侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


知波単一同→知波単


知波単学園編じゃなイカ?
第1話・対峙しなイカ?


西  「ふっ、福田ーー!」

福田 「ぶはっ、に、西隊長ーっ!」

 

波止場のすぐ近く、福田が波にもまれ今にも溺れそうになっている。

西がテトラポットから身を乗り出し必死に手を伸ばすが、福田には届かない。

 

細見 「それ以上は危険です、西隊長!」

西  「しかし!このままでは福田の命が危ういのだぞ!」

玉田 「それで西隊長まで落ちてしまっては元も子もありません!」

寺本 「今、池田たちが救命士を呼びに行っています!無茶はなさらないでください!」

 

西の腕を必死に握っている細見たちが落ちないように引っ張っているが、西は構わず身を乗り出していく。

と、大きく水がうねり、福田を勢いよくテトラポットの方に押し流し始める。

 

西  「いかん!このままじゃテトラポットに衝突してしまう!福田ーっ!」

細見 「西隊長!これ以上は支えきれま__あっ!」

西  「!」

 

次の瞬間。

更に身を乗り出した西の腕が細見たちから抜けてしまい、西も勢いついたまま海に向かって身を投げる形になってしまう。

 

玉田 「に、西隊長ーーーーっ!」

 

絶叫する玉田たち。

次の瞬間!

 

しゅるっ!

 

西の体を青く長い物体が包み込み、持ち上げる。

 

西  「えっ!?こ、これは!?」

 

何が起こったのか理解できない西。

そして、その青い物体がもう一つ現れ、海から福田を引き上げた。

そして、そのまま二人を波止場の上に優しく下ろす。

 

玉田 「西隊長ー!ご無事ですか!?」

西  「あ、ああ・・・・。はっ、それより福田は!?」

 

茫然とした様子からいち早く立ち直り、福田を探す。

 

福田 「げほっ、えほっ・・・・」

 

福田は西の背中側で咳き込んでいた。

 

西  「福田!無事だったか!」

福田 「に、西隊長殿・・・・。不詳福田、生還セリ、であります・・・・」

 

弱まりながらも、何とか敬礼を返す福田。

 

西  「福田ーーーーーーっ!!」

 

感極まり抱き着く西。

 

福田 「わぷっ、に、西隊長殿」

細見 「全く、心配させてからに!」

玉田 「生きた心地がしなかったぞ!」

福田 「先輩方・・・・。申し訳ございません」

 

口では先輩ぶりながらも、福田の生還に涙を浮かべる細見たち。

 

寺本 「西隊長ー!」

池田 「福田、無事かーっ!?」

 

遠くから、吾郎たちを連れた寺本たちが戻ってきた。

波止場に座り込む福田を見て、安堵の息を漏らす。

 

池田 「福田、無事だったか!ああ、よかった・・・・」

吾郎 「その子が落ちたっていう子かい?」

細見 「はい、そうです」

磯崎 「どうやら、俺たちが駆けつけるまでもなかったようだな」

吾郎 「そういう言い方は違うだろう。__でもまあ、今回は俺たちの出番はなかったようだな」

西  「・・・・あの」

吾郎 「ん?」

西  「実は、福田を助けたのは我々ではありません。さっき__」

 

西は、身を乗り出しすぎて落ちそうになった時、自分と福田を助けてくれた謎の青い物体について話した。

 

吾郎 「ふむ」

西  「至極滑稽な話と思われても仕方ありません。ですが、我々は確かに見たのです!青く、長くて力強い、そう__例えるならば、触手のようなものでした!」

細見 「到底い信じてもらえませんでしょうが、実際に我々は見たのです!」

磯崎 「てことは、あいつだな」

玉田 「えっ?」

吾郎 「またあいつに借りが出来ちまったか。やれやれ・・・・」

 

話を疑うどころか、健闘すらついているらしい吾郎たちの様子に呆気にとられる。

 

