Fake/startears fate   作:雨在新人

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七日目ー失われる切り札

『……情けないよ』

 掌に僅かに血を滲ませて、ミラがそう、ぽつりと溢す

 『反省もなくあれだけの事をされて、それにすら気が付かないなんて

 降霊魔術は肉体依存の魔術、フリットくんだって今の状態で使えるんだし。その事に、もっと早くに気が付いていれば……

 啓示まであったのに、ホント、情けないなぁ』

 「そんなことはないだろう」

 だから、そんなミラの独り言に、俺はそう返す

 

 当たり前だ。分かるわけがない

 俺とて、降霊魔術を使えなければ、見分けることなんて出来なかっただろうから

 そもそも、俺という一応の成功例があった。神巫戒人が同じく切り札となるかもしれない成功例(人造サーヴァント)の素材として狙われる可能性も、確かに十二分にあった。彼も同じく、降霊魔術を扱うのだから。そして、恐らくはフェイに聞けば、さりげなく教えてくれただろう。というか、流石に直接言う事は許可されていない為、俺が携帯があれば紫乃に連絡出来る事、結果この可笑しさに気が付くことを期待して携帯を渡したのかもしれないとすら思える

 何より……俺という実例が示している。ヴァルトシュタインという正義は、多少の犠牲は良しとする事を。勝利、そして未来の救済をなす礎としてならば、これくらいやりかねないと……俺は知っていたはずなのだ。だのに!なのに、気が付かず、みすみす吸血鬼に時間を与えた

 だから、これは俺のミス。気が付けた、完全に手遅れになる前に動けたはずの……俺の失態

 

 『……フリットくん』

 ふと、ミラが顔をあげる

 『ちょっと、雰囲気変わったね』

 そして、きょとん、とした表情で呟いた

 「変わった?」

 俺は俺だ。何も変わらない。変わったねと、拳を振るいに来ないのは有り難いが

 『うん。外見はそんななのに、不思議とビーストから離れてる気がする。封印でもされない限り、殺すしか無いって思ったけど……どうしたの?』

 「ああ、それは……」

 納得する。そういえば、レベルの話でしかないから忘れていた。必要ならば纏えば良い、セーフティー的に確認こそあれども、発動に制限など掛かっていない。だから、気にも止めていなかったが、確かにあの日との差異はあった

 「解除」

 ふっ、と自分の体から力が抜ける感覚。光で補われていた右目の視界が、そして左腕が消失し、僅かな喪失感がある。だが、問題ない

 一瞬の後、俺の手には一枚の金色のカードが存在していた

 「フェイ……ああ、ヴァルトシュタインのメイドで俺に不思議と良くしてくれる人造サーヴァントの事な、と後はその下のキャスター擬き達による功績って所か」

 マーリンらしきあの腐れ魔術師の事は言わない。言っても恐らく意味がないから。それに、ミラが俺を特別に気に入ってるとかいうあの戯言を思い出したくない

 『……それは?』

 ミラが小さく首をかしげる

 それは、何処かあの……単なる教会の少女として、過剰なまでの日常の幸福を感じさせるように接していてくれたあの日々を思い出させて……

 「クラスカード。俺のサーヴァント擬きとしての力を封印制御する鍵、みたいなものだ」

 その想いを振り払うように、弱さに抗うように少しだけ声を荒げて続ける

 コートのポケットに右手を突っ込み、中指と薬指の間に、もう一枚を挟んで取り出す

 「当然ながら封印された以上、あの時よりは弱くなるだろう。解放しなければ、力を振るえないから」

 『……そう、なんだ』

 ミラは動かない

 「唯一の救いは……

 二度とこの紅のカードを……クラスカード ビーストⅡを夢幻召喚(インストール)しなければ、二度とあの日の俺に戻らなければ、ミラが俺を殺さないでいてくれるかもしれない。その希望だけだ」

 心を確かめるように、ミラを見据えて、そう静かに告げる

 

 『……うん、そうだね』

 少しして、ミラはゆっくりと頷いた

 『わたしがキミを殺さなきゃいけないのは、キミが生きている限り、ビーストⅡは必ず世界を原初に還す為に現れるから。それだけは、止めなきゃいけないから

 だから、明日の涙を流させない為に、消えて貰うしかない』

 強い声音で語り、ミラは微笑する

 『けど、フリットくんがそうならないなら……獣に成り果てられないなら……

 うん、最悪わたしが、サーヴァント8騎目が居るとか、そういった所は何とかするよ』

 「何とかなるものなのか……」

 8騎目を生めば聖杯戦争が成り立たないから、と殺しに来られた事もあった気がするのだが

 『まさかビースト案件とは思ってなかったけど、とても嫌な予感があったからね

 その悪寒が何なのか分かって、それが止められるなら……うん、何となかるよ

 だって、フリットくんが8騎目として居るから、6騎で起動する聖杯はサーヴァントが複数居る時に起動する可能性があるんだから……フリットくんを死なせなきゃ良いだけ、だからね』

