侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※この話は、大洗女子学園編から黒森峰女学園編までの各四話、および知波単学園編から大学選抜チーム編各二話までを先にお読みいただいているともっとお楽しみいただけます。


※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ
ルクリリ→ルク
ローズヒップ→ローズ
ニルギリ→ニル

サンダース生A、B、C・・・・→サンA、サンB、サンC
サンダース生全員→サン生

アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル

カチューシャ→カチュ
クラーラ→クラ
アリーナ→アリー



第4話・クオリティ高くなイカ?(準備編)

近頃大繁盛の海の家れもん。

今日も満席に近い店内で、千鶴が料理を作っている。

 

千鶴 「うーん・・・・」

 

千鶴が中華鍋でチャーハンを炒めながら、難しい顔をしている。

店内にはあんこうチームやカチューシャたちが席についている。

 

栄子 「姉貴、最近考え込むことが多いんだよな」

華  「そうなのですか?」

イカ娘「料理もできるのがちょっと遅いゲソ」

沙織 「えっ、そうだったっけ?そんなに待った覚えないんだけど」

栄子 「いや、いつもの姉貴より五秒は遅い!」

沙織 「誤差レベル!」

優花里「いえ、千鶴さん程の職人であればきっと異常事態なのでしょう」

麻子 「私としてはおいしければそれでいい」

みほ 「あはは・・・・。千鶴さん、どうしたんだろうね」

 

しばらく一同は千鶴を見ていたが__

 

千鶴 「うん!決めたわ!」

 

チャーハンを仕上げた千鶴が、チャーハンを置きながら声を上げる。

その場から触手を伸ばし料理を運ぶイカ娘。

 

栄子 「姉貴、決めたって何を?」

千鶴 「栄子ちゃん、やっぱりお化け屋敷にしましょう!」

栄子 「は?」

みほ 「今、お化け屋敷って言った?」

麻子 「言った」

華  「言いましたね」

沙織 「千鶴さん、お化け屋敷って何のことですか?」

千鶴 「あら、伝えてなかったかしら?これの出し物よ」

 

千鶴は一枚のチラシを取り出した。

 

栄子 「ああ、もうそんな時期か」

優花里「なになに・・・・?『第〇回・倉鎌店舗対抗アトラクション大会』?」

栄子 「ああ、年に一度、ここいらで店を経営してるとこが、一つ出し物を決めてお客さんに評価してもらうんだ。それで評価が一番高かった店が優勝ってやつ」

みほ 「へえ!」

千鶴 「優勝者には、参加したお店で使えるお得なクーポンなどがもらえるのよ。これは参加しなきゃ損だわ!」

優花里「おお、お得ですね!」

栄子 「それでお化け屋敷にするってワケか」

沙織 「海の家なのにお化け屋敷をするの?」

千鶴 「むしろ、元のお店と違ったことをしたほうがお客さん受けはいいのよ。元を知っているからこそ、ギャップが面白く映るらしいの」

みほ 「出し物の選び方にも、いろいろあるんですね」

チョビ「エビとしらすのカルパッチョ、お待たせだ!」

 

と、アンチョビが料理を運んできた。

 

みほ 「あっ、ありがとう、アンチョビさん」

華  「ということは、アンツィオの皆さんもお化け屋敷をされるんですか?」

チョビ「ん?ああ、今は我々もれもんの一員だからな。千鶴さんの要望とあれば断る理由もないだろう」

カル 「それに、なんだか文化祭みたいで楽しみです」

ペパ 「お客さんもたくさん来るだろうし、書き入れ時っす!」

千鶴 「出し物中はお店やれないわよ?」

ペパ 「ええっ!?そうなんすか!?なんで!」

千鶴 「出し物の条件として、お店を使ったものでなければいけないの。お化け屋敷をするなら、その間お店はできないわ」

ペパ 「そんなー」

チョビ「店の軒先で屋台を出すくらいならできるだろう。今から準備すれば間に合うかもしれないぞ」

ペパ 「やった!」

カル 「じゃあ、手配しておきますね」

 

大会に向け、準備と立案で楽しそうなれもん一同。

そんな彼女らを見て、うずうずとしているあんこうチーム。

 

沙織 「ね、みぽりん」

みほ 「あっ・・・・沙織さんたちも、同じ気持ち?」

麻子 「ああ。私は構わない」

華  「私もです」

優花里「喜んで力になりましょう!」

みほ 「あの、千鶴さん」

千鶴 「なあに?」

みほ 「あの、よろしければ、私たちも、お手__」

 

