頭の悪い大学生がナーヴギアを作るとこうなる   作:二毛猫桜

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アインクラッド74層・決闘これにて終了

 ゲートから出てきたのは、未だにへたり込んでいるタンクと同じくKoBの紋章を携えた長身痩躯の長髪プレイヤー。装飾過多な鎧に両手剣を持つその男は、間違いなく俺が今朝目撃したストーカー野郎だった。

 気付かれないように態々転移結晶を使ったのだが、どうやら出し抜いて移動したことがどうにかしてばれたらしい。それが俺の失態なのかどうかは一先ず置いておくとして、俺とキリトという野郎二人を盾にして隠れたアスナがうう、と唸った。

 

「ア……アスナ様、勝手な事をされては困ります……! さあ、ギルド本部まで戻りましょう!」

「嫌よ、今日は活動日じゃないわよ! ……大体、あんたなんで朝から家の前に張り込んでるのよ!? 花芽抓が気づいていなかったら私、……」

「クソ狐が……ふふ、どうせこんなこともあろうかと思いまして、私一ヶ月前からずっとセルムブルグで早朝より監視の任務についておりました」

「うわぁ花芽抓さん傷付いたぁ。てか」

「なんで私達気付かなかったし」

 

 自慢げな顔で鷹揚に語るそいつに、俺と安達で露骨に嫌な顔をする。この流れで安達は更に何か言うかと思ったが、彼女は強かに舌打ちしただけに踏み止まっていた。連さんは基本的に女の子の味方であるのだが、なんだ今日は大人しいな。

 

「そ……それ、団長の指示じゃないわよね……?」

「私の任務はアスナ様の護衛です! それには当然ご自宅の監視も」

「ふ、含まれてないわよバカ!」

 

 さっきのタンクはそうでも無かったが、この剣士は比べるまでも無いくらい嫌悪の対象であるらしい。ストーカー野郎が顔色を増して苛立っていても御構い無しで俺たちにしがみついていた。

 正直この『頼られてる感』とってもありがとうございましたなのだが、この一連のアスナの所作でストーカー野郎の怒りメーター毎秒上昇幅に拍車がかかったのは間違いないだろう。KoB騎士はつかつかと歩み寄って僕を乱暴に退かし、キリトに体当たりしてアスナの腕を掴んだ。

 

「聞き分けの無い事をおっしゃらないでください……さあ、本部に戻りますよ」

 

 その何かを内包したような物言いに彼女は一瞬ひるんだらしい。退かされた態の僕と、ついでにキリトも何かを反応しようとしたが、壁の役にも立たなかった野郎どもより先にそれまで静かだった安達が口を開いた。

 

「アスナ、ハラスメントコード」

「「──!?」」

「くぅっ!」

 

 泣きそうだったアスナが一瞬にして『強い女の子』の目に変わる。彼女にしか見えていないであろうパネルに指が触れるギリギリ前に、ストーカー野郎は必死で攻撃を避ける様に無様に退いた。いや、確かにスッキリしましたけども。

 

「あーだちぃ。お前突然怖い事言うのやめてくれません?」

「私システムの名前言っただけだし。っていうかこの単語に二人揃って反応するとか、あんたたちどんだけラッキー助平に祝福されてるのよ」

 

 いやぁ、転生トリップとかやると補正がなぁ。特にさぁ、男主じゃん? そりゃあ希少なはずの女性プレイヤーとの遭遇率ぱないし、お約束だってゴロゴロ転がってんですよ。俺元は女だけど二次元に関しちゃあロリ大好きだったし、女子力投げ捨てて猟銃の免許取っちゃう位だったんで全然問題ねぇってか割と御馳走様でしたってか。

 よし、僕らは帰ったら土下座かな。

 

「邪魔をするな、クソ狐!」

「俺じゃないっす。妹っすよ」

「違うわ兄貴よ」

「あーだちさーん。土下座は後でやるから余計なことは言うな」

「正しくは?」

「後で誠心誠意謝らせて頂きますので少々口を慎んで頂きたい」

「二毛さん、こういう時のために小説書いてたの?」

「謝罪の語彙を増やすためだけにあの文字数を費やしたとは考えたくねぇな」

 

 腕を組んだ姿勢の安達から発せられる背中に刺さる視線から逃れ、自分の袖にしがみついて啜り泣く。確かに小説活動は趣味の範囲だったけどそんな虚しいの嫌だ。ぼ、僕だって一時期電○大賞とかメフィ○ト大賞とか夢見て真面目に書いてた時期くらいあったぞ!

