頭の悪い大学生がナーヴギアを作るとこうなる   作:二毛猫桜

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アインクラッド61層・お手軽料理S級食材をとかす

「……なるほど。ま、今日のお使いはちゃんとしたみたいだし、大目に見てあげるよ」

「もー連さん大好き!」

「はいはい私も大好きですよー」

「連さん、二毛さん。俺はー?」

 

 床に正座してかくかくしかじかを終えて寛大な判決を賜った僕は、よし終わったとばかりに立ち上がって伸びをした。結局昼飯の時間は大幅に遅れてそろそろ夕飯じゃないかってくらいになってしまったが、元々三人ともきちんとした時間にきちんとした量を食べる人種ではないので何も気にならない。夕飯作るかと今日のお使い内容たるA級食材の数々をむむと眺めて、そそくさキッチンに入って食材を並べ始めた。因みに料理スキルを持っているのは三人のうちでは僕だけで、熟練度はようやっと950超えたあたりである。馬鹿な話だが料理スキルはかなり初期から持っていたので、完全マスターも夢ではない数字にまで育っていた。

 ま、綺麗なお隣さんなんかもうコンプリートしちゃったんだけどね。

 

「おを?」

「あ」

 

 さて、食材にメスを入れんとしたその時、俺の耳がぴこっと動いてそのお隣さんの方から楽しげな声をキャッチした。因みにこの建物の壁が薄いわけではなく、寧ろシステム上壁はいくら薄かろうが厚かろうが隔ててしまえばノックしないと中の音はわからない様になっている。僕が何故お隣さんの声が聞こえたってそりゃあ《聞き耳》スキル無駄に高いからに決まってるよな。

 無論普段から聞き見立てて生活しているわけではない。常時発動スキルではないから発動しようと思わなければ発動しないわけだし、今は俺は発動しようとして使ったわけでもない。

 狐耳や羽があってわかるとおり、俺と安達は所謂ユニークスキル……否、俺と安達が使い手だから正しくはエクストラスキルであるのだが、それの使い手だ。耳と羽はその証であり、僕らは通常ではありえないスキルを持っている。そのエクストラスキルの効果の一つ、俺のスキル《第六感》が発動して聞き耳が勝手に引き出され、俺が反応した事に反応した安達は自己判断で聞き耳をした、ということである。後はDEX上がったりAGI上がったりDEF下がったり色々。

 因みに安達にもそのエクストラスキルの恩恵があるのだがそれはここでは発揮しないので説明を省く。チートとだけ言っておこう。

 そんなわけでお隣さんの会話を盗み聞きさせてもらった俺たち。何々S級食材のラグーラビットが持ち込まれたって? なんつー裏山けしからんってかそれ原作じゃないっすか?

 俺と安達の行動は早かった。速攻で手分けして出されていた食材たちをアイテムストレージに放り込んで、直接的な意思疎通もなしに扉を開けて部屋を飛び出す。ずざっとブレーキかけてすぐの場所にある次の扉に狙いを定めて、俺たちと遅れてこーちゃんが合流するまで約2秒。脇にあるおされなインターホンを長押しすること約5秒。

 慌てた様子で扉を開けたのは、お隣さんこと連さんより美人さんな細剣使いの少女、閃光のアスナ。五月蝿かったよね。悪かった悪かった。

 

「花芽抓、安達!? どうし、」

「美味しいものの気配を察知!」

「物見を放て、花芽抓!」

「主、ラグーラビット発見したぜ!」

「発見じゃなくてどうせ聞いてたんでしょ! 運を常に80%に上昇させる《第六感》は反則よ!」

「ピリオドワインとアグリチーズとオーシャンマッシュを献上するから僕らも入れて!」

「入れて!」

「うっ、A級食材ばっかり……うぅ、」

「……アスナ、俺は別に構わないよ。ラグーラビットは二匹捕まえたんだし、量は充分あるだろ?」

「……キリトくんがいいなら……言っとくけど、貴方達は一匹を等分だからね? あと花芽抓は手伝いなさいよ」

「ほいほーい! あ、キリトは羅針盤返せ」

 

 元気よく手を上げて返事をし、序でにとキリトに貸していた索敵補助アイテムを投げ渡される。更に目があった安達とこーちゃんとしたり顔でハイタッチして、俺たちは無事にアスナ宅に侵入を果たした。

 それぞれの趣味のみを買い漁った統率感のない僕らの部屋と違って、アスナの部屋は同じ規格の部屋とは思えないくらい高そうで整ってて綺麗だった。

 俺たちは三人組だから三人部屋の規格を買ったはずだが、下手に物を置いている俺たちの部屋より広く見える。統一感のある上品な家具調度品はどれも最高級のプレイヤーメイドを思わせるもので、それぞれがそれなりに高いものを買ってきているはずの俺たちの部屋とは大違いの高級感がある。だが、それらは決して煩く自己主張はしない。それぞれが分相応の輝きを湛えているかのようなその空間は、そのままこの部屋の持ち主の心の中を現しているようで──

 