 「そんな理屈か」

 『ちょっぴりズルはするけどね

 サンタさんを舐めちゃいけないのです』

 少しだけ悪戯っぽく、さも名案というように、少女はそう笑った

 『だから、渡してくれるかな?そのカード』

 一瞬、躊躇う

 躊躇う意味は、実は殆ど無い。あのカードはあくまでも鍵、触媒でしかない。最悪……全力でやれば、封印を壊せずとも、鍵を呼び寄せるだけならば、不可能ではないのだ。例えミラに渡そうとも、少し時間こそ掛かるものの……取り戻せる。後は、また敵対せざるを得なくなったとして、その隙が致命的になるかどうか

 ……だが、まあ、悩む意味も時間もほぼ無い

 「紅いカードだけだ、それで良いな」

 金のカード、セイバーすらも渡せと言われたら、流石に拒否する。それは、俺に降りろと言っているのとほぼ同義語だから。セイバー、そしてアサシン、彼女等が力を貸し続けてくれたとしても、まだ怪しい。戦力は多い方が良い。特に、マスターを容赦なく狙うだろうヴァルトシュタイン相手には

 『本当は、全部渡して、後はわたしに任せてくれないかなー、なんて思うけどね』

 少しだけ遠い目をして、ミラは頷き、左手を出す

 『けど、それで止まるフリットくんなら、あんな目はしてないしね

 紅いカード、ビーストⅡ、元凶に成り得るそれさえ渡してくれたら良いよ』

 握手のように手を交わす。指の隙間から、カードがするりと抜けていくのが分かる

 一瞬後、ミラの手に、あの紅いカードはあった

 

 『……不思議なものだね、これ』

 「……フェイの下に居るホムンクルスは、初期型らしくてな。喋らないし、意思も明確にあるかというと無いようだが……妙に有能なんだ」

 最近はあまり会わない二人のキャスターを目指したホムンクルスを思い返しながら、そう言う

 一人は、銀髪のイケメン。ホムンクルスであり、声をほぼ発せず、良く得体の知れない笑みを浮かべている。声をしっかりと発して、まともに人格があればモテモテになれそうな存在であり、召喚魔術を扱うキャスターを目指した人造サーヴァントだった

 もう一人は、ピンクい髪の少女。日本だからと呪術を扱う存在を目指した……らしい。銀髪イケメンと比べて、あまり近寄ることが無かったけれども

 『それでも、こんなこと……普通じゃないよ』

 「まあ、電波通したらしいしな……

 フェイがある程度使えるからまだマシだが」

 『注意点とか、あるのかな?』

 わたしがビーストになっちゃうとかあったら、洒落にならないしね、とミラは問い掛けてくる

 「あくまでも俺と繋がった鍵だから俺から離れすぎると、俺の所に戻る……らしい」

 『うんうん、つまり、あんまりフリットくんから離れなきゃ良いんだね?楽勝だよ』

 「……そうだな」

 何時か自分を殺すかもしれない相手が近くに居る。少し、怖い話だ

 だが、今更だな、と苦笑する。そんな事を言えば、アサシンだってそうなのだから

 

 『それで、これからフリットくんは?』

 ミラに問われ、辺りを見回す

 

 セイバーは居ない。アルベール神父は……今は口を挟まずに状況を見ている。アサシンも同じ。アーチャーは、既に行動を開始した

 「探すさ、奴を」

 『森に逃げたって線はないのかな?』

 「無い。同様に殺されてる線も無い

 奴と紫乃は、必ずこの伊渡間の何処かに居る」

 『そうだね。あの森じゃ、流石にパス切れちゃうか

 そうなれば、アーチャーを止める者は誰も居なくなっちゃうからね』

 そう、だから、有り得ない

 森に逃げれば、結界に入ればパスが切れる。契約は切れずとも、吸血鬼化を自分に転換して抑えているアーチャーとの繋がりが切れれば、間違いなく紫乃は一瞬で吸血鬼に堕ちるだろう。救いようもない

 ……そして、吸血鬼化の衝動に苛まれる状態から解放されたアーチャーが……そうなった時、ヴァルトシュタインを赦すだろうか

 答えは、言うまでもない

 

 つまりだ、チェックメイトいうのは大嘘

 奴は、アーチャーが完全に吸血鬼化するまで、この伊渡間でかくれんぼしなければならない。チェックではあるかもしれないが、詰んではいない

 

 「ああ、だから終わってなどいない」

 紫乃に、こんな苦しみを味合わせない事はもう無理だ。手遅れだった

 けれども、全部が終わってはいない

 『うん。そうだね……。よし、じゃあ』

 そう、ミラは言いかけて

 『うん、疲れると注意力も落ちるし、まずはお弁当作らないとね』

 そんな、少しだけ呑気な事を言って、教会へと戻っていった

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