『それで?勝つ見込みはあるのかしら?』
日が暮れる前、夕焼けが空に赤く残る頃。合流早々、セイバーはそう言葉を発した
「勝つさ」
答えは、答えになっていないもの。勝てるとは言わない。事実、勝てるかは微妙な話なのだから
アーチャーが居てくれればとは思うが、無理な事を言っても仕方は無い。やるしかない、それが唯一の真実だ
寧ろ、事此処に至って、
「出来れば、ミラの動向を……」
『わたしを呼んだかな、フリットくん?』
その声は、何処か疲れた感じで、横から聞こえた
『こんばんは、フリットくん』
「ああ、こんばんは、ミラ。お疲れ様のようだな」
そんなやり取りに、微かに見てとれる疲れはそのまま、少し乱れたシスター服はそのまま、金髪の少女は微笑む
『わたしはこれでもルーラーさんだからね、やらない訳にはいかないよ』
『へぇ。出来るものだったのね、意外だわ』
「おい待てセイバー」
あまりにあまりな言い方に、少しセイバーを咎める
確かに、俺の知る限り、ミラのニコラウスというサーヴァントは、直接的な戦闘では無類の強さを誇る。自分でも何故勝てたのか未だに分からないあのアーチャー相手に戦えていた事もあるし、何度か迷いから大きく手加減された状況で、それでも消えかけの光明を掴み取る事で漸く生き延びてきた俺自身が、それは良く知っている。だが
『ううん、大丈夫。セイバーさんの言う通り、わたし、裏工作とか得意じゃ無いしね』
アルベール神父は得意なんだけどね、とミラは苦笑する
そうだ。その通り。少し話に聞いていただけでも分かる。サンタクロースは直接的にプレゼントを枕元に置く。ミラのニコラウスは、生き様そのものが聖人であり、異端に対しては直接拳で語ったという。そんな人に、裏からばれないように策略巡らせろというのが、まずおかしいのだ
「神父は」
『行方不明だよ、今も』
『森に居る』
ミラの声に被せるように、霊体化していつの間にやら戻ってきていたアサシンが抑揚の無い声で告げた
紫乃が今更降りても帰ってこれない駅を越えたらどうせそのうち戻ってくるだろうと信じていたので、帰ってきた事自体は驚きはない
だが、森に居ると明言した事には、少し違和感があった
「理由は」
『知らない。興味ない』
けれども、とりつくしまは無い。話は続かない
そもそも、頼んでもいないのだ、この点でアサシンには期待していない。単に確認である
『それで、フリットくん。わたしに聞きたいことって何かな?』
寒っ、と首に巻いた赤いマフラーに手を埋めながら、ミラが問い掛ける
「……何だかんだ、使ってくれてるんだな」
口をついて出てきたのは、そんな言葉。本来の質問とは全くもって違う無意味
『うん、珍しくフリットくんが自分の意志でくれたプレゼントだからね』
そう言って、ミラは柔らかく微笑む
そのどこか弾む声音に絆されかけ……奥歯を噛み締めて表情を保つ
騙されるな。語るに堕ちるな。貴様にこれ以上の幸福など勿体無い、昼間に散々得ただろうに
「そうか。似合ってる」
だというのに、そう褒める
『ふふっ、わたしもそう思うよ。ありがとね、フリットくん』
「ああ、喜んで貰えて良かったよ」言葉を紡ぐミラの表情は分からない。目を閉じて、そう俺は答えた
この決戦で、心の刃が鈍らぬように。言わなくても良い弱さをさらけ出した、自業自得には目を瞑って
『あー、はいはい。惚気なら他でやってくれる、
『「惚気てない」』
つまらなさそうに肩をつつくセイバーに対し、そう言葉を被らせる
それが、どこか……まるで平和な世界の事のようで可笑しくて
「ミラ、現状に対する理解は?」
話を無理矢理に、本筋に戻す
『何度か、警告したんだけどなぁ……』
返ってきたのは、そんな返事
警告、フェイと話した時に、それに関しては聞いたことがある。街に居る人間の失踪騒動としても
