Fake/startears fate   作:雨在新人

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"夢幻の光剣"結 ⅡvsⅣ
八日目ー吸血鬼夜話・事後処理


旭光が、ふっと消え去る

 世界に、薄暗闇が戻ってくる

 

 既に、バーサーカーの姿は無かった

 その魂の総体を、そして血の一滴をも含む肉体全体すらも星の涙の前に"勝利"され、吸血鬼そのものとなったサーヴァントは消えた

 

 『……道具(マスター)、終わったのかしら?』

 さあ、なと答えようとして、口からは微かな風切り音のみが響いた

 喉の傷からか、まともに言葉を発せない

 

 関係ない、魔力を通せば発言は出来る

 そう切り捨て、魔力を回そうとし……

 

 それすら出来ずに、口だけが動く

 何故だと思うも暫し、事実に気が付く

 ……それこそどうしようもない事を

 

 右の瞳から、微かな光が漏れ、真実を照らす

 即ち、残りの寿命。4日と3時間。充分だ、と言えるほど残ってはいる。だが、今それは4日と2時間に減り、すぐにでも4日ちょうどになるだろう

 

 土台、あくまでも人間ベースで、旭光を放つなど無理だったのだ。俺自身は発動指示しかしておらず、現実には俺でない誰かが空の彼方から放ったものだとはいえ、発動時に荒れ狂う魔力の余波だけで、ザイフリート・ヴァルトシュタインという霊基にはヒビが入った。バーサーカーに空けられた穴が空気抜きの役割を果たしていなければ、それこそ空気を入れすぎた風船のように破裂して弾け飛んでいても可笑しく無かった

 

 ……つまりだ。既に壊れてしまったから、動かなくなったというだけの事

 足が機能を保てず、体が傾ぐ。

 修復して体勢を建て直すなど不可能、そのまま荒れに荒れた床に倒れ込む

 かしゃん、と硝子が割れるような、けれどもそれよりも軽い音をたてて、肩口から左腕の残骸が砕け散った

 

 痛みすら無い。恐らく、痛覚神経は既に砕けた。魔力回路代わりにこの一年ずっと魔力を無理矢理通していたのだ、寧ろ良く持ったと言えるだろう。同じく代用回路としていた血管系が砕けなくて幸運だった

 

 『……大丈夫?』

 ……遅いぞ、アサシン

 近付いてきた影に、そう口を動かす

 言葉は出ない。僅かに残った魔力は残存時間が分かった今、最早言葉を交わす程度の事に使うわけにはいかない

 

 『……遅くなった』

 『本当に遅いわね、アサシン

 バーサーカーは吸血鬼、貴女が倒すべき相手だったでしょうに』

 嫌味を込めて、セイバーが呟く

 ああ、やだとばかりに、少しわざとらしく、戦闘で鮮やかな赤い服に付いた埃を払うように手を服に擦りながら

 アサシンがしっかりしていれば、こんなに汚れなくて済んだとでも言いたげだ

 『これで問題ない。時の果ての狩人は、「ボクの希望」だから』

 『……何よ、道具(マスター)が、バーサーカーを倒すのが正しいって言うわけ?』

 こくり、とさも当然だと言いたげにアサシンは頷いた

 『だから、「ミー」はライダーを任された』

 『へぇ。大層な話ね

 それで?ライダー相手に役目は果たせたのかしら?』

 『死ぬほど痛かった』

 『あっ、そ』

 

 アサシン相手に吐き捨てて、セイバーが靴音を立てて俺の所へと歩み寄る

 流石に中腰から更に腰を落とした……所謂DQN座りに近い形になるのはプライドが許さないのか周囲の瓦礫を軽く払い、かつてはそれなりに良いカーペットだったものの上に、足を追って座り、その細く白い右の手が、投げ出された俺の頭の顎を下から支え、持ち上げた

 セイバーの顔を見るように、上を向かされる

 それなりに責めるようなエメラルドの瞳が、真っ直ぐ俺を見た

 

 『それで、道具(マスター)