西  「あの、もしや貴方がたはあの青い触手についてご存じなのですか!?」

磯崎 「ご存知も何も・・・・」

吾郎 「ああ、よく知ってるよ。あいつに会いたかったら、あそこに行けばいい。海の家、れもんにな」

 

そして。

 

西  「たのもうー!」

 

西は隊員全員を連れ、海の家れもんを訪れた。

 

栄子 「いらっしゃーい」

 

来客と思った栄子が接客に応じる。

 

西  「突然失礼いたします。自分は知波単学園戦車道隊隊長、西絹代であります」

栄子 「え、はあ・・・・」

 

かくかくしかじか

 

西  「お恥ずかしながら、それ故に大事な隊員を、さらには不肖ながら私も助けられました!つきましては、是非我らの恩人に御礼を申し上げたく馳せ参じた次第であります!

栄子 「は、はぁ」

 

西の口調とテンションに引きぎみな栄子。

 

栄子 「まあいいか。おーい、イカ娘ー」

西  「烏賊(イカ)?」

福田 「イカ娘殿、でありますか?」

イカ娘「何でゲソかー、栄子」

 

栄子に呼ばれたイカ娘が店の奥から姿を表す。

 

西  「おお、確かに、青い!」

福田 「確かに、烏賊であります!」

イカ娘「む?お主ら何者でゲソ?」

 

イカ娘に問われ、ビシッと敬礼を返す。

 

西  「自分は、知波単学園戦車道隊隊長、西であります!」

福田 「同隊隊員、福田であります!」

細見 「細見であります!」

玉田 「玉田であります!」

イカ娘「そ、そうでゲソか。それで、何の用でゲソ?

西  「はっ!先ほど、溺れかけていた隊員の福田と、不覚を取った自分を救ってくれた方がこちらにいらっしゃると聞き及びまして、御礼に参った次第にあります!」

イカ娘「おお、お主らさっきの」

西  「やはり貴女様でありましたか!」

 

恩人に会えた喜びでテンションが上がる西。

 

西  「先ほどは、誠にありがとうございました!」

知波単「ありがとうございました!」

 

最敬礼の後、深々と頭を下げる知波単一同。

 

イカ娘「そう畏まることでもないでゲソ。海の平和を守るのは、海からの使者として当然じゃなイカ」

西  「おおっ、海の使者、でありますか!なんと崇高な!」

イカ娘「そ、それほどでもないでゲソ」

 

真っ正面から褒め称えられ、少し照れるイカ娘。

 

千鶴 「皆さん、積もる話もあるんじゃないかしら。うちで休んでいったらどうかしら?」

福田 「おお!それはありがたいご提案であります!」

玉田 「西隊長!思えば、我々は昼食がまだでありました!」

西  「そうだな!では、本日の昼食はここでいただくとしよう!」

 

かくして座席が知波単学園生徒だけで埋まる。

千鶴がさっと料理を仕上げ、イカ娘が各席に触手で器用に運ぶ。

 

福田 「おお!先ほど助けていただいたのは、この触手を使ってでありましたか!すごいであります!」

玉田 「確かに、何と見事な触手さばきだ!」

 

料理をあっという間に配り終え、会話が弾む。

 

