侵略!パンツァー娘   作:慶斗

102 / 104
カエサル→カエ
エルヴィン→エル
左衛門佐→左衛門
おりょう→おりょ

ナカジマ→ナカ

ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ
ローズヒップ→ローズ
ニルギリ→ニル
ルクリリ→ルク

アンチョビ→チョビ
カルパッチョ→カル
ペパロニ→ペパ

カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
アリーナ→アリー

シンデョー→シン

能面ライダー般若→HN
能面ライダーひょっとこ→HT



Chapter26:最後の休息です!

田辺 「さあどうぞ皆さん、こちらへ」

 

二日目終了後。

イカ娘と愛里寿、そしてみほたちは田辺婦人に促され邸宅内へと足を踏み入れた。

 

イカ娘「お邪魔するでゲソー」

愛里寿「お、お邪魔します」

 

一度訪れているからか物怖じせず玄関を上がるイカ娘と、遠慮がちな愛里寿。

それに続いて栄子たちやセンチュリオンの隊員たちが続く。

 

沙織 「うわー、すっごく立派なおうち」

麻子 「ここに並んでるの、舶来の英家具ばかりだぞ」

華  「価値の程はわかりませんが、かなり年季を感じられますね」

優花里「はい、それにもしかしてこのお宅の外壁って・・・・」

みほ 「・・・・」

 

しかしあんこうチームやアヒルさんチームの面々は玄関から中には進もうとしない。

正確に言えばみほが進もうとしないので他のメンバーも様子を見ている状態にある。

 

田辺 「あらあら、遠慮せずに上がってくださって結構よ?戦車道を志す方たちは分け隔てなく歓迎しますから」

 

にっこりと上品でいながら親しみを感じはその表情は、胡散臭さや裏を一切感じさせない清らかささえ見て取れるほどだった。

 

あけび「す、すごいお住まいですよね。あのお婆さん凄い人なんでしょうか」

妙子 「あの、こ、こういうおうちって土足で上がっていいんでしょうか!?やっぱり脱いだ方が!?もしかして室内履きとか!?」

典子 「落ち着け!まずここは一礼からだ!よろしくお願いしまーす!」

忍  「そこはお邪魔しますでいいのでは」

 

普段縁の無い豪邸に誘われテンパるアヒルさんチーム。

 

麻子 「西住さん、ここで立ち尽くしてるのも失礼じゃないか」

沙織 「そうだよ、それにほら、悪い人じゃなさそうだし」

華  「イカ娘さんたちともお知り合いのようですし、心配ないかと」

 

麻子たちはみほが不審がっているのかと思いなだめる。

 

優花里「西住殿、あのご婦人は疑うような方ではありません。あの方は____」

みほ 「うん、知ってるよ。グロリアーナ学園OGの『田辺凛』さん」

田辺 「あら、私のことをご存知なの?光栄だわ」

 

田辺婦人は嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

みほ 「戦車道を志すなら必ずお名前を耳にする方です。今に至る聖グロリアーナ戦車道の基礎と伝統を作り上げ、グロリアーナで初めて『ダージリン』の呼び名を獲た方」

沙織 「えっ!?この人もダージリンさんだったの!?」

みほ 「お母様・・・・家元が仰っていました。もし生まれ育った時代が同じだったなら、一番の壁はあなただっただろう、と」

田辺 「ふふっ、西住流の家元さんにそこまで言われるなんて光栄ね。でも今はただの戦車道好きのお婆さん、肩肘張らず寛いでちょうだい」

 

田辺婦人の笑顔に緊張が解けたのか、おずおずながらも中へ上がるあんこうチームとアヒルさんチーム。

遠慮なくリビングへ向かうイカ娘と後ろを伺いながら追う愛里寿、微笑みながら後ろを歩く田辺婦人、そして続くみほや典子たち。

やがてリビングまでたどり着くと、

 

イカ娘「この先がリビングでゲソ」

 

遠慮など一切なくイカ娘が扉に手をかける。

 

愛里寿「イカ娘、遠慮なさすぎ」

 

嗜める愛里寿だったが、扉の向こうから聞こえてきた声にピクッと体が止まる。

 

ギィー

 

そのままイカ娘が扉を開けると____

 

ミカ 「やあ」

アキ 「あ、来た来た」

ミッコ「お先いただいてるぜー」

 

沢山の料理が並んだテーブルを囲み、継続メンバーが既に食事にありついていた。

 

