アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル
シンディー→シン
ドオオン!
由比ヶ浜の演習場に着弾の土煙が上がる。
その土煙を薙ぎ払うように突っ切るアンチョビたちのサハリアノ。
チョビ「今だ!撃てえ!」
バアン!
アンチョビの合図でサハリアノが火を吹く。
ドオン!
その砲撃をすんでの所でかわすイカ娘のチャーチル。
チョビ「かわされたぞ!装填急げ!」
カルパッチョが手際よく装填する。
カル 「装填完了です!」
チョビ「よし!早苗、機会があればいつでも撃っていいぞ!」
早苗 「はーい♪」
バアン!
ペパ 「あらよっと!」
チャーチルからの砲撃を読んでいたペパロニが、車体を回転させいともたやすく砲撃をかわす。
チョビ「のわっ!?」
急な回転にのけぞりそうになり、キューポラのフチにしがみついてこらえるアンチョビ。
そしてそのまま一回転、ピタリとチャーチルの方を向いたところで急ブレーキをかけて姿勢を安定させる。
チョビ「ぐはっ、__今だ!」
バアン!
シュポッ
次の砲撃は完璧にチャーチルを捉え、すぐに白旗が上がった。
練習が終わった後、一同は海の家れもんで反省会を兼ねた昼食を取っていた。
イカ娘「うーむ、とんでもない強さでゲソ」
栄子 「スピード、装填速度、火力、そしてアンチョビさんの采配。これはスキがないな」
カル 「本当に、サハリアノの性能とドゥーチェがあってこそです」
チョビ「でもそっちもかなり腕は上がって来てるぞ。決めるつもりの砲撃を何度もかわされたのは正直驚いた」
栄子 「あー、それは慣れから来るものかも。最近、どういうタイミングで相手が撃ってくるか、カンだけど予想できるようにはなって来たんだ」
早苗 「えっ、そうなの?もっと砲撃のタイミングやペースを変えるべき?」
栄子 「いや、あれ以上変則的になられてもこっちが困るんだが」
シン 「それにしても驚くべきはサハリアノのスピードとドライビングテクニックね。あのスピードで走り回られたら、当たるものも当たらないわ」
ペパ 「へへん、これがアンツィオのCV33で鍛えた操縦テクっす!生半可な狙いじゃ当たってやんないっすよ!」
チョビ「今日の反省点はそこだ、ペパロニ」
ペパ 「え?」
褒められて鼻が高いペパロニが、アンチョビの言葉に反応する。
チョビ「サハリアノは確かに速い。だが、あの急な旋回やブレーキは正直無茶が過ぎるぞ」
ペパ 「ええー、CV33の時は散々やってきたテクじゃないっすかー。ドゥーチェだってうまく乗りこなしてるって褒めてくれてたのに!」
チョビ「CV33とサハリアノじゃ勝手が違う。サハリアノの最高速度はCV33より遥かに上だ。そんなスピードのまま旋回やブレーキをかけてみろ、発生する遠心力や衝撃は比じゃない」
ペパ 「えっ、そうなんすか?私は特に感じないっすけど__」
チョビ「車内にいるお前はいいだろうけど、私が大変なんだよ!車外に身を乗り出してるから、その都度踏ん張るの大変なんだぞ!」
ペパ 「あっ、そっか!すんませんドゥーチェ!」
特に悪びれもせず、頭をぽりぽりとかくペパロニ。
わかってるようでまるでわかってないその様子に、アンチョビはため息をついた。
次の日、いつも通りれもんでバイトするアンツィオ一行。
イカ娘「鉄板ナポリタン、三人前でゲソー」
ペパ 「あいよー!鉄板三丁!」
アンツィオコラボの評判は上がる一方で、連日やってくるお客の数は増え続けている。
千鶴もペパロニも料理を作り続けている。
客A 「お会計おねがいしまーす」
と、食べ終わった客がレジの前に立っている。
チョビ「っと、会計か!私は手が離せない、誰か頼む!」
栄子 「悪い、こっちも今手いっぱいだ」
カル 「私も、このお料理を運び終えないと・・・・」
栄子 「ええい、頼むのは若干不安だが・・・・イカ娘!会計を__」
早苗 「労働に汗を流すイカちゃんも可愛い~♪」
イカ娘「離すでゲソー!」
イカ娘は早苗に絡みつかれていてうごきが取れない。
栄子 「マジか!」
客 「あのー」