イカ娘「ふむ、西さんも戦車道をしているのでゲソね」

西  「『も』、と仰いますと、もしや烏賊娘殿も?」

イカ娘「うむ!私の戦車は、ここら辺ではかなり有名になっているでゲソ!」

西  「おお!流石ですな!」

栄子 「見え張ってるだけだから、真に受けなくていいよー」

イカ娘「見えでもハッタリでもないでゲソ!私はもう何度も強者たちと激戦を繰り返してきているじゃなイカ!」

栄子 「はいはい」

福田 「ところでイカ殿、先ほど海からの使者、と仰っていたと思いますが、どのような意味なのですか?」

イカ娘「聞いた通りでゲソ!私は海の平和を守るため、海からこの地上にやって来たのでゲソ!」

池田 「なんと!?」

玉田 「只者ではないと思ってはおりましたが、まさかそのような存在であったとは!」

イカ娘「ふっふっふ、もっと褒めるがよいでゲソ。お主らはなかなか素直なようでゲソね」

西  「して、海の平和を守るとは、どのような活動を?」

イカ娘「うむ!海の平和を乱す人間どもを成敗、侵略するために日々戦っているのでゲソ!」

福田 「えっ」

西  「侵略、ですか?」

イカ娘「そうでゲソ!海から生まれ、海に守られていることも忘れ海を汚し恩をアダで返すような人類をこらしめるのが私の使命なのでゲソ!」

細見 「ううむ・・・・」

玉田 「確かに、耳の痛い話ではありますが・・・・」

寺本 「侵略とは、いささか度が過ぎるのでは?」

イカ娘「むっ?」

福田 「確かに人類が海を汚してしまっていることは否定はできません。ですが、昨今はそれを反省し、海をきれいにしようとする人々もいるのは事実であります」

細見 「十把一絡げに人類すべてが悪、と決めつけられるのは、少し行き過ぎでは」

イカ娘「お主たちは地上に住んでいるから分からないのでゲソ!こうしている間にも、海を住みかとする同胞たちが苦しめられているのでゲソよ!?」

西  「それに関しては同じ人類として、お詫び申し上げます。しかし、仰りたいことがあるならば侵略などで解決せずとも、言葉を交わせば必ず解決への道は開けるはずです!」

イカ娘「考えが甘すぎるのでゲソ!今まで変わらなかったからこそ、私がどうにかしなきゃいけなくなったんじゃなイカ!」

西  「とにかく!思い直していただきたい!」

イカ娘「思い直すの人間どものほうでゲソ!」

栄子 「白熱してるなあー」

 

討論を過熱させるイカ娘たちを遠巻きに見る栄子たち。

 

千鶴 「そうね。てっきりやり過ごすかと思っていたけれど。西さんたちも真面目にイカ娘ちゃんの言葉に正面から向かい合ってくれているわね」

栄子 「ああいう風に話を聞いてくれるだけでもありがたいってのに、わかってないなあイカ娘の奴」

千鶴 「ふふふ」

 

討論はさらに過熱する。

 

西  「ですが!たったお一人でどうなさるおつもりですか!?烏賊娘殿の才覚は存じています。ですが人類を甘く見られてはいけませんよ?」

イカ娘「ふっふっふ、それも百も承知でゲソ。しかし私は、不可能を可能にする強力な手段を手に入れたのでゲソ!」

玉田 「強力な、手段・・・・?」

細見 「まさか!?」

イカ娘「そう!戦車でゲソ!あの重量、装甲、そしてパワー!あれさえあれば、人類征服など赤子の手をひねる様なものでゲソ!」

西  「聞き捨てなりません!」

イカ娘「!」

 

今までにない大声を張り出す西。

 

西  「戦車道は、良妻賢母を育む乙女の武芸!その戦車を、人類への攻撃へ使うなど、断固看過することなどできません!」

イカ娘「ほほう・・・・。では、どうするつもりでゲソ?」

西  「決まっています!戦車を用いようとも、人類は屈服せずということを証明して見せましょう!」

栄子 (何だかおかしな方向になって来たな)

千鶴 (あらあら)

 

数時間後。

戦車演習場に、イカ娘チームの乗ったチャーチルと、知波単学園の戦車が総出で並んでいる。

チハ(旧)やチハ(新)、九五式などがずらりとならび、ゆうに二十両は超えている。

 

栄子 「すごい数だな」

渚  「知波単学園は戦車道への注力でも有名ですよ。まさかあれを全部相手にするつもりじゃ・・・・ありませんよね?」

イカ娘「何弱気なこと言ってるのでゲソ渚!あの程度の戦車をあしらえなければ、地上征服なんて夢のまた夢でゲソ!」

渚  「やっぱりやる気だったぁ~・・・・!」

シン 「一対大勢なんて、映画のシチュエーションね。それで、何か作戦はあるのかしら?」

イカ娘「先手必勝、やられる前に全部倒してしまえば私たちの勝ちでゲソ!」

栄子 (あ、負けたなこりゃ)