そう、吸血鬼と化した人間を、既に死んでいるという摂理に還し、その遺骸をヴァルトシュタインの森に置く事で、これ以上関係の無い人に被害を出すな、という警告をしたのだろう、と
「また、居たのか」
『うん、居たよ。寧ろあの時よりずっと増えてた』
悔しそうに、ミラは手を握りしめる
『弔ったけど……辛いね』
「……このままでは、更に増える」
『フリットくん?』
少し怪訝そうなミラに、ポケットから取り出したスマートフォン。その画面を見せる
『これが、フリットくんをあそこで支えてた子からのお手紙?』
「重要なのは内容だ」
『それはそうだけどね』
「フェイ達については……考えたくない」
味方とは限らないから。だとしても、俺が俺として生きてきた一年足らずで、温かかった記憶は、ミラとのもの、フェイ達とのもの、そしてヴァルトシュタインに反旗を翻した時からのもの。その温かさの約6割を、今から潰すことになるかもしれないのだから
考えたくはない。考えなくて済むならそれに越したことは無い。性能だって、そこらの魔術師よりは強い、程度だ。勝てないことなんてヴァルトシュタインも分かっているだろう。だが、それは俺相手にぶつけない理由になんてならない。寧ろ、相手がそれで動揺してくれるならば万々歳、積極的に使うまである。それをフェイ自身が望む望まざるに関わらず、吸血鬼化させられれば俺と対峙する事になるだろう。俺自身、何故一月前に刻まれた吸血鬼の血で作られた疑似令呪が破壊されたのか理屈が解っていないのだ。抵抗など例えしたとしてもまず無意味だ
だから、実際に対峙するまで、無かったこととして考えないようにする。心の平穏の為に
……裏切るだ何だいっておいて、情けないとは自嘲するが
暫くして、ミラがメールを読み終わる。その表情は、どこまでも真剣なものだった
『これ、本当?』
「知るか。フェイは無意味な嘘は多分つかないだろうが、これが本当にフェイからのメールなのか、それとも既に吸血鬼に血を啜られていて、バーサーカーの思惑によりルーラーを
どうしようもなくて、首を振る
そう、実際に昨日の事が記事にされていた、そこまでは間違いなく真実だ。俺の知る限りのシュタール・ヴァルトシュタインの性格として、速攻を仕掛けてくるのも
だが、街が終わるというのが真実かは解らない。言葉を鵜呑みにするならば、バーサーカーは今夜街に現れるのだろうが……
『やる。間違いなく』
それを肯定するように、アサシンは呟く
「アサシン、どうしてそうと分かる?」
『「ボク」の記憶』
「何?」
僅かに、ヒントになっていた気がした。アサシンが、何故俺を助けてくれたのか……
『ぼんやりしてる。けど、バーサーカーが仕掛けてくるのは、分かる』
「要は、吸血鬼へのカウンターとしての勘か?」
『いぐざ……いぐざくと……』
『exactly、よアサシン。
無駄に格好つけるなら一度で決めて欲しいわね』
『そう、いぐざくとりぃ』
「そう、か」
アサシンの言葉は、まあ、信用できるかもしれない
だが、乗る気はあまりない。決戦の地は本邸。そうでなければ、あまりにヴァルトシュタイン邸地下に安置された聖杯まで遠すぎる。手にするまでに時間が掛かりすぎてどうしようもない。あのヴァルトシュタインがキャスターやらライダーやらのマスターに聖杯に近付かせる訳はないが、それでも距離があれば、バーサーカーを倒した後、三騎の魂を叩き付けて俺が聖杯を起動するより、残りの二騎が未覚醒の聖杯を手にする方が早い
つまり、やることは一つなのだ
「セイバー、アサシン」
横の二人を見て、語りかける
「相手がどう思っていようが関係ない。デイウォーカーだろうに、吸血鬼の力が強まる夜まで待った事が敗因だと教えてやる」
そう、つまり此方の作戦は更に簡単
今日決着を付けに来るというならば、出ててこられる前に潰す。更なる速攻戦だ