Fake/startears fate   作:雨在新人

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一日目ー始まりと狼煙

部屋には、私とアーチャーだけが残された

 

 「……凄いものだったんだね、アーチャー」

 『……まあ、これでも割と有名なんでな』

 アーチャーはそう笑って見せる

 

 けれども、見えない矢を使う英雄なんて聞いたことが無い。私自体、そこまで英雄譚等に詳しい……訳じゃないとはいえ、だ

 「ねぇアーチャー。アーチャーってどんな英雄なの?」

 『おっと、それを言うにはまずあの神父が多分わざとだが語らなかった宝具についてをまず言わなきゃならねぇ』

 「宝具?」

 宝という時点で、とりあえずすごいものだということは分かる。見えない矢だって宝具なのだろうか

 『そう、宝具。貴い幻想(ノーブル・ファンタズム)、人間の幻想を核に作られた英霊にとって最強の武装、生前の伝説の象徴

 まあ、かの大英雄アルジュナが炎神アグニから与えられたという炎神の咆哮(アグニ・ガーンデーヴァ)……じゃ分かりにくいか。アーサー王の約束された勝利の剣(エクスカリバー)とかそんなんだ』

 「……それと、アーチャーがどんな英雄かっていうのに、関係あるの?」

 『あるある、大有りさ。サーヴァントにとって、宝具を明かす事は大体の場合真名を明かす事。逆に真名を明かす事は宝具を明かす事だ』

 アーチャーの例えでいえば、宝具がエクスカリバーだと言ったならば、自分はアーサー王だと言っているようなもの、その逆も然り、という事なのだろう。理屈は分かる

 けれども、それが真名を勿体ぶるのに、関係は無い気がする

 

 『んで、マスターに宝具言いたくねぇしなーって話だ。オレのワガママだけどな』

 アーチャーはバツが悪そうに、そう言った

 「……どうして?」

 『宝具ってのは切り札だ。マスターにはそれを使えと言われたくないし、その為には宝具を知られたくない訳さ

 宝具がどんなものか知っていれば、使えと言っちまうかもしれないだろう?』

 「切り札……なのに?」

 『切り札だから、さ。これでもオレ、上位のサーヴァントよ?ちょっくら特殊なんで、普段の魔力消費はマスターから吸うのとは別枠なんだけどさ、宝具だけはそうもいかねぇ

 ……下手に使うと、マスターの魔力吸いきって干物にしちまうんだよ』

 干物?干物とはあのカラカラのものだろうか。搾り取るってレベルじゃない

 「……そんなに?」

 魔力を吸われてる感じ等は今はしない。私の魔力容量は、かーくん曰くそこまで多くはないということだけど、そこまで宝具というのは消費が激しいものなのだろうか

 『ん、まあ……伊渡間市が人口10万人の都市だったか?人っ子一人逃がさん……とまでは流石に言わねぇとはいえ、オレの宝具なら、瓦礫以外何も残らない焦土に変える位なら出来るぞ普通に』

 理解が、追い付かなかった

 それは、核兵器だとか、大空襲だとか、そういったレベルのものではないだろうか。英雄の……個人のレベルを越えていないだろうか

 

 とりあえず、そんなものを撃とうというならば、下手すれば魔力を吸われきる、というのは誇張でも何でもないのだろう

 

 『後は、そもそもオレって一応これでも神霊とか呼ばれる、神の血を引く英霊だし、聖杯戦争に参加する事自体ちょっとズルしてる訳よ。特殊なんで言いにくいってのもあるな』

 アーチャーは続ける

 『んで、最後の理由は……マスターがあんまり隠し事出来なさそうだったから、だな』

 「……どういうこと?」

 『例えば……オレがアキレウスだったとしよう

 アキレウスとうっかり呼んだりせず、アーチャーとだけ呼び続けられるか?』

 それに問題が、と言いかけて気がついた

 相手がアキレウスだと言われれば、敵はきっとアキレス腱を狙ってくるだろう。英霊は英雄、有名である代わりに、弱点なんかも語られていたりする

 そして、私はというと……真名を教えられていたとすれば、言ってしまわない自信は無い。ついうっかりはあり得る

 「……うん、もう聞かない」

 『それで良いマスター。何時か教えられる時だって来るさ』

 