「二毛さんもこれくらいとは言わないけど片付けたほうがいいと思うよ」

「君らは総じて彼処を汚い汚いと言うがな。部屋なんてものは所詮、家主が『どこに何があるか』さえ把握していればどれだけ乱雑に物が置かれていようと何も問題は」

「あるってば」

「片付けなさい」

「ういっす」

 

 本当はもう少し並べたい文句はあったが、他の二人に言外に黙せと命じられたため敬礼一つ見せてキッチンで待つアスナの元へと合流する。リビング側では安達とキリトが会話をしているのが見えて、俺はなんとなく気分を良くして袖をまくって襷をかけた。

 突然だがここで装備の話。この部屋には今五人がたむろしている状態だが、このうち四人は装備に対した重きを置いていない。

 黒の剣士たるキリトは1層の頃から似たような黒いロングコートを装備しており、金属装備らしい金属装備はあまりしない。片手剣士なのに空いた手に盾を持たないのは考える所があるからだろうが、何も知らないものからしたら酔狂な死にたがりに見えるだろう。ただ、印象に残るこの黒っぽい格好を最初に始めるに至った事件は、ここにいる五人が良く知るところだった。

 彼と同じく片手剣使いであり、彼と同じく盾を持たないこーちゃん。こちらは単に防ぐより殴るという脳筋思考が大きいと思われる。焦げ茶のレザーロングコートに、俺があげた72層フロアボスLAボーナスの跳躍補正付き《シルフブーツ》、裁縫スキルメイドの赤い手袋。大して防御性のない防具だが、彼の元々持つ様々な廃知識を元にしたシステム外スキルを多用する戦闘スタイルは、確かにこいつに盾は要らないのだと思わせるに足るものだった。

 俺の相棒の安達は、半袖ハーフパンツに俊敏性補正の紐っぽいブーツ、ベルトの多用されたデザインにくすんだ灰色のポンチョと、どことなくRPGのシーフ的印象を持たせる装備である。こちらも防御力の心許ない装備選択であるが、その理由は僕やこーちゃんほど馬鹿な考えなしではない。彼女の選択武器《双剣》は総合装備重量が重ければ重いほど俊敏性と筋力値を損なうものである。バケモノな筋力値は兎も角敏捷性をこれ以上下げられない彼女は、斯くして装備を薄くせざるを得ないのだった。まだベルトで稼いでいる分防御はしているらしい。

 まあとあるエクストラスキルを有しているおかげで、俺は彼女の防御性を大して危惧してはいない。自分で言うのもなんだが、装備面で一番馬鹿なのは俺である。

 俺の選択武器《大太刀》は、特に俊敏性に重きを置いているわけではない。強いて言えばDEXが心許ないとまともに発動しないソードスキルが三分の一であるということだけで、他に偏ったステータスを要求するような武器ではない。その上で言うが俺のステータスはAGIとDEXの極振りで、装備は防御をする気のない袿と袴姿。安達の装備は心許ないと表現したが、俺の防御は紙である。一応足元はボーナスもののブーツだがそれもAGI補正がメインで、全体的に見れば忍も斯くやという防御を捨てた身軽さであった。

 周りがこんなものなので、最前線に陣取る攻略組と呼ばれる面子の中では比較的軽装備なアスナがいると、まだこのお嬢さんの方が装備的に堅い気がする。といっても彼女も取っているスキルは《軽金属装備》なのでその範囲内なのだが。

 現在《圏内》且つ女子の一人暮らしの部屋の中ということもあって、各々武器もコートもベルトもプレートも外して軽いスタイルでいる。迷宮区から帰って部屋によっていないままのキリトは兎も角、安達、こーちゃん、アスナの面々は私服にさえ着替えているが、残念ながら俺は忍スタイルのままだった。

 警戒しているという訳ではない。俺はこいつらが装備が薄すぎてもう私服だと思っているのだ。さすがに大太刀は仕舞ったが。

 

「汚れちゃうよ、花芽抓」

「汚れないよ? SAOの料理はシステムだからね」

「あ、そっか……でも私は、システム化されすぎてて嫌だな。簡単すぎてつまんないよ」

「そうかな。俺は面倒くさがりだから、偶にはこう言うのも楽でいいと思うけど……まあ、流石に二年間も続くと『偶』とは言えないけどな」

 

 エプロンもつけない様子の俺に声をかけてくれたアスナだが、申し訳ないがお気遣いは無用である。『食材を切る』過程ですら包丁でワンタッチで済むここでの料理は、衣服が汚れる暇などないのだ。因みに衛生観念が云々とかそういう話は、ままの食材をアイテムストレージの《麻痺毒 レベル5》と《酷く錆びた鉄剣》の間に放り込んでいる時点で100層の彼方である。取り返したければこのゲームをクリアする事だ。

 

「花芽抓は、向こうでも料理とかしてた?」

「それなりにはね。……珍しいね、アスナが向こうの話をするとは」

「あ、うん……」

 

 カットし終わった食材がポットの中に詰め込まれ、そのままオーブンの様な釜に入れられた。後は適切な時間と調理法をセットするだけで数十分後にS級の料理が出来るのである。こちらもカットし終わった俺が疑問を口にすると、彼女は一瞬手を止めて難しそうな顔をした。

