Fake/startears fate   作:雨在新人

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八日目ー一期一会の昼・参

「……此処は」

 珍しい場所を見上げながら、俺は呟く

 そう、それはもうあまりにも有名な場所。だが、正直言って俺が来るとは思っていなかった場所。日常を生きる者達の為の娯楽施設、俺とは縁遠い、けれども昔から神巫雄輝は紫乃と何度となく訪れた箱。伊渡間という10万人都市ならばあって然るべき巨大施設。即ち……映画館である

 「映画館だよ」

 「それは知っている。単純に、どうして訪れたんだと思っただけだ」

 「だって……」

 一瞬の沈黙。僅かな時間、紫乃が黙りこくる。だが、意を決したように俺へと一歩踏み出し、見上げてくる

 「見たい映画が、あったから」

 「……そう、か」

 考えてみれば、そうおかしな事でもない。多守紫乃という少女は映画好きだ。大画面で見るのが好きであって、ディスクレンタルで家で見たりなどは殆どしていなかったけれども

 「今日公開の映画なんて無いだろ?アーチャーと来ればよかっただろうに」

 建物横にずらりと貼り出されたポスターを一瞥、そう告げる

 「アーチャーとは、ちょっと来にくくて

 だって、知らない映画を見てもつまらないし」

 「そうでもないと思うが。まあ今さらか」

 今日、12/18スタートのものは特にない。紫乃が興味を持ちそうなものは幾つか確認出来はするが、既に前日以前に公開済ばかりだ

 

 「……」

 ふと、歩みを止める。一つのポスターが、目に入る

 「かーく、あっ」

 俺の目線を追ったのか、紫乃も無言になる

 それは、とある特撮ヒーローもののオールスター映画のポスター

 去年の作品も今年の作品も、俺は殆ど知らない。見る時間も場所も何処にも無かった。今ならば、フェイがTVを設置しただろうから見れる気がしなくもないが、例え聖杯戦争が未だ始まらず俺がヴァルトシュタインで過ごしていたとして、恐らくあのヴァルトシュタインが日曜朝に性能試験という名の殺し合い……というよりも、様々な手で襲い来るホムンクルスの惨殺をせずのんびりするなんて事を許しはしない

 だが、そんなどうでも良い事は関係ない。正直、なんだこのダサくてサイケデリックな奴だとか色々と言いたくはあるし映画本編に興味も無くはないが、見てない俺にはきっと分からないしそんな幸福を得るなんて俺が許さない

 重要なのはただ一つ。これが、特撮ヒーローの映画であるということ。つまりは、神巫戒人が好きで、神巫雄輝も良く見ていたものだということ

 ただ、それだけで思い出す。何も出来なかった俺を。既に終わっていた人生を。すべての決着をアーチャーに任せてしまった、その神巫雄輝の友人の弔いを

 「……戒人、さん」

 ぼんやりと、焦点の合わない目で、紫乃が呟く

 強く、強く手を握り締める。実際には無理でも、可能ならば指が掌を貫通する程に

 そうだ、もう神巫戒人は居ない。何処にも居ない。二度と出逢う事など無い

 奇跡など最早起きない。起きる訳がない。奇跡も魔法もあるだろうが、そんなものに意味はない。いや、第二魔法等ならばまだ可能性はあるが、聖杯で再現しやすい第三魔法では少なくとも不可能だ。魂の物質化、既にとうしようもなく汚染され変形したアレを、最早神巫戒人とは呼べない。死んでいようが何だろうが、魂があるから意味があるのだ。そう、最早魂すら無い神巫戒人は、神巫雄輝と同じく第三魔法でも救えない。いや、俺は弱いから、あんな傷を抱えて人間は生きてはいけないなんて思うとはいえ、大きく魂が傷ついた状態でならば何とか第三魔法を適用出来るかもしれない雄輝よりも尚酷い。紫乃の願ったあの穏やかな日々は、二度と戻らぬ過去の幻想へと風化した