 『んで、此方からも少し質問だマスター』

 暫くして、アーチャーがそう声を掛けてきた

 『マスターは、何故聖杯戦争に参加する?理由によっちゃ、別に降りても良いぜ?』

 「アーチャーは、もしも私が降りるって言っても良いの?」

 『ま、既に隠居したような身だしな。死にかけてる美少女一人救った、出てきた意味があったってもんだ

 そういって諦めるさ。救ったマスターを自分で殺しちゃ何の意味もねぇや』

 そう、アーチャーは笑った

 

 「私は……」

 リボンをほどく。薄い黄色のレースのリボンが手に残る

 「私は、あの日居なくなってしまった幼馴染に、もう一度会いたい」

 アーチャーは、私の言葉を黙って聞いている

 「あの日の事を謝りたい。あの日なくなってしまった全てをまたやり直したい」

 リボンを握りしめる

 「それが伊渡間の森に隠された聖杯でなら叶うと、あの日行方不明になったかーくんは待っていると、このリボンと一緒に手紙が送られてきた」

 『それで、あんな危険地帯に入ってしまった……か』

 血の付いたあの日無くなってしまったはずの店の包装紙に包まれた、黄色いリボン。私があの時そろそろリボンを変えようと思っていたのを気付いていそうなのは彼だけで、私へのクリスマスプレゼントとして買ってそうなのも彼だけで、謎のガス爆発に巻き込まれて行方不明の彼があの日持っていたであろうそのリボンだけが、彼に繋がる手掛かりだった

 行方不明になった後のかーくんか、それを知る人にしか、あのリボン付きの手紙なんて出せない

 かーくんに会えるかもしれない希望まで書かれて、行かない選択肢は少なくとも多守紫乃に選べるものではなかった

 そうして、今がある。アーチャーに救われ、手紙に書かれた聖杯への手掛かりも、命の危険と引き換えに掴んだ今が

 

 アーチャーは、私が降りるなら仕方ないと言ってくれた。サーヴァントだって、聖杯を求めるからこそ参加するらしいのに

 その優しさで、覚悟は決まった

 「……決めたよ、アーチャー。怖いけど……それでも、私は聖杯戦争に参加する」

 

 部屋を出て、その決意を神父様に伝えた

 此処で降りる事はしない、と。希望が見えるから、アーチャーが居るから……怖くても、罠でも、戦ってみせる、と

 

 神父様は、ゆっくりと頷く

 

 『ん、話は終わったかな?』

 と、教会を去ろう、という所でミラが言葉を掛けてきた。手には、黒い布を持っている

 『これ?そこの人、流石に穴空きのジャケットはどうかと思うからねー、ということで、あげちゃおうかなと』

 そう言って、ミラは持っていた布を広げてみせる

 厚手のコートだ。長身のアーチャーであっても、そこまで不自然な短さにならない男性用のコート。小柄な少女が広げてみると、すっぽりと姿が隠れてしまうほどの長さだ

 「……良いんですか?」

 『まあ、寄進品だしね。寄進は有り難いんだけど、アルベール神父、コートとか着ないからね』

 死蔵しちゃってるなら、使う人が持っていった方がコートも幸せかなって、と少女は微笑する

 

 ならば、有り難く貰ってしまおう、とアーチャーの方を見ると、何処か難しい表情をしていた

 「アーチャー?どうかしたの?」

 『いや、何を企んでるのかってな』

 失礼な話だ

 

 『なんにも?困ってる隣人に手を差し伸べるなんて、何か考えてからしなきゃいけないことなのかな?』

 『…………分かった。受け取ったからどうとか、吹っ掛けて来ないなら良いや』

 そう言って、アーチャーはコートを受け取り、羽織る

 下が赤いジャケットだから少しアンバランスとはいえ、それでもそこそこ似合うのはちょっとズルい

 

 『うんうん、似合う似合う。やっぱり死蔵品が使われて生き生きしてるのって良いね

 あっ、朝御飯食べてく?』

 少女は、そんなことまで口にした

 

 そういえば、昨日の夜から何も口にしていない。はやる気持ちを抑えながら、ホテルのチェックイン後に携帯型のゼリーを飲んだのが最後だ

 言われて、自分がかなりの空腹である事に気が付く

 「でも悪いです」

 『気にしない気にしない

 良く朝御飯(たか)りに来る人がいるんだけどね、周期的に今日来るかなと思って多めに用意したけど、今日は来ないみたいだから余っちゃって

 寧ろ折角の朝御飯を残さないために手伝って欲しいって話かな』

 割と準備が良い

 

