『……待て、
その足を、バーサーカーの言葉で止める。翼を逆展開、前方へ軽く魔力を噴かせ、急静止
『……劣等種はやはり劣等種か
取るに足らぬ生で、取るに足らぬ下らぬ交友があったのだろう?』
何時しか、バーサーカーの横には三つの影があった
銀髪の少女。銀髪狐耳の中性的な青年。桃髪狐耳の少女。その三つの姿が
……けれども、その瞳は一様に
何だ、それだけか
そう、心の中だけで嘲笑う。例え、フェイを人質に取っていたとしても、それが何だというのだ。意味なんて欠片もない
けれども、そんな内心を隠し、剣を降ろして僅かに震える。奥歯を噛んで、悔しそうに
『……情はあったか』
ねぇよ、と返したくなるので、口を開かない
そもそも、降霊術師としての神巫雄輝の瞳が告げている。魂が他のホムンクルスと同等に不完全だと。成功例程完全に近い魂を持つのだが、眼前のフェイ等は何時もより魂が不安定。同型ホムンクルスだろうと
だが、例えそれがフェイ本人だったとして
……今更だ。今更どうして、フェイは斬れない等と言えるだろう。立ちはだからされたホムンクルス達とフェイと、何が違うというのだ
明確な自我を持つこと?俺自身との関係性?フェイが可愛い少女の姿をしていること?それとも、俺がフェイに恋愛感情かは兎も角特別な好感を持っているという事実?
何だそれは。何なんだその理屈は。そんな程度の事で、誰かを特別視して良い訳があるか。誰しも、誰かにとって特別だ。命そのものの価値に元より差など無い。王公貴族だろうが何だろうが、この世界を生きる命としては等価なのだ
……俺は、その命に差を付けた。俺は、彼の嘆きを見過ごせない、そんな悲劇を赦すものかと、あらゆるものよりも、神巫雄輝を上とした。今更大切な人が敵になった程度でそれを鈍らせる程度ならば、元から誰も斬るな。生きることの幸福ならば、勿体無い程に享受して知っているだろうに
だが、そんな事はつゆ知らず、バーサーカーは嘲るように俺を見下し、吐き捨てる
『所詮、結末等初めから決まっていた事』
と
瞳を閉じる。翼を形成する魔力を薄れさせ、微かに陽炎のように揺らいだその姿が見える程度まで出力を落とす
それこそ、諦めたというように
『……価値の無い劣等種が。手間を掛けさせる』
バーサーカーの言葉が耳に響く
……全てを、右の手に降ろしながらも強く握りこんだ剣に集中する。そうして、手を放す
剣が、魔力の導線を残したまま床に落ち、軽い金属音をたてた
『ふん』
鼻で笑う音が聞こえる。バーサーカーは勝ち誇っているのだろう
勝手にしてろ、勝負をかける
バーサーカーという男は、割と執念深い。ここまで虚仮にされた相手をあっさり殺す事は無い
故に、暫くいたぶるだろう。それで良い
勝負とは簡単。強引に、今の俺の魔力でもって輝く紅光の剣を導線として、バーサーカーへと旭光を誘導する。<
これは単なる賭けだ。誘導を作れなければ旭光は俺を滅ぼす為に降り注ぐだろう。あれはそういうものだ。だが、人質作戦で勝ったと思い込んでいるバーサーカーは、その為の時間をくれるだろう
『幕切れは呆気なかったな。結局、屑か』
口は開かない。目も開けない。唯、落とした剣にのみ意識を向ける
体に走る衝撃。足が痛み、立っていられなくなる
……蹴られたのだ、と遅れて理解する。気にせず、意識を戻す
「『……顕彰せよ、我が虚空の果ての宿星よ』」
バーサーカーに聞き取れぬ程に小さく、その言葉を紡ぎ始める
詠唱無しで撃てるシロモノではあるはずだ。今の俺には、ほぼ完全詠唱でしか扱えないというだけ
来るべき止めに向けて、今から進めておく
『……何だ、命乞いか?聞き取れんな』
『聞き取る必要も無いでしょう?』
セイバーの声が響く
恐らくは援護。全くもって諦めなど無いと知れば、バーサーカーは流石にいたぶるのを止めるだろうから
……セイバーとて知っているのだろう、俺が例えフェイだろうがミラだろうが紫乃だろうが、大切な人が立ちはだかろうとも止まりはしないと。こんなもの、演技だと。全く、信頼されている
『……セイバー、そこの屑を救わんのか?』
『独りでは勝てない事なんて知ってるもの
あの人が関係ない以上、無駄な事はしないわ』
『鞍替えすか?』
『冗談は真っ昼間に言ってくれる?と告げたわよ
勝てないとしても、吸血鬼なんかのレベルになるのは御免よ
軽く冗談めかした口調で、セイバーは告げる
軽く、笑う
つまりは、現状は死ぬまでは見捨てる気は無いという話。セイバーとの関係からすれば、有り難いことこの上ない
「『紅に輝く箒星 虚無に光を 未明を解きて畏れ来よ』」
……心の赴くままに、言葉を紡ぐ
何処かあの日とは違う気がするが、それはあの日の俺と今の俺の差だろうか
「『蒼星が夢を満たさんが為に 猛る怒りが俺を灼けど』」
全てを集束する。周囲に撒き散らしていた魔力を、剣という一点に集約する。散布した魔力は俺にとって生命線、縮地で
「『されど未来は遥か 我が翼に在りて
『ぶつぶつと!命乞いならば、堂々とせんか!』
バーサーカーの言葉は無視
体が串刺しになっている気もするが、そんな事はどうでも良い。痛みすら集中の餌として使い潰す。余計な思考の大半を鈍い激痛で塗り潰し、ただただ、剣に意識を向ける
両太股?右掌?好きなだけ貫け、くれてやる。今のうちに心臓部を……今の俺の核を成している指輪を砕かないのが貴様の馬鹿さだ
『……それとも、貴様……
死ぬ前に、せめてそこの人形共とどうこうという話か?』
『……確かに、
死ぬ前にせめてというのも、反応としては分からなくは無いかしら』
……セイバーが、少しだけ嫌そうな声音で、それでもバーサーカーの何処か下世話な話を繋いでくれる
……有り得ない、話だ
有り得ない仮定としてフェイから求めてくれたならば兎も角、自分から?寝言は冥府で言え。自分にそんな価値があるなんて、そんな嘘を俺は信じちゃいない
そんな無駄な思考を、新たに腹部に産まれた灼熱感でかき消す
「『暁は既に神話の彼方
……ふと、下半身が涼しいことに気が付いた
さっきの下世話の続きだろうか。変化したシャルワール風のズボンが血の刃に斬られ、意味を為さなくなる。知るか、無視する
『……涙を流して乞えば、考えてやらんことも無いぞ?
