るってのが、一番やりやすいか』
「出来ることなら、前線張りたいけど、流石に無理だしな。まっ、今日は紫乃ちゃんとこのホテル行って休むさ。流石にもう限界だわ」
そう、戒人さんは話を締め括った
……タイトル調子に乗りました、申し訳ないです