チョビ「あああまずい、すいません!ちょっとだけ待って__」
ペパ 「姐さん、私が行くっす!」
調理にキリが付いたペパロニがレジへ駆け寄る。
チョビ「すまん、任せるぞ!」
ペパ 「お待たせしたっす!えー、合計二千三百万リ__二千三百円円っす!」
屋台のノリで会計を続けるペパロニ。
チョビ(何か心配だな・・・・。でもまあ、よく屋台出してるし、その辺りは慣れてるだろうし、大丈夫か)
と、目線は外しながらも耳だけは注意を向けていた。
客A 「じゃあ、これで」
ペパ 「ういっす、一万円お預かりするっす!・・・・えーっと、このレジってどうやって使うんだ?」
レジの打ち方が分からず一瞬動きが止まるペパロニ。
ペパ (ええい、後で千鶴さんにやってもらえばいっか!えーっと、二千三百円に一万円だから__)
ペパ 「八千七百円のお返しっす!」
客A 「え?」
チョビ「うおおおおおい!」
料理を運び終わったアンチョビが駆け寄ってくる。
チョビ「違うだろ!一万引く二千三百だから、七千七百円だろ!」
ペパ 「あ、そっか!」
アンチョビが改めてレジを打ち、正確なお釣りを渡し終える。
ペパ 「いやーすんませんドゥーチェ!」
チョビ「まったく・・・・。アンツィオならまだしも、ここで計算違いなんてしたら千鶴さんに迷惑がかかるぞ?もっとちゃんと考えろ!」
ペパ 「肝に銘じるっす!」
チョビ「はあ・・・・」
さらに別の日。
アンチョビたちがチャーチルとサハリアノ、双方の砲弾の在庫をチェックしている。
チョビ「残弾はきちんとチェックすることだ。いざ試合というときになって砲弾が満足に使えないとあっては話にならないからな」
渚 「チャーチル側、砲弾は九十七発分のストックがありました」
チョビ「了解だ」
在庫チェック表に書き込んでいくアンチョビ。
チョビ(チャーチル側はそろそろ補充しないといけないな。注文してから届くまでに消費する予想数を立てないと)
チョビ「えーと、届くまでに五日、その中で練習は最大三回はできる。一回の練習で平均十二発は使い、砲撃訓練を含めると更に十五発。そして在庫の数と補充の数を合わせて百五十発はストックに最低でも欲しい。えーっと、つまり注文する数は・・・・」
ペパ 「百四発っすね!」
ペパロニがさっと答える。
チョビ「おお、そうか」
言われた通りの数字を書き込むアンチョビ。
チョビ「よし、次はサハリアノの__」
カル 「あの、ドゥーチェ」
チョビ「うん?どうした?」
カル 「それだと、三十発ほど最低数を下回ってしまうのでは・・・・」
チョビ「え!?」
言われて、慌てて数を再確認するアンチョビ。
チョビ「・・・・ほんとだ、三十発足りなくなる・・・・。ペパロニー!」
呼ばれた当の本人はきょとんとした顔をするのであった。
その日の夜。
ファミレスではサハリアノチームの四人がテーブルを囲っていた。
チョビ「今日の議題は!ペパロニの数字力についてだ!」
ペパ 「え?」
議題の張本人が素っ頓狂な声を上げる。
ペパ 「なんすか?スージ力って」
チョビ「数字力な」
早苗 「確か、物事を細かく数字に置き換える能力、だったっけ?」
カル 「それで大体あってますね」
ペパ 「それで姐さん、それが私と何の関係があるんすか?」
チョビ「大ありだ。前々から思っていたことだが、ペパロニ。お前は数字に関して大雑把すぎる」
ペパ 「へ?」
未だに言っている意味が理解できない顔をする。
チョビ「お前は、サハリアノに乗っているとき、速度を気にかけたことはあるか?」
ペパ 「あるっすよ!いつもアクセル全開、出せるスピードのすべてを出し切れるよう心がけてるっす!」
チョビ「そこがダメだって言ってるんだ!」
ペパ 「どうしてっすか!?サハリアノの一番の強みはあのスピードっすよ!?」
チョビ「こないだの訓練の時にも言っただろう。全速力のサハリアノはスピードが出すぎている。最高速度で旋回や急ブレーキをすれば、運転席以外の人間はみんな振り回されてしまうぞ」
ペパ 「えっ?そうなんすか?」
言われてカルパッチョや早苗を見やる。
カル 「そうね。直進しているときはまだ大丈夫だけど、急旋回や急ブレーキを連続して出されると、やっぱり上手く装填できないわ」
