頭の悪い大学生がナーヴギアを作るとこうなる   作:二毛猫桜

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アインクラッド61層・単身帰宅する

 湖が面積の大半を占める、絶景が人気の城塞都市61層セルムブルグ。そんじょそこらの階層とは違い、寧ろ運営は此処で本気を出してしまったのではと疑うくらいの心洗われる風景の中の桟橋を上機嫌で駆け抜けた。多層とを繋ぐ転移門から少々長めの桟橋を渡らないと街には入れないのだが、景色が綺麗な事もあって俺はその手間を少なからず気に入っていた。

 のだが。

 

「……あのさ。邪魔なんだけど」

 

 そんなささやかな楽しみを邪魔している不届き者を見据えて、俺は溜息を吐いた。

 目の前にいるのは、それほど広くない桟橋を通せんぼするように等間隔に並び立つ四人の男性プレイヤーである。それぞれ「ああ、こんな顔の人きっと大学内に四人はいた」位のぱっとしない野郎共で、申し訳ないが少々上から目線で言わせて貰うと所謂モブ顏の奴らである。この綺麗な風景に馴染まない彼等は相応の歪んだ笑顔でそこに立っていた。

 

「そう言うこというなよ美人さんよぉ。オレたちちょいとオハナシがあるだけだ」

「俺は無いね。通してくれるか? 相方を怒らせたくねーんだよ」

「そうはいかないぜ! オハナシがあるって言っただろ?」

「……俺は兄の方だ。あんたらが用があるのは俺じゃ無いだろ」

「お前が兄貴のほうなのは知ってるぜ……その耳を見りゃあな」

 

 四人のうちどいつが発言したかは気を配っていなかったが、至極不愉快に笑う四人ともに不快感を感じて顔を歪める。こいつらが『何を』嗤っているのかわかりきっていたので、俺はもう一度溜息を吐いた。

 突然だが此処で俺のアバターの話をしよう。冴えない女子学生だと思った? 違うんだな、これが。

 自分で言うのもなんだが顔面偏差値はクソ高い。と言っても主人公や主要面子らは総じて顔がいいので『ちょっと整ってる』くらいなのだが、少なくとも目の前にいる四人よりは断然いい。幼く整った中性的な顔立ちに悪戯っぽい印象のつり目。肌も髪も透き通るように白く、右頬に施された揺らぐ炎のペイントはある種のミステリアス感を抱かせる。ついでに言うと中性的でとーっても可愛いくぎみーボイス。自分で描写してるから気持ち悪いかもしれないけど本当だから。具体的に言うと『右頬にペイント加えたノー ゲームノー ライフの登場人物・テト』である。ピンと来ない人はググりましょう。ノゲ テトで検索したら大概出てくる。そんな感じです。

 なんでそんな恵まれた感じになってるのか。それは俺たちが『そう設定した』からに他ならないのだが、それについては一先ず置いておくとしよう。

 四人のプレイヤーが分かりやすいくらい下卑た笑いを浮かべている理由。それは俺の頭に生えた狐耳があるからに他ならない。

 この世界ではプレイヤーは原則人間である。そこに特殊な種族の選択肢はなく、魔法といった技術もなく、己の腕と剣だけで土を踏んでいく世界である。原則、ケモミミ属性の中性美人など存在しないのだ。

 迂遠に言ったけど要は俺は結構一般プレイヤーからは大分浮いているわけです。ちゃんと理由はあるんだけどね。

 

「じゃあ全部踏まえて俺に話しがあるってわけ? 学習しないよな、あんたらも。妹にデュエルで負けたから今度は俺を使う気かよ? 言っとくけどあの人俺なんかあんまり気にしないからね」

「半分正解だが半分不正解だぜビーター野郎。オレたちはお前経由であの女を引きこもうってんじゃない……悪いがお前には、復讐する為の餌になってもらうぜ」

「……餌?」

「お前を囮にあの女を圏外に連れ出す。大人しくしろよ? 麻痺毒にだって限りがあるんだからな!」

 