渚  「えっ、継続の皆さん!?」

栄子 「試合中一度も姿を現さないと思ったら・・・・」

 

予想だにしない出迎えに目を丸くする栄子たち。

そんなこともお構いなしに三人は食事を止める気配はなかった。

 

愛里寿「こんな所で何してるの貴女たち」

 

愛里寿が呆れたように、かつ威圧するように声を掛けると、ミカのフォークが止まる。

 

ミカ 「実はここの家主にお呼ばれしてね。無下に断るのも心苦しいので招致に応じたまでさ」

愛里寿「全隊員集合の号令に従わなかった貴女がそれを言うの」

 

愛里寿の鋭い指摘にも、涼しい顔でパンをひとかけ口に放り込む。

 

田辺 「さあ、貴女たちもお好きな席に」

 

リビングにやってきた田辺婦人ごイカ娘やみほたちに促す。

戸惑いつつも、各自席についた。

 

田辺 「今温めているお料理があるの。これから持ってくるから少し待っていてくださるかしら」

華  「お手伝いいたします」

沙織 「あ、私も!」

 

幾回りも年上の田辺婦人を敬うように席を立とうとする華と沙織だが、婦人はやんわりと手で制する。

 

田辺 「気を遣わないで。貴女ちちは大切なゲスト。もてなすのも私たちの勤めよ」

 

そう言われては無理に手伝うのも気が引けるため、席に着き直す二人。

田辺婦人がキッチンへ姿を消すと、

 

イカ娘「どうしてお主らはここにいるのでゲソ」

 

イカ娘が当然の疑問を継続メンバーに投げかける。

 

ミカ 「ああ、この家の主とは友達の繋がりがあってね」

優花里「えっ!?継続さん、田辺さんとお友達なんですか!?凄いなあ、羨ましいです!」

 

優花里が素直に羨望の声を上げる。

 

ミカ 「直接友達、というには語弊があるね」

あけび「どういうことですか?」

ミカ 「『友達の友達』・・・・。間には共通の友人がいるのさ」

イカ娘「おばあさんの田辺さんと学生のお主らの共通の友達・・・・?想像がつかないでゲソ」

 

イカ娘の脳裏には田辺婦人寄りの年配の人物や継続寄りの若い人物のイメージなどが湧いたりしているが、どれもピンとこない。

 

田辺 「お待ちどうさま」

 

しばらくして田辺婦人が料理をいくつもの大皿に乗せて我が家で運んできた。

それを手際良く並べると、テーブルの上には豪勢なディナーが鎮座ました。

 

沙織 「うっわー、すごく美味しそう!」

華  「色も鮮やかで、とても丁寧な仕上がりなのが分かります」

麻子 「いただきます」

優花里「冷泉殿!みんなでいただきますしてからですよー!」

麻子 「離せ、私は今すぐ食べるんだー」

 

などとやり取りしていると、更に奥からもう一人(・・・・・・・・・)の老婦人が料理を持って現れた。

 

栄子 「あれっ?もう一人・・・・?」

イカ娘「田辺さんと同い年に見えるでゲソ」

 

その女性は長い黒髪をなびかせ和服を身にまとい、凛々しさの中に優しさを感じさせる目をしていた。

料理ご並べ終わると、彼女は田辺婦人の隣の席についた。

 

田辺 「ご紹介しますわ。こちら、昨日初めてお会いした(・・・・・・・・・・)藤原カナヱさん」

藤原 「初めまして」

 

ペコリと気品に溢れた礼を向けられ、慌ててみほたちも礼を返す。

渚や鮎美らも挨拶をするが、イカ娘と栄子は驚きのまま固まっている。

 

栄子 「ふ、藤原カナヱさんって・・・・」

イカ娘「ま、まさか、あの話に出てきた____」

 

二人がそこまで言いかけると、田辺婦人は小さく口に指を当てる。

はっとした栄子たちが口をつぐむ。

 

田辺 「藤原さんとは昨日会ってから気があって。せっかくだから二日目は我が家にお迎えして一緒に観戦してましたの」

 

藤原婦人はにっこりと笑顔を浮かべる。

 

沙織 「はー、何だかステキですね!」

華  「そう言ったご関係、憧れます」

 

素直に感心していた沙織たちだったが、

 

麻子 「ちょっといいか」

 

一心に料理を頬張っていた麻子が口を開く。

 

麻子 「二日目、つまり今日だが、その観戦を『ここ』でしていたのか?」

忍  「あっ」

妙子 「そういえば」

 