 聖杯は何処にあるのかしら?』

 ……流石に、これに答えない訳にもいかない。口に魔力を込め、魔力で空気を振るわせて音を立てる

 ランサー、アーチャー、バーサーカー。少なくとも三騎の魂が貯蔵された状態ならば、聖杯の鼓動はセイバー等にも既に感知出来るのではないか、という疑問は、まあ場所が場所だから仕方ないかと葬って

 

 「……穴の、先だ」

 『穴?道具が空けたこれかしら』

 「ああ。聖杯は竜脈の中、ヴァルトシュタインの当主しか辿り着けないようにブリテンの森から更に一つ次元を隔てた地下室に納められている」

 『呆れた。本当に他のサーヴァントに勝たせる気が欠片も無かったのね、この聖杯戦争』

 顎の下から冷たく冷えた手が抜かれ、頭がゆっくりと瓦礫の中に下ろされる

 

 『ええ。有り難う道具(マスター)

 どうせもう持たないだろうから先にお礼を言っておくわ

 有り難う、私に聖杯を取らせてくれて。ランサーに勝手に自滅する形で逃げ切られたのは許せなかったけれども、結末は悪い形ではな……』

 聖杯に願いを託すサーヴァントとしては当然のその言葉を、セイバーは続けられなかった

 『問題ない。「ボク」が連れていく』

 霊基が砕けた俺の体を、軽いもののように拾い上げ、背負ったアサシンによって

 『だから、お礼はまだ言わなくて良い』

 

 「そもそも、6騎の魂が要るんだ、セイバー

 自分の魂すら使わなければ意味がない」

 『知ってるわ。けれども構わない

 受肉した所であの人の居ない世界で生きるなんて御免よ。だから願うのよ。聖杯の力をもってあの人を甦らせ、奇跡を起こすエネルギーとしてその魂を惨たらしく使い潰す事であの女に復讐させてって

 二つも願いが叶うのだから、どうせどんな形で聖杯戦争を終えても受肉を願わない限り残れないこの私(サーヴァントの体)なんてどうでも良いわ、それで躊躇すると思っていたならば御愁傷様

 

 というか、貴方自身にも跳ね返る言葉だって……』

 ふと、セイバーは遠い眼をして、首を振った

 『流石に、分かってないはずもないわね道具(マスター)だもの』

 そして、そのままその姿は、銀光を揺らして、旭光が次元を越えてぶち空けた穴へと消えた

 

 「……アサシン、お前は?」

 『……聖杯は、どうでも良い

 「わたし」は「ボク」の願い通りに、「俺」の思うままに、助けるだけ』

 ……何処か、さっきの言葉と合わせて、アサシンどうして俺を助けてくれたのか分かった気がして。そう、あの夢は、獣でない頃の俺は、そして、彼女が夢よりもはっきりしていたのは……

 『ちょっと、急ぐ』

 けれども、その思考を中断させるように、アサシンは俺を背負ったまま、穴の中へ駆け出した

 

 その輝いていない杯は、数分もかからない場所に安置されていた

 ヴァルトシュタインの聖杯。今回の聖杯戦争を起こした力。森の中に通るという竜脈の集合点に眠る7度全ての根底にあるというヴァルトシュタインの大聖杯から削り出された七つの金属を、魔力という酒を湛える杯としてアヴァロンの魔術師☆Mが加工したという願いを叶える魔術師の悲願

 だが、されども、その杯は沈黙を保っていた

 

 『……道具(マスター)、嘘はいけないわね』

 セイバーが、理解できないと言いたげに、安置されていた黄金の杯に手を触れる

 当然ながら、何も起きない

 

 「……正義は、敗れてはならぬ故」

 ふと、後方からそんな声がした

 俺だけは、聞いたことがあるだろう声が

 「正義の前任、グルナート・ヴァルトシュタイン」

 立っていたのは、杖をついた一人の老人だった。ヴァルトシュタインの当主にしか伝えられない辿り着く方法を実践し、穴を空けて不法侵入した俺達とは異なり正面から正規の方法で、その男は其所に現れていた

