Fake/startears fate   作:雨在新人

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八日目断章 惨劇の結末

空が、悲鳴をあげた

 そうとしか、思えなかった

 あの日、わたしは一緒にアーチャーを止めたくて、しっかりとあの光を見ていなかった。けれども、今、理解した

 

 ……あれは、文字通り星の涙なのだ、と。間違いなく彼の宝具の一つである<竜血収束・崩極点剣(オーバークランチ・バルムンク)>とは、彼という……ビーストⅡという世界を破壊する悪魔に蹂躙された星々の嘆きと怒りなんだと

 

 空間は隔てられている。ブリテンの森でそれこそ殆ど何をしようとも、位相が違う現実世界には何も影響は無い。そのはずなのに……少なくとも、対界宝具である<天斉冥動する三界覇(ブラフマーストラ・ヴァジュラ)>ですら、恐らくは局地的な小地震で済む程には隔てられた世界のはずだというのに。って世界を隔てた場所で撃っても局地的な地震くらいは起こるあっちはあっちで、流石は天界地上冥界の三世界を貫いた力っていうか聖杯からの知識にだけはある天の理の顕現レベルにはおかしいけれども、そんな事はアーチャーが居ない今はどうでも良くて。現実では不要ゆえにこじんまりしていてあの世界でのみ豪邸なヴァルトシュタインの館を貫く降り注ぐ旭光は、現実へとライダーを追ったわたしの目にもはっきりとした光柱として、確かに其処に有った

 

 『……フリット、くん』

 止めないと。手遅れかもしれなくとも

 けれども、その光は、数瞬の、それこそ三秒にも満たない時間の照射を終え、直ぐに消える

 

 そうして、わたしは自分の周囲に気が付いた

 唐突に電池が切れたかのように崩れ落ちる人人人人人

 幾多の人形(ひとがた)。その残骸は沈みかけの木漏れ日に照らされ、灰となって消えてゆく。積もるかつて人の姿をしていた者の灰を吹き散らす程の風は吹いてはいないはずなのに、ありもしない風に煽られて、大気の中に溶けて見えなくなる

 わたし達サーヴァントや、魔術師であれば侵入は容易く、わざわざ普通の森を通る必要なんて何処にも無いからと候補から遠ざけていた現実の森に、わたしが踏み込んだその瞬間は確かに居た、それこそ大軍団とも言えそうな彼等は、わたしが旭光に眼を奪われていた5秒程で、数えるほどしか居なくなっていた

 ……この現象には、見覚えがある。というか、ここまでの規模でなければさっきも見た

 バーサーカーの中に捕らわれ構成要素となっていた魂が消滅した際に、吸血鬼と化していたその肉体に起こる反応だ。魂を喪い、吸血鬼と化した肉体が、日光の中にその実在を保てなくなる。夜であるならば、遺体は残るかもしれないけれども、少なくとも本来の状態(死人)に戻り、動かなくなるのは間違いない

 

 けれども、ぽつぽつと、人影は残る

 20、30……36。たったそれだけのホムンクルスが、其処には残っていた

 ブリテンの森に戻った際に殆ど切れかけて半自動にしていた分身とパスを繋ぎ直し、街に侵入していたホムンクルス等が何れだけ残っているかを判断

 数秒後、恐らくは42体と理解する

 

 『どうしようかな……』

 思わず、そんな言葉が漏れた

 バーサーカーは恐らくまだ生きていて、けれども旭光によってその魂の9割以上を喪った

 それは良い。良いけれども、結果として……潜入を果たしていた何人もの吸血鬼が、"目の前で人間が唐突に灰になって消える"という怪奇現象を魔術に関わらない人々に対して見せ付けたという事になる。一人、二人ならばまだ幻覚でも見たってあっさり誤魔化せるんだけど、見た人間は恐らくは三桁に軽く届く。その全てを集団妄想や幻覚として流す事は流石に厳しい。秘匿を護るために処分するなんて言語道断

 だから、難しい。此処まで来てしまった事態を終息へと向かわせる上手い言い訳が思い付かない

 

 事態はほぼ終わり

 だから、その発動を見逃した

 

 『夜の帳は今ぞ降りる』

 生き残りは居る。バーサーカーは滅んではいない

 だから、早急に止めを刺さなければいけなかったのに。日暮れまでまだ数分。その時間があるから、見落とした

 

 辺りは、闇に包まれる

 空に輝くのは、冷淡な光を湛えた蒼き月。夕焼けの中姿を見せ始めたばかりであるはずのそれが、中天にその偉容を見せつける

 ……固有結界。自らの精神世界でもって世界を塗り潰す大魔術。人間の中にも辿り着いた者は居るとは言われるけれども、本来は……"人類による歴史に対する力"。人類の刻んできた歴史(世界)を自らの法則で塗り潰す、吸血種が扱う対人理の魔法の域に手が届きかけた魔術。そう、彼が……バーサーカーが本当に吸血種の象徴としての吸血鬼ならば、持っていても可笑しくは無かった。世界を夜に塗り替える固有結界。夜に吸血種の精神世界は夜以外では有り得ない。それが世界を塗り潰した瞬間、其所は時間に関わらず夜へと堕ちる。そんな事、分かるはずなのに……!今まで使ってこなかったから、失念した。生前に対峙した中にも固有結界をまともに扱えるのは両手で数えれば余る程度だったから、警戒が薄かった

 

 けれども、と少しだけ心を落ち着ける。此処は森。例え夜になろうとも、人は居ない

 ……けれども

 

