頭の悪い大学生がナーヴギアを作るとこうなる   作:二毛猫桜

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アインクラッド74層・先遣隊抜刀する

 現れたパーティは六人規模の一団。その先頭に立つ独特の趣味のバンダナを巻いた野武士面の男性プレイヤーは、キリトと僕らに気づいて手を挙げた。

 

「おお、キリトに安達に花芽抓! しばらくだな」

「よっすクライン! どうだ、俺がやった閃太刀(ヒラメキダチ)の調子は?」

「最高だぜ、おかげさまでな! ま、要求DEXギリギリアウトだから、お前のようにクリティカル連発とはいかねぇけどな」

「クリ判定にあれだけ命かけてんの花芽抓くらいだよ。久しぶり、クライン」

「生きていたみたいで何より」

 

 カタナ使いのプレイヤー、クライン。

 俺が大太刀スキルを手に入れる前、クラインがカタナスキルを獲得するかなり以前からカタナスキルを使っていたこともあって、スキルについて色々教えたしそれまで使っていた武器を譲渡したこともあった。俺経由で安達やこーちゃんとも会ったことがあるし、彼の率いるギルドと一緒に狩りをした事もある。

 クラインはつい先月僕が譲ったばかりの大きめのカタナ《閃太刀》を掲げて、改めて礼を言ってきた。

 

「まだ生きてたか、クライン」

「相変わらず愛想のねぇ野郎だ。どうした。珍しく大所帯じゃねー……か……」

 

 澄ました返事のキリトに軽く手を挙げるクラインだが、その語尾は徐々にフェイドアウトしていった。僕はクリティカルの重要度を安達に説明せねばと思ったのでその面白そうな顔は拝見していない。段々と声を落としていく野武士が両目を見開いて見ていたのは、ソロ組サー一番の華たるアスナである。あれ、君たち会ったことなかったんだっけ?

 そういえばSAOは、後発のエピソードと第一巻の内容で幾らかの齟齬があった気がする。──まあ僕らが原作に関わっている時点でその程度は誤差だろう。原作準拠だろうがアニメ沿いだろうが、結局御都合主義に当てはめて仕舞えばその辺の問題はレポート用紙三枚分に要点をまとめて丸めてポイだ。

 

「おおっ、なんだアスナもいたのかよ! キリトの影に隠れてて見えなかったぜ」

「ええ、お久しぶりです」

「で、ソロ厨が二人揃ってどういう風の吹き回しだ? 花芽抓、お前やっと観念して『外泊』辞めたのかよ」

「べ、別に俺ソロ厨って訳じゃねーし。安達とこーちゃんと狩り行きますけど?」

「そうよ。『適度に寂しいと死んじゃう病』の花芽抓が、ソロ厨なんかやってられないわよ」

「新種の病気の第一号にするの辞めてくれません? 二週間はもつし」

「二週間かよ」

 

 僕の恥ずかし大学生活を暴露してくれた安達に半論したらキリトに呆れられた。ににに二週間持った……よな? 確か夏休み中知り合い軒並み実家に帰りやがって、バイト民の俺氏ぶつくさ言いながら金稼いでいた……よ? 多分?

 

「私しばらくこの人とパーティ組むことになったの」

「アスナ、キリトが今日だけのつもりだったって顔だけど」

「今決めたから」

 

 さらっと言いよった女子怖い。何も口を開けなくてお口ミッ◯ィーしたキリトが、錆びついたブリキの人形よろしくぎぎぎっとこっちを見たのでサムズアップ見せといた。これ花芽抓流ドンマイのポーズだから。

 アスナの発言に羨ましい混じりの唸りがキリトに向けて集中砲火される。ラノベの主人公のこういう所強く行きてと毎度思う。花芽抓の……と言うか二毛猫桜宅の夢主はそう言うもの横から見ているのが主流なので、俺やこーちゃんが僻みの対象になることはあまりないのだけれど。

 さて、そんな馬鹿なことをしていると、またもこの安全エリアに来客が訪れた。

 

「──キリト君、『軍』よ!」

 

