「なあ、そうだろう、少年?」
神父様の言葉は、何処までも残酷に、暖かな教会に響き渡った
「ああ、そうだな」
前からだろうか。聞こえてきたのは、何処までも冷酷で、何処か悲しげなそんな聞き覚えのある声で
「っ!」
『ったく、物騒な事を……』
赤く光輝く剣が、背中から刺し貫くべく戒人さんへと向けられ、机を再度飛び越えたアーチャーに受け止められていた
振り向いて、剣とその持ち主を確認する
怖い
怖い怖い怖い怖い怖い!
あの剣を、より禍々しいとしか言い様がなくなった、濁ったあの血色の
「何をするんだ、雄輝!どうしたんだよ、いきなり!」
戒人さんが混乱したように呟く
無理もない。私にだって、何がなんだか分からない
「ホザ
『お前がほざくな!言葉を交わせ!』
尚も、突然襲い掛かった彼……ザイフリート・ヴァルトシュタインは剣を押し込もうとし、アーチャーに捌かれる
……何なんだろう、あれ
ふと、おかしな事に気が付いた。彼の右の瞳が、不可思議な色に輝いている。何処までも赤い光、の中に、僅かに別の何かが見えた……気がした
そう、あれは……真っ赤な、キューブだっただろうか。瞳の無い、完全に目全体が紅に染まった中で、それだけが奥行きを感じさせていて……
何か、違う
「やめてよ、かーくん!」
けれども、思わず、私は一歩前に出ていた
「ジャマ、
アーチャーに捌かれ、下段へと降りた剣が、私の命を刈り取るべく跳ね上が……らなかった
「っ……』
プレッシャーを感じる
初動はあった。私へと、半分光の剣は振り上げられた。けれども、どこか苦虫を噛み潰したような表情で、かーくんは止まってくれたから
暴走状態にも見える。けれども、大丈夫。全部忘れちゃった訳じゃない
「どうしたの、神父様に何かされたの!?」
『危険だ、マスター』
アーチャーが、庇うように私の前へと出てくれる
「俺を襲うなんて、悪魔たちに何をされたんだ、雄輝!」
戒人さんも、どうして良いか分からず、構えきれずに彼を見る
彼がかーくんでなければ、こんな必要なんて無かったろうに
「……我が意の基に。ハカイ、
<
だというのに、止まらない。言葉が通らない
そういえば、神父様の手が光っていた気がした。あれは……彼への令呪みたいなもの?彼をサーヴァント擬きにしようとしたならば、あるかもしれないもの。それで彼をこんなにしているのだろうか
「アーチャー、彼を止めて!殺さずに!」
『おっしゃ、了解だマスター!』
「くっ、堕ちてしまったならば、やるしか……ないのか、雄輝!」
私の声を受けて、アーチャーが僅かに風を纏う。戒人さんが、持ってたスープ用のスプーンを構える
「ハツドウ
声と共に、金色のカードがザイフリートの胸元から飛び出、光となってその姿を覆う
『っと、やってやろうじゃねぇかよ』
アーチャーが首筋の毛を抜く。それはみるみるうちに姿を変え、三秒後には、もう一人のアーチャーがそこには立っていた
「やってやる、
戒人さんが、自前の魔術を切る。スプーンが一瞬、緑の光を放つ
カードの光が止んだ時、其処には……
両の腕に赤い剣二本を携え、あの森で出会った日以来の殺意に満ちた表情を浮かべたかーくんが居た
『ちっ、場所が悪い……なっと!』
まず、動いたのはアーチャー。窓を蹴破り、即座に教会の外へ出る
うん、教会の一室って小さいし、仕方ない事。向こうから仕掛けてきたのだし、窓を破ってしまったのも仕方ない……はず
「紫乃ちゃん!」
『マスター!』
もう一人のアーチャーは器用に棒を振るい、赤い目の化け物の二刀を捌いて足止めをしてくれている
その隙に、戒人さんに手を引かれ、私も壊れた窓枠を飛び越える。アーチャーが風で綺麗にくりぬいてくれたからか窓は楕円にしっかりと穴が空いていて、刺さる心配は殆ど無い
『……魔術的な破壊の力。あの光……分かっちゃいたが面倒な』
追って出てきた……完全に暴走した彼を見て、アーチャーは呟く
出てきたのは彼だけ、もう一人のアーチャー、つまり分身は、追ってくる事は無かった