早苗 「スピードが速ければ照準が移っちゃうのも早くなっちゃうものね。狙いづらい場面も、確かにあったかな」
チョビ「ほれ見ろ、二人とも言わないだけで考えなしの高速運転に振り回されてたんだ。かくいう私も何度もキューポラに腰をぶつけて痛いんだ!」
ペパ 「って言われても、私にどうしろって言うんですかー」
無茶振りをされているように、困惑した声を上げる。
チョビ「簡単なことだ。数字に関わる場面において、冷静に判断を下せばいい」
ペパ 「数字に関わる場面?」
チョビ「例えば装填タイミングや砲撃タイミング。最高速度の中で行うのが苦なら、速度をどこまで落とせば解決するのか。旋回や急停止の際、どういった速度からならチームメイトに負担が無いのか。それをきっちり数字に起こして覚え、実行に移せるようにすればいい」
ペパ 「???」
頭に?マークが浮かび続けている。
早苗 「例えば時速70キロで旋回すると装填が難しくなっちゃうから、時速40キロくらいに落として旋回しよう、とか、そういうことですよね?ドゥーチェ?」
チョビ「ああ!流石早苗、よくわかってるじゃないか!」
ペパ 「ええー、めんどくさいっすよー。それに速度落としたら狙われやすくなっちゃうじゃないっすか」
チョビ「40キロでも十分速いだろ!」
カル 「ペパロニはCV33に乗っているときはいつもアクセル全開だったものね。これから微調整を覚えていけばいいのよ」
ペパ 「せっかく速いのに、落とせだなんてー。アンツィオのノリと勢いが泣きますよー?」
チョビ「ノリと勢いが許されるのは誰にも迷惑がかからない時だ。今のお前はまだそれが出来る段階じゃあない」
ペパ 「ちぇー」
そして翌日。
れもんにはには目を閉じてムスっとした表情のアンチョビと、頭をかいているペパロニが向かい合って座っていた。
チョビ「確かに、速度を出しちゃいけないとは言わなかった」
ペパ 「そっすね」
チョビ「速度を下げて旋回しろとも言った」
ペパ 「言ってたっすね」
チョビ「だが、急発進急停止しろとは言ってなかっただろ!見ろ、あの二人!」
アンチョビが指さした先には、カルパッチョと早苗が青い顔で横になっている。
濡れタオルを額に当てられ、千鶴たちに看病されている。
イカ娘「カルパッチョたちが戦車に酔うなんて驚いたでゲソ」
栄子 「特に早苗が酔うなんてな。一体どんな操縦だったんだ」
カル 「あれは・・・・揺れというより・・・・」
早苗 「うん、跳ねてた、よね・・・・」
千鶴 「訓練の様子を見ていたけど、あの急加速と急停止の繰り返しは危険だったと言わざるを得なかったわ」
千鶴が濡れタオルを新しく用意してのせなおす。
はあ、とため息をつくアンチョビ。
チョビ「確かに、これまでお前の操縦に気配りに寄せた指導をしてこなかった私にも責任はある。しかしここまでとは思わなかった・・・・」
ペパ 「姐さあん、落ち込まないでくださいよ。それじゃ私まるでダメな子じゃないっすか!」
チョビ「・・・・」
ペパ 「姐さああん!」
答えが無かったことに余計に不安を感じ涙目になるペパロニ。
チョビ「せめて、もうちょっと数字に強くなってくれればなあ・・・・」
ペパ 「だから、その数字力ってのはどうすれば身につくんすか!言われただけじゃわかんないっすよ!」
チョビ(ここに来て、ノリと勢いで押し切ってきたツケが回って来るなんて・・・・。このままじゃ私がいなくなったあとのアンツィオは、カルパッチョの助けがあろうとも回せなくなる。だけど、今からペパロニに力学について論じても、色々と間に合うかどうか・・・・)
チョビ「ううーん・・・・」
ペパ 「姐さあん!お願いだから見捨てないでくださいよー!」
頭を抱えて突っ伏してしまうアンチョビ。
必死に肩をゆすり訴える半泣きのペパロニ。
そんな二人に__
イカ娘「数字に強くなれば解決するのでゲソ?」
イカ娘が声をかけた。
ペパ 「へ?」
イカ娘「聞いたところによると、ペパロニはどうやら数字に弱いせいでうまく行ってないようでゲソ。それなら、ペパロニが数字、つまるところ計算に強くなればいいということになるでゲソ」
