頭の悪い大学生がナーヴギアを作るとこうなる   作:二毛猫桜

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アインクラッド74層・精鋭ボス戦に挑む

 アインクラッド各層における最大のイベント戦、フロアボス攻略戦。その層で言わずもがな最大難易度を掲げるその一戦には、余程の事がない限り俺や安達やこーちゃんも参加していた。これでも一応攻略戦主力の一つである。そして74層ともなると、フロアボス攻略戦のメンツは暗黙の了解として大凡の役割が大体固定されてきていた。

 1層暫くの頃は志願、慣れてボス戦の常連として数えられ始めてからは確定。

 即ちすばしっこさに自信がある花芽抓の役目はタゲ取り。HPが多くて堅い安達は《攻撃するタンク》として万能型フォロー。僕ら双子はボスの学習エンジンを撹乱させ、且つダメージを減らす一つの手札である。使い勝手のいい僕らは調子よく利用されつつ、ボス戦においては必要不可欠とまで認識させる一勢力として攻略組の中に生き残っていた。すごく楽しい。

 だが、今回は勝手が違う。

 誠に遺憾ながら、今回のボス戦はこの野郎どもが勝手に始めてくれたおかげで花芽抓がタゲを取る事が出来なかった。攻撃を避けまくって出来た隙にちまちま攻撃する花芽抓の逃げ腰根性はあまり発揮されない。更に、いつもは花芽抓が逃げる間に大技を連発する安達も思うように攻撃できなくなっている。花芽抓(おとり)攻撃され(つかえ)ないから。

 大雑把な右薙の大刀剣の攻撃を前に足がすくんだ兵士の目の前に踊り出る。無理を承知で左下段から跳ね上げた鋒は、凶刃の斬撃をずらしたものの完璧に逸らすまでは行かず僕のHPを半分強減らした。──余裕がなさそうな安達と目が合い、口を開こうとするのを掌をかざして止める。

 

「《ヒール》! 【kagazume】!」

 

 エクストラスキル内スキル、《ヒール》。これ頼りで迷宮区に飛び込んでいる僕は、習熟度MAXのヒールで全体HPの50%を一気に回復させて冷や汗を止めた。

 

「きっ、貴様、邪魔をするな!」

「テメェ自身が邪魔にならなくなってから言え! 戦わないなら下がれ! 戦うなら突っ立ってんじゃねぇ!」

 

 背後で喚く兵士殿に怒鳴り返して、後ろ蹴り一発入れて黙らせる。少し後ろによろめいた彼は、先程攻撃を邪魔したからかこちらを向いた敵と目があったらしく、俺に向けられた敵意を浴びて情けない悲鳴をあげて一目散に出入り口の方へ走った。

 

「安達、タゲ塗り替えるまでもうちょっと時間かかる!」

「ええ!? こら花芽抓、楽しくなってるんじゃないよね!」

「なってません! お前無能のこと花芽抓って言うのやめて差し上げろ!」

 

 悪魔の口の端で青白い炎がチロチロしたのを確認。一瞬身構えたがモーションの方向は安達である。非常にまずい。攻撃対象が操作出来ない。安達だけなら弾くなり耐え切るなり出来るだろうが、今の彼女はおそらくお荷物を抱えている──わお。安達の後ろに兵隊さんが三人もいらっしゃる。

 ああ、大分まずい。

 安達の方もやばいという顔で双剣を構えるが、僕は大きく息を吸って大太刀で近場の岩を思いっきり殴った。

 

「こっち向けえええええっ!!」

 

 大声と鈍い金属音が不快感を煽りながら響き、グリームアイズはブレスを中断してこちらを向いた。モンスターのヘイトを集めるスキル《威嚇》の上位スキル《覇気》。対象のレベルが自分よりも低いと確率で三秒のスタンがかかるのだが、昨日一つ上がって現在レベル96ぽっきりの僕には無理か……訂正、かかった。あいつ95だったのか。