 歪んだ笑顔で攻撃力の低そうなナイフをひらひらとチラつかせるプレイヤー。基本的に勘やノリで行動する俺だが、その意図するところがわからないわけではなかった。

 市街地などの指定された安全区域、所謂圏内では、どれだけ凶暴的な武器を振り回そうとプレイヤーのHPを削ることは出来ない。この世界がただのゲームでない最大の要因、自分のアバターのHPがそのまま現実世界での生殺与奪に直結する事を考えれば、圏内に浸り続ける事は一番頭のいい生存方法であった。だが、所詮はシステムルール上はと言うだけであって、圏内のルールを掻い潜ったPKの方法は無いわけではない。その中でこの四人がやろうとしている事は、圏内から圏外への移動を利用した《ポートPK》というものだった。

 大方俺を圏外に連れて行って無力化した上で《あの女》たる相方を呼び出し、四人で袋叩きにするつもりなのだろう。が、

 

「アホなの、おっさんたち」

「ああ?!」

 

 俺でも呆れる。四人は似た様な形相で俺を睨んでいた。

 

「俺さっき言ったよね、僕がどうこうしたってあの人あんまり気にしないって。まずその時点でいっこアホ」

「ふざけんな! てめぇら兄妹だろうが!」

「尻のぬぐい合いは兄妹愛に含まれてねぇんだよ。で、そもそも俺を連行しようってところからもういっこアホ。ここ圏内。そうじゃなくてもあんたら四人で何が出来んの? 装備もヘッポコ、頭もヘッポコ。あ、因みに俺じゃなくてこーちゃんの方狙っても一緒だからね」

「て、てめぇ……! いや、そう言っていられるのも今のうちだ! 桟橋の上は圏内だが、水に落ちちまえば圏外だ!」

「ま、吠えるだけならタダだからいーけどな。次にさ、奇跡が起こって彼女を呼び出せたとするよ? もう一回言うけどあんたら四人で何が出来んの? 圏外だからこそ何が出来んの? まさかとは思うけど勝てると思ってる? あの人クソ硬いよ? 最近ボス戦でフルポーション使ってないんだよ?」

「んなっ、──!」

 

 大層驚いたらしい四人が一様に驚いてくれたので肩を竦めておく。全く相棒め、昼飯すっぽかしたくらいで面倒な仕返しを差し向けてくれたものだ。大の大人が四人とも、わなわな震えて武器に手を伸ばすのはいいが面倒は今日限りにして頂きたい。俺だって暇ではないのだ。相方に言い訳をしなければならないのだ。

 ──だが、相手もすごすごと諦めるわけではないらしい。四人のうち二人の男が先だったが、攻撃にならないのを承知でか剣を抜いて躍り掛かってきた。少し遅れて他の二人も同様に。

 圏内で武器を用いてもHPは減らない。ただ攻撃を阻害する大きな衝撃音と相応のノックバックが発生するのだが、痛いとは言わないまでもぼーっと受け止めるのも憚れるものである。なので俺は後ろ髪をかいて反撃の意思を拾うと、ステータス補助で剣筋をひらりと避け攻撃だと判断されない程度にその背中を四つ押した。

 ソードスキルも使わずに力んだだけの四人は勢いを殺しきれず、四様によろけてついには派手な音を立て水面へと落下する。やがてHPが削れる前にと必死で顔を出したその顔を上から眺めて、顔面偏差値に物言わせて綺麗に微笑んでやった。

 

「水に落ちちまえば、なんだったか?」

「──ひ、」

 

 それ以上の音が出る前に袖内に装備していた投剣用ピックをドローし、投剣スキル《シングルシュート》で放つ。AGIとDEXの極振りとも言っていい俺のステータスによりクリティカルヒットしたそれは、男のうち一人の掌と近くに顔を出していた木の杭をしっかりと縫い付けていた。

 SAOに痛覚はない。だがレベル差とクリティカル判定によりいきなりHPバーの一割を削ったピックは、貫通ダメージとして男のHPバーを着実に減らしていった。

 