言いかけたその時。

 

カチュ「話は聞かせてもらったわ!」

栄子 「!」

 

背後から大きな声がした。

驚いて注目すると、そこにはノンナに肩車してもらっているカチューシャがいた。

 

カチュ「面白そうなことしてるじゃない!一口乗ってあげるわ!」

ノンナ「いけませんよ、カチューシャ。一緒にやりたいのならば、そう伝えませんと」

カチュ「うっ、ち、違うわよ!この地にもカチューシャの偉大さを知らしめるために、使えるものは何でも利用するのよ!」

クラ 「是非お手伝いできることがあれば、ご協力したします」

千鶴 「あら、ありがとう!」

華  「もちろん、私どもも精いっぱいお手伝いいたします」

イカ娘「おお!心強いでゲソ!」

優花里「これは、みんなの力を合わせればかなりのものになるのではないでしょうか!」

みほ 「うん、すごく楽しみになって来た!」

 

プルルルルルル

 

と、みほのケータイが鳴る。

着信は__ダージリンからだった。

 

ダー 『お話はすでにお聞きいたしました。千鶴さまのためとあらば、聖グロリアーナ総出でご助力いたしましょう』

 

話の内容はれもんがレクリエーション大会に参加すること、そして手伝い勢にグロリアーナも参加するという意思表明の電話だった。

 

沙織 「・・・・この場にいないはずなのに、なんでダージリンさんこの話知ってるんだろ」

みほ 「・・・・さあ・・・・」

優花里「あまり深く考えない方がいいのかもしれません」

 

そして、誰経由ともいわずアトラクション大会の話はネットワーク中を駆け巡り__

 

ケイ 「ヘイ!ホラーハウスを作るんですって?任せて!ハロウィンコンテストでもアメリカに高評価をもらったセンスを持つ、ウチの生徒を連れて行くわよ!」

まほ 「大洗の生徒会長から『みほが助けを必要としている』と聞かされたんだが・・・・何事があった?」

西  「納涼企画でありますか!番町突撃屋敷など如何でしょう?それか突撃怪談とか!」

愛里寿「イカ娘の助けになろうという訳じゃないけど・・・・みほさんも手伝うっていうし、この間の貸しも返せてなかったから」

 

呼ばれた者、話を聞きつけた者、その場に居合わせた者。

気が付けば、大勢の戦車道メンバーがれもんに集結した。

 

千鶴 「あらあら、大所帯になったわね」

栄子 「こんな人数が集まってくれるとはね。こりゃかなりのもんができるんじゃないか?」

イカ娘「ふっふっふ、これも私の威光と侵略活動の賜物でゲソ」

栄子 「図に乗るな」

早苗 「頑張りましょうね、イカちゃ~ん!」

 

ガバッ

 

突如現れた早苗が抱き着いてくる。

 

イカ娘「ギャアアアアア!」

千鶴 「みんな、集まってくれてありがとう。それじゃあ、役割分担を決めなくちゃ」

 

千鶴主導のもと、各々の役割が割り振られた。

聖グロメンバーが集まり相談する。

 

ペコ 「私たちは、材料と資材の調達ですね。ホームセンターなら揃いそうです」

ダー 「では、そのように。皆さん、参りましょう」

アッサ「ダージリン様、わざわざ自らお出向きにならなくても、皆に指示してもらえれば__」

ダー 「こんな格言をご存知かしら。『ピラミッドは頂上から作れない』」

ペコ 「フランスの作家、ロマン・ロランですね」

ダー 「お化け屋敷は材料なくして成り立ちませんわ。それを疎かにして、果たしてできるものなんてあるのかしら」

ローズ「値切りならお任せくださいませ!行きつけの八百屋さんでしょっちゅう半額にしてもらってますわ!」

ルク 「やめろ!少なくともダージリン様の前でだけはやるな!」

ニル 「主に木材と布材、あと色紙も種類を揃えないといけませんね」

 

サンダースメンバー。

 

ケイ 「さあ、ウチは人海戦術よ!A班はイスとテーブルの片づけ、B班は用意した内装の取り付け、C班は物資と食材の運搬を担当よ!!」

ナオミ「A班ついてこい!三十分で終わらせられるように、帰って特訓だ!」

アリサ「B班もうかうかしてんじゃないわよ!私たちが終わらせないとメインの準備に移れないんだからね!今日はいいって言うまで訓練あるのみよ!」

 

プラウダメンバー。

 