チョビ「んー、まあ、万事解決、とはいかないだろうが、事態を打開するくらいにはなるかもな」
イカ娘「それならば!この計算式を使うといいでゲソ!」
おもむろにイカ娘はアンチョビに何かを書いた紙を突き出した。
そこにはラクガキのような模様がいくつかと、触手らしきものもいくつか書かれていた。
チョビ「何だこりゃ?抽象画か何かか?」
イカ娘「絵じゃないでゲソ。これは、計算を簡単にする式でゲソ。これなら、どんな計算や式だろうと楽勝でゲソ!」
チョビ「へえ・・・・」
チョビ(読めん)
しかし当然ながら、イカ娘独自の計算方法はアンチョビには理解できなかった。
栄子 「またお前それを出したのか。これはお前にしかわからないって言ってるだろ」
イカ娘「それは栄子がバカなだけでゲソ。こんなに便利な方法があるのに、わからないなんて言う方が信じられないでゲソ」
栄子 「言うかこのー!」
イカ娘「あ痛たたたたたたた!」
栄子にグリグリされて泣きわめくイカ娘を傍らに、どうにか読めないか見つめていたアンチョビだが、やがて諦めた。
チョビ「残念だが、私たちには使えないみたいだな。気持ちだけ受け取って__」
ペパ 「ちょっといいっすか、姐さん」
イカ娘に返そうとしたのを、横からひょいっとかすめ取るペパロニ。
じっと計算法が書かれた紙を見つめる。
チョビ「おいペパロニ、聞いてなかったのか?これはイカ娘にしかわからない式で、私たちには__」
ペパ 「なるほど、わかったっす!」
チョビ「そう、わかり__、・・・・ええええ!?」
思いもよらない発言に狼狽する。
ペパ 「イカ娘!ここの部分は、これに照らし合わせて、これに加えるんだな?」
イカ娘「うむ、その通りでゲソ!そうすると、この部分がここと繋がるから__」
ペパ 「これが、ここを答えに導いてくれる・・・・ってワケか!こりゃすごいな!」
ペパロニとイカ娘の会話がかみ合っている。
栄子 「え、もしかしてペパロニ・・・・」
千鶴 「イカ娘ちゃんの計算式、読めるの!?」
チョビ「お前、話を合わせて適当なこと言ってるんじゃないか?」
ペパ 「ウソじゃないっすよ!ちゃんとわかってるっす!」
チョビ「じゃあテストするぞ。そうだな・・・・。84×42は!」
アンチョビから出された問題に、ちらっと紙に目を通すペパロニ。
ペパ 「3528っす」
間髪おかず、さらりと答える。
電卓で答え合わせするアンチョビ。
出てきた答えに、驚愕の表情を浮かべる。
チョビ「・・・・合ってる・・・・」
ペパ 「でしょー?この計算式はホンモノですって!」
チョビ「適当答えて偶然当たってる可能性もあるからな。もっと難しいの行くぞ?965×459÷51は!」
ペパ 「8685っす」
こともなげに正解して見せた。
その後もペパロニはただの掛け算だけでなく、様々な計算式を解いて見せた。
素因数分解、オイラー数、ガンマ関数すら容易く解いて見せる。
チョビ「!!!」
栄子 「なんてこった・・・・」
立て続けに導き出される正解に、アンチョビたちは認めざるを得なかった。
それを尻目に、ペパロニとイカ娘はハイタッチをするのであった。
次の日の朝。
いつも通りペパロニは変わらぬ様子で、鼻歌交じりで朝食を作っている。
そんな様子をリビングから見ているアンチョビとカルパッチョ、そして栄子。
栄子 「まさか、ペパロニがイカ娘の計算式を会得するなんてね」
チョビ「確かにあれを使いこなせるのには恐れ入ったが、いまだに信じられないよ」
栄子 「あれさえ読めればなー。数学は一生苦労しないで済むのに」
カル 「同感です。あれを応用できれば、戦車道に革命を起こすことだってできちゃいますからね」
栄子 「でも不思議だよな。なんでペパロニにはあれが読めたんだろ」
カル 「私も挑戦してみましたが、読めませんでしたし・・・・」
チョビ「他に読めるのはイカ娘だけ。つまり、イカ娘とペパロニに何か共通したものがあって、だからこそ読めるということかもしれないな?」
栄子 「あの二人に共通しているもの・・・・?」