西  「烏賊娘殿!もし我々が勝てば、地上侵略を考え直していただきたい!」

イカ娘「考えてやらんこともないでゲソ。勝てればの話でゲソがね。__それよりも、約束は覚えてるでゲソね?」

西  「勿論です。もし我々が負けることがあれば、今後は烏賊娘殿の侵略活動のために我々が全力で尽力致しましょう」

イカ娘「その言葉、忘れてはいかんでゲソよ!」

栄子 「図々しい要求だな・・・・。ま、どうせ勝てんし、負けた方が少しは地上も平和になるか」

福田 「うう・・・・」

細見 「どうした福田、具合でも悪いのか?」

福田 「いえ、大丈夫であります!しかし、命の恩人であるイカ殿に砲口を向けるのは、とても心苦しいであります・・・・!」

西  「恩人だからこそ、だ、福田」

福田 「西隊長殿・・・・?」

西  「大恩ある方だからこそ、間違った考えは正してもらわなければならない。例え我々が疎まれようとも、彼女を正しい平和を歩む道に導くことこそが、一番の恩返しなのだ」

福田 「隊長殿・・・・。わかりましたであります!」

 

かくして戦いの火ぶたが切って落とされた。

が__

 

栄子 「あれ?」

シン 「どうしたのかしら、一両しか向かってこないわよ?」

 

何十両もある戦車たちは微動だにせず、その中から一両のチハ(新)だけがイカ娘たちのチャーチルへ突撃を敢行してくる。

 

名倉 「やあやあ我こそは知波単学園戦車道隊九七式中戦車車長、名倉!いざ、正々堂々と勝負いたしましょうぞ!」

シン 「ワーオ」

渚  「一騎打ち、ですか?あの台数で一気に攻めれば間違いなく勝てるのに・・・・」

シン 「こちらが一両だから、一両ずつ勝負しようってことかしら?武士道精神、てやつ?」

栄子 「どこまでも真っすぐな子たちだな」

イカ娘「なめられたものでゲソ。迎え撃つでゲソー!」

 

真っすぐ突撃してくるチハ(新)に狙いを定める。

 

シン 「真っすぐこっちに来てるわね。フェイント入れるつもりないのかしら」

イカ娘「どう見たって真っすぐ来てるでゲソ!撃てー!でゲソ!」

 

ドオン!

 

名倉 「うわあああ!」

 

シュポッ

 

シンディーの放った砲弾は、避ける気配すら見せなかったチハ(新)に命中し、白旗を上げた。

 

イカ娘「倒したでゲソ!」

シン 「本当にそのまま突っ込むだけだったわ」

渚  「何故避けなかったのでしょう・・・・」

栄子 (知波単学園はいつも大会でいい順位を出せてない、なんて聞いたことはあったが、もしかして・・・・)

寺本 「名倉車、戦闘不能!撃破されました!」

玉田 「うむ、名倉、知波単の名に恥じぬいい散り方だった!」

細見 「さあ、次に名乗りを上げる者はいるか!我こそはと思う者、知波単の生き様を侵略者に見せつけるのだ!」

浜田 「自分が行くであります!」

西  「おお、浜田!骨は拾ってやるぞ!」

浜田 「光栄であります!いざ!」

 

ドーン!シュポッ

 

浜田 「やられたであります!」

イカ娘「また真っすぐ突っ込んできたでゲソ」

シン 「当てやすくていいんだけど・・・・相手はこれでいいのかしら」

 

その次も。

 

シュポッ

 

久保田「お見事であります!」

 

シュポッ

 

玉田 「おのれ、あと少しの所を!」

 

シュポッ

 