麻子の言う通り、聞いたままの意味ならば田辺藤原両婦人は試合中、競技エリアに在中していたことになる。

 

渚  「危険ですよ、そんなの。今回運がやったからいいものの、もし砲弾が命中していたらタダじゃ済まなかったんですよ?」

シン 「最前列で観戦したいっていう気持ちはわかるけど、無謀すぎやしないかしら」

藤原 「ふふ、ご心配には及ばないわ」

 

周囲の心配を全く意に介さない様子に、余裕すら感じられる。

 

田辺 「このおうちは、カーボンコーティングしてありますから」

一同 「ええっ!?」

 

田辺婦人の思わぬ回答に一同が声を上げる。

 

藤原 「ですから直撃しても損害はなし。だからこそ、試合中に外に出ないという誓約のもと最高の席で見届けることができるのよ」

典子 「特殊コーティングが施された家・・・・」

あけび「そんなおうち、存在するんですか!?」

優花里「『特例固定建築資産物特権』・・・・!」

 

突然優花里が難しい単語を口にする。

 

イカ娘「え?特例・・・・なんでゲソか?」

優花里「『特例固定建築資産物特権』です!」

イカ娘「???」

みほ 「戦車道協会の提示した規定で定められた以上の耐久度に達した建築物と、その所有者に与えられる権利です」

愛里寿「更に所有者は戦車道協会に全面的に身元の保証をされている、身分も確かな人物でなければいけない。国内でも条件を満たしている人はたぶん数えるほどしかいない」

優花里「お話には聞いていましたが、まさかお目にかかれる日がこようとは!感激です!」

 

目をキラキラさせながら語る優花里。

他のメンバーもその特別な事情に驚き、料理を囲むテーブルは大いに賑うのだった。

 

イカ娘「とうっ!」

 

モフッ

 

イカ娘がベッドにダイブすると、フカフカの羽布団とマットがイカ娘を受け止めた。

 

栄子 「おいこらイカ娘!行儀悪いぞ、立場を弁えろっての。全く、愛里寿ちゃんを見習えっつの」

 

イカ娘を嗜める栄子を見て、同じく飛び込もうとした愛里寿の動きがピタッと止まり、栄子に気づかれないようそっとベッドに腰掛ける。

田辺夫人の計らいにより風呂もあてがわれ、さっぱりとした面々は手配された部屋で用意されたベッドに大はしゃぎだった。

 

シン 「豪勢な夕食に優雅なお風呂、そしてフカフカのベッド。至れり尽くせりだわー」

渚  「田辺さんに感謝しないとですね。それにしても、戦車道の試合にも耐えられる家なんてすごいですね」

栄子 「ああ、こないだここに来たときはすごい家だな~程度にしか思ってなかったけど、それ以上にとんでもない家だったわ」

鮎美 「で、でも・・・・どうしてそんな家を建てたんでしょう」

愛里寿「普通に考えると、戦車道の試合を眼前で観たいから、ていう理由だと思う。これまで戦車道の試合をもっと間近で見たいって無茶する人は何度も見てきた」

イカ娘「それにしたって豪快すぎるでゲソ。お金持ちはすることが桁違いでゲソねー」

 

その頃、田辺邸屋上では。

 

沙織 「うわっ、すっごい星空!」

華  「まさに満天の空ですね」

 

屋上に設けられた展望所で、あんこうチームの面々は広がる星空に感嘆の声を上げていた。

 

優花里「今この一帯は戦車道の競技エリアですから。家屋の生活の明かりが無いせいで空がきれいに見えますね」

みほ 「うん、こんな星空久しぶり」

 

キラキラした目で星空を見上げる一同だったが、

 

麻子 「・・・・」

 

麻子だけは寝袋にくるまり横になっている。

 

沙織 「ちょっと麻子、何寝てんの。こんな星空見ないなんてもったいないよ」

麻子 「寝転がっても星空は見える。むしろ目を開けるだけで見れるからお得だぞ」

沙織 「ものぐさすぎるよ」

華  「ですが一理あります。せっかくですし・・・・」

 

バサッ

 

そう言って華は用意していたビニールシートを広げ床に敷く。

 

優花里「おおっ、流石五十鈴殿、用意万全ですね!」

華  「さあ、どうぞ」

沙織 「それじゃ、失礼して~。ほら、みぽりんも」

みほ 「うん」

 

沙織に促され横になりながら再度星を見上げる。

 