もう少し、この人形相手に楽しませてくれると思ったが、即座に諦められては詰まらん
……それにしても、粗末だな』
はっ、と馬鹿にした嘲笑
……知るか。勝手に言っていろ。神巫雄輝は兎も角、俺自身は使うことも無い機能だ。どうだろうと関係ない
『セイバー、貴様も見ると良い
良い見世物だ』
『嫌よ
あの人のならば良いけれども、他の汚いものなんて見たくもないわ。潰したくなる』
セイバーは、そう切り捨てた
『詰まらん反応だな』
『……
……セイバーの声がする
つまりは、バーサーカーの望みを叶えてやれという言葉
「……言えば良いのか?」
言葉と共に、微かに頬に柔らかなものが触れる
……指。柔らかく、肌触りは心地好く……確実に、フェイのものではない指
……バーサーカーの、というよりも同型ホムンクルスでの疑似人質作戦を考えただろうヴァルトシュタインの詰めの甘さに笑えてくる。やはり、正義に人質は似合わない。フェイの指は、もっと肌が荒い。幾つもの細かい傷があって滑らかではなくて、けれども少なくとも、新品ホムンクルスの滑らかな傷の無い指よりよっぽと触れていて心地好い
『……何が可笑しい』
バーサーカーの苛立ちと共に、肩に痛みが走る。肩を砕かれ、腕が動かなくなる
……それがどうした。今はほぼ消しているとはいえ、翼で腕の代役くらいは果たせる。ならば腕など御満悦のバーサーカーにくれてやっても全く惜しくない
……続く言葉が見付からない
詠唱が滞る
魔力を集約は出来たが、導線にはまだならない
……苛立ちが募る。情けないと、心が叫ぶ
『ああ、そうか』
得心がいったとばかりに、掌を打ち合わせる音が響いた
『最後に、本懐を遂げられると思って笑ったか?』
……勝手に思っていろ、という無駄な思考が、新たな激痛に消える
『……笑うほど喜ぶ事を、させてやる訳が無かろう』
バーサーカーの嘲笑が、脳に響いた
……痛みの在処は股間。おそらくはバーサーカーが潰したのだろう
馬鹿かあいつは。俺相手に狙わなければならないのは、
「『落涙は怒りに
怒りは正義に
正義は勝利に
涙は星の果てに勝利を刻む』」
けれども、これは一応神巫雄輝の体で。それを傷つけられた事への理不尽な怒りが、言霊を引き出す
『泣き叫ぶくらいは、楽しめると思ったが
……泣き叫べよ』
『
『酷い話だ
「『勝利の名の基に
……詠唱がほぼ完結する
体が、貫かれた数点で持ち上げられるのを感じる
……磔でも目指しているのだろうか
だが、血の十字架でも作って縛ればそれで終わるというのにバーサーカーはそれをしない
『……いい加減に、目を開けよ
絶望せず死なれては詰まらん』
瞼を斬られ、捲られ、強制的に左瞳が露出する。斬られた瞼の残骸が視界にかかって煩わしい
言われずとも、直ぐに開いてやったというのに
左腕はより根元で、両の足は足首と股で、右腕は掌と左腕と同じ箇所で。ご丁寧に股間と喉にも。9箇所に血の杭が打たれ、落とした剣から離れた壁に磔にされる。何処か、解体新書に乗っていた人間図の一つに似ている格好だな、とそんな事を思い付き、集中が甘いとこんな時なのに苦笑する
痛みは、ほぼ麻痺した。傷付き過ぎて逆に痛くない
……本当に、バーサーカーは阿呆だ。セイバーが言葉で稼いでくれた少しの時間もあって、寸での所で魔術は完成した
……遊ばなければ、勝てたものを
『さらばだ、忌々しき劣等種』
バーサーカーの纏う血のマントが錐のように丸まり、俺の心臓を漸く狙う
俺は……
それを無視し、バーサーカーに空けられた脇腹の穴を通すように、同じく槍のように変形した両の翼を展開、左翼を錐と共に砕け散らせ、右翼を振るってバーサーカーへと剣を掬い上げるように撥ね飛ばす
「ああ、さよならだ、冥府で待ってろバーサーカー
破壊せよ」
心臓が、熱く鼓動する。指輪が、どこまでも未来を廻り、既に使い潰して存在が無いはずの十数年後の俺に辿り着き、その魔力をもって限界を越えて駆動する
「<
その瞬間、バーサーカーのマントに突き立った剣をポインターに滅ぼすべき
『なっ、きさ……貴様ぁぁぁっ!』
そして、夜の王を名乗った男は……人質としてずっと横に控えさせるだけ控えさせていて結局無意味だった人質擬き達と共に、旭光の中に消えた