 だからこそだ、と血の垂れ始めた手を尚も握り締める。だからこそ、世界はあの日に回帰しなければならない。ザイフリート・ヴァルトシュタインという存在を、それに連なる悲劇を、その切欠すらも破壊し、この世界(イマ)を剪定する。それが、今この時代を生きる全てを事実上殺すとしても。ザイフリートという世界の間違いを無くし、間違ってしまった世界を剪定事象として葬り去る事でしか、俺という存在に奪われた全ては救われない。いや、嘘だ。俺だって分かっている。既に居ない彼らを救う方法なんて何処にもない。どんな手で何をして、例え世界を回帰して彼等がその世界で生きていこうが、そんなもの全ては彼等という幸せに生きるべき者達を俺という理不尽によって奪われた事を償ったという、俺の自己満足以外の何物でもない。彼等はもう、何も願えないのだから。だが、それがどうした。無視出来るものか。死にたくない、雄輝の嘆きは今もこの身を焼いている。嫌だ、止めてくれ、残酷な真実を突き付けられ、降霊した俺の精神の中で苦しんで消えていった戒人の慟哭は、今も心を引き裂いている。それが全てザイフリート・ヴァルトシュタインという存在を前提としたものならば……

 それでも、償わずにはいられないのだ。この映画館を見て、紫乃と来た事を思い出す。そんな幸福な記憶も何もかも、神巫雄輝が持ち、味わうべきあまりにも俺には勿体ない幸福なのだから

 それにだ。俺が止まれば、俺に斬られたホムンクルス達は、何のために死んだのだ。だから嗤え。貴様等は俺の目的の為に邪魔だったから殺したと、そう嗤え。そうでしか、死に意味はない。今さら躊躇うならば、その死を無意味にするならば、最初からあんなもの、するべきではなかったのだから

 掌を流れる血に、見えない星に、誓いを新たに。どんな幸福を奪おうと、バーサーカーを滅し、聖杯を手に、世界を回帰する。それが、それだけが、ザイフリート・ヴァルトシュタインの存在意義なのだと

 ……俺でもわかる程度に軋む心は、弱さと切り捨てて

 アーチャーは、何やってるんだと文句たれるかもしれない。悪魔に成り下がるというかもしれない。何だかんだ、こんな幸せになる価値もない俺に良くしてくれたミラやフェイは、かけてあげた好意を無にしたとむくれるかもしれない。それでも、俺に殺されて死んでいった彼等の死を、自分から無意味にすることなんて、弱い俺には出来ないから

 

 だのに

 「……考えるな、紫乃

 悼む事は、何時でも出来る。聖杯戦争が終わってからでもな」

 そんな嘘をついてまで、紫乃と映画を見ることにしたのは……

 言うなれば、ミラやフェイに教えられた、そして神巫雄輝の記憶にあった幸福というものを、最期なんだから味わっても良いだろという弱さだった。それが、世界を回帰する際に、俺もやっぱり死にたくないとミットもない言葉を吐くだろう事に繋がると、そう知っているのに

 

 「あ、うん……」

 紫乃も、ポスターから顔を上げる

 「……見たい映画ってのは……」

 神巫雄輝の記憶を辿る。思考を読む

 不思議と、もう少し本気でやれば解るという確信はあった。僅かに潰れた右目が疼くから

 けれども、それは使わない。俺の外見は正直言ってカタギとは思えず、映画を見に来た人々が俺を見て息を呑んだり遠巻きにしたり露骨に反対を向いたり警察に連絡したりしているが、だからではない。ホムンクルスならば何人となく殺してきたが手配犯でもなし、警察が来ることなどないだろうから

 「多分これか」

 右手で指差すのは、一つの恋愛アニメ映画

 選んだ意図は非常に簡単。恋愛映画は紫乃の好みのジャンルで、特にアニメ映画好き。そして何より、この映画は先に公開されたもののサイドストーリーのような映画だからだ。第一作なんて皆初見からのスタートが前提、わからない映画を見てもなんて言わない

 ……俺も雄輝も挙げた映画の本編を見たことはないが。それでも、紫乃が公開を楽しみにしていたことも知識としてあるし、映画の原作も紫乃との話題作りに借りた事も知っている。だからだろう、紫乃も俺相手にはそう言わない