優花里「おおー・・・・」

沙織 「ステキ・・・・」

 

再度感激の声が上がる。

横になって見上げる星空は、広がりや見え方がまた変わりより雄大に見えていた。

 

麻子 「どうだ、悪くないだろう」

 

シートの横で寝袋に入った麻子がドヤ顔をする。

 

沙織 「別にそれを伝えたくて入ったわけじゃないでしょ~に」

みほ 「でも・・・・本当に綺麗。こんな星空見たの、小さいころぶりかも」

華  「小さいころ・・・・熊本にいらっしゃった頃ですか?」

みほ 「うん。あの頃は家も広いし周囲に家も少なかったから、星空がよく見えたんだ」

優花里「それは素晴らしいですね!」

みほ 「戦車道の勉強や訓練でつらいこともあったけど、そんな時は屋根に上って一緒に星を見上げると、辛いこととかも忘れられたんだ」

華  「『一緒に』・・・・、お姉さまと、ですか?」

みほ 「・・・・、うん」

 

時同じくして、相沢家にて。

 

梓  「あふ・・・・。それじゃあ、お先におやすみなさい」

HN 「ええ、ゆっくり休んでね」

桂利奈「あいー・・・・」

あゆみ「晩御飯、美味しかったです!」

あや 「ねー、特にエビピラフが絶品だった」

優季 「お店開けるレベル~♪」

紗季 「・・・・(コクコク)」

 

梓と桂利奈は眠そうな目を擦りながら、後の四人は先ほどの夕飯の感想を話し合いながら寝室へと入っていった。

それを見届け、ふっと微笑みを浮かべた般若は二階のベランダに出た。

 

HT 「お疲れ様です」

 

そこではひょっとこが夜の海を眺めていた。

水筒を手渡すと、器用に般若は仮面をずらして口をつけた。

 

HT 「ここなら外して飲んでも構わないのでは?」

HN 「ううん、壁に耳あり障子に目あり。万が一を考えれば不用意な行動は控えるべきね」

HT 「流石です」

 

ひょっとこは振り返り家の中を見る。

 

HT 「みんな眠りましたか」

HN 「ええ、今日あれだけ頑張ったんだもの。ぐっすりよ」

HT 「毎度彼女らの底力には驚かされます。きっと、明日も活躍してくれるでしょう」

 

ふと空を見上げると、満天の星空が目に入った。

 

HT 「きれいな星空ですね」

HN 「ええ。今は特によく見えるわ」

HT 「・・・・小さい頃、み・・・・、____妹と、良く星を見ていました」

 

ひょっとこは、空を見上げながらぽつりと語り始めた。

 

 

~~回想・十年前の熊本、西住邸にて・夜~~

 

 

幼みほ『あっ、流れ星!』

幼まほ『お願いごとはできた?』

幼みほ『あっ・・・・おねがいする前に消えちゃった』

 

その日も幼いみほとまほはこっそり屋根に上り、二人で星を見上げていた。

 

幼まほ『みほは、お願いが叶うとしたら何をお願いしたい?』

幼みほ『えっ?うーん・・・・。「日本一の戦車道の選手になりたい!」かな?』

幼まほ『・・・・そうか。それはいいな』

幼みほ『おねえちゃんは?』

幼まほ『・・・・私か?私は・・・・』

 

そこまで言って言い淀むまほ。

 

幼みほ『おねえちゃん?』

幼まほ『みほ、これから言うことはお母様に内緒にできるか?』

幼みほ『えっ?・・・・うん!』

幼まほ『そうか。私のお願いごとは・・・・』

 

まほが自分のお願いを語る。

 

幼みほ『へえー、そうなんだ。・・・・あれ?それじゃあおねえちゃんは・・・・』

幼まほ『いいな。お母様には内緒だぞ』

幼みほ『あ・・・・、うん!』

 

そして星空の元、指切りをする二人だった。

 

 

~~回想終了~~

 

 

みほ 「・・・・っ」

 

はっと目を覚ますみほ。

周囲を見渡すと、そこは田辺邸の来客用寝室。

時刻は真夜中で、あんこうチームの面々は寝息を立てている。

 

みほ 「・・・・」

 

ゆっくりと起き上がり、沙織たちを起こさないよう慎重にベッドから降りる。

そして再度後ろを振り向き、そして部屋を出た。

 

キィ、キィ・・・・

 