 多少の疲れはあるとはいえわりかし和気藹々と入ってきた彼ら風林火山とは違い、彼らは重そうな装備の音を響かせて物々しく侵入してきた。それぞれ重装備の隙間からオレンジ疲労どころか赤疲労マークを覗かせる勢いである。クラインは自分のギルドのメンバーを壁際に下がらせ、僕とキリトと一緒に少し前に出た。

 彼らは安全エリアの俺たちとは向かいの端で、騒々しい音を立てて倒れるように座り込んだ。最初に整然と更新していたとは思えない……或いは、最初から気を張っていたからこそ疲労が早く現れたのか。兎に角もうあんたら帰って風呂入って寝たらいいんじゃないかとうくらいお疲れ様な御様子。しかしリーダーらしき人物はそのままこちらへつかつかとやって来た。おやおやお兄さん、後ろの一兵とはまた違った良さそうな装備ですね。

 

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」

 

 中佐ときた。階級制度整ってるのか。そうだっけ。忘れてた。

 

「キリト。ソロだ」

「風林火山リーダー、クラインだ」

「花芽抓」

 

 腕組んで胡散臭そうに名乗っただけなのに名前聞いて耳確認しただけで舌打ちってどうっすかね。いいっすけどね。アンタ、俺の中の『嫌われたくない人リスト』に入ってませんからね。

 中佐殿は俺を視界に入れないようにしてあくまでキリトとクラインに話しかける。

 

「君らはもうこの先も攻略しているのか?」

「……ああ、ボスの部屋の手前まではマッピングしてある」

「うむ。ではそのマップデータを提供してもらいたい。……ああ、九尾は結構。偽の情報を渡されても困るんでね」

 

 当然と言わんばかりのその態度に、キリトもクラインも、と言うか僕達三人以外の全員が驚いたらしい。

 

「な……て……提供しろだと!? 手前ェ、マッピングする苦労がわかって言ってんのか!?」

「我々は君ら一般プレイヤーの解放の為に戦っている! 諸君が協力するのは当然の義務である!」

「攻略会議で見なくなって久しいけどね」

「蓮さんしぃっ」

 

 ゴーイングマイウェイな発言にアスナやクラインが文句を言おうとするが、それより先に安達がボソッと言ったセリフが思いの外響いて勢い削がれる。駄目だろそう言うホントのこと言っちゃあ。

 

「貴様等のようなとち狂ったプレイヤーには言っていない。会話に余計な口を挟むな」

「おおっと聞き捨てならないぜぇ。最近HPとバトルヒーリングと鉄防御が便利すぎてうっかり回復アイテム忘れたままボス戦挑んじまう安達の何処がとち狂ってんだよ」

「あら聞き捨てならないわね。ボスの取り巻きの攻撃かすっただけでHP四割削れる貧弱のくせにAGI回避に物言わせて毎度毎度タゲ取りたがる花芽抓の何処がとち狂ってるのよ」

「ちょっとまって聞き捨てならないなぁ俺誰の悪口言えばいいの?」

 

 流れに乗ろうとしたけど乗れなかったこーちゃんが困っている。あと俺たちの悪ふざけ(嘘は言ってない)を聞いた軍の面子がまじかって顔で俺たちを見ている。褒めるなよ。

 

「ふ、ふん。いつ裏切るかわからない輩なんぞ、パーティに入れているその精神が狂っている」

「ちょっと! 黙って聞いてればさっきから、花芽抓を悪く言うのやめなさいよ!」

 

 アスナちゃんアスナちゃん。俺が名指しで貶されたの最初だけなんだよ知ってる?

