Fake/startears fate   作:雨在新人

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八日目ー水晶の葬礼

総ては終わった

 その、はずだった

 閃く摂理の神鳴すらも、侵食する水晶の中に消えた

 かつてあった街は、水晶の森へと新生した

 だから。これで終わりだと、森の中心で人狼は宣言した

 正義は勝ったのだ、と。世界すら、そう信じた

 

 ソレが、姿を現すまでは

 

 「ちょっ、何なの、これ!」

 その声が。何があろうとも無事であるようにと手の届かぬ場所(北の大地)へと送り出した、居るはずの無い少女の声が響いた。たったそれだけの事で、総てはくるりと反転した

 

 紫、乃

 最早動かないはずの水晶の牢獄の中で。元々砕けていたが故に、凍りつかなかった神巫雄輝の魂が悲鳴をあげた

 僅かでも、動いた。ソレにとっては、それだけで充分だった

 

 「……吸血種の力すら、総てを扱おうとするか

 贅沢だな、バーサーカー』

 砕けるはずの無い水晶が砕け散る

 『何だ、貴様』

 『……駄目、だよ、フリット……くん』

 ミラの喉元を掴む巨大な二足歩行の狼が、忌まわしそうに此方を向いた

 

 「何、だろうな』

 『ふざけているのか、貴様』

 「いや。己自身、自身が何だったか、良く覚えていない』

 頭に少し、霧がかかったようだ。右目も、それは駄目だと何も応えない

 だが、自分が何なのか、そんな程度の事、何を気にする必要なんかあろうか。俺は己だ、どうでも良い

 「だが』

 視線を僅かにバーサーカーの横へ

 何これとばかりに完全に呆けた表情で、一人の少女が唖然としている

 

 「己の中にある白い少年の言葉を借りよう

 ……ファ……ル、そして……2と。己を呼び、俺となった少年に敬意を評し、断片的な記憶からこう答えよう

 サーヴァント、ビーストⅡ-if。ザイフリート・ヴァルトシュタインだ』

 心臓に魔力を通す。遥かな未来に在る己から、その存在の欠片を現実(現在)へと回帰する

 バーサーカーが人狼のような姿になっているのは、何ら驚愕に値しない。出来たのか、とは思うがそれだけだ。フェイから聞いていた、吸血種を選んだ理由の一つがそれだから。吸血鬼のなかには変身能力を持つ者も居る。変身先は蝙蝠や狼。そして、狼への変身能力を通して、あの存在を呼び込む。バーサーカーという吸血鬼をある意味最強の吸血種、ガイアの怪物へと擬似的に変貌させる。俺というビースト擬きの存在から、急遽提唱された理論に基づいた計画。それが、プロジェクトPM(プライミッツマーダー)なのだから

 『……なっちゃった、かぁ……

 御免ね、フリットくん』

 首を人狼に絞められながら、力なく少女は笑った

 「ミラ』

 『ふん。裁定者だ聖人だと言おうが、結局は人類に過ぎなかったという訳だ』

 その胸元で、血が飛沫(しぶ)

 ミラの胸に、血の槍が突き刺さる

 口元から一条の血が垂れ、軽く少女は咳き込んだ

 『流石に、人でなしになった気なんて、無いしね』

 何だ、と拍子抜けする。プロジェクトPMを令呪で完成させたのだから、もっと強いと勝手に思っていた。霧の掛かった曖昧な記憶を辿っても犬自身と対峙したことは無いはずだが、己本体とやりあった蜘蛛と軍神よりは少し弱いレベルなのだろうかと

 だが、何だこいつは。ザイフリートを名乗った俺と同じなり損ないか

 ならば、遠慮など欠片も必要ない

 

 そうして、胸元から一つの札を取り出す。クラスカード、セイバー

 だが、それはひび割れ……

 「夢幻召喚(インストール)

