水晶が乱立する
固有結界。その亜種。侵食固有結界と呼ばれる特異なソレ。全てを水晶に閉ざす、ねぼすけさんな蜘蛛が展開する異界常識。<水晶渓谷>
それが、森の一角を包み込んだ
咄嗟に展開に対応出来たのはわたしだけ。アサシンちゃんとフリットくんは、そのまま水晶に呑まれた。恐らくだけど、アサシンちゃんの目的はフリットくん。侵食する水晶に自分という異物を噛ませて吸収を可能な限り遅らせようという事だと思う。フリットくんは……動いているのが不思議なくらいにボロボロで、単純に避けようが無かったんだろうけど。逆に、今捕まったってことは、フリットくんはフリットくん。まだ、あの蜘蛛と同格級の化け物なんかじゃない
そして、セイバーさんは……避けきれずに片足を取られていた
『……成程ね』
『貴様に勝ち目等無いのだ』
フリットくんの声で、フリットくんの姿で、そうバーサーカーはいきり立つ。同種のホムンクルスを、彼を量産しようとした失敗作を使ってるから当たり前だけど、苛立つ
勝ち誇った下衆なにやけ顔。殴ってやりたくて仕方がない。彼はそんな顔しない。どこまでも真剣で、ふざけた笑い顔なんてする訳がない。だからあまりにも似合わなくて……
拳から疾る雷鳴がその頭を砕く。バーサーカーの頭は柘榴のように破裂して辺りに血を撒き散らし……
『無駄な。足掻くか』
逆再生……という訳ではなく、顔があるはずの部分がまるで陽炎のように揺らめいたかと思うと、完全に治っていた。あいも変わらずしぶとい。わたしが生前対峙した吸血種の中にもここまで死に汚いのは居なかった。時をかけて100年後くらいに転生する、なんて方法で死に残る吸血種は居たし、あれを倒しはしたけど封印出来なかったのは痛恨の失敗だったけど。結局わたしは当時摂理の雷を扱いきれなかったからあの吸血種は本来より時間を掛けて400年後に蘇り、当時の教会の人々に大きな被害が出ちゃったらしい。100年後に蘇ると言われていたけど来なかったからわたしによってもう死んでると思われて対策の方法失伝しちゃってたらしいし
『足掻くよ?
それが、わたしの
周囲を魔力でもって探る
とりあえず、セイバーさんに死ぬ気はないようで、戦う気もまたなさそう。咄嗟に雷撃を落として水晶の侵食を遅らせた場所の先に居た数万の人々は、各々勝手に逃げ出している
一部逃げてない人だって居るけれども
『人の守護者を
貴様は全てを護れやしない』
『前も言ったよ。人間全てを救う事は
でもね。それが、綺麗事を信じちゃいけない理由になんて、ならないって!』
雷を全開、しようとして違和感に気が付く
出ない……訳じゃない。寧ろその逆。ここまで出力が出るものだったっけ、もっと何時もは抑えられていたはずじゃ、というひっかかりがわたしに想いに任せた渾身の発現を思い留まらせた
『ならっ、これでっ!』
代わりに一瞬の静止を経て何時もより体が軽いならこれくらいで何時もの全力じゃないかな、という程度の加減へと頭を切り替えて左腕を振りかぶる
発射、命中。腕に纏わせた神鳴は槍となって、バーサーカーの胸を撃ち抜く。わたしの神鳴には摂理に還す力が働くからか、物理攻撃に対して滅法強いバーサーカーでも、見た目通りのダメージは通る
想定よりも少し軽い手応え。一拍の遅れが致命的になる事は無く、雷鳴と共に踏み込み、相手の手が此方に向けて動き出す前に神鳴を込めた右のストレート。握り拳でもって、心臓をぶち抜く
そのまま縮地。脱け殻の体を飛び越え、抉りこまれた拳で体後方の地面へと血管を引き千切られながら転がった心臓を右足を軸に左でキックオフ、空中で摂理の雷を叩き込んで再度地面に落とし、軽く息を吐いて呼吸を整える
『
『ちぃ、自身の力を過信し、爆散すれば良いものを』
過負荷。吸血種の中でも特に死に汚い有名所の一体が扱うという固有結界。風景は変わらないまま世界を上書きし、周囲すべての魔術を増幅するらしい。わたしは直接対峙したことはないし、だから噂でしか知らないけれども。それでも、恐らくはそう。何故なら、彼等個人そのものではないバーサーカーが、紛い物とはいえその彼ら吸血種の固有結界を扱うというならば、それなりのズルが必要だろうから。逸話から強引に心象を引き出すにしても、仮にも形にするなら何らかのブーストが必要。だから過負荷モドキを展開し、強引に全てをブーストしている。そうでなければ、彼にあの蜘蛛の異界常識なんて、わたしがまだ動ける程度の侵食しか出来ないぽんこつだとしても出せる訳がない