 俺が地雷を踏んだか彼女がセルフで傷を抉ったかどちらとは判らないが、どちらにせよ居心地の悪さを感じた自称コミュ障な僕が言葉を探していると、アスナはぱっと前言を撤回する。

 

「あ、ちがうの! えっとね、確かにきみに会った頃は、向こうの事を考え過ぎて馬鹿なことをしてたと思うけど……」

「ホントだよね。 店売りの細剣五本抱えてモンスターの縄張りに停泊してたっけ? 正気じゃないねいやまったく」

「ポーション類だけ大量に仕入れて外泊とか言って迷宮区に籠るきみに言われたくないわ」

「いやまったく──いやいや、キチガイ度で言ったら安達だよ。あいつアイテムストレージに回復道具ないからね?」

「なんで貴方たち普通の行動ができないの?」

 

 真面目な顔をしてそういう事言わないでください。美人さんにそれを言われると心理的にぐさっとくるものがあるんだよ。いいの? 哲学はいるよ? 普通とはなんなりや。

 

「……悲観するだけじゃ前を向けないなって思ってね」

「何を?」

「花芽抓!」

「判ってる判ってる。冗談言ったのは謝るからそれは調理するためのものであって僕に向けるためのものではありませーん」

 

 ソードスキルが発動する前兆たるライトエフェクトをも帯びそうないきおいで構えられた包丁は、アンチクリミナルコードに阻まれる前にすっと下げられた。

 

「現状を前向きに見たって話だろ? 以前は無茶なレベリングとか馬鹿な作戦立案してたりしたけど、最近丸くなったもんな。いやぁ、狂戦士アスナも大人になったなぁ」

「狂戦士なんて言われた事ないわ」

「言ってたよ、僕らはね」

 

 そういって指を三本立てると、それだけで俺と安達とこーちゃんという三人の面子を思い描いたらしい。アスナは筆舌に尽くしがたい悲しい表情を作ったが、この三人以上に広がっていないならと妥協したらしく包丁をキッチンに置いた。

 

「だから、私はね……もういいわ」

「えー。話してよ」

「嫌。花芽抓と喋ってると話題が変なとこ行っちゃう」

「心外だな。僕が話題をそらす事しかできないみたいじゃないか」

「違うの?」

「違う。ふざけていい話題を選んで掘り下げているだけであって、それだけが僕の能力だと思って貰っては困るのだよ」

「OK。この話題はもうやめましょう」

 

 原作キャラは総じて遊ぶと楽しいんだけどな、と俺は蓋つき鍋の残り時間を覗き込んで思った。というか原作で登場するキャラクターと実際に喋れるという事実が、ここに閉じ込められて二年立ったいまでも嬉しくて仕方がない。

 世の夢女子さんたちがどうだかは知らないが、僕は基本的に漫画とかを読んで思う事は『このキャラクターと恋愛がしたい』ではなく『このキャラクターと対話がしたい』である。ハードル的には大分低いのだ。どちらにせよ次元は超えないといけないのだが、実際に超えてしまった俺に最早その障壁はなくなっている。画面の向こうにしかいなかった筈の存在と会話ができるって素晴らしい。てかコミュニケーション取れるって素晴らしい。

 

「アスナ、そっちの方はあと何分?」

「30分ね。あ、チーズはベイクドチーズケーキにしちゃったけど大丈夫?」

「大丈夫だろ。キリトの好みはよくわかんないけど……ま、文句言ったら僕が貰うよ。こっちはあと35分くらい。しばらく暇だけどどうする?」

 

 暫く、というか30分と残り5分の間だ。俺とアスナはちょっと顔を見合わせたあと、どちらともなくリビングの方を見た。

 ダイニングテーブルに備え付けられた椅子にキリトが座り、少しスペースを置いて設置されているローテーブルの脇にクッションを置いて安達とこーちゃんが座る。ダイニングテーブルの空いた席にはアスナが、そして空いたクッションにはきっと花芽抓が座るのだろう。すっと覗いたリビングでは、安達がぼけたりこーちゃんが突っ込んだりキリトが突っ込んだりと楽しそうなやり取りが咲いていた。

 

「……楽しそうだね」

「そうだね。ちょっとキリトくんが大変そうだけど」

 

 アスナはそうして苦笑するが俺はスルーしてメニュー画面を呼び出した。

 アイテムストレージを操作して真ん中変に入れてあった《特大クッションSS・こんこ》と《特大クッションSS・にゃんこ》を選ぶ。ぽんぽんと音を立ててオブジェクト化されたそれは、ひと抱え以上もある某人をダメにするクッションのアニマルデフォバージョンだった。

 

「かっ、花芽抓それっ!」

「向こうさんは楽しそうにしてるし、僕らはここで雑談でもしていようか。因みにこちらは特大クッションSSシリーズのこんことにゃんこですけど」

「両方買います!」

「まいどあり」

 

 カンスト裁縫スキルぱない。料理完了を告げるアラームの音と共に様子を見に来た面々が見たのは、クッションに沈んでキッチンでくつろぐアスナと花芽抓の姿だった。

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