細見 「何という腕前だ!」

 

次々と(一台ずつ)吶喊してくる知波単戦車軍団を、難なく撃破し続けるイカ娘たち。

そして、残るは西と福田の戦車二両だけとなった。

 

福田 「西隊長、次は自分が行くであります!」

西  「そうか。手心など不要。胸を借りてこい!」

福田 「はっ!」

西  「福田!」

福田 「は、はいっ!?」

西  「『恩人』に、お前の戦車道をしっかりと見せつけて差し上げろ!」

福田 「了解であります!いざ、戦車前進!」

 

福田の九五式が、ゆっくりと前進していく。

相変わらず真っすぐだが、今までのと比べると遥かに速度が落ちている。

 

シン 「随分とゆっくりね・・・・。これまでとテンポが違うから要注意だわ」

イカ娘「ゆっくりならその分いい的でゲソ。シンディー、好きなタイミングで撃っていいでゲソよ」

 

今までの連勝で気をよくしたイカ娘が適当な指示を飛ばす。

 

栄子 「完璧に油断してるな」

渚  「もしこのままイカの人が勝ったらどうなっちゃうんでしょう?このまま戦車で地上侵略をすることになるんでしょうか!?」

栄子 「・・・・渚ちゃん、ちょっとウキウキしてない?」

渚  「そそそ、そんなことあるわけないですよ!?」

シン 「そのまま、そのまま・・・・」

 

二人のやり取りを背中に聞きながら、シンディーが冷静に狙いをつける。

油断なく、正確に照準を合わせ・・・・

 

シン 「ファイヤー!」

 

ドオン!

 

福田 「来た!全速前進!」

 

ギュオオオオ!

ドーン!

 

チャーチルからの砲撃を確認した瞬間、福田は号令をかけ九五式は猛スピードで加速し、砲弾をやり過ごした。

 

イカ娘「かわされた!?」

シン 「しまった!やっぱり腹に一物あったのね!」

 

砲撃をかわし、同時に急加速により九五式は一気に距離を詰める。

 

イカ娘「渚、装填急ぐでゲソ!栄子、回避準備でゲソ!」

栄子 「やっぱり油断したツケがまわってきたじゃんか!」

シン 「来るわよ!」

福田 「砲撃準備!・・・・ってー!」

 

バアン!

 

栄子 「うおおっ!?」

 

急加速した速度そのままで真っすぐ砲弾を放ってきた九五式に、旋回で被弾点をそらそうとする栄子。

その行動が功を奏したのか、九五式の砲弾は砲塔を僅かにそれ、被弾には至らなかった。

そして__

 

渚  「装填、完了です!」

イカ娘「撃つでゲソ!」

シン 「ファイアー!」

 

ドオン!

 

福田 「うわああ!」

 

シュポッ

 

次の砲弾はしっかりと九五式を捉え、福田車は沈黙した。

 

福田 「うう、やられたでありますー・・・・」

栄子 「今のは危なかったな。まさか砲撃に合わせて緩急をつけてくるなんて」

イカ娘「だけど勝ったのは私たちでゲソ!さあ、残りはあと一両でゲソよ!」

西  「むう・・・・」

 

今までの戦いを目の当たりにした西は、真剣なまなざしでチャーチルを見やる。

 

西  (素晴らしい腕前だ。だからこそ、戦車を間違った使い方をしようとしている烏賊娘殿が惜しい。人類の、地上の、そして烏賊娘殿自身の今後も、この一戦で決するのだ)

西  「総員、気を引き締めよ!この一戦に、人類の未来が掛かっていると言っても過言ではない!」

 

過言である。

目を閉じ、精神を統一する。

 

西  「戦車__全速前進!!」

 

西のチハ(旧)が、最初から全速力で吶喊してくる。

 

栄子 「うおっ、すごい気迫だぞ!?」

イカ娘「だが真正面から来るなどどいつも一緒でゲソ!撃てーっ!」

 

ドオン!