 今のうちにと安達が退避命令(物理)かましているのをチラッと見て、スタンしたそいつの顔に全速力で迫って大太刀を強く握った。

 やたらとでかいそいつの顔面めがけて白刃を振るう。《表の二刀・月草》。大回転斬りの後全力で悪魔を蹴ってグリームアイズと距離を取ると、グリームアイズを挟んで向こう側でソードスキルを発動させる光が見えた。

 デカブツが僕に向かって獲物を振りかざす背後で、安達が跳躍して不意打ちを取る。双剣を揃えて右、左、上、下と縦横無尽且つ怒涛の攻撃がヒット。最後に切り上げた後二刀を突きのようにまっすぐ切りつけて左右に斬り払った。本来ならば対象は宙に浮き、攻撃が始まってからの回避や抜け出しが不可能となる、双剣カテゴリの最上位十連撃ソードスキル《デッドリィダンス》。

 最上位ソードスキル発動のため大分長めのスキル冷却時間を強いられている安達にグリームアイズが振り返るが、とっくに準備を終えていた僕が再度覇気を発動させながら、御立派な雄羊の角に投擲した小太刀をクリティカルヒットさせていた。

 少し離れた位置にいる僕に対する攻撃パターンは大きく分けて二つ。その場からブレスするか近付いて獲物を振り回すか。──グリームアイズは敵モンスターらしく醜い咆哮を上げてこちらへ大きく踏み出した。

 来た。

 その場で腰を落として低い姿勢になり、大太刀を下げ気味に構えていつでも飛び出せるように体制を整える。あちらも薙ぎ払い攻撃を準備しながら猛攻突撃を仕掛けてくる。お互い数秒後の光景を鮮明にイメージして、──僕は、愉悦を隠し切れず口の端を上げた。

 

「──────!」

 

 姑息な僕が最前線でサバイバルして生き残る術の一つ、カンスト済みスキル《罠師》。グリームアイズがある一点を踏み抜いた瞬間、薄暗かったボス部屋が眩い光に包まれた。悪いが其処は地雷地帯だ。

 

「はっはっはっ! 空間使用数限界(十連)で地雷使うの久しぶりだなぁ! ったく巻き添え気にして毎度毎度半端な数しか使えねぇの如何にかなんないかなぁ!!」

「────────!!」

 

 大変お怒りらしいが、哀しいかな俺らはあれの言語を解さない。地雷十個分のダメージを受けて大いに怯んだ羊頭に僕が、安達が、同時に斬りかかる。

 その懐に入って右足をぐっと踏ん張り、両手の双剣を逆手に握って縦横無尽に振り回す。大凡一秒に五回切っている計算で、それを三回叩き込む十五連撃。先程のデッドリィダンスと並ぶ、最上位双剣ソードスキル《カプリオウル》。

 左からの水平斬り、右下段から左上段、軽く飛んで上段から縦斬り、突き、右回転斬り、左回転斬り、下段から担ぐように斬り上げて右斜めに大回転斬り。大太刀最上位ソードスキル七連撃、《表の三刀・月影》。

 グリームアイズの足元でソードスキルを終わらせて、最上位ソードスキルに見合った長めのスキル冷却時間の終了を待つ。月影によりグリームアイズ自身にも五秒のスタンが生じるわけだが、動けるようになってその場を離れるにはギリギリのタイムラグだった。

 全力で壁際にバックして顔を上げる。グリームアイズの残りHPは──五割弱。

 おお、成長したな、僕ら。

 

「最大地雷ぶっ放して奥義二発でこちらの結果ですが、手持ちの地雷は使い切ったしお互い回復薬飲み切ったし武器の耐久度そろそろ気になりますねぇ安達さん?」

「馬鹿なこと言ってないで構えて。武器はローテで研ぐ。花芽抓は四倍時間を稼ぐ。問題ないでしょ?」

「あー全くねぇわ。完璧すぎて涙が出るわ」

 

 武器研ぎにDEX補正のかかる俺と安達では、単純に二倍の時間差ができる。加えて安達が使うのは双剣──二本の剣。頑張ります。

 グリームアイズが振り返る。悪魔の口元には炎が見えるのでビーム攻撃だろう。小狡い事にこちらを向くまでの間に火力を装填していたらしく、あの野郎はもういつでも打ちだせる状態になっている。僕と安達は左右に飛びのいてビームを避けた。