その空間の影響がわたしにも出ていて、本来よりも出力が上がってしまうというのが、違和感の真相。恐らくだけれども、気にせず何時もの全力を出そうとしていれば、その力は増幅されて……過剰になった力は暴走し、使ったわたしを傷つけていた。100%の力を出そうとして、意識していない200%のパワーでぼんって自爆していた。推測だけれども、それもこの固有結界の狙い。自身の力を底上げし、相手の暴走自滅率を上げて二つの道から勝利を狙う
フリットくん相手には展開しなかったのは、きっと危険だったから。既に紅の翼を広げている際はずっと暴走しているような、けれども力の底が近い相手に対し、どうして増幅なんて出来るだろう。相手に余力をもたせるだけ。例え相手がそれも構わず100%を出して暴走してくれたとして、ビーストの暴走状態なんて絶対に相手にしたくない。相手が出力過剰で自滅する前に消し飛んだら結局敗けだし。そして彼の剣は、あの星の権能は、一度暴走したならばバーサーカーを殺しきってしまうだろう。それに、どんな死に汚い不死身も関係ない。只単純に、どんな小細工も無視して、滅ぼしてくる。きっとあれは、そういうもの。最強、無敵、勝利。それがあの竜の姿。輝く軍神の星の摂理だから
……ふと、その啓示にひっかかる。その認識に、そんなだっけ?って疑問を持つ
わたしがそれを認識することは可笑しくない。啓示や……そもそもほぼ放り投げちゃってるけどそもそもの裁定者特典の真名看破で見抜けるから。
けど、だからこそ、その認識は可笑しい。だってそれは、ガイアでもアラヤでもなく……あれ?何だっけ、そもそも根源とは別の源に属するものだったような……。でも、そんなもの、
そうして、そんな事を考えていたわたしは……もう一つの違和感に、気が付いていなかった
『うぐっ!』
突如として、わたしの胸元から水晶が生える
何で?理解が及ばない
いや、理解は及ぶ
何で……あの化け物の事を忘れてたんだろう。あの蜘蛛とは別に、他にも化け物は居るのに。そして寧ろ……吸血鬼と人狼は近しい存在だからって、あっちの方が使いやすい存在なんだろうに。何で本当に、あの存在を忘れてたのか、わたしにも分からない。使ってきてほしく無かったから、忘れたフリでもしちゃってたのかな
『何故、生きている』
『何でかな?まっ、わたしはサンタさんだからね、死んだりするものじゃないし』
口を付いて出るのは、精一杯の強がり
実際には、わたしだって死ぬし。だってわたしは……人類でない化け物に成り下がった気はないから。突然のアレが、わたしの予想通りなら……わたしの天敵そのもの
『死を。何故、貴様は生きている事を許されている』
もう一度、男が無造作に手を振る
それだけで、わたしの胸元にもう一度、血の華が咲いた
『プライミッツ・マーダー……』
そな名前を、呟く。『比較』の獣、霊長に対する絶対殺戮者、ガイアの怪物……そんな風に呼ばれる化け物。一応はあれも、吸血種の一種である
『ふん、知っているか』
『思い出したくはなかったかな
出来たら、アーチャーさんが居てくれたら良かったんだけどねー
わたし一人じゃ、ちょっと辛いかな』
殺戮権。元々の力量なんて関係ない
プライミッツ・マーダーは、わたしみたいな一般的な人間由来のサーヴァントを含めた、人類種に対して死ねという命令を行使する
当たる当たらないなんてそんなもの意味がない。殺す気で動けば、問答無用で殺される
本物じゃないから弱いって言っても……それでも、ダメージは残る。当たらなくても攻撃動作に入られたらダメージは蓄積し、此方からどれだけ攻撃しても絶対に倒せない。勝ち目がないにも等しい
『でもねっ!そんなもの……』
『尚も、挑むか……』
『そうっ!諦める理由になんて、なんないよっ!』