静かに歩きながらも軋み音を立てる廊下を進むみほ。

窓の外を見ると、そこには二日目最後の状態のまま置かれたⅣ号が鎮座していた。

そしてその正面には発射直前の構えのままのセンチュリオン。

その光景を横目に見ながら通り過ぎた。

ふと、明かりがついている部屋を見つける。

 

典子 「残存車両はお互い二十を切っている。一両一両が大きく局面にかかって来るぞ」

あけび「Wフォーメーションで行きますか?」

忍  「いや、ここは1-5、着実に戦力をそぐべきだ」

妙子 「なら試合開始直後にみんなと合流しないとだね」

みほ 「・・・・」

 

夜中になっても真面目に三日目の相談をしているアヒルさんチームの邪魔をしないようにそっとドアから離れるみほ。

そのまま暗がりの廊下を進むと・・・・

 

ポウ・・・・

 

廊下の先の角が何だか光っているのに気が付く。

何の光かと眺めていると、その光がだんだん近づいてくるのに気づく。

何が近づいているのか、正体が掴めないのもあり警戒するみほ。

やがて一番光が強くなったと思うと____

 

イカ娘「む」

 

発光したイカ娘と手を繋いだ愛里寿が角から顔を覗かせた。

 

みほ 「あ・・・・あなたは・・・・」

愛里寿「みほさ・・・・西住さん?」

イカ娘「こんな時間にどうしたのでゲソ」

みほ 「えっと・・・・何だか目が覚めちゃって。あなたは・・・・?」

イカ娘「私たちはトイレに行った帰りでゲソ。愛里寿が夜の廊下は照明も薄くて暗くて怖いって言うから、一緒について行ってあげたのでゲソ」

愛里寿「ちょっと、バラさないでってば!?イカ娘だって暗い廊下はお化けが出そうで怖いって言ってたじゃない!」

イカ娘「お化けなんて光ればどこかへ行くでゲソ。故に私は無敵でゲソ」

愛里寿「寝るときは光れないじゃない」

イカ娘「そこが悩みなのでゲソよねー」

みほ 「そ、そうだったんだ・・・・」

 

あまりにも当然に光ったことを台頭に語っていたため、そのことき追求することができないみほだった。

何となく会話が繋がらず、沈黙する三人。

 

愛里寿「・・・・明日は、負けないから」

 

先に口を開いたのは愛里寿だった。

 

みほ 「私も負けるつもりはないよ。西住流の名をかけて、勝利を掴んでみせる」

愛里寿「私だって、島田流の看板を背負っているのだから」

 

そう語るみほと愛里寿の顔は、決意と自信、そして自らの流派の誇りを感じさせた。

 

みほ 「・・・・あなたは、何のために試合に挑むの?」

イカ娘「えっ?」

 

突然の質問にキョトンとする。

 

みほ 「あなたの戦車道に、・・・・今回の試合に挑む姿勢、凄く熱を感じる。これまで試合をしてきた人たちの中でも誰よりも。今回の試合は町おこしを兼ねた撮影用の試合だって聞いてるけど、どうしてそこまで本気なの?」

 

正直なところ、みほは初日に試合を決めるつもりだった。

ドーラの強襲、江の島占拠による野営薬庫の確保、西住流を体現した質実剛健な立ち回りですぐに勝負はつくと思っていた。

だが蓋を開けてみれば江の島でまほを失い、数倍の守りも掻い潜りドーラを討たれ、決まったと思った裏どりも強引に打ち砕かれた。

それだけイカ娘たちの戦いが、町おこしの規模を遥かに超えていたのである。

なぜそこまでして、自分の様に絶対に譲れない何かがあるのか、とみほは理由を知りたくなったのだ。

 

イカ娘「・・・・友達のためでゲソ」

みほ 「・・・・友達の?」

イカ娘「この試合に負けると、大切な友達が遠いところに行っちゃうのでゲソ。だから負けられないのでゲソ」

愛里寿「・・・・」

 

目を逸らす愛里寿。

反してイカ娘はみほの目をまっすぐ見る。

当のみほには、それが自分のことだとはわからなかったが。

 

みほ 「そう。だからあなたは強いんだね」

 

だがみほはその理由で納得したようだった。

そしてにこっと笑う。

 

みほ 「でもそれなら私だって負けないよ。私がこの試合に負けられないのは、私の大切な人のためでもあるから」

イカ娘「えっ?」

 

