『ふざけるな、
アーチャーの纏う風が、地面を撫ぜる。周囲の小石を、風が加速して打ち出す
『そんなものが、ビーストだと?その程度の貴様が』
「……ハカイ、怨』
彼は、その叫びすらも我関せずとばかりに、言葉毎石を血のマントで受け止めた
『なあ、もういいだろ、マスター』
その反応に、アーチャーが冷たく告げた
もう良い。つまりは、殺さずに止めてなんて私の命令、従わなくても良いだろ?というものアーチャーは、あんなになってしまった彼を殺そうというのだ
「ちょっと待ってくれよ、アーチャー」
戒人さんは、尚も諦めないけれども
「うん、アーチャー。やっちゃって」
私は、あんなものを見ていたくない
だって、何より……顔に傷があろうとも、白髪になってしまっていても、肌が焼けていても尚、そして何よりあんなに目付きが怖くなっていても……彼の体はかーくんなのだから。意識をどうしても切り離しきれない
だからこそ、吸血鬼として、ワケも分からない感じで暴れまわる彼を、そんな、かーくんを見ていたくない
だから、とても……とても嫌だけど、こんな状態よりは良いと信じて
『悪いな、マスター。辛い言葉を言わせて』
静かに、アーチャーが私の頭を一度撫ぜた。偉いな、と子供を誉めるように
『だからよ、死ね』
「……ッ!?』
戦闘にすら、ならなかった
一瞬の後、雷光のように降り注いだ如意棒の一撃が、
脳と心臓部、二つを潰され、かーくんの顔をしたものが、大地に転がる
もう、手遅れだって分かってるのに、それでも悲しい。見ていたくなんて無い
『悪いな、マスター』
一方的な処刑を終え、アーチャーが一息つきかけ
『……いや、待て』
武器を構え直す
「どうしたんだ、アーチャー」
戒人さんが問い掛ける中、ふと思う
そもそもけしかけてきたような感じになっている神父はどうしたのだろう、と。そもそも……あの声は、私の前方、神父が居た側から聞こえてきたのではなかったっけ。なのにどうして、彼は後ろから……
『……紛い物の更に紛い物たぁ笑わせる。盲点だわこりゃ』
「更に紛い物?」
『そう、敢えて名前を付けるなら……ザイフリート擬き?って所』
アーチャーの視線の方を見て……察する
割れた彼の頭の中にあるのは脳味噌じゃなく、謎の魔術的な化け物の死骸。頭の中身は、おおよそ人間のものではない。恐らくは、ホムンクルスをかーくんみたいに動かすための魔獣
それに、良く考えてみたら、黒鍵が胸から生えてくるのも可笑しかった。破れた服からちらりと見えたことがある。彼の胸は……心臓は、金属部品が埋め込まれていた
そう、実は違う。その違和感は感じていたのだ。あまりのことに、そこまで思い至らなかっただけ
「本物を手にして作った量産型……なんだろうか」
『そうなんじゃねぇか?