 …………あ、あったぞ!

 

「全く、何やってるんだお前は」

「うるせいやい」

 

 尻もちをついていたキリトが呆れ千万と言う風に、やれやれと声に出して緩慢と起き上がる。それまで俺たちの馬鹿馬鹿しいやり取りをぽかんと見ていたアスナが、はっとしたようにキリトの背後に再度隠れた。

 最初は吃驚して反応できていなかった彼も、二度目ともなれば困り顔で頬を引っ掻くくらいの余裕は出来たらしい。ぎろりと睨むストーカー野郎相手に長々と溜息を吐いて、相手の反感をさらに買うという男前を見せた。

 

「あんたのトコの副団長をかけた決闘は、そこの人がウチの切り込み隊長と終わらせてもう決着がついてるけど……」

 

 ちらりとキリトは観衆に溶け込むくらい静かになっている元タンク装備の男を見やる。座り込んで俯いて何も言わないところを見ると、紙装備でガキンチョな僕に軽くしてやられたのが相当効いたらしい。大いに満足な俺だが、空気を読める俺でもあるので唇に不可視のチャックを縫い付けた。

 

「それで納得してくれるわけじゃなさそうだな」

「あ……当たり前だ!! 貴様の様な雑魚プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるかぁ!! わ……我々は、栄光ある血盟騎士団の……」

「あんたよりはマトモに務まるよ」

 

 その一言は余計ってもんだぜキリト君。

 

「ガキィ……そ、そこまででかい口を叩くからには、それを証明する覚悟があるんだろうな……」

 

 怒色通り越して蒼白になったストーカー野郎が、震える手で虚空を操作する。それが先程行われた決闘の二番煎じであることは、当事者である俺たちは勿論さっきのドタバタから解散しなかった観衆プレイヤーにもわかった。正直見世物としてはつまらないだろうが、そう思うのはキリトの実力を理解している僕ら身内の者だけである。観衆はKoBVSソロと言う本日二つ目の余興に乗じて賭けをし始めた。

 さっき賭けてもらったらしいので、俺はソロ側に硬貨を弾く。金額の偏りはソロ優勢の七分三分と言ったところか。碌に稼げないと言った数刻前の黒の剣士に今同意した。

 デュエル通知が届いたのか、キリトがそれに返事をしようとして片腕を上げて少し迷う。

 

「……いいのか? ギルドで問題にならないか?」

「大丈夫。団長にはわたしから報告する……それに、もう花芽抓がやっちゃった後だし……」

「さーせんしたー」

「「ったくこのノリ狐」」

 

 世間が冷たい。安達とキリトが冷たい。頑張ったのに嘘だろ。

 

「あ、あの、えっと、……わ、わたしは嬉しかったよ! か、カッコ良かったし!」

「アスナぁ!」

 

 いい子だ! と抱きついて頭を撫でて、はーあの野郎共後で覚えてろよと独りごちてぐたっと体重をかけて……、おっとやべぇと今の性別を思い出してぱっと離れた。いつものノリでスキンシップを始めては世間がもっと冷たくなるし話が前に進まない。それにあのまま顔を埋めてグリグリし始めたらハラスメント防止コード発動待ったなしだろう。TS怖いわぁー。でも握り拳ぷるぷるさせてるストーカー野郎はあんまし怖くないわぁー。

 

「ふざ、……ふざけるなよクソ狐ぇっ!!」

「おい。お前のせいで憎悪が二割り増しだぞ」

「ファイトキリト。大丈夫。お前俺と違って対人戦そんなに苦手かないだろ」

「……ホント、不思議な訛りだよな、それ」

 

 キリトは愛剣を鞘から抜いて下段に構えて緩く立っている。豪奢な両手剣を担ぎ気味に構えるストーカー野郎に集中する為か、俺の妙な台詞に文句を言ったきり此方に意識を割くことは無かった。

 観衆にも見える様に可視モードで表示されたカウントが一つずつ減っていく。それを安達は腕を組んで、こーちゃんはポケットに手を突っ込んで、アスナは若干不安げな顔で、俺は頭の後ろで手を組んで見ていた。