 「あ、良く分かったね」

 「そりゃあ解るさ」

 少しだけ格好つけて、そう返す

 「神巫雄輝の愛しの相手だからな。少し記憶を探れば、幾らでもヒントは出てくる」




「……もう泣き止め」
 「でも、でも……」
 「はぁ、全く……俺は神巫雄輝じゃない。これは俺がやることじゃ無いんだがな……」
 多少のぼやきと共に、フェイからの荷物にあったハンカチを胸のポケットから取り出し、紫乃に差し出す
 恋愛映画でぽろぽろ泣くし、ホラー要素があったりすると上映が終わっても暫く腕をつかんで震えてるし、ファンタジー映画で主人公側の人間が死んだりするとその日一日ちょっと暗い。割と感受性豊かなのが多守紫乃ではあるのだが……
 正直言って、やりにくくて敵わなかった
 何というか、紫乃はまず間違いなく俺と、雄輝を重ねている。神巫雄輝という人間から、魂を抜いてミキサーにかけてペースト状にして、よく分からない意思を持ち始めた魔力の溶け込んだ水と捏ねてサーヴァント(推定ジークフリート)の魂という巨大な器に包み込んで元の体に叩き込んだもの……それが俺。確かに混ざってはいるし、体の基本はそうだが、俺はザイフリート・ヴァルトシュタインでしかない
 だからこそ、対応に困る
 なので、こうして……既に電気の点いた映画館の椅子で、落ち着くのを待っているなんて事態になっていた
 「次が始まるだろ、行くぞ」
 右手の席に座っている紫乃へと左手を……差し出せない。未だに慣れない、片腕が無い感覚に。だが、これは治らない、正確には治さない。莫大な魔力さえ使えば、修復を封じている摂理に還る祝福すらもぶち破って腕の修復は不可能ではない。当然だ、あれもあくまでもミラの魔力による宝具効果なのだから。だが、そんなことをすれば寿命が何日削れるか分かったものじゃない。恐らく一月分くらいは浪費するだろう。そんなことしてまで治すくらいならば隻腕の方がまだマシという話でしかない
 なので、右手が使えれば良いや、と右手で紫乃を立ち上がらせ、上手く体勢を保てず此方に倒れこむその小さな軽い体を受け止める
 「昼、食うか。話はそこでも出来る」
 「うん」
 その提案は、断られなかった
 
 近くの喫茶店に入り、席を取る。出遅れはしたが、映画自体が短めのものであったからか、他の大作映画を見終わった人間で埋まる前に席に付くことが出来た
 注文は珈琲のみ、記憶の中にしか無い神巫雄輝時代からの伝統である。何というか、映画を見終わった後は何処か精神的に胸が一杯であまり食欲がない。それは、今の俺も変わらない。単純に、片手では色々と食べにくいというのもあるが
 考えてみれば、本気で全うな食事をしたのはフェイが口に突っ込んだスープ他の朝食、以降はクラッシュゼリーだ何だ野菜ジュースだで繋いできていた気がする
 
 運ばれてきた珈琲に、口を付ける
 「……ブラックなんだ」
 「まあな」
 そうして、紫乃の疑問へとそう何も答えずに返す。そうしなければ、顔を僅かにしかめてしまうから
 舌の上に広がる苦味に、やっぱり苦手だ、と自分の事ながら苦笑する。やはり、ミルク入れた方が飲みやすいな、とも
 砂糖もミルクも、入れなかった理由なんて簡単だ。右手でそれらを持ったとして、左手が無い今は歯で開けなければならないと気がついたから。流石にその開け方は不恰好だろうと、割と似合わぬブラックで飲んだだけ
 だが、やはりというか何というか、どうしようもなく飲みにくい。フェイの淹れるコーヒーが、豆からしてランク違うというのもあるが、ブラックは無駄に苦いということを思い知らされた。正直、ブラックでコーヒーを美味しく飲めるのが大人だというならば、一生大人になどなれない感覚すらある。まあ、大人になる程の寿命は俺には無いが
 「やっぱり、かーくんだ」
 それを見て、紫乃はくすりと笑って、自分の紅茶に口を付けた
 