 『……正義とは勝利だ』

 一人のホムンクルスが、そうぽつりと呟く

 ……姿は、違う。かつてバーサーカーとして現れた彼のような、2m近い偉丈夫ではなく少年と言えるだろう。寧ろ、彼に……ザイフリート・ヴァルトシュタインに良く似ている。とはいっても、髪は黒いし、赤い瞳も彼よりも深い色で、見ていて気分が悪くなる血色。そして何より、肌は例え白人でもこうはならないというくらいに生気の無い白さだけれども、造形そのものは非常に似かよっている。彼自身、髪が白いのは単純に白髪だし、肌の色も魔力を全身に流し続けた結果の焼け付きだし、単純に白髪になる前の……完成直後の彼を目指したデッドコピーだろうか

 けれども、彼が今のバーサーカーなのだと、直感で理解し、わたしは軽く拳を握る。冬の森の中だというのに、空気は異様に生暖かく、ぬめっとして気持ち悪い。髪に、そして肌に絡み付く気がして、思わずパチパチと静電気レベルの雷を流して髪を洗う

 

 『つまり、負けた貴方は正義じゃないね?』

 『……そう、だなルーラー』

 けれども、バーサーカーには何ら焦りは無く、あくまでも堂々とそう返す。白い……訳ではなく普通に黒い髪が、僅かに嘲るように顔を揺らすのに合わせて揺れる。彼の顔で、彼がしないような自信満々な立ち姿なのが何処か可笑しかった

 『負けた、ならばそうだろう』

 ……やっぱり、声も彼に良く似ている

 

 良く見ると、堂々と前を開けた服の胸元に、きらりと月光を反射する銀が見えた

 目を反らしたくなる。何で、好きでも何でもない相手のはだけた胸を見なくてはと、少し思う。けれども、裁定者としての特権……聖杯に逆らう選択肢をした時点で制限の掛かった真名看破をそれでも行使し、真実を見極める

 

 ……見えない、か

 少し肩を落とし、息を吐く

 銀霊の心臓、未来より現在に向けて、その時間を生きる自分が持つ魔力(未来)を回帰するザイフリートの宝具。そのレプリカ品の真名は<偽・■王■す契■(プリズム・■■■)>。そこまでは読めても、それ以上に辿り着けない

 

 『勝利は、正義の礎にある』

 その瞬間、黒い少年の背から、紅が飛び出した

 血のマント。バーサーカーの象徴

 それと共に、魂としては吸血鬼(サーヴァント)であり、シュタール・ヴァルトシュタイン(マスター)でもあるその右手に、斬られて一度そのマスターの手から喪われたはずの紅が再び輝く。令呪、バーサーカーのマスターの証明

 にやり、と勝利の笑みの形に、顔が歪む

 気分が悪くて放った雷が、その姿を撃ち据えるけれども、灰になった中から、それはもう何事も無かったかのようそのニヤケ面は復活する

 

 『最後に教えてやろう、ルーラー』

 いつの間にか背後に造り上げた血色の王座に、少年の姿がふんぞり返る。大胆不敵に腕を組んで

 『何故、ヴァルトシュタインは勝利するのか』

 ……模した存在(ザイフリート・ヴァルトシュタイン)混ざった魂(シュタール・ヴァルトシュタイン)、それらの影響か、少しだけ誇らしげに、バーサーカーらしくなく、彼は口を開く

 

 『元より、劣等種共のチンケな街に出向く必要など無かったのだ』

 どくん、と。竜脈の中に安置された聖杯が、一瞬だけとはいえ鳴動した、気がした

 

 竜脈は伊渡間そのものに通っている。元々この地は、竜脈の通った森であった。故にヴァルトシュタインはこの地を選び、森を切り開き、集合点付近のみを森のまま残し、竜脈という巨大な力を礎に安定した隔次元、ブリテン領域に籠り世界救済に精を出した

 ……ならば、ならばだ

 竜脈を辿れば、目前にあるではないか。伊渡間という街が。人々が暮らす世界が

 ちょっと竜脈を弄くって、ブリテン領域を広げるだけで、領域は街全土を呑み込む

 

 そして、森が異次元と気が付かれぬように、一定の魔力を持たぬ普通の人間は、ブリテン領域に迷いこんだ際には"現実世界の森の対応する場所に戻される"

 

 そこまで一応調べておいた事を考えて、はたと気が付く

 そう、本当に、彼等は街になんて出向く必要は無かった。聖杯が彼等を勝者足るべきとして支援するならば、だけれども

 

 『跪く栄誉を与えよう、取るに足らぬ塵芥よ

 拝謁を赦す』

 その瞬間、ほんの一瞬、日暮れの街は、その地下に走る竜脈を通して、遥かな過去の海を隔てた遠い世界に極めて近い異次元に呑み込まれ

 其処に生きる全ての者は、そうあるべきとアヴァロンの魔術師☆Mに規定されたように、各々森の中へと放り出された

 

 止める間も、無かった

 残っていた、見えていたホムンクルス等は残らずロックオンしていた雷で吹き飛ばしたけれども、けれども足りない

 それでも数十の魂の残るバーサーカーは、そして何とかその存在を隠しきった片手で足りる数のアサシンを模したホムンクルス等は、確かにその牙を届かせた。突然の森の中に戸惑う、数万の中のたった数人にだけ。割合でいえば、ほんの小さなもの

 そして、姿を現したホムンクルス等は、何とかわたしとその分身が打ち砕く。後で纏めて祈るから、と謝って

 そして、残された吸血鬼は、バーサーカーただ一人となる

 

 だけれども、それだけで……数人を噛んだ、たったそれだけの事で、十分だった

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