 イタリック体の格好つけたゼロが表示されデュエルの文字が弾けた瞬間、両者が堰き止められていたように動き出す。

 ストーカー野郎は両手剣にライトエフェクトを帯びてまっすぐキリトに突進する。シンプルだが強力な突進力を有する両手剣単発ソードスキル《アバランシュ》。対するキリトはストーカー野郎の技と交錯する角度で、技の威力では簡単に劣る片手剣単発技《ソニックリープ》を発動した。

 多種のソードスキルに精通するものならこれで決着がついたと思うだろう。技同士が同点ベクトルで接触した場合、押し勝つのは気合いではなく威力の高い方だ。だがキリトはその甘い見通しを斬り伏せる。

 武器破壊。両手剣と片手剣が接触したその瞬間、ストーカー野郎の持つ華美な大剣が腹程からばっきりと折れた。

 鎧を削る音とは違い耳を劈くような金属音が鳴り響いて、一瞬宙に放り出された剣先がやがてポリゴンに吸収される。いいもん見せてもらったなと苦笑する俺の隣で、アスナは口を開けて驚いていた。

 広場は一瞬静まり返るが、キリトが剣左右に振り払うと歓声が起こる。剣を失ってタンクの二の舞になったストーカー野郎は、うずくまって震えていた。

 

「武器を替えて仕切り直すなら付き合うけど……もう良いんじゃないかな」

 

 今度は言われるままにアイテムストレージを操作することはなく、潔く苦々しいリザインが唱えられる。ウィナー表示が出て、観衆がもう一度湧いた。あまり儲からなかった。

 

「見世物じゃねぇぞ! 散れ! 散れ!」

 

 そんな事を申されましても、二度ある事は三度あるとか諺でもあるし。と思ったが余興決闘は一日二回で腹が膨れるらしく、観衆は俺とキリトに労いの言葉をかけて三々五々に散っていった。おうよ、こんどは真面目に決闘しようぜと、守るかどうか、そもそも再開するかどうか怪しい口約束がいくつか飛び交った。

 やがて落ち着いた広場で、やっと隠れるのをやめたアスナが気丈に言葉を発する。

 

「クラディール、ヴィクトリー、血盟騎士団副団長として命じます。本日を以って護衛役を解任。別名あるまでギルド本部にて待機。以上」

 

 氷点下を軽く潜る勢いの冷たさで二人分の執着が引き離される。クラディールと呼ばれたストーカー野郎は、ぶつぶつと呪詛を吐きながらくるりと転移門の方を向いた。

 

「そこのタンクも連れてけよ。栄光ある騎士団員が、仲間を見捨てるわきゃねーよな?」

「……チッ」

 

 向いた後近場でへたり込んでいた団員を無理矢理立たせて二人仲良く転移門をくぐって行った。

 

「ひと段落終了ーっかな。お疲れキリト」

「面倒なのがくる前にってこういう事かよ。……てか花芽抓が遊ばなかったらもっと楽に終わったんじゃないか?」

「遊んでませーん。……っと、アスナ大丈夫か?」

「おいでアスナ。野郎共はデリカシーがなってないわ」

 

 くたっとしてしまったアスナだが、それまで動かなかった割に素直に安達の腕の中へと寄っていく。野郎共、と一括りにされた三人は行き場がなくてむっとした。こーちゃんはとばっちりかな。

 

「……ごめんなさい。嫌なことに巻き込んじゃって」

「いや、えっと……」

「気にすんなよ。俺もキリトもやりたくてやったんだからよ」

 

 申し訳なさそうな顔をするアスナの頭を、かつてニ毛さんでしかなかった頃に下のきょうだいにしたように軽く撫でる。向こうではお姉ちゃんだったが、こっちではお兄ちゃんかと場にそぐわない事をへらりと考えていたら、その間抜け顏を女子二人に笑われた。

 

「深く考えなくていいよ。花芽抓が別の事考えて馬鹿顔を晒すくらいだし」

「そうだよ。今回は俺は矢面に立てなかったけど、ニ毛さんでよかったらまた盾に使ってやって」

「どういうことだってばよ」

 

 むすっとした僕を今度は安達が肩ポンする。悲しくなるから無言で慰めるのはやめてください。

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