 それで、思い出す。そういえば神巫雄輝も、格好付ける為にコーヒーはブラックだったな、と。特撮作品で主役がブラックを飲んでいるのに憧れて、戒人と片意地張って飲んでただけだが
 「似てたか、行動」
 苦笑して、ミルクの口を歯で咬み千切る。幸い、何本か折れてはいるが、噛み合わせる前歯は充分に残っているのだ、出来ないこともない
 「面白かったか?」
 そうして、そう訪ねる。答えは、割と分かりきってはいるのだが
 「う、うん」
 解りきっていた、歯切れの悪い肯定の言葉と共に、紫乃は頷く。括られたリボンが、かすかに揺れる
 
 元々おおまかなストーリーは知っていて、それを見たくて来たのだ、気に入らない訳がない。けれども、歯切れが悪いのは……
 「分かってた事だろ。あくまでも外伝映画なんだから」
 「でも、それでもやっぱり泣けちゃって」
 「失恋でなきゃ、矛盾するだろうが」
 はぁ、と息を吐く
 そう、失恋。見た映画は、失恋の物語。暫く前に公開されたラブストーリーのサイドストーリー。本編主人公に恋した、サブキャラに焦点を当てたもの。当然ながら、実る訳もない恋の物語
 知っていた、だから俺はそこまで心動かされる事は無かった。当たり前だ、結末を知っているのだから、演出等に心が行く。だが、紫乃はそうではなかったようだ
 だから、その主役に心を重ねるように、映画が終わった今もぽろぽろ涙の粒を溢す
 「かーくん、は?」
 言われ、少しだけ考えを纏める。ミルク珈琲を一口し、意識をはっきりと
 「そこそこだな」
 結局、口にしたのは、小さな嘘
 実際、面白くなかったと言ってしまうのが一番楽だ。この映画の本編も2016年公開、外伝だけ見せられてもな、と正論を振りかざせる。それに、映画を理解する根底にある神巫雄輝の記憶自体、紫乃の見たい映画に付き合う為に色々と見ていただけの訳で、好みの映画はヒーローアクションとか特撮とかそういう方向だ。巨大ロボット、特に自我を持つスーパーロボットものとか素晴らしい、そんな感性は俺にも割と引き継がれている
 だが、それでも、面白くなかった、なんて言えない。幸福を、良く理解できたから。今更な話だが、神巫雄輝は多守紫乃が大好きである。好きな幼馴染と恋愛映画を見る、突っ込んだ話、映画の内容なんて白けるほどつまらなくない限り映画鑑賞の事実に比べ至極どうでも良いのだ
 言い直せば、紫乃と映画を見れた時点で楽しかった。欠損の激しい魂の欠片を無理矢理に集めてみたからか、それともアーチャーの言葉通り色々と考えないようにして神巫雄輝(ふつうのひと)っぽく振る舞っていたからか、雄輝の幸福な記憶に引き摺られるようにそう思えた
 これは、何でもない日々の再現。神巫雄輝が紫乃と映画を見る、一月に一度はあるかもしれない休みの日の光景の追体験
 俺が経験してはいけない、奪った幸福
 「そっか、ごめんなさい」
 「何を謝るんだ、紫乃」
 「やっぱり、あの……スーパー何とかの方が良かったよね?」
 少しだけ申し訳なさそうに、紫乃は呟く。小さく頭まで下げて
 「いや、良いよ。今年の作品知らないし、見ても乗り切れない」
 そんな馬鹿な言葉を、何度か交わす
 無意味で、それでものんびりとした……もう二度と無い安らぎ
 フェイにあの映画見せたらどう思うんだろうな、とか、昔貰い物として貰った映画のチケットがあるよ、とシスターやってたミラが言っていたけれども、ミラ自身は映画なんか見るんだろうか、とか、色々ととりとめの無い、少し紫乃には失礼な事も考えながら
 