二人の共通点を頭に思い浮かべる。
チョビ「・・・・割と多いな」
栄子 「探してみると、結構そっくりかもな。あの二人」
カル 「きっと、そもそも計算とかそういうものに当てはめようとするから私たちにはわからないと思うんです」
栄子 「そりゃどういう意味だ?」
カル 「きっと、それは__」
ペパ 「ノリと勢い、っす!」
料理が完成したペパロニが大皿に盛ってテーブルに持ってきた。
ペパ 「アタマで考えようとするからわからないんすよ。こう、見た瞬間に感じた閃きを信じて、式をあてはめるんっすよ」
チョビ「ノリと勢いについて注意した直後に、ノリと勢いで解決されるとはな。立つ瀬がないぞ」
ペパ 「まあまあ、解決したんならそれでいいじゃないっすか」
しばらくしてイカ娘たちも起きてきて、みんなで朝食を取り始めた。
たける「ペパロニ姉ちゃん、イカ姉ちゃんの計算方法が使えるようになったってほんと!?」
ペパ 「ホントホント。これで私も姐さんに心配かけずに済むってもんさ!」
えへん、と胸をそるペパロニ。
たける「じゃあさ、この計算やってみてよ!」
と、ノートを取り出す。
そこには二ケタの掛け算がいくつも載っている。
ペパ 「へへん、このくらい楽勝っすよ!」
と、得意な顔で解き始めた。
十分後。
ペパ 「うーん、うーーーーーん・・・・」
難しい顔をしてノートをにらむペパロニ。
まだ一問目も解けていない。
チョビ「どうしたペパロニ!?昨日は三ケタだろうと楽勝だっただろ!」
栄子 (元のペパロニに戻ってる・・・・)
明らかに昨日とは違う様子に、周囲も戸惑う。
カル 「あっ、もしかして__」
何かを閃いたカルパッチョが席を立ち、しばらくして紙を持って帰ってくる。
ペパ (うへえ・・・・一晩でアタマが元に戻っちゃったってこと・・・・!?)
楽勝なはずの計算がわからなくなり消沈するペパロニに、カルパッチョは
カル 「ペパロニ、これ」
ペパ 「へ?」
持ってきた紙を差し出した。
__それは、昨日と同じイカ娘の計算式が書かれた紙だった。
それをチラ見した瞬間__
ペパ 「おおっ、そうか!」
途端に凄いスピードで問題を解き始め、五分足らずでノートの開いた部分、三十問ほどを解ききった。
栄子 「おおっ!?急に調子が戻ったぞ!?」
チョビ「その途端すごいスピードだったな」
カル 「やっぱり、そうだったのね」
千鶴 「どういうことかしら?」
カル 「きっと、ペパロニはこの計算式を『見ながらなら』計算して解けるようになったんです」
栄子 「あっ、そういうことか」
チョビ「計算をこの式に当てはめればわかるということは、この式が手元にないと成り立たないのか・・・・」
栄子 「微妙に不便だな」
ペパ 「いいじゃないっすか!見ながらならすごい数字力が手に入るってことでしょ!」
チョビ「見ながらって、他の時はどうするんだ。計算をする時ならまだしも、出先や戦車に乗ってる時まで持って歩くのか?不便じゃないかそれ」
ペパ 「へへん、それについては私に思いついたことがあるっす!」
チョビ「?」
その日の昼頃、戦車道演習場にて。
待ち合わせの時間にやって来た早苗が、ペパロニを見て怪訝そうな顔をしている。
早苗 「ペパロニ・・・・頭のそれ、なに?」
ペパロニは頭に金属製の輪っかのようなものをかぶり、正面からは針金が弧を描きながら伸びている。
ペパ 「これはだな・・・・戦車道をしていてもイカ娘の式が見れる秘密道具っす!」
早苗 「イカちゃんの式!?」
栄子 「そこに反応すんのかよ」
ペパロニは針金の先に計算式が書かれた紙をセットする。
それにより、ペパロニの眼前にはいつもイカ娘の計算式がぶら下がっている状態になっている。
ペパ 「これなら戦車道しながらでも、歩きながらでも式が見れる!どうすかこのアイデア!」
得意顔のペパロニ。
対してアンチョビのそれを見る眼は若干呆れ気味だった。
チョビ「お前・・・・その格好で戦車道するつもりか?」
ペパ 「モチロンっす!」
そして、練習が始まった。
イカ娘のチャーチルを相手取り、サハリアノが演習場を駆け回る。
ドオン!