 

「そうだそうだ! 確かにこいつは何しでかすかわかんねぇ事あるけどな、ダチを裏切るようなヤツじゃねーんだよ!」

 

 クラインくんクラインくん。ばしばしするのやめれ背中むず痒い。

 険悪なムードは誰かさんのせいでシリアルに変換されたらしい。ちょっとどうしたらいいかわからないキリトくんだったが、やがてマップデータを選択してコーバッツ殿に送っていた。いっけめーん。

 

「まあ、マップデータで商売する気はないし……どうせ町に戻ったら公開しようと思っていたから構わないさ。でも、ボスにちょっかい出す気ならやめといたほうがいいぜ」

「……それは私が判断する。協力感謝する」

 

 感謝する気がなさそうな感謝である。アスナとクラインと、それからこーちゃんもちょっとイラっとしたらしい。まあ俺も安達やこーちゃんを馬鹿にされていい気はしていないけどな。

 

「さっきちょっとボス部屋覗いてきたけど、生半可な人数でどうこうなる相手じゃないぜ。仲間も消耗してるみたいじゃないか」

「……私の部下はこの程度で根を上げるような軟弱者ではない! 貴様等さっさと立て!」

 

 嫌だねぇ、ああいう上司。俺こういう職場には就きたくねぇわ。出来れば怒られることにびくびくしない所がいい。……ねぇな。

 疲労を足にぶら下げたような無理のある進軍で彼らは安全エリアを去っていく。それを呆れて見おくりつつ、僕らは詰まっていた息を吐いた。

 

「大丈夫なのかよ、あの連中……」

「いくらなんでもぶっつけ本番でボスに挑んだりしないと思うけど……」

「ああいうのは頭の中身退化してるから、キリトのそのフラグは成立しても不思議はないけど」

「何。安達苛々してんの?」

「するに決まってるでしょ」

 

 口には出さないがアスナもやや心配そう……いや、なんか不服そう。

 

「……一応様子だけでも見に行くか?」

「そうだね。僕と安達で隠れながら尾けようか。キリト達はちょっと離れて付いてきなよ。またなんか言い合いになると面倒だし」

「応酬をめんどくしたのお前だろ」

「心外だ。僕は煽りに乗っただけだぞ」

「二毛さん煽りを踏みつけて三段ジャンプしなかった?」

「安達を連れてね」

 

 やはりシリアル。僕はギャグ要員というレッテルから目を背けて、安達と一緒に安全エリアを抜けた。

 

 

 馬鹿正直に隊列なんぞ組んでいるから当たり前なのだが、あれだけ偉そうに御託を並べた《軍》隊はエンカウントする敵モンスターを片っ端から相手取っていた。こいつ等ボス戦に挑むなら挑むで効率くらい考えたらいいのに、mobモンスターを回避するとかやり過ごすと言った選択肢はないらしい。25層戦の一件で壊滅寸前という憂き目にあって、腰が引けてそこから先に脳内更新してないといえばらしいのだが、それにしても効率が悪すぎる。

 そりゃあ迷宮区内でもないあんな手前の安全エリアの時点で疲労困憊にもなりますわな。

 

「……なんかそこはかとなく苛々してきた」

「やめて花芽抓。わたしも一緒だから」

 

 俺は軍隊のすぐ後ろを《隠蔽》、隠蔽しながら行動できるスキル《隠密》、ついでに念押しで《軽業》を並行に発動して尾行中。隣には同じく《隠蔽》と隠密補正のボーナスのついた黒被衣を被った安達が並走していた。

 どうでもいいけど洋服の上から和服被るのとても好き。あの大正とかの書生スタイルがドストライク。あと一目惚れしたガチドレスのお姫様な安達を被衣被せて掻っ攫う旅の流れの忍な花芽抓になりたい。どうでもいいっすか? そうっすか。

 キリトから搾取したマップデータは大いに役に立っているらしい。一応トラップもあるだろうが所謂《宝箱》のある部屋も一通り回った筈だが、コーバッツを先頭とする彼等兵隊は一直線にボス部屋を目指していた。……足止め喰らいまくりながら。

 

「……こんなにトロい進軍だけど、原作ではキリト達はギリギリまで追い付かなかったよね」

「あれでしょ。確か、追いかけようとしたら敵mobに引っかかったとか書いてなかった?」

「こーちゃん生きてっかなー」

 

 見つからないようにと正道でなく獣道をひょいひょいと走りつつ、部隊の監視を安達に任せて片手間にキリトへとメッセージを送る。ややあって返信は来たが、どうやら想像したより多目の集団戦にかち合っているらしい。あと何故だか知らんが僕が疑われているらしい。

 