 そうして、夕方
 俺が紫乃を連れて足を向けたのは、ひとつの伊渡間有数の大きな建物だった
 名を、伊渡間中央駅。10万人都市の伊渡間と、巨大都市を結ぶ生命線の片割れ
 「あ、悪い紫乃、少しだけ荷物を持っててくれないか?」
 言って、フェイから貰った荷物の一部を、紫乃に預けながら俺は画面の割れた携帯を取り出す
 此処に来た理由は簡単、俺がそう望んだから
 そのまま買った入場券で改札を潜り、ホームへと上がる階段のある広場へと足を踏み入れる。そそくさと紫乃が付いてくるのを振り返って待ち、携帯をカメラモードへ
 「それにしても、かーくんって電車好きだったっけ?」
 「好きになったさ」
 少しだけ自重的に、そう微笑む
 「ヴァルトシュタインの外に出ても、自由なんて無いようなもの。あくまでもこの身はS346、全ては聖杯戦争で他のサーヴァント相手に使い潰される為に
 だからさ、僅かな時間に駅から出ていく電車を見て、思ってたんだよ
 
 あれに乗れば、俺も自由になれるんだろうか、と」
 「……御免」
 「何を謝る事があるんだ」
 申し訳なさそうな紫乃に、そう返す
 
 『……すみませんのぉ』
 その声は、紫乃の後ろから聞こえた
 一人の老爺が、切符を手に立っている。そう、見える
 「どうしたの、お爺ちゃん」
 『実は、ごちゃごちゃしていてホームがわからんでのぉ』
 老爺は、手にした切符を振る
 「かーくん、これって……」
 その切符を覗き込んだ紫乃が、此方を見て問い掛けてくる
 「8番乗り場。そもそも俺が撮りに行こうとしていた電車だな」
 見ることも無く、俺は言った
 「じゃあ……お爺ちゃん、案内を」
 『すまんのぉ、眼が悪くて』
 老爺(じょせい)は、紫乃の手を取り、その手に引かれて歩き出す
 
 「着いたよ、お爺ちゃん」
 まあ、当たり前だがそう迷うわけも無く、直ぐに紫乃たちは目的地にまで辿り着く。伊渡間中央駅8番ホーム。走り去る姿を撮りたいと嘘を言った、ひとつの列車が其処には停まっている
 深い緑を基調とした、高級そうな列車。大都市を日のあるうちに出て、夜通し走りぬけて海を越えた北の観光地へと続く、寝台特急
 その一車両の扉まで女性(アサシン)の手を引き、紫乃は……漸く気が付く
 だが、遅い
 そもそも話し掛けてくる老人以前、電車が好きだから見に行きたいといった話から全て仕込み。自由なんぞ、俺が求めていいような低俗な権利じゃない。全ては、今日考えた紫乃の安全を確保するための劇。脚本に取りかかった当日には本番の即興だが、どうせ離れるならバカンスでもしておいて下さいとフェイが特急券寝台券をしっかりと一昨日の荷物に仕込んであったから問題ない。そうして、紫乃は無駄に俺を信用し、罠に深くはまりこんだ。後はただ、号令するだけ
 「頼んだ、アサシン!」
 『任された』
 「ちょっ、かーく」
 言い切ることすら出来ない。既に腕は老人の姿を見せようと頑張っていたアサシンに捕まれている。成す術なく、紫乃の小さな体はアサシンに引き摺られて車内に消えた
 そうして扉は閉まり、遥か北の観光地を目指して、特急列車は走り出す
 最早止まらない。いや、予定された駅には当然止まるが、それは大分後の事。それから万が一戻ろうとした所で、まともに伊渡間まで戻ってくるだけの列車は既に無い。荷物を置いていかせたのが少し気掛かりだが、紫乃に暫く持っていてくれと言ったあの中にはフェイから貰った生存資金の半分叩き込んであるから生き残れるはずだ
 
 止まれない。どうせ今日、全ての決着が付くのだから無意味だとしても。せめて俺が勝てなかったとき、紫乃だけでも無事であるように
 小さくなって行く列車を見ながら、俺はそんな事を思っていた
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