カチュ「カチューシャが選んだ世界のこわいお化けや妖怪の資料をたくさん集めてきたわ!参考にしなさい!」

ノンナ〈どのお化けも怖くて悲鳴を上げていたので、その中で厳選するのに時間がかかってしまいました〉

クラ 〈出来たら全部実践したいのですが〉

カチュ「二人とも!日本語で話しなさい!」

ニーナ「怖ええモンつったら、カチューシャ隊長以上に怖ええモノなんてなかんべよ」

アリー「んだなあ。ようも作りモンより本物の方が怖えってなあ。__はっ!?」

ノンナ「お二人とも、少しお付き合いいただけますか」

ニーナ「ひいい!なして事務所にひっぱられちょおー!?」

アリー「お、お助けえー!」

 

黒森峰メンバー。

 

まほ 「・・・・」

 

まほは申し訳なさそうな顔をしている。

 

まほ 「すまない、今週は下級生たちの強化訓練が予定に入っていて、誰も手伝えそうにない」

みほ 「気にしないでお姉ちゃん。みんなお姉ちゃんを頼りにしてるんだから」

まほ 「しかし・・・・」

エリカ「仕方のないことです。千鶴さんも気にしなくていいとおっしゃってましたし、時間ができた時にできることをやりましょう」

小梅 「あ、じゃあ!隊長だけここに残ってもらってお手伝いしていただくというのはどうでしょう!」

まほ 「!」

エリカ「な、何言ってるのよ小梅!隊長抜きで一体何ができるって言うの!?」

小梅 「訓練なら、エリカさんが指導してくれれば大丈夫じゃないですか」

エリカ「はあ!?」

小梅 「大丈夫、エリカさんならみんなついてきてくれます!」

エリカ「そ、そんな根拠も無い話を__」

まほ 「エリカ、頼めるか」

エリカ「隊長!?うう・・・・。わ、わかりました。力の限り尽力いたします!」

まほ 「うん、頼んだぞエリカ」

 

小梅はまほにウインクをし、まほはふっとほほ笑んだ。

知波単メンバー。

 

細身 「西隊長殿!我々の任務は何でありましょうか!」

寺本 「自分、古典怪談には自信ありであります!」

玉田 「思うところがあります!今どきの妖怪には、突撃が足りないのではないでしょうか!」

西  「よし、では千鶴さんにどれほど突撃が必要か聞いてくるぞ!」

福田 「西隊長殿!?」

 

大学選抜メンバー。

 

愛里寿「広告などによる告知は店ごとの自由となっている。まずは紙媒体による告知と地域限定に絞ってのインターネット広告による告知を行う。アズミ、印刷所の手配は」

アズミ「既に完了しています。今日中には目標の部数が用意できます」

愛里寿「いいだろう。メグミ、敵対店舗周辺の認知度は」

メグミ「各店舗は自店前に張り紙はしていますが、広域に告知している店舗はありません」

愛里寿「予想通りだ。ルミ、市役所への告知ポスター提示申請は?」

ルミ 「先ほど度完了しました。これで市内広範囲にれもんの広告を正式に貼ることができます」

愛里寿「よし、各員に通達。地域で分担し、れもんのポスターを市内に分布しろ」

バミュ「了解!」

栄子 (すっげえ手際)

 

と、たけるがキョロキョロしている。

 

栄子 「たける、どうした?」

たける「え?あ、うん、ちょっと探してる人がいたんだけど、いないみたい」

栄子 「そっか」

たける(来てると思ったんだけどなあ・・・・。ミカ姉ちゃんたち、どこいるんだろう)

 

場所は変わり、材料調達に来たグロリアーナ一行。

各々が布や紙材を手に取って確かめている。

と、ダージリンが目の前の木材を手に取る。

 

ダー 「こちらなどよろしいのではないかしら。良質なヒノキの香りがしますわ」

アッサ「・・・・ダージリン様、書き割りに使う木材ですよ?」

ダー 「材質にこだわらず良い結果が残るものかしら?」

ペコ 「・・・・それは腕によるものかと」

ローズ「あらダージリン様!それじゃ重くていけませんわ!こちらなどはいかがでして?!」

 

ローズヒップが差し出す木材を手に取る。

 

ダー 「あら?とても軽いのね」

ローズ「バルサでございますわ!」

ダー 「これなら持ち運びやすく、強度も十分ですわね。お手柄よローズヒップ」

ルク 「変なとこに詳しいなお前」

ローズ「中学の文化祭ではこれで巨大迷路一つ作ったものですわ!懐かしき青春の日々、ですわ!」

ニル 「・・・・何人で作ったんでしょう、その巨大迷路」

ルク 「聞くだけ野暮だろ」

 