予想しなかった言葉に、イカ娘と愛里寿は戸惑う。

これまでみほの行動原理は『西住流を継ぐこと』に一辺倒だと思っていた。

しかし、今みほの言った通り『大切な人のため』だとすると急に話が変わってくる。

それはみほの今の状態が予測と異なる状態にあり、催眠による暗示の推測が全く見当違いだったことになる。

そうなると、ただし試合に勝つだけでは解決にならなくなる。

イカ娘が固まっていると、

 

田辺 「あら、皆さんこんな所でどうされたのかしら」

 

カンテラを手にした田辺婦人が現れた。

 

愛里寿「あ、騒がしくてごめんなさい」

みほ 「その、何だか眠れなくて」

イカ娘「私はトイレでゲソ」

 

そんな三人を見て、田辺婦人はしばしの沈黙の後、口を開く。

 

田辺 「本当は、明日朝ご飯を終わらせてからお話しするつもりだったのだけど。ここで会ったのも何かのおぼしめしかも知れないわね」

 

そう言ってふっと微笑むと、来た方向へ戻り始めた。

そして三人を見ると、ちょいちょいと小さく手招きする。

 

三人 「・・・・?」

 

田辺婦人の意図は読めなかったが、続く三人。

その間田辺婦人はしゃべらず、黙々と歩みを進める。

やがて玄関ホールを通り抜け、階段脇のある扉の前に立つ。

そして扉を開くと、そこにはさらに下の階段があった。

 

みほ 「地下室、ですか?」

田辺 「ええ。この先に私の見せたいもの、そしてあなたたちが欲しかったものが眠っているわ」

 

何のことだろう、とは思ったがそれが気になり、三人は田辺婦人に続き地下へ降りる。

カンテラの灯りのみの階段は少しホラーな雰囲気がしたが、恐怖をあまり感じずにいたのは田辺婦人の纏う空気のようなものがあったからかもしれない。

 

田辺 「ここよ」

 

やがて階段の下までたどり着くと、そこは真っ暗闇だった。

しかしそこがやたらと広い空間であるということは何となく感じられた。

田辺婦人が手探りで照明スイッチを見つけ、

 

パチン

 

スイッチを付けると途端に明るさに包まれ、三人は目を窄める。

少し経って目も慣れてきたころ、うっすらと瞼をひらくと、そこには・・・・

 

みほ 「砲、弾・・・・!?」

 

そこに並んでいたのは沢山の砲弾だった。

置かれていたのは一種類ではなく、大きさも規格もバラバラ、57mm砲弾があったかと思えば152mm、榴弾までも何でも揃っている。

 

イカ娘「部屋中砲弾だらけでゲソ」

 

イカ娘は砲弾をいくつも触手で持ち上げる。

 

愛里寿「それ、18.4口径。チハで撃てる弾だよ」

イカ娘「おお、そうでゲソか」

愛里寿「こっちは122mm、IS-2に使える。これは88mm・・・・まさかポルシェティーガー用?」

 

イカ娘の持ち上げる様々な砲弾を見て、みほははっとする。

 

みほ 「まさか、ここが・・・・そうだったんですか?」

 

田辺婦人は答えず、にっこりと笑顔を返す。

 

イカ娘「これだけ数と種類があるなら、きっと・・・・」

 

キョロキョロと辺りを見渡しながら奥へと進むイカ娘。

 

ガッ

 

イカ娘「うわっ」

 

足元を見ていなかったせいで何かに足を取られそうになる。

足元を見るとそこには大きな縦長の袋が三つ横たわっていた。

そう、人がちょうど入れるほどの大きさの袋が・・・・

 

???「うーん・・・・」

 

その袋の中から声がしたかと思うと、その三つがもぞもぞと動き始めた。

 

イカ娘「ギャーーーッ!」

 

叫び声を上げるイカ娘。

そして、その袋の中から____

 

ミカ 「やあ」

 

ミカが顔を出してきた。

 

イカ娘「お主は!?」

 

思わぬ人物に驚いていると、残りの二つからも

 

アキ 「もう、なぁにー?うわ、まだ夜中じゃん、もっと寝かせてよー・・・・」

ミッコ「ふにゃ・・・・」

 

アキとミッコも姿を現した。

 

愛里寿「貴女たち、、どうしてここで寝ているの」

ミカ 「まあ、強いて言うなら・・・・『番人』、と言った所かな」

みほ 「番人?」

ミカ 「相応しい人に必要なものを渡せるようにね。さて、君が探しているものはこの砲弾かな?」

 

そう言って示したのは152mm砲弾。

 