とりあえずよ、分かったことは一つ。こりゃヴァルトシュタインの作ったバケモンだ。って事はよ……』
神父は、あの駒の存在からも分かるけれども、ヴァルトシュタインと通じている。恐らくはそう
けれども、ならば……あの声は
「アーチャー!」
とてつもなく嫌な予感に、私は叫んで……
『……おいおい、そりゃ無いだろうがよ……』
ギリギリの……本当に戒人さんが叩き斬られる寸前で、アーチャーが赤い光の剣を受け止めていた
「どうして……かーくん!」
襲撃者は、直前に居たホムンクルスとほぼ同じ外見の少年、ザイフリート・ヴァルトシュタイン
その差としては、左腕が無いこと、右目に酷い傷があること、そして……赤い魔力が、とても澄んでいて、そして恐ろしいこと
「何度でも言う。俺は、神巫雄輝じゃない」
返ってくるのは、そんな言葉
うん、話は通じる。分かってくれないだけ。さっきのよりは本物っぽい
『じゃあ聞くぜ、
彼の光の剣を抑え込みながら、アーチャーが呟く
『何故、戒人を狙う?』
「そうだ、どうしてなんだよ雄輝!紫乃ちゃんを取られたとでも思ったのか!?」
「ちょ、戒人さん?」
戒人さんの推測は、とても明後日の方向だった
私を取られたかもしれないから、戒人さんを殺す?流石に……かーくんはそんなに嫉妬深くは無い、はず。というより、そんなだったら、もっと早くに告白してくれている。それが、
だから、無い
「単なる、自分の至らなさの後始末だ」
『それで、戒人を殺すってか?酷い話じゃねぇかよ!』
「……違うな」
その声は、何処までも冷たく響き渡った
「神巫戒人は、既に死んでいる」
「えっ?」
『は?』
「何……と?」
意味不明の言葉。アーチャーすらも虚を付かれ……
「
突如彼の背中に現れた不可思議な形状の翼……槍のように伸ばされたそれが、戒人さんの腹に突き刺さっていた
「……けふっ」
戒人さんの唇の端から、一筋の朱が垂れる
……血
「戒人さん!」
『……何を、やってるんだよ!』
アーチャーの荒れる心のままに吹き上がる暴風に煽られ、ザイフリートの体が宙に浮く
だが、それをも良しとして、彼は空で翼から魔力を噴かし、尚も戒人さんを狙う!
『させると、思ってか!』
アーチャーが剣を掴み、そのまま彼の頭を蹴り降ろした
下方向へのベクトルには為す術もなく、彼が地面に叩き付けられる
『んで、頭は冷えたかよ』
アーチャーが低空から問い掛ける
「そちらこそ、狂気は消えたか?」
けれども、相手は引かない。どこまでも、戒人さんを逃す気はないようだ
「本当に、どうしてなの?」
「……もう手遅れだ。意味はない
けれども、これ以上を防ぐことは出来る」
「だから、俺が死んでるってのも合わせてどういう意味なんだよ!分かりにくいぞ雄輝!」
「じゃあ、一つ聞こうか」
ゆっくりと、彼は立ち上がる
傷だらけの目に、何時しか偽物と同じように光が集まっている。けれども、アレとは違う、青い何かが、その瞳の奥にはある気がした
「……お前は、神巫戒人か?」
『は?何だその質問』
「神巫戒人に決まってるだろ、お前も雄輝なら、分かってくれるだろ?」
静かに、彼は首を振る
横に
「分かるものか。お前が、戒人であるものか」
あの瞳が、強く輝く。全てを見通すような、恐ろしくも鋭い眼
「……かー、くん?」
「貴様が神巫戒人本人だというならば、何故貴様は……
「………………えっ?」
意味が、分からなかった
降霊?戒人さんを?どういう事?まるで意味が通らない
そんなの、有り得る訳がない
「なあ、バカな事を言うなよ雄輝。俺は何とかかんとかあそこから逃」
「
げてきてよ、奇跡的に紫乃ちゃんと……」
可笑しい。そんなの嘘
だから、突然、あまりにも自然に、戒人さんとして話しているのが戒人さんからザイフリートに変わるなんて有り得ない
「あれ?何で突然目の前に俺の姿が……?」
突然、ザイフリートの体で、戒人さんらしき人が呆ける
けれども、有り得ない有り得ない
だって、降霊魔術で降ろせる魂は、
降霊出来るとしたら、当に戒人さんは死んでいた事になる
そんなの……そんなのって、無いよ
「あれ?俺は……でも、あの時、あの場……しょ……で……」
「あ、ああああああっ!!」
突然、戒人さんが今の体で胸を掻きむしり……
「……そうだ。これが、理不尽な死だ」
ふっ、とザイフリートに戻る
「で、何か弁明はあるか、吸血鬼」
「は、はは、ははは!
ふははははははははは!
……遅せえよ」
その声は、戒人さんの声帯を震わせて、どこまでも残酷な真実を告げるように虚空に響いた
明日更新と言ったなアレは嘘だ
剣豪で暫くエタります。エターナる14日