 『……嘘じゃねぇ、か』

 ほんの少しの間を置いて、少女の顔をずっと見ていたアーチャーは、そう結論を出した

 というか、凄く善意で動いてくれていそうな少女相手に、警戒しているようなその態度は割と失礼な気がする

 『それじゃ、アルベール神父とお話してる間に、さっきの部屋に用意しておいたから』

 不躾なアーチャーを気にすることもなく、ミラはそう言った

 

 ーーーーーーーーー

 

 用意して貰った朝食ー野菜を挟んだパンとスープーを食べ、今度こそ教会を出ようとする

 そこに、一人の女性が話しかけてきた

 野菜が入りそうな篭を持った、人の良さそうなお姉さんだ

 少し回りを見ると、野菜を持ったミラが教会の奥へと向かうのが見えた。きっと、教会に野菜を持ってくる、顔馴染みの人なのだろうと予想が付く

 

 「あらまあ、可愛らしい子ね。旅の方かしら」

 「はい。緑と史跡の多い街ということで、遊びに来ました」

 「そうなの。楽しんでいってね」

 お姉さんは近づいてくる

 「綺麗な髪ね。赤くて、夕焼けみたい」

 手が伸ばされる

 髪を誉められるのは悪い気はしない。そのまま受け入れようとして

 

 ほんの一瞬、悪寒が走った……気がした

 空を裂く音と共に、視界が真っ赤に染まる

 

 アーチャーだ。何時しか弓を持っていて、力を逃がすように、僅かに前に傾いた、矢を放った後の弓は、真っ直ぐに私の真ん前を指していて

 目の前で、人が……さっきまで話をしていた、何事も、何も何もなかった筈の女性が、脳を吹き飛ばされていた

 「アーチャー!なんてことを」

 ゆっくりと、倒れていく。人が……倒れていく

 だというのに、アーチャーは無言だ。無言で私に近付き、女性から引き剥がす

 「ねぇアーチャー、どうして」

 『マスター。アレはもう、人じゃない』

 低い、声だった。あまりアーチャーの声は聞きなれていないけれども、それでも低いと分かる、明るい感じの全く無い声

 「人じゃないって、アーチャーが殺して」

 『違う』

 「殺した!アーチャーが、酷いことして」

 

 「……あら、こけてしまったのかしら。御免なさいね」

 「……えっ?」

 有り得ない声がした

 

 有り得ない声が、かつて出せた相手の方を見る

 コマ送りのように不自然に、人形のようにカクついて、鼻から上が吹き飛んだ女性が、動く筈の無い死体が、起き上がっていた

 脳が無いのに、何事もなかったかのように、その死体は喋っている

 吐き気がした

 

 『……これが、やり方か』

 「あら?」

 『これが、こんなものが、このふざけた方法が、貴様等の勝ち方か!ヴァルトシュタイン!』

 アーチャーが(はし)る。止める間もなく、その拳が死体を撃ち抜く

 脳だけでなく心臓を打ち砕かれて、死体は二度目の死を迎えた。二度目は、立ち上がる気配を見せない

 アーチャーが、その右腕をへし折り、戻ってくる

 

 見たくない。そんなもの、見たくない

 けれども、目の前から逃げることは出来なくて、アーチャーはその腕を見せてくる

 『……趣味悪い』

 手の先には穴が空いていた。其処から顔を覗かせているのは針、だろうか

 『アサシンモドキ。触れる少し前、突然魔力が変質した。マスターに何か注射する気だったんだろうさ』

 アーチャーが、腕を握り潰す

 教会の床に、血とはまた違う、赤い液体が落ちる。薬……だろうか

 「アーチャー、ヴァルトシュタインって」

 『仕掛けてくるとしたら、ヴァルトシュタインだけだ。変質後はあのセイバーモドキと同じ香りがしたしな』

 

 『どうかしたの!?』

 アーチャー!という叫びを聞き付けたのか、裏からミラが走ってきた

 

 どう説明しようか。どう説明して良いか

 それは思い付かない

 気が重くなる

 

 だが、それでも私達は、参加を決めてから初めての、他の参加者からの妨害を越えたのだった

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