チャーチルからの先制射撃をいともたやすくかわす。
その動きは先日に比べ圧倒的にスムーズで、流れるようななめらかさも感じ取れる。
チョビ(この動き・・・・今までとは圧倒的に違う!)
前まで感じていた車長を考えない遠心力や、急ブレーキによる衝撃も全く感じない。
アンチョビに伝わるのはエンジンの振動とわずかな縦揺れ程度になっている。
と、イカ娘のチャーチルがこちらを再度狙っているのが見える。
チョビ「回避!直後に砲口をチャーチルに合わせろ!」
ペパ 「了解っす!」
ペパロニはちらっと頭から伸びている計算式にちらっと目を配る。
バアン!
ドオン!
指示通りにスピンをかけてかわし、まさにアンチョビの描いた理想通りに砲口をチャーチルに向けてサハリアノは急停車した。
その動きにも一切の負荷は感じさせず、回転の時の遠心力も急停止の時の衝撃も、気持ち悪いほどに全く感じられなかった。
チョビ(何だこの正確すぎる運転は・・・・!計算とかなんだとかでどうにかなるもんなのか、これ!?)
あまりの技術の上昇に戸惑うアンチョビ。
早苗 「ドゥーチェ、撃っていいの!?」
我を忘れたアンチョビに車内から早苗が指令を催促する。
チョビ「あ、ああ、すまん!撃て!」
ドオン!
シュポッ
かくして完璧な戦車操作により、あっけなく勝負はついた。
イカ娘「強敵だとか、そういう次元じゃなくなってるでゲソ・・・・」
栄子 「向こうに乗ってるの、プロか何かだと思ったわ」
ペパ 「いやー、照れるっす!」
チョビ「しかし、あまりに上手くなっててビックリしたぞ。あれも計算によるものなのか?」
ペパ 「うーん、どうなんでしょ」
チョビ「どうなんでしょって、お前」
ペパ 「前にドゥーチェが衝撃が大きすぎる、って言ってたんで、この式見て探ってみたんすよ」
チョビ「何を?」
ペパ 「ドゥーチェに負担の行かない加速の具合、旋回速度、急停車のためのブレーキを踏む強さの度合いとかっす!」
チョビ「これでそこまでわかるのか!?」
早苗 「でも流石にイカちゃんの式が優秀でも、戦車の操縦は載ってないと思うけど・・・・」
カル 「多分、ペパロニが式で導き出したのは操縦方法じゃありません」
栄子 「それじゃ、一体?」
カル 「__多分、『物理演算』じゃないかと」
チョビ「ぶっ・・・・!」
その単語にアンチョビが絶句する。
イカ娘「ぶつりえんざん、って何でゲソ?」
ペパ 「さあ、何だろ?」
渚 「物理演算って言うのは、物が動くときに生じる動作を全て数値化させて、それをいくつもの要因と絡み合わせて答えを導き出す計算式です」
イカ娘「?」
ペパ 「?」
渚 「簡単に言うと、これを動かしたらどれがどう動くか、同時に動かせばどうかみ合ってどういう結果になるのかを完全に理解している、ということです」
ペパ 「おお、それ便利っすね!」
チョビ「便利どころか、戦車道を志す者にとって究極の操作方法だぞ!それを式を見ただけで完全にやってのけるなんて__」
カル 「恐らく、物理演算を応用した戦車道は、家元レベルの方々でも確立できていないのでは」
ペパ 「マジで!それじゃ今アンツィオは戦車道最強ってことになるじゃん!?」
チョビ「そんな簡単な話じゃないだろ」
チョビ(しかし・・・・。一人とは言え、物理演算を完璧に体得した人間が現れたら、戦車道に激震が走る。となると、アンツィオの地位は弱小から一気に強豪レベルにまで跳ね上がる!いや、もしそれを広められれば、全国優勝も夢じゃない!)