 

チハ(旧)を完璧に捉えた砲撃が放たれる。

しかし__

 

ガンッ!

 

イカ娘「ゲソ!?」

 

チハ(旧)の車体が僅かに右を向き、着弾点の射角が浅くなり、砲弾ははじかれてしまう。

 

シン 「上手い!微妙に打点をずらし、被弾しながらもダメージを最小限に抑えているわ!」

イカ娘「褒めてる場合じゃないでゲソ!次弾、装填急ぐでゲソ!」

渚  「よい、しょっと!装填、完了です!」

イカ娘「撃てーっ!」

 

ドオン!

 

しかし二発目も砲塔を削るだけで決定打にならない。

これまでとは違う戦い方に焦りを感じ始める。

 

西  「伝統だけにこだわって勝利を逃しても、伝統をないがしろにして勝利を得ても意味はない!ならば今の私たちのすべきことは、伝統を踏襲しながら勝利するための方法を模索することだ!」

イカ娘「撃っても微妙にずらされてしまうでゲソ!こうなったら真正面に打ち込むでゲソ!」

 

チャーチルの火力頼りに正面装甲を打ち砕く計画を立てる。

かくして、チハ(旧)の真正面に照準を取り__

 

イカ娘「撃__」

西  「てーーっ!」

イカ娘「うえっ?!」

 

イカ娘が砲撃合図を放つタイミングに被せ、西が砲撃合図を飛ばす。

 

ドーン!

 

イカ娘「うわあああ!」

 

チハ(旧)の砲撃はチャーチルの正面を捉え、見事に命中させる。

残念ながらチャーチルの正面装甲を貫通させることは出来なかったが、被弾の衝撃でシンディーの砲撃は逸れ、三発目も見事に回避する。

もはやチハ(旧)とチャーチルの距離は僅かしか開いていない。

 

イカ娘「次が勝負でゲソ!次の一発、これを向こうより早く当てるのでゲソ!」

西  「次の一撃で全てが決まる!我らの手で、知波単に、人類に勝利を!」

 

そして__お互いの距離がゼロ距離に等しくなった瞬間。

 

ドオン!

 

一発の砲撃音だけがその場に響いた。

一瞬の静寂の後__

 

シュポッ

 

チハ(旧)の白旗が上がった。

チャーチルの砲撃が、わずかに早かったのである。

 

西  「くっ、無念・・・・!」

 

砲塔の上で、がっくりと肩を落とす西。

 

イカ娘「勝ったでゲソー!これで知波単学園は、私の意のままでゲソー!」

 

勝利をかみしめるイカ娘。

しかし、

 

???「あのー」

イカ娘「?」

西  「?」

 

遠くから声が聞こえた。

声の方を見ると、知波単学園の戦車がスタンバイしていた場所に、一両の戦車、チハ(新)がぽつんと残っていた。

 

西  (あれ・・・・もう一両?戦車は全て出払ったはずなのに・・・・)

???「次は私の番、でいいでしょうか?」

 

チハ(新)の砲塔から姿を見せているその人物は、軍事ヘルメットを深くかぶり、顔は見えなかったが青みがかった背中まで伸びた長い髪をなびかせていた。

 

イカ娘「ふっ、まだ残っていたのでゲソか!しかし、次こそ正真正銘最後の一両の様でゲソね!すぐに勝負を決めてやるでゲソ!お主、名前を名乗るといいじゃなイカ!」

???「あいざ__相原(・・)、と申します」

渚  「あれ?栄子さん、今の声って__」

栄子 「シー」

イカ娘「では相原よ!さっさとかかってくるでゲソ!」

相原 「それじゃあ、参りますよ」

 

一分後。

 

イカ娘「ゲソー・・・・」

 

イカ娘は撃破されたチャーチルの上でぐったりしていた。

 