塗料の選定も完了し、一同は大量の品物を手にレジへ進む。

 

店員 「〇〇円になります」

ペコ 「あっ」

ダー 「どうかいたして?」

ペコ 「どうやら千鶴様にいただいたご予算をオーバーしてしまっているようです。どれか取りやめなければいけませんね」

アッサ「でもこれで指定された資材の全部なのよ?返却したら不足する可能性もあるわ」

ニル 「ですがどれを端折ればいいのでしょう・・・・。どれも必要になってしまいそうで・・・・」

ローズ「お任せあれ!ここは、値切ればよろしいのですわ!」

ルク 「だからお前!ダージリン様の前ではやんなとあれほど!」

ダー 「問題ありません。不足した分は私のポケットマネーで補いますわ」

ニル 「ダージリン様、そんな!」

ルク 「ダージリン様に支払わせるくらいなら、私たちが!」

アッサ「いえ、ここはデータに基づき、資材の質を許容範囲まで落とせば予算のめどは__」

 

などと話していると

 

店長 「あっ、貴女様は!?」

 

店の店長がダージリンたちに気が付いた。

その後。

大量の資材が、外に山積みになる。

 

ニル 「まさか六割引きにしていただけるとは思いませんでした」

ルク 「店長さん、ダージリン様の顔を見た瞬間値引きに応じてたな」

ローズ「さすがダージリン様ですわ!これが顔パスというものなのでございますわね!」

ペコ 「それは、ちょっと違うような・・・・」

アッサ「ともあれ、これで資材はすべて準備できましたね」

ダー 「後ほど、店長様には別の形で報いましょう。では、れもんへ戻りますわよ」

 

ダージリンたちは資材を戦車に乗せ、帰路へ着いた。

帰り道の途中。

 

アッサ「あら、あれは・・・・」

 

通りがかった道の先で、パーシングが町の掲示板に横付けしている。

接触ギリギリにまでとりつけた車上から、アズミが掲示板にポスターを貼っている。

 

男A 「おっ、マブいねーちゃん!」

 

見るからに軽そうな男がアズミを見つける。

 

男A 「なあなあ姉ちゃん、今ヒマしてない?」

男B [俺らに付き合ってくんないか~い?」

アズミ「あら、悪くないわね」

男A 「おっ♪」

 

気のいい返事に喜ぶ男たち。

 

男B 「それじゃ~早速__」

アズミ「はいこれ♪」

 

アズミは大量のチラシを男たちに手渡す。

 

男A 「え」

男B 「あの、これって?」

アズミ「今週中に、お知り合いに配ってくださるかしら?」

男A 「え、なんで俺らがこんなことを!?」

アズミ「えっ・・・・」

 

男たちが断りそうな雰囲気になると、アズミが潤んだ目で見つめ返す。

 

アズミ「助けて・・・・くれないの?」

男A 「えっ・・・・あの・・・・」

 

言い淀む男達。

しかしアズミの潤んだ目を見ていると__

 

男B 「おう!事情は分からないが、俺たちに任せとけ!」

男A 「えっ!?」

男B 「女がこんな困ってるんだぜ!?助けなきゃ男じゃねえぜ!」

男A 「お前何言ってんの!?」

アズミ「手伝ってくれるの!?ありがとう!」

男A 「いや、あの__はい」

 

空気に飲まれ引き受けてしまう男。

 

アズミ「ありがとう!必ずお礼はするわ!」

男B 「気にするなって!よし、行くぜ!」

男A 「お、おう」

男A (あれ、俺たちなにしようとしてたんだっけ?)

 

そして男たちはチラシを配りに去っていった。

 

アズミ「ふふっ♪」

ルミ 「いやー、魔性の女ってやつだわ」

メグミ「男を狂わす女って、こういうのを言うのね」

 

近くで作業をしていたルミたちが近づいてくる。

 

メグミ「ほんとアズミってこういうこと得意よね」

ルミ 「これで何人の男が不幸になったことか」

アズミ「人聞き悪いわね。強制はしてないでしょう」

ルミ 「こういうのも人心掌握術っていうのかしら」

メグミ「まあいいけど。__絶対こういうところを隊長に見せちゃダメよ?教育に悪いから」

アズミ「わかってるって♪」

 