 実は、その姿を見たことは無い。彼が目の前に居たとき、眼は魔術を撃ち込まれ、変貌の為に一時失明していた。だから、声を聞いただけだ。俺が俺となるその日に、神巫雄輝を砕いた、改造者の一人として

 

 仇として、剣を振るえたら楽だろう

 だが、俺にはそんな力も権利も無い

 『何の用かしら?』

 「……正義に挑む悪魔よ。その根源より『回帰』に歪められた生来の怪異よ

 去れ。聖杯は貴様等が手にして良い低俗なものではない。それは、正義(ヴァルトシュタイン)のものだ」

 『あら、貴方がた自称正義の掲げた最強のサーヴァントならば、さっき消えたわよ

 哀れなものね。勝利だけを求めてあんな下郎を呼んだ癖にああだもの』

 「……だから言ったのだ

 正義は敗れてはならぬ故。正義に敗北は無い」

 『……まあ、正義教徒は分かりにくいので、分かりやすく言いましょうか』

 その老人の後ろから、銀髪が覗いた

 

 ……フェイ。S045。部屋に籠ったグルナート・ヴァルトシュタインが、自ら呼び込む事がある唯一のホムンクルス。人造のサーヴァントとしての性能は兎も角、外見の可愛らしさとメイドとしての能力は成功そのものの、銀のアーサー王(アルトリア・ペンドラゴン)

 

 「……フェ、イ」

 『喋らないで下さい。一言2分ほど、砕けるのを待つだけな今のアナタは寿命を使います。死にたいんですか?』

 呆れたように、銀髪の少女は告げた

 『で、この正義教徒なご主人様(マスター)が言いたい事は簡単です

 正義は敗けない。負ける事は許されない

 だから、正義(ヴァルトシュタイン)は敗けないし、そのサーヴァントであるバーサーカーも滅ばない

 そういうことです。この聖杯戦争は、どこまでもヴァルトシュタイン本位なんですよ』

 

 『……へぇ、証拠は?』

 「正義の血統は此処に在る

 バーサーカーの血が、此処に残るのが証左だろう」

 引きずるほどのコートから、老人が一つの硝子のような透き通ったシリンダーを取り出す。その中には、魔力を感じさせる紅の血が注がれていた。確かに、バーサーカーがマントにしていたものと同様のもの

 

 「何故だ」

 『その瞳で分かるでしょう?無限の記録に対し、その瞳は『回帰』でハッキングをかけるものですから

 答えろと言えば答えます』

 フェイの言われるままに、バーサーカーの生死を心の中で問い

 閃く光と共に理解する

 

 バーサーカーは、生きている。被害者が新たな吸血鬼となり続く恐怖。即ち、本体移転能力

 バーサーカーはあの時、ミラの令呪でもって一秒に一度死に続けていたのではない。何秒かに一度の死に合わせ、あの姿に溜め込んだ魂を、何処かの別の吸血の犠牲者へと渡していた。だから、毎秒死んだように見えていただけ。そして、最後の光に飲み込まれながら、自身の魂すら移し終えた

 旭光は、後に残った4000だか5000だかそこらの移しきれなかった魂と、バーサーカーの旧本体を勝利の彼方に消し去っただけだったのだ。バーサーカーそのものは、数百の魂と共に抜け出していた

 ……彼処に立つバーサーカー本体の残り魂数だけを見ていたが故に、そんな簡単な事にすら、気が付いていなかった

 ……情けない。こんなで、バーサーカーが馬鹿だから勝てたと思っていた自分の馬鹿さに反吐が出る

 

 『……命令は?』

 アサシンが、問い掛ける

 行くか、残るか

 決まっている。答えは一つしか無い

 

 例え勝ち目など見えなくても、此処に居ても霊基が砕けきるのを待つのみ。諦めない事、その意志だけが、ザイフリート・ヴァルトシュタインが持っているものならば

 『……行ってくれ、アサシン

 聖杯戦争を、終わらせる為に』

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