渚  「戦車って、飛べるんですね・・・・」

シン 「物理学の常識を覆しかねない動きだったわね」

栄子 「ま、普通に考えて勝てる訳のない勝負だったな」

玉田 「おおっ、我らのチハがチャーチルを撃破したぞ!」

寺本 「と、言うことは・・・・!」

細見 「我々の勝利だー!」

知波単「おおーっ!」

福田 「やりましたであります、西隊長殿!」

西  「あ、ああ・・・・」

 

呆気にとられる西だったが、周囲を見渡すころにはすでに相原の姿はなく、千鶴が微笑みを浮かべながら帰っていくところだった。

その後、れもんにて。

 

イカ娘「あんな隠し玉があったなんて、反則でゲソー!」

 

引き上げが終わり、イカ娘たちは知波単勢と一緒に感想戦という名の打ち上げを行っていた。

 

細見 「我々も驚きです。いつの間にあれほどの戦車乗りを隊に加えていたのですか」

西  「ああ、いや、まあ、な」

 

しどろもどろに答える西。

 

福田 「しかしイカ殿、これで戦車を地上侵略に使うのは諦めていただけるのですね!」

イカ娘「むう・・・・約束は約束でゲソ。今後は戦車を使った侵略は控えようじゃなイカ」

玉田 「やったぞ!」

栄子 (侵略自体はあきらめない、と言ってる風に聞こえるけどな)

福田 「これで、わだかまりなくイカ殿と戦車道について語りあかすことができるであります!」

イカ娘「え?」

西  「そうだな。これからは純粋に戦車道を志す者同士、お互いを高めあっていきましょう」

イカ娘「いいのでゲソ?」

西  「勿論でございます!」

イカ娘「そうでゲソか!ならばこれから私たちはライバルという訳でゲソね!」

福田 「好敵手でありますか!光栄であります!」

細見 「では!新たな戦車道を歩む仲間、イカ娘殿と知波単学園の今後の発展を祈って!」

一同 「かんぱーい!」

 

そしてみんなで杯を掲げた。

それからというもの。

 

西  「烏賊娘殿、それはなりません!子供たちに能面ライダーシールを配って心を掌握し、それを侵略の足掛かりにしようなどと!」

イカ娘「ええい、またしても立ちはだかるつもりでゲソか!」

福田 「イカ殿、いけないであります!そんなに胡椒をかけたら、クシャミが止まらないであります!」

イカ娘「止めないでくれなイカ!一矢報いるにはこれしかないのでゲソ!」

細見 「どうしてもというのなら、我らを倒してからにしていただきたい!」

玉田 「そうだ!どちらが正しいか、戦車道で決めましょうぞ!」

イカ娘「望むところでゲソ!今度こそ返り討ちでゲソ!」

 

事あるごとに知波単勢はイカ娘の侵略行為を阻むようになり、その度に戦車道の試合を申し込むようになっていた。

 

栄子 「なんか、試合するための口実みたいになってるな」

渚  「いつもいい勝負にになりますからね」

栄子 「素直にやろう、でいいのにな。不器用というか回りくどいというか」

渚  「きっと、イカの人を立てた言い回しなんですよ。なんだかんだ言って、イカの人の侵略を頭から否定はしていませんから」

栄子 「そうだな。ホント、イカ娘は気に入られちゃったな」

イカ娘「栄子ー!行くでゲソよー!今日こそ勝つでゲソ!」

 

イカ娘が声をかける。

 

栄子 「はいはい。__あ、そうだ姉貴」

千鶴 「どうしたの、栄子ちゃん?」

栄子 「もしやばくなりそうだったら、『相原さん』に連絡、しといてくれる?」

千鶴 「ふふっ、分かったわ」




いよいよ参戦いたしました、知波単学園!

良くも悪くも正直に真っすぐな彼女たちは、お互いを高めあういい相手になってくれると思います。(実力的な意味でも)

ついに劇場版校への着手が始まりました。
当分の間いつも通りの更新を続けるまったり展開となっていきますが、のんびり付き合っていただけたら幸いです。

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