そして再び作業のためにバミューダトリオは散らばっていった。

場所は変わり、サンダース校の体育館。

ナオミ率いるチームと、アリサ率いるチームが体育館にスタンバイしている。

広い体育館の中には、れもんにそっくりに見立てた原寸大の模型が準備されている。

 

ナオミ「では再確認する。れもんは大会の前日まで営業している。その日の営業終了が十九時。片づけなどがすべて完了するのが二十時となっている。我々の任務は、その二十時から門限である二十二時までの間に全てのイス・テーブル・食器を店内より撤去、トレーラーへ収納、それを学園艦へ一時収納し管理する。つまりその作業のトータルが二時間を切らねばならない」

操縦手「かなりシビアですね」

ナオミ「故にぶっつけ本番など危険な橋を渡るわけには行かない。ここで訓練を繰り返し、本番の日には一糸乱れぬ正確な作業が求められる。質問はあるか?」

装填手「は~い!片付けに回せる時間はどれくらいですか~?」

ナオミ「多めに見積もって三十分だ」

砲手 「三十分!」

ナオミ「椅子をまとめ、テーブルを外へ運び出し、食器を傷つけないよう梱包し段ボールへ詰め、トラックへすべて積み込む。それを三十分でこなすんだ」

 

Aチームメンバーがざわめく。

 

ナオミ「強制はしない。自信のないものは今この場から去れ。誰も責めはしないし、私も責めない。しかし今去らないのならば、私はお前たち全員が完璧に動けるようになるまで決して手は緩めない。その覚悟はあるか?」

 

誰も何も言わず、ただ決意の瞳でナオミを見つめる。

 

ナオミ「__よし。ならば早速訓練を始めるぞ!お前たちに地獄を見せてやる!」

サン生「イエス、サー!」

アリサ(ナオミ、燃えてるわね・・・・。こっちだって!)

アリサ「あんたたち、聞こえたわね!?こっちは早朝からセットを配置、正午からの公開開始までに全て準備し終えなければいけないのよ!できるかしら!?」

車長 「無理です!」

アリサ「はあ?!」

通信手「お片付けならともかく、半日もないのに設置に装色なんて間に合うわけないじゃないですかー」

アリサ「ちょ、アンタたち__」

サンA「物量的に無理ですねー」

サンB「ねー」

サンA「せめてもっと人数がいれば何とかなりそうなんですけどねー」

 

覚悟と統率のとれたナオミのAチームに比べ、ざわつきまとまりのないBチーム。

 

アリサ「やる前から無理とか言わないの!アタシたちができなかったられもんはお化け屋敷出来ないのよ!?」

車長 「でもできないことを無理にやろうとしたらもっと悲惨なことになりかねませんよ?」

アリサ「ぐっ・・・・。ならば、こうよ!」

 

アリサが何かをBチームメンバーに伝える。

そんな様子を体育館の入り口から眺めるケイ。

メンバーたちはなるほど、と感心しているようだったが、何を話しているかは聞き取れなかった。

 

サンC「隊長!お肉と野菜の仕入れの見積もりができました!確認をお願いします!」

ケイ 「オーケー!今行くわ!」

 

隊員に声をかけられ、ちらっとBチームを一瞥した後、ケイは全てをアリサに任せその場を去っていった。

そして場面はれもんへ。

れもんの軒先には、すでに大きな鉄板を設置した屋台がほぼ出来上がっていた。

 

イカ娘「おお、もう屋台ができたのでゲソか!」

ペパ 「おう!事あるごとに屋台は開いてたからな!今更組むのに時間なんてかかんねーさ!」

チョビ「他はさっぱりなのに、屋台となるとペパロニは本領を発揮するよな」

ペパ 「ちょっ、姐さんそりゃないっすよー!」

チョビ「はっはっは。まあ、屋台に関してはペパロニに任せていて間違いは無いさ。私たちは他のメンバーの手伝いをしに行くとしよう」

カル 「はい」

ペパ 「いってらっしゃーい」

 

アンチョビ、カルパッチョ、イカ娘の三人は店内へ。

中では、カチューシャたちプラウダメンバーと、知波単勢がテーブルを挟み何か討論している。

 

カチュ「だから!『怖い』っていうのは自分より遥かに大きい、目に見える規格外の存在のことを言うのよ!」

西  「それはお化けではなく怪物というのです!『恐怖』というのは目に見えぬ、しかし確実に存在を感じながらも身近に忍び寄る存在をさすのです!」

 

お化け屋敷の肝、登場させるお化けのデザインを巡って一歩も引かない双方。

モンスター路線のプラウダと、霊路線の知波単が喧々諤々としている。

と、双方がイカ娘たちに気づく。

 