「う、ひぃっ!」

 

 当然ピックを抜こうと空いている手が伸ばされるわけだが、ここで思う様にやらせてはお説教モードが終わってしまう。もう一本をドローして同様に投げると、やはりクリティカルヒットしたそれはもう一方の手も木の杭に打ち付けた。HPバーは当然もう一割減っている。

 

「貫通二倍だな。どうした? 仲間が死んじまうぜ?」

「ひ、人殺し! オレンジプレイヤーになってもいいのか!?」

「いいよ、どうせ三日で戻るし。このくらいの私怨でたかがストーカー殺したって知ったら怒るだろう友人はいるけど、俺は気にしないからね。だってさ、ほら、可愛い妹が殺されるって聞いたら、妹思いのお兄ちゃんは勢い余って不届きものを殺しちゃうかもしれないだろ? 妹を守るためだもんね? ああ、そりゃあ仕方ねぇわ」

 

 いつでも投げられる様にピックをドローしておいて、僕一人桟橋の上でラスボスの様に笑っている。性格変わったと思う? よく見て、最初からこんなんだよ。

 

「あんたらみてぇな下層プレイヤーじゃあどう頑張ったって相棒は好きにできないしさ、いつか諦めるならいいやって放置してたけどよ。いい加減うるせぇし聞き飽きたとはいえ馬鹿なこと言ってるし道塞ぐし……今後こんな迷惑が起こらないって考えたら、今ここであんたたちを始末してもいいんじゃねぇかなって」

 

 思って。

 

 視界のはずれでもぞもぞ動いていた男をこれまた近くの杭に打ち付ける。索敵スキルを使った訳ではない。俺がオートで発動する《獣の洞察力》で情報を仕入れた結果だ。

 

「なあ、本当にあの人をどうにかできると思った? 俺さ、戦闘能力じゃあ全然勝ってるのにアクションゲー苦手なあの人に勝ち越したことないんだよ? 俺に四人して負けておいて勝てるわけなくね? 色んな意味で尊敬するわ。見習えないけどな」

 

 によによと笑ってさらに一本ピックをドローする。流石にもう動こうとする馬鹿はいないが、持ってるだけでいいのだ。

 

「馬鹿も休み休みにしたほうがいいぜ。俺は黒の剣士や閃光見たく優しい人じゃない。いい子なんだけどな。よくあるだろ? ゲームしてると性格歪む厨二現象。あれだよ。俺多分さ、箍外したら馬鹿みたいにプレイヤーを殺せると思うんだ」

 

 わかるだろ、と首を傾げてみせる。細かく息を飲む音が聞こえたが、それが四人のうち誰のものかは気を配っていなかったのでわからなかった。

 

「……ま、怒られんのも嫌だし、おっさん達のせいで夕飯食えないとかくだらなすぎて笑っちまうから今日はやめておくよ。次こんなことがあったら──」

 

 だがしかしオレンジなんて今はやっていられないのでお説教モード終了のお知らせ。それを感じ取って露骨に空気を緩ませた男共は、水面から出している間抜けな顔を安堵に染めていたので腹が立った。

 

「次は、ちゃんと準備しておくから」

 

 じゃね、と投げなかったピックを仕舞ってういしょっと立ち上がる。ちらりと見えた男の顔が蒼白だったのでよしとして、慌てた様な水音を背に俺は漸く帰路に着いた。

 

 

 

 帰宅した僕は勿論土下座である。

 

「弁明は?」

「……迂遠なのとちょっと迂遠なのは、どっちがいい?」

「後者かな」

「そこのあんちゃんちょっと顔貸せや」

「どうせそれだけじゃないんでしょ」

「74層狩りに行こうって言い出したのは僕じゃないぞ。キリトだぞ」

「で?」

「ごめんなさいでした」

 