 言葉と共に砕け散る。剣を模したアイコンが砕け、中から七つの穴の空き右上の一つだけが赤く輝いた黒い紋様が浮かび上がる

 「望みは此処に。<■■顕す■約(ファンタズム・■■■)>』

 空に一つのキューブが現れ、それとリンクして姿を変える

 背に現れた翼はブースターの役目を果たすように銀色の翼として実体化し、左腕は竜の鱗の籠手のような形状を形成して硬化。右腕も似たような籠手に覆われ、頭に痛みが走る。血色の角は延びて、背に向けて急角度を描くブレードアンテナ染みた形状へと。自分では見えないが、瞳孔が縦に裂けたと理解する

 

 『……だが、貴様は既に終わっている

 既に終わった悪は、足掻かず死んでおくべきだ』

 水晶が延びる

 ああ、一応あれも吸血種、二十七祖とされていたか。なんて、冷静に分析する。全く、紛い物とはいえ水晶渓谷を併発するとは、厄介な認定をしてくれたものだ

 その思考の中、両の足が水晶により固定される。だがそれだけだ。翼は魔力を噴かせて飛翔を待ち、その魔力に当てられた水晶はどろどろの液体となり、更には蒸発して空気に溶け消えてゆく

 「……何処が、終わったと?』

 『終わっていないというならば』

 ああ、煩い

 

 翼を全力で噴かせる

 たったそれだけの事で、足を固定した水晶の元に足を置き去りに。足なんて安定には役立つが無くても最悪何とでもなるものを引き千切り、既に半分以上は流れていて少なくなってきた血を猛禽の鉤爪染みた形状へ形成してバーサーカーを掴む

 「言われた通り、やったぞ?』

 そのまま、猛禽が獲物を引き裂く要領で、人狼の体を二つに捻じ切った

 

 血飛沫と化したバーサーカーから手放され、金髪の少女の軽い体が地に落ちる

 咳き込む音が聞こえる。その喉には水晶が生え、傷だらけの全身は大半が水晶に覆われている。まあ、仕方がない話だ

 その胸元から一つの光が己と合体する。クラスカード、ビーストⅡ。だが、無意味だ。そもそも根本のセイバーを変換した以上、元々ビーストⅡな同一クラスのカードには、正直な所あまり意味はない、同一カードではないから、完全無意味とまでは言わないが、ビーストⅡ×ビーストⅡしようが、複合にはならない

 

 『寿命はどうした?』

 やはりというか、バーサーカーは終わらない。そんなことは知っている。引き裂いただけで終わるなんて思ってもいない

 ただ、少し邪魔なくミラ達と話す時間が欲しかっただけ

 「寿命?ああ、人であった俺には、そんなものもあったな』

 ビーストは、ただ其処に在る。それが単独顕現の真髄。如何なる時でも既に其処に在る。故に時を越えて覚醒前に滅ぼす総てを無力化する。だからこそ、この次元の俺は最初からなり損ないのビーストであった。何処かの未来で、ビーストとなったが故に。ビースト足り得た瞬間に、ビーストで無かった今までの過去を元からビーストであったと塗り潰したとも言う

 ……つまりだ、死も誕生も時間も其処に存在するという事実で無視するビーストであるならば、寿命なんて死を前提とした理屈は関係ない。だから、寿命等知らない。人間の俺の寿命は未来を使いきって既にゼロだが、そんな事は己に何の意味も関係も無い

 

 「お前がそれを言うのか』

 『……フリット、くん……』

 「悪いな、ミラ

 俺は己だ。元から、ビーストはそういうものなんだよ』

  

 「命運尽きたな、滅び去れ』

 魔力を解放

 遥かな未明から、魔力ならば幾らでも回帰する。撒き散らした俺の血(魔力)に汚染された世界も還元される

 ならば、出し惜しみはしない

 放つのは、かつて使った<偽典現界・幻想悪剣>の、魔力を潤沢に注ぎ込んだ版。又の名を技巧も何も関係ない力押しの単なる魔力放出(ドラゴンブレス)。けれども、獣と化したこの身で放てば、それだけで十全の力となる

 紅の竜の咆哮が、バーサーカー毎水晶の森を溶かした

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