「アーチャー、分身は?」
『一応あれ、魔術なワケよ
強引に魔力で破壊された。竜レベルの莫大な魔力を叩き込めば、そりゃ今のレベルの分身は消し飛ばせるとは思うが……』
「シ、
『あちらさんは、考察を待っちゃくれねぇってか!』
アーチャーが、手にした如意棒で、下段から跳ね上がる彼の剣を受け止める
『あらよっと!』
そのまま、長さは変えずに棒を肥大化、土管程の大きさに変え剣を押し潰す
「もっと、ロクな武器があればっ!」
その隙を付いて、緑色の魔力の刃をスプーンから産み出し、戒人さんが斬りかかる。上段からの斬りかかり
「シ
けれども、その刃は吹き散らされる。再び両の手に産まれた光で出来た剣によって
右の剣は振るわれ、スプーンで作った魔力剣を破壊した。けれども、まだ彼には左の剣が残っている
「戒人さん!」
思わず、私は戒人さんを庇い、前に出ていた
今度も止めてくれるとは限らない。寧ろ、今度は止まらずに、あるいは止められずに斬られる可能性の方が高かったと思う
けれども、もう大切な人を失いたくなくて、帰ってきたかーくんを一緒に迎えたくて、かーくんでもある彼に、戒人さんを殺させたくなくて。気がついたら、体が動いていた
全てが、ゆっくりに見える。死ぬときって、こんななんだろうか
剣は止まらない。ゆっくりと、振り下ろされる剣が、私へと突き刺さるのを……
彼の胸元で、赤い光が散った
世界に、速度が戻ってくる
『っと、ギリギリにならずに済んだか』
私への剣の元々の軌道上に、赤い鉄棒が差し込まれる。アーチャーが、私を助けようとしてくれたのだ。そのまま地に突き刺した棒を支点に、自身も飛んでくる
「……黒鍵?」
動きを止めた彼を見て、戒人さんが呟く
彼の胸から、一本のレイピアみたいなものが生えていた
『一部の代行者、つまりはあの神父何かが使うものだぜ』
「仲間割れ?」
『さあ、流石にあちらさんの内部事情は知らねぇよオレも』
「シ怨、ハカイ怨』
黒鍵で胸を……心臓部を貫かれたのに、彼は何処までも変わらないままで……
「何とかしてやるからな、雄輝!」
そんな、戒人さんの言葉にも、何も返さない
……彼は、こんなだっただろうか
「さっきので無理ならば……やるしかない、
彼を止めるため、戒人さんも本気を出す
けれど
「くっ、どうして……」
雰囲気が、変わらない。降霊魔術は別人の魂を降ろすもの、降ろした魂に引かれて、雰囲気は変わるはずなのに
「どうしたの」
「降霊、出来な……っ」
その隙を狙い、風が唸る。風を切り、光の飛刃が、やっぱり戒人さんを狙う……
『っらぁ!』
アーチャーが、それを棒でフルスイング、打ち返す
剣を振り抜いたばかりの彼はそれを避けきれず……
「
されど、いつのまにか羽織った血のマントが勝手にそれを防いだ
……血の、マント?
似たようなものを、見たことがある。そう、あの恐ろしいサーヴァントが、ずっと身に纏っていた
つまりは、バーサーカー……
『まさか、てめぇ……』
アーチャーも気が付いたみたいだ。アレに
『キャスターなんぞに持ち去られてどうなったか、良く分からなかった
マスターが、変な電話受けたってのも、どんな理由か、幾らかの候補から絞りきれなかった』
血色のマント、可笑しな感じ、つまり、答えは一つしかないはず
考えたくなかった。彼は、どんなに怖くても、どれほど悪魔に見えても、かーくんを大切に思っている事だけは信じられたから。だから何時か分かり合えるって希望が持てていたから
だから、頭の片隅にあったその考えを、違和感を、肯定なんてしたくなかった
けれども、あのマントは間違いが無い
ああじゃなければ、あんなバーサーカーそのもののマントなんて、彼が使うわけも使える道理も何もかも、存在しないはずだから。だから、流石にもう、そんな事無いなんて言うことは出来ない
「……吸血鬼に、なっちゃったの……かーくん!」
『あんな事を言っておいて、そこまで堕ちるのか、