 平身低頭反省狐耳。不機嫌モードの彼女は勘弁。

 腕を組んで仁王立ちしているのは、顔の造形から華奢な身体つき、髪型に至るまで俺と瓜二つな……つまりこちらもノゲ テトでぐぐー先生に教えてもらってくださいな見た目の少女である。俺と違うのはほっぺのペイントがない事と、代わりにチョーカーの様なペイントがある事、ケモミミ美少女じゃない所、そしてこれは彼女の背後に回らないとわからない事だが、その背中に本来ならばありえない小さな羽が生えている事だった。

 僕と同じ顔をしているが、ふざけて顔面偏差値をふいにしている俺と違って彼女は素材を大事にしている。いや、彼女の中身もちゃんと魅力的なのだが、そういう意味ではなく純粋な褒め言葉として。元から可愛いというより美人さんな雰囲気の彼女がくぎみーボイスの美少女アバターになってみろ。あのストーカー共の気もわからんでもない。

 彼女の名前は言えませんが、彼女のPNは連翹です。よみかたはれんぎょうと言って、正しく変換されない事が悩みの種だとか。ちなみに植物の名前です。俺とは大学の同級生で二毛さん連さんの仲だったんだけど、今は安達と花芽抓の仲です。追々。

 僕と違って結構優等生。特待受かってるし、身長は俺よりあったし、可愛いってか美人さんな感じだったし、リア充だったし、八畳だったし、真面目だし。同じ研究室になって、元から仲よかったけど授業とかほぼ一緒になって、趣味も合うもんだからまるで同郷くらいの親密さでした。実際は出身違うんだけど。県境一個分違ったんだけど。

 まあそんな彼女ですが、現在お名前は安達です。ここではアルファベット表記なので正しくはadachiですが、なんか変なので漢字変換して安達です。名付けのノリは僕と同じです。

 多分僕と同じ22歳。ゴールインはしてなかったので独身。こっちでも独身。俺と一緒にセルムブルグに住んでて、メイン武器は曲刀二本の双剣。僕と一緒に適当に商売してて……一人称統一なにそれ美味しいの? 今更だろ。

 とにかくそんな彼女。僕こと花芽抓とは一卵性でありながら異性の双子で、父親は蒸発していて母親は薬中DVの真っ黒ペアレント。花芽抓と安達はそれ故心に深い傷を負っているがそれを秘密にしており、更に絶対人には言えない様な秘密を抱えているが心を開いた人物にだけその過去を打ち明ける──という、『設定』。

 

「まあまあ連さん。二毛さんが全部忘れて迷宮区に籠らなかっただけいいんじゃない?」

「さっすがゴリラはいいこと言うね」

「連さん、二毛さんはしばらく監禁でいいと思う」

「こーちゃんごめん」

 

 流れるようなやり取りに吹いて笑い出した、短髪メガネの頼りなさそうな雰囲気の男性アバター。例にもよって名前は言えませんがPNがあるわけではなく、代わりにあだ名はこーちゃんでした。ここでの表記はkochanで読み方はそのままこーちゃん。カタカナで読んでも大して弊害のない実に使いやすい名前です。僕らが二毛さん連さんであった頃から変わらずこーちゃんです。

 多分今23歳。僕らと同じ大学で同じ学年にいましたが、年齢が一つ上なのは生まれ月の関係ではなく『一年休んだ』ことによるズレです。ゴールインしていなかったので独身。こっちでも独身。聞いて驚け此奴が連さんのお相手です。ゲームでくらいくっつけよお前ら。メイン武器は盾なしの片手剣。僕と安達の家に居候している形の同居人。常に眼鏡がきらーんしているので誰もその目を見たものはいないとかいないとか。残念ながら彼のこれ以上の『設定』はないので、彼の説明はここまでとします。

 先に紹介した女子大学生のプロフィールは偽りではない。ここで語る彼女と彼の説明文も謀ったものではない。だが現状を語った俺の一人称視点の物語も虚構ではない。

 順を追って説明するには少々時間がかかる。

 僕らはただあそんでいただけだった。

 それら全ての奇妙な違和は、二年前の仮想世界へと直結する。

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