「《花芽抓威嚇かなんか使ってトカゲ集めて固めといただろ! 後で覚えてろよ!》だってさ。酷くね? 俺ちげーし」

「日頃の行いはなんとやらってやつでしょ? ──っと、ボス部屋だ。花芽抓、準備はいい?」

 

 パソコンキーを右手で操作し《冤罪だ馬鹿野郎。てめぇこそ後で覚えてろよ》と打ち込む。薄ら笑いつつの作業を終えて決定エンターを押したところで、漸くボス部屋目前まで到達した。俺は背中に背負っていた大太刀の鍔留めのボタンを片手で外しつつメッセージを送信し、回復アイテムを補填し直して前を向いた。

 重苦しく扉が開くのを見るのは今日で二回目だが、一回目のようなわくわく感はないし『初めて』のような緊張感もない。今更キリトの忠告を飲み込んだと見える小隊の隊長殿は一瞬怖気付いた様だが、救いようのない無謀な正義を片手に結局扉を開けて勇んで中へと入っていってしまった。

 

「さてボス戦だ。準備はいいぜ」

「タゲ欲しい?」

「今回ばっかりはくれてやるさ。──誰かがダメージ食らったら乱入しよう。作戦名、」

「「ヒーローは遅れてやってくる」」

 

 作戦名とか決めてなかったんだけどこの双子の奇跡ぱないわ。俺たちは目があって同時に吹き出した。

 ボス部屋に響き渡る悪魔の咆哮をBGMに、両手を掲げてハイタッチ。実際に命をかけているとは、その上で無理ゲーに飛び込む五秒前とは思えない無邪気さで僕らは笑った。

 空気を押しのける音が響いて、ついでに数人の叫び声が聞こえて、何かが吹き飛ぶ音が聞こえて、扉の奥の布陣が崩れるのが見えて。

 僕らは同時に飛び出した。

 

「──さあ、ゲームを始めよう」

「──さあ、剣を振るいましょう」

 

 

 巨大な直剣を振るう74層ボスモンスター、グリームアイズ。ソードスキルのカテゴリは両手剣。あれ、大剣とかそういうやつ。ソードスキルの他にブレス地味たデバフ付きの青白い火焔を吐く。これが面倒いんですよ。近場で大太刀ぶんぶんしてると大剣タメ技始めるじゃん? やべぇと思って離れるとタイミング間違えると口の端っこから火が漏れてるんですよ。あれがうざい。なんで知ってるかってまあ安達と一緒に内緒で『予行練習』したからっすよね。倒すところまではいかなかったんですけど、大体HP五割削ったあたりでこっちがやべぇってなって帰るんですが。

 取り敢えずその場でぼさっとしている軍の隊員を蹴り飛ばして出入り口近くまで吹っ飛ばした。お邪魔です。

 大上段から渾身の一撃が降りてくるのが見えるので大太刀を引いて構えて刃筋に掌を合わせる。上半身ひねりつつ衝撃に耐える態勢を作って、がんっと音に殴られてからは体が勝手に動いた。目は見開いてないとタイミング逃すので。

 衝撃っつってもどうせ刃物を振り回している斬撃だ。その刃筋にこちらの大太刀を揃えて大直剣を捉えた瞬間、全力でその斬撃を横に押した。無論STR 紙っぺらの俺がこのクソデカ羊頭のモンスターに対抗できるわけではない。俺は衝撃を横に押しながら地面から足を離し、悪魔野郎の刃筋に対して体軸を並行に揃えて身体を捻った。

 

「ってーいやっ」

 

 一瞬身体が宙に浮いた僕だが、着地の体勢をとった時にはそのどデカイ剣の峰の部分に立っていた。

 

「安達ぃ。取り敢えずキリト達が合流するまでは耐えるぞ」

「分かってる。でも、あれでしょ? ──別に倒してしまっても構わんのだろう?」

「草生えるんでそーゆーの後でね」

 

 軽口を軽口で返すと、ふっと笑った美人さんは流し目一つ投げて双剣を構えた。




戦闘中は歌を歌うのが好きな双子です
ノリのいいのをエンドレスで
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