イカ娘「それじゃないでゲソ」

ミカ 「じゃあ、これかな?」

 

次に出してきたのは57mm。

 

イカ娘「それは小さすぎるでゲソ、それじゃないでゲソ」

ミカ 「うんうん、正直だね。ではご褒美にこれをあげよう」

 

そう言って砲弾を差し出した。

 

イカ娘「おお、これはきっと」

愛里寿「ちょっと、これは76.2mm。イカ娘の五式は75mmだよ、引っ掛けないで」

 

嬉々として受け取ろうとしたイカ娘の前に割って入り遮る。

 

ミカ 「そんなつもりは無いさ。これはそちらにあげようと思ってね」

 

ミカが愛里寿に76.2mm、センチュリオンの砲弾を手渡す。

 

愛里寿「どうだか」

ミカ 「75mmはこちらにある。必要なだけ持っていくといいさ」

イカ娘「おお!」

 

ミカの指し示す方向には、五式の『七糎半戦車砲Ⅰ型』が使える75mm砲弾が所狭しと並べられていた。

それを見て目を輝かせるイカ娘。

 

田辺 「必要とあらば、明日の試合で使っていただいて構わないわ」

イカ娘「いいのでゲソか?!」

 

願っても無い提案に大はしゃぎするイカ娘。

触手で75mm砲弾をかき集め、鼻歌を歌っている。

そんなイカ娘を横目にしながら愛里寿は室内を見て回る。

ふと、進んだところで見かけた砲弾に足を止める。

 

愛里寿「あれは・・・・」

 

近づいてよく見てみると、それは46.3口径や94mm砲弾だった。

 

愛里寿「・・・・?」

 

不思議に思いしゃがみこんで94mmをまじまじと観察する。

 

愛里寿(94mm砲弾?でも今回の試合にトータスを持ってきてるチームはいなかった。使うあてのない砲弾がなぜここに?)

 

みほも愛里寿もここが『野営薬庫』だと確信していた。

だから各チームの戦車の砲弾が用意されている物だと思っていた。

しかし、ここに使わない砲弾があるということは・・・・

 

愛里寿「・・・・」

 

一つの疑念が沸いた愛里寿は、94mm砲弾をひっくり返す。

と、そこには何か文字が書いてあった。

 

愛里寿「?」

 

よく読むと・・・・それにはこう記されていた。

 

『くろがね工業社会人戦車道チーム』

 

愛里寿「!!!」

 

目を見開く愛里寿。

瞬間、あの夏の時の試合を思い出す。

 

 

~~回想・大学選抜編第4話・『貫き通さなイカ?』より~~

 

 

小早川『・・・・今度の戦い、私たちはどうしても負けるわけにはいかなかった。どんな手を使ってもあなたたちを完膚なきまでに倒す必要があった。__だから私の部隊は密命を受けて、試合までにこの倉庫に十分な量の弾薬を持ち込んでおいたのよ』

愛里寿『それは何日前のこと?』

小早川『一週間前よ。ばれないように一定の量を運びこみ続け、目視で必要な量を蓄えたのを確認し、南京錠をかけて厳重に保管した。あとは試合当日にここを占拠し補給を行えば、間違いなく勝てる展開になるはずだった』

愛里寿『でも、なんで砲弾が消えたの?』

小早川『・・・・それがさっぱりわからない。確かに一週間前までは十分すぎる量があった。けど今は一発もない。宇喜多は、私がまた裏切って砲弾を運ばなかったと決めつけていたわ』

愛里寿『ここに砲弾が隠されていることは、もちろん私たちの誰も知らなかった。なら、我々でもなくそちらでもない、第三者が砲弾を持ち出したということになる』

 

 

~~回想終了~~

 

 

愛里寿「消えたくろがね工業の砲弾・・・・第三者・・・・」

 

愛里寿はちらりと横目で見る。

はしゃぐイカ娘をよそに、ミカは涼しい顔でカンテラをいじっていた。

 

その夜。

各所ではお互いの対戦相手と親しげに夜を過ごすメンバーたちの姿が見受けられていた。

 

エリカ「まだ起きてたの?睡眠不足の相手なんて倒しても自慢にならないから早く寝なさいよ」

ナオミ「それは明日の朝食が何かによるな」

エリカ「・・・・晩御飯のハンバーグカレーの残りだけど」

ナオミ「よし、すぐ寝る」

 

 