突然開いたアンツィオの輝かしい未来に、一喜一憂するアンチョビ。
チョビ(・・・・でもなあ・・・・)
冷静になって、ペパロニの頭から伸びる針金と計算式をぶら下げている姿を見る。
チョビ(これさえなければ、文句なしなんだけどなあ・・・・)
ペパ 「?」
その後。
ペパ 「まいどありー!千六百円っす!あ、そっちのお客さんは九百円。そっちのキミは五百円っす!はい、六百円のお返しっす!四番のチャーハンあがったっすよー!」
ペパロニのれもんでの動きもだんぜん変わっていた。
料理のキレも上がり、調理の合間に大人数のレジうちもこなし、そして全くミスが無い。
客B 「この炒め具合、完璧だ!一番おいしい具合に火が通っている!」
客C 「おいしすぎる!こんなの食べたら、よそじゃ満足できなくなっちゃうわ!」
お客の評判もうなぎのぼりで、そこら中から絶賛の声が上がる。
吾郎 「まさか、ありえん!千鶴さんよりうまいエビチャーハンなど、この世にあっていいはずが!うおおおお!だが手が止まらん!くそう、旨すぎる!」
栄子 「褒めるか拒絶するか食うかどれかにしろよ」
吾郎すらペパロニの作ったエビチャーハンに病みつきになってしまっている。
チョビ「ついにあいつ、一皮むけたな」
カル 「一皮どころじゃないような・・・・」
チョビ「ともあれ、これで私が去った後のアンツィオは心配がなくなった。あのペパロニならアンツィオを任せられる。今は頭のアレが必要だろうが、続けていればいずれ頭に入って必要なくなるだろう」
カル 「でもドゥーチェ、今のペパロニは・・・・」
チョビ「もちろんカルパッチョにも頑張ってもらうぞ。あいつがもし調子に乗り始めたら、うまくサポートしてやってくれ」
カル 「・・・・はい」
少し歯切れの悪いカルパッチョの返事に若干違和感を覚えるアンチョビだった。
その日の晩。
ペパロニは夢を見た。
一年前、アンツィオに入学して戦車道を始めたばかりの頃のことを。
~~夢~~
ドンガラガッシャーン!
CV33が派手な音を立てながらひっくり返る。
ペパ 『いててて・・・・』
カル 『うう・・・・』
何とか中から這い出して来る二人。
チョビ『だ、大丈夫か!?ケガはしてないか!?』
カル 『わ、私は大丈夫です・・・・』
ペパ 『私も大丈夫っす!いやー、今回も無事でした!さすが特殊カーボンっすね!』
チョビ『アホー!カーボンコーティングされてるからって、絶対ケガしない訳じゃないんだぞ!戦車は扱いを間違えたら一大事なんだっていつも言ってるだろう!』
ペパ 『す、すんませんドゥーチェ!』
チョビ『・・・・ともあれ、ケガが無くてなによりだ。ほら、戦車を元に戻すぞ』
カル 『はい!』
その日のお昼。
ペパロニたちはアンチョビと一緒に昼食を取っている。
ペパ 『それにしても』
チョビ『うん?』
ペパ 『なんでドゥーチェはいっつも失敗してる私を助けてくれるんすか?ほかに優秀な子もいっぱいいるのに』
チョビ『呑み込みが悪いからって、見捨てる理由にはならない。それは私の戦車道、流儀に反するからな』
ペパ 『ドゥーチェの流儀?』
カル 『ドゥーチェは、アンツィオの戦車道復興のために来られたんですよね?』
チョビ『ああ、是非にと頼まれてな。正直なところ、それまではどこかの流派に入ろうかとも考えてた。でも誘いを受けてから、ここで私流の戦車道を作り出すのも悪くない、と思ってな』
ペパ 『ドゥーチェ流の戦車道、っすか』
チョビ『だってワクワクしないか?私が教えた子たちが、私の教えたアンツィオ流の戦車道で育っていく。そうしてみんなが一緒に戦ってくれるんだ。ワクワクしない方が無理だろう!』
カル 『それは、確かに素敵なことです』
チョビ『だろう?』
ペパ 『じゃあ、私もアンツィオ流の一員ってことっすね!』
チョビ『ああそうだ。もちろん私が卒業したら終わりじゃない。その後はお前たち、そしてお前たちが育てた後輩がアンツィオ流を引き継ぎ、これからのアンツィオを引っ張っていくんだ』