 その瞬間、軍の人間が退避して固まっていた出入り口の扉が勢いよく開いた。

 目を向いて不安定ながら半身を捻ってそちらを向く。その扉は外側からしか開かない。僕と安達の頭の中には、想定外の原作補正という嫌な単語がでかでかと踊った。が、そこにいる人影を認識して確かに安堵した。このゲームは流石に其処まで鬼畜仕様ではなかったらしい。

 

「安達、花芽抓! 大丈夫か!?」

「……おお、剣士殿」

「っぷはーきつかった」

 

 扉を開けて部屋の中に入ってきたのは、風林火山含む先程まで一緒にいた面子だ。其々各々の武器を片手に、最悪の場合は腹をくくる覚悟で来ている模様。安達は一段落肩の力を抜いて、俺は天井を仰いで息を吐いた。大分必死にここまで来た様だが……こーちゃんが何か言ったかな? 

 扉が開いた隙に我先にと外へ飛び出していく軍の人間を通しつつ、彼らは当たり前のように内側からは脱出不可能なボス部屋に足を踏み入れた。

 ──タゲの塗り替えにヘイト稼ぎ過ぎて、僕らが後に引けないのわかってやがる。

 

「花芽抓、キツそうだな。手を貸そうか?」

「しゃあねぇ、一食奢りで手ェ打ってやるよ」

「お前助けられる側なのに態度がでかいな!?」

「安達、大丈夫? 助けに来たよ!」

「アスナ……全く、危ないことしないでね?」

「それ私のセリフだよ!?」

 

 自然に集まった僕らに、キリトとアスナが笑顔で話しかけてくれる。それだけで大分荷物が軽くなった気がして、それぞれ親友に軽口を叩いた。

 そして僕らに、こーちゃんの視線がぎろっと向けられる。思ったより重めだったのでちょっとびびったが、それに対して何かを言う前に俯いていた彼は軈て顔を上げて息を吐いた。

 

「っはー。……緊張した」

「──死んじゃうと思った?」

「僕らが負けると思った?」

「思ったよ。俺の居ないところで、勝手に退場するんじゃないかって緊張した」

「「……おおう」」

 

 目が座ってる。この人、怒ると怖いんですよね。怒るとというか、機嫌が悪いと?

 ああでも、これは僕らが全面的に悪かったかな。

 

「ああ、今度はきちんと君も巻き込むさ」

「75層戦はフライング無しでみんなでやろう」

 

 僕と安達は悪かったよと頭の上の掌に言う。こーちゃんはむすっとして居たが、二、三度舌打ちして僕らの寿命を縮めて満足したようだ。態々仕舞っていた武器を取り出して、確りと握った。

 

「終わったらみんなに土下座だからね」

「「うっす」」

 

 今から説教始めるわけにもいじけるわけにもいかない。だがまあ、終わったら続きやるんでしょうなぁ。甘んじて受け入れますが。ねえ安達、これは反省しないと暫くお部屋でゆっくりしていられないなぁ。

 兎も角と僕らも武器を構える。

 スタン終了、火力装填済み。ちょこっと端っこにあったデバフは綺麗に払拭されている。そんなものあったっけ状態。

 

「結晶無効空間。攻撃パターンはたいして多くないけどパリィし難いしビーム吐く。地雷は使い切ったんでよろしく。落とし穴は三秒しか持たなかった」

「成程、二人が手こずるわけだ」

「げっ、結晶使えねぇのかよ! おい、結晶仕舞って回復薬の方ポーチに入れとけ!」

「あいつくっそ硬いから、隙を作って一斉に仕掛けたほうがいいかも。タンクの人、声張ってもらっていい?」

「任せろ!」

「おう!」

「HP50パー切ったら言ってくれ。余裕あったらヒールする」

「あてにしてるぞ、九尾」

「あてにされるさ、任せてくれ」

 

 風林火山六名、KoB一名、ソロ三名、総勢十一名。

 ソードアート・オンライン史上最少数ボス攻略戦。

 

 これより佳境。

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