カチュ「ねえイカチューシャ!やっぱり目に見える恐怖こそ恐ろしいと言えるものよね!?」

西  「いいえ烏賊娘殿、目に見えぬものだからこそ、得体が知れないからこそ想像力が膨らみ、恐怖を倍増するのです!」

イカ娘「ふうむ・・・・。アンチョビ、お主はどう思うでゲソ?」

チョビ「私か?うーん・・・・。目に見えるものはダイレクトに伝わるし、お化け屋敷なら見えなきゃそもそも話にならないかもしれないな」

カチュ「でしょう!?チョビーシャはわかってるじゃない!」

カル 「チョビーシャ」

チョビ「しかし、だ」

 

アンチョビは言葉を挟む。

 

チョビ「お化け屋敷で恐怖をあおるのは、音響でもある。不気味な謎の音、すすり泣く女の声、井戸から聞こえてくるうめき声。見えなくても恐怖を感じさせるものはたくさんある」

西  「その通り!」

福田 「つまるところ、どちらがより怖いのでありますか!」

ノンナ「見えるものですよね」

細身 「いや、見えないものだ!」

チョビ「うーん・・・・」

 

平行線になりそうな会話。

そんな中で__

 

カル 「あの、いいでしょうか?」

 

カルパッチョが口を挟んだ。

 

チョビ「ん?どうした?」

カル 「ひとつ、参考になるかもしれないお話を思い出しまして」

イカ娘「ふむ?」

 

双方が挟んでいるテーブルの前に立つカルパッチョ。

 

カル 「ヴォイニッチ手稿をいうものをご存知でしょうか?」

ニーナ「いんや、聞いたことねえべ」

アリー「名前的には、手帳の類だべか?」

カル 「はい。ヴォイニッチ手稿は、1912年にイタリアで見つかった謎の手帳です」

イカ娘「なにが謎なのでゲソ?」

カル 「手帳の中には、びっしりと文字が、そして沢山の挿絵が描かれていました。しかし、その手帳の文字は、誰にも読めなかったんです」

玉田 「そ、それは何ゆえ!?」

カル 「それに書かれている文字は、現代に記録されている文字とは何一つ一致しなかったんです。でも適当に描いたとは思えないほど規則性もあり、間違いなく文字として書かれていたものなんです」

イカ娘「それは・・・・気色悪いでゲソね」

カル 「同時に、挿絵も何を言いたいのかもわかっていません。そんな謎の絵と文章が、なんと二三十ページにわたり記されていたんです」

カチュ「不気味ね・・・・」

 

カチューシャが縮こまる。

 

カル 「使われている羊皮紙は化学判定の結果、十三世紀の頃の物だと分かっています。ですがその時代の、何について記した本なのか、現代技術をもってしてもいまだにほとんど解明されていないそうです」

寺本 「背筋が寒くなったであります・・・・」

西  「うむ・・・・」

カル 「いかがでしたか?怖かったでしょうか」

カチュ「ま、ままま、まあまあね!」

クラ 〈カチューシャ様、しがみつかれるのならば是非私のほうに〉

ノンナ〈これは譲れません〉

カル 「つまり、何が言いたいかと言いますと。目に見える、しかし目に見えるもの以外の何かを感じる恐怖、そういうのもあるのではないか、と」

西  「片方に固執するだけでは見えないものもある、というお話ですね・・・・」

カチュ「さ、参考になったわ!」

 

カルパッチョから語られた話が不気味すぎたのか、先ほどの賑やかさがぱったりとやんでしまっていた。

 

カル 「ふふっ、お役に立てて何よりです」

チョビ「身の毛もよだつ話だったな・・・・。そんな話、どこで仕入れたんだ」

カル 「この間、たかちゃんとお話ししてて聞いたんです。そのあと怖い話を語り合う流れになりまして。楽しかったなあ」

イカ娘(思ってたより大物でゲソ)

 

れもんの事務所では、千鶴と栄子、まほ、あんこうチームらが席につきながら何か話し合っている。

 