アンチョビの演説に感動し、食べていたパスタを一気にかっこむペパロニ。
ペパ 『ドゥーチェ!次の訓練行きましょう!』
チョビ『おお!?急にやる気が増したな!?』
ペパ 『燃えてきたっすよ!絶対ドゥーチェの教えをモノにして、これからのアンツィオ戦車道を盛り上げて見せるっす!』
カル 『私も、及ばずながら尽力します!』
チョビ『ああ!お前たちなら任せられる、頼んだぞ!』
アンチョビは二人を信頼しきった曇りのない笑顔を見せた。
~~夢終了~~
ペパ 「・・・・」
目を覚ますペパロニ。
まだ夜明けは訪れておらず、わずかに窓の外が明るくなり始めた程度の時間だった。
まだ寝ている二人を起こさないように静かに歩き、机の上に置いてある計算式の紙を手に取る。
ペパ 「・・・・」
そして、夜が明けて。
チョビ「ふあーあ・・・・」
今日の朝食担当のアンチョビがあくびをしながらリビングに入ってくる。
すると__
ペパ 「おはようございます、ドゥーチェ!」
ペパロニがすでに元気いっぱいに朝食を作っていた。
チョビ「ペパロニ?どうした、今日は私の日だぞ?」
ペパ 「んー、なんだか目が覚めちゃって。どうせだから朝メシ作ってたところっす!」
チョビ「子供かお前は」
苦笑しながら、ふとしたことに気が付く。
チョビ「あれ、ペパロニ、頭のアレはどうした?最近朝食作る時もつけてただろ、アレ」
ペパ 「あー・・・・あれっすか」
言いにくそうにぽりぽりと頬をかく。
ペパ 「実は・・・・失くしちゃったっす!」
チョビ「失くすって・・・・そう簡単に失くすものか、あれ!?」
ペパ 「いやー、昨日部屋に置いといた気がしたんすけどねー。どこいっちゃったのかなー」
しらじらしくそっぽを向きながら答える。
ペパ 「いやー、あれがなくなった途端、元の私に戻っちゃったっす」
チョビ「だったらまたイカ娘に式を書いてもらえばいいだろ。頼めばくれるんじゃないか?」
ペパ 「うーん・・・・でもアレ、目の前でビョンビョンしてて、気になってたんすよねー。当分はやっぱりいいかな、って!」
チョビ「やれやれ・・・・また元通りになっちゃった、って訳か」
ペパ 「いやー、不本意ながらそういうことになりますねえ!これからも指導、よろしくっす!」
チョビ「ほんと、お前は手のかかるやつだなあ・・・・。これからはもっと厳しく行くからな、覚悟しろよ!」
ペパ 「望むところっす!」
そう言って、自然と笑顔になる二人だった。
カル 「・・・・ふふっ」
そんな二人を、扉の陰からこっそり覗いていたカルパッチョは、元のさやに戻ったことに安堵していた。
ふと廊下を見ると、廊下の隅のゴミ箱に何か入っている。
カル (?・・・・これ・・・・)
ゴミ箱の中には、ペパロニが頭に付けていたアレ一式が無造作に突っ込んであった。
カルパッチョはふとほほ笑むと、それが誰にも見えなくなるように『よいしょっ』とゴミ箱の奥深くに押し込めるのだった。
アンチョビとペパロニ&カルパッチョの関係、見ていて微笑ましいですね。
先輩と後輩、隊長と隊員、師匠と弟子といった関係なのに距離を感じさせず、一番近い距離で一緒に笑ったり驚いたりはしゃいだり、本当に羨ましいくらいです。
アンチョビの去ったアンツィオを、ペパロニ&カルパッチョがどう引っ張っていくのかとても気になりますね。
でもやり方は違えど、あの二人ならきっとアンツィオは任せられるような気もします。
あと私事ですが、最近注意力が散漫なせいか誤字が多いようで、いくつもご指摘いただいております。
至らぬ部分をフォローしていただき、恥ずかしさと同時に読んでもらえているんだな、とありがたさを感じております。
この場を借りまして、お礼申し上げます!ありがとうございます!
今後は誤字がないよう精進いたしますので、これからもよろしくお願いします。