杏  「やっぱアレだね~、女子が集まった夜ですることと言えばコイバナだよね~。はいじゃあかーしまから」

桃  「はえっ!?わ、私はその、そういった話は早いというか家族を安心させるためには誠実な相手があのそのあの」

柚子 「会長、桃ちゃんをいじめすぎです」

ねこ 「ふっふっふ、私の恋人はコントローラーとダンベル。これ以外には考えられんにゃ!」

ダー 「それは二股になるのでは」

もも 「確かに!」

ニル 「私は殿方との関りも気迫ですので、そう言ったお話は・・・・」

ぴよ 「この場では該当するのは一人くらいぴよ」

ルク 「ちょっと待て!何で一斉にこっち見るんだ!?」

 

ローズ「皆さま方はそういったお話はありませんの?聖グロではお堅い方たちばかりで話が弾まないんですわ」

カル 「初恋かー。たかちゃんはそういう経験はいつだった?」

カエ 「うーん、小学校のころ社会の教科書を読んだ時かな」

おりょ「聞くだけ愚問ぜよ」

左衛門「まあ、普通だな」

ペパ 「アンタたちだけっすよそういうの」

エル 「いや、お前たちにも覚えがあるはずだ、絶対ある」

チョビ「無いわっ!」

 

西  「明日こそ混沌たる戦場に我らが一陣の風を吹かすとき!一同、一層奮励努力せよ!」

細身 「応!」

寺本 「我らが散り際を解くとごろうじろ!」

ナカ 「やー、気合入ってるねえ」

ホシノ「しかし、夜に戦車に触ってはいけないというのはなんかこう、手持ちぶたさというか」

スズキ「わかる。だけど早々と寝ちゃうのももったいないというか」

福田 「むにゃ・・・・すやぁ・・・・」

ツチヤ「福ちゃんみたいに寝つきがいいと楽なんですけどねー」

 

カチュ「まったく、どうしてカチューシャが黒森峰の奴らにもボルシチを振る舞わないといけないのよ」

ニーナ「作ったんも振る舞ったんも私らがやったんですが・・・・何でもねえです!」

ノンナ「戦車道はノーサイドの精神。試合外でこそ寛大であるべきです」

清美 「それにこんなおいしいボルシチ、食べてもらわないなんてもったいないですよ」

綾乃 「そうそう。美味しいものは分かち合わないと」

アリー「カチューシャ様は美味しいもん見っけたら全部食べちまうタイプだべな」

クラ 〈同意します。そこが魅力なのです〉

由佳 「ロシア語わかんないけど、今同意した気がする」

知美 「私もそう思った」

 

そして翌朝。

 

栄子 「いやー、まさか田辺さんちが薬庫だったとはなあ」

シン 「そりゃ探しても見つからない訳よね」

渚  「イカの人が気付かなかったら今日も弾なしで切り抜けないといけませんでしたね」

 

田辺邸の玄関先でスタンバイする栄子たち。

ルール上試合開始前の補給やメンテは違反なので、開始直後に砲弾を補充する作業をしなくてはならない。

 

愛里寿「開始直後に私がみほさんの相手をする。八九式に気を付けながら早めに補給を済ませて」

イカ娘「わかったでゲソ。みほは任せたでゲソよ」

 

お互いにコツン、と拳を合わせ、愛里寿は持ち場へ戻っていった。

 

栄子 「そういや、継続の人たちはどうした?」

鮎美 「朝ごはん食べ終わってから見かけてませんね・・・・」

渚  「継続さんの戦車も見当たらなかったですし、ここにはない場所に置いて来てたんでしょうか」

 

玄関先に置いてあるリヤカーを見ながら渚が呟く。

 

シン 「ホント自由な人たちね」

栄子 「あんたが言うか」

 

バババババババ

 

ヘリの音に空を見上げると、真上を真理たちのヘリが見えた。

 

真理 「さあ皆さんお待たせいたしました、いよいよ三日目、最終日の開始です!」

亜美 「持てる力すべてをバーッと出し尽くしなさい!」

 

アナウンスに顔が引き締まる栄子たち。

既にⅣ号に搭乗済みのあんこうチームの面々の表情も引き締まっている。

 

真理 「では、位置について!」

亜美 「パンツァー・フォー!」

 

パアン!

 

最終日、開幕。




いよいよ終幕が近づいてまいりました。
長くお突き合いいただいた方々に、いい結末をお送りできるよう努力します。

最終章三話のブルーレイ情報が出ましたね。
四話の発表が待ち遠しいです。

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