まほ 「私はお化け屋敷の経験は無いのだが・・・・。みほたちはあるのか?」

みほ 「うん、お化け屋敷・・・・かはわからないけど、ボコミュージアムでそれっぽいのには乗ったよ」

優花里「ボコーテッドマンションですね」

麻子 「あれはホラーと言っていいのだろうか」

まほ 「ふむ、どういう場所だったんだ?」

みほ 「えっとね、乗り物に乗って墓地や屋敷の中を通り抜けるの」

まほ 「ふむ」

みほ 「そうすると、色々なところからお化けボコが現れるの!すごく頑張ってたよ!」

まほ 「・・・・ふむ?」

栄子 「それって、怖かったの?」

みほ 「えっ?あの時はボコがたくさんってはしゃいでたから・・・・ごめんなさい、怖くはなかったかも」

沙織 「あれはどちらかというと可愛い路線だったねー」

華  「とてもファンシーでしたね」

千鶴 「みほちゃんらしくていいけれど、今回のには応用できないわね」

みほ 「あう・・・・」

栄子 「でも考えたんだけどさ、普通にお化け屋敷して、それで優勝狙えるかな?」

優花里「と、言いますと?」

栄子 「西住さんたちが協力してくれるから、規模もクオリティもすごいのが作れる。だけど、それだけで優勝間違いなしっていう訳にはいかないんじゃない?」

麻子 「創意工夫が必要、ということか」

華  「真似でなく、王道だけでなく、自分の色を出さなければならないのですね」

まほ 「ふむ・・・・」

千鶴 「あっ」

 

千鶴が小さく声を上げる。

 

沙織 「千鶴さん、どうしたの?」

千鶴 「まほちゃん。この間話してくれたお話覚えてる?」

まほ 「え?__あ、はい。あの話ですね」

優花里「えっ、えっ?どんなお話ですか!?」

まほ 「ああ。実は__」

 

そして日は過ぎ。

いよいよ大会日前日になった。

 

ナオミ「よし、作業開始!」

 

ナオミの合図のもと、訓練を積んだ隊員たちが一糸乱れぬ動きでれもんの内装を片付ける。

あっという間にイスやテーブルは一つもなくなり、それらは全て用意されたトレーラーへ積み込まれていった。

 

イカ娘「なんて手際でゲソ・・・・」

千鶴 「何でも、このお片付けのために何度も訓練を重ねてきたらしいわ」

栄子 「まるで軍隊だな・・・・」

 

そして最後の段ボールが詰まれ、扉が閉まる。

 

ナオミ「・・・・二十六分。よし、予定内だ。みんな、よくやった!」

サン生「イエーーッ!」

 

目標時間内の遂行達成に歓声が上がる。

 

ナオミ「では、明日まで責任をもってお預かりします」

千鶴 「ありがとう。お願いしますね」

ナオミ「はい。よし、撤収!」

 

そしてナオミたちは帰りも速やかに、あっという間に去っていった。

 

栄子 「今になって思うけど、私たち恵まれてるよなあ」

千鶴 「そうね。ここまでしてくれたんだもの、私たちも応えなきゃ」

イカ娘「割引クーポンは私の物でゲソ!」

栄子 「重要なのはそこじゃねえだろ!」

 

次の日。

早朝、れもんにイカ娘と栄子がやって来た。

 

栄子 「昨日のナオミの片づけはすごかったけど、アリサの内装設置はその比じゃなく難しいだろうからな。手伝った方がいいだろう」

イカ娘「もっと手伝える人数を増やすべきだったかもしれないでゲソ」

 

などと話しながら店の前にやってくると__

 

栄子 「あれ、みんな!」

ダー 「ごきげんよう」

愛里寿「ふあ・・・・おはよう」

 

店の前にはグロリアーナ一同と、大学選抜一同のメンバーが大勢集まっていた。

 

イカ娘「どうしたのでゲソ?始まりは正午からでゲソよ」

ペコ 「おそらく、皆さん同じ考えかと」

愛里寿「内装は一番難しくて時間との戦いだって聞いたから、アリサのチームだけだと人手が足りないかもって聞いて」

ローズ「及ばずながらお手伝いに参りましてよ!」

栄子 「そりゃ助かるな。この人数で手伝えばアリサも喜ぶだろ」

 

やがてトラックがれもんの前にやって来た。

かなり大型の、横が開くウィングボディ型のトラックだ。

 

アリサ「あら?アンタたち、どうしてここにいるのよ?」

イカ娘「アリサが大変だろうから、手伝いに来たのでゲソ!」

ルク 「ここまで関わって、準備が間に合いませんでしたじゃ話にならないからね」

栄子 「手数はいくらでもある。みんなで協力して済ませよう」

アリサ「アンタたち・・・・」

 

申し出に感動してると思いきや__

 

アリサ「アタシたちをナメるんじゃないわよ!!」

 

合図とともにトラックのバンボディが開く。

その中には・・・・

 

アリサ「オペレーション・ノックダウン!ミッションスタート!」

サン生「イエス・サー!」

 

お化け屋敷の内装のパーツらしきものを構えたサンダース生たちが乗り込んでいた。

アリサの合図とともに順番にパーツを担いでれもんに駆けていく。

そしてそのパーツをあらかじめ決めておいた部分に手際よく設置していく。

 

イカ娘「何でゲソあれは?」

ニル 「壁をそのまま切り取ったようなデザインですね」

 

壁にはサイズを合わせた墓場や森などのお化け屋敷の壁イラストが描かれた書き割り。

それをぴったりと当てはめていき、見る見る間に内部がお化け屋敷になっていく。

 

アズミ「あらら、これはすごいわね」

ルミ 「てっきり材料持ってきてここで仕上げると思ってたのに」

メグミ「『完成したものを手ごろなサイズに分解して再取り付け』するとはね。いいアイデアじゃない」

 

あっという間に壁の内装は設置が完了し、続いて仕切りを設置する班が入れ替わりにやって来て設置を始める。

その手際も極めて練度が高く、迷いなく設置されていく。

 

イカ娘「早すぎて手が出せないでゲソ」

アッサ「助力しようとするだけ野暮だったようですね」

 

はじまって三十分もしないうちに、仕切りまでも設置し終え、最後の小物の設置に取り掛かっている。

そして__

 

サンC「班長!壁班、任務完了であります!」

サンD「仕切り班、同じく完了しました!」

車長 「小物班、設置完了です!」

アリサ「OK!ミッション、オールオーバー!」

サン生「イエーッ!」

 

そこには、一時間前とは見るも違う完璧なお化け屋敷があった。

 

ルク 「すっげー・・・・。一時間で全部やっちゃったよ」

ペコ 「ノックダウン形式。家具などの販売方法によくある、分解した状態を現地で組み立てるものですね」

栄子 「確かにこれならここへ来て内装する手間もないし、あらかじめ用意しておけば設置だけで他に時間がかからない」

イカ娘「アリサ、やるじゃなイカ!」

アリサ「ふふん、どんなもんよ!」

 

アリサは得意満面。

 

アリサ「用意された資材がバルサだったのも功を奏したわ。あれだけ軽ければ持ち運びも楽勝。てっきりヒノキだとか桐だとか、高いだけで重さを考えない物を用意するかと思ったけど、ベストチョイスだったわ」

 

感心するアリサ。

物言いたげなアッサムを尻目に、ダージリンは涼しい顔で紅茶を飲んでいる。

 

みほ 「うわあ、すごい!もうできてる!」

イカ娘「む?」

 

みほの声に気が付くと、相沢家で着替えやメイクを準備をしていたお化け役のメンバーたちが揃い踏みしていた。

 

栄子 「ああ、もうみんな準備できたのか」

優花里「はい!バッチリであります!」

千鶴 「それじゃあみんな配置について。そろそろお客さん第一号がやって来るわ」

一同 「はい!」

 

それからしばらくして。

 

エリカ「呼ばれてやって来たけど・・・・どういう要件かしら?」

 

訓練の合間を縫って、呼び出しを受けたエリカと小梅がれもんへやって来た。

 

エリカ「用があるならはスマートにしてもらえないかしら。戻ったらすぐ一年生の訓練を見ないといけないのに」

小梅 「まあまあエリカさん。せっかく完成したところを見せてくれるんですから」

エリカ「私は興味ないんだけど。大体今どきお化け屋敷って、レトロすぎると思わないのかしら」

まほ 「二人とも、よく来てくれた」

 

苦笑する小梅とエリカのもとに、まほがやって来た。

ばっと気を付けの姿勢になる二人。

楽にしてくれ、と言うまほ。

心なしか前髪が長く、目に被っている。

 

まほ 「二人にはこのお化け屋敷の出来を見てもらいたい。贔屓目に見ず、率直な意見を聞かせてくれ」

エリカ「はい、お任せください!」

 

先ほどの面倒くさそうな表情は一切消えていた。

かくしてエリカと小梅は、『お化け屋敷れもん』へ足を踏み入れる。

二人の後ろからついてくるまほ。

その顔は、不気味にほほ笑んでいるように見えた。

 

 

                  ~~『大会編』へ続く~~




今作初の二部構成となりました!

登場キャラも増え、話に膨らみが出始め、そして膨らみすぎて一話でおさまらなくなってしまいました。

後半がだれたりしないよう気を付けますので、よろしくお願いいたします。
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