侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています


シンディー→シン


エンカウント・ウォー!

日も沈み、辺りが夜の闇に包まれ始めた由比ガ浜市内。

その町中を、麻子が一人小走りで駆けている。

 

麻子 (しまった、ゆっくりしてたら暗くなってしまった。早く戻らないと沙織がうるさい)

麻子 「・・・・ん?」

 

ふと目を向けると、そこには__

 

麻子 「キャンベルさん?」

シン 「あら麻子じゃない、こんばんわ」

 

水着ではない、きちんとした私服を着たシンディーが歩いていた。

 

麻子 「こんな時間に会うなんて珍しい。帰るところなのか?」

シン 「いえ、これから調査よ!」

 

目をキラキラさせるシンディー。

よく見ると肩から高性能そうなカメラやバッグ、懐中電灯によくわからないレーダーのような装置も持っている。

 

麻子 「調査?キャンベルさんが調査というと・・・・」

シン 「そう!宇宙人よ!実は、この先の山中で宇宙人の目撃情報があったのよ!」

麻子 「・・・・山で?」

 

シンディーの進行方向には小さな山がある。

おそらくはそこだろうと麻子は思った。

 

麻子 「山に宇宙人が出るとは珍しいな」

 

話を合わせる。

 

シン 「ええ、そうなのよ!町中で目撃した、とかはガセネタが多かったけど、山の中で発見したケースは初めて聞くわ。これは信ぴょう性高いと思わない!?」

麻子 (そういうもんだろうか)

シン 「というわけで、これから調査に行ってくるわ。また今度時間があったら戦車道の練習に付き合ってちょうだい」

 

そう言って去ろうとするシンディー。

そんな姿に、知的好奇心が沸き始めた麻子。

 

麻子 「待った、キャンベルさん」

シン 「?」

麻子 「私も同行していいだろうか」

シン 「あら?」

麻子 「山に出る宇宙人なんて興味ある。私も見てみたい」

 

途端、ぱあっと顔が明るくなるシンディー。

 

シン 「麻子もついに宇宙人の魅力に気が付いたのね!?」

麻子 「いや、というか学術的興味が__」

シン 「もちろんオーケーよ!さ、行きましょう!」

 

同志を得たとはしゃぐシンディーに追随するように、麻子は山の中へと足を踏み入れた。

 

麻子 「お、思った以上に暗いな・・・・」

 

山の中を進む麻子たち。

山の中は明かりも少なく、すぐ脇にある林も闇に包まれ何も見渡せない。

無意識にシンディーの腕にしがみついてしまう。

 

麻子 「そ、そういえばキャンベルさん、目撃された宇宙人ってどんな姿をしていたんだ?」

 

少しでも恐怖を紛らわせようと話題を振る。

 

シン 「そうね・・・・。目撃証言によると」

麻子 「よると?」

シン 「姿は十打後半の少女のように見えたらしいわ」

麻子 「人間の姿をしているのか?思っていた宇宙人の姿とは違うな」

シン 「宇宙人は地球に潜伏するため人間に姿を変えているの。だから少女の姿をしていても全く不思議ではないわ」

麻子 「なるほど」

シン 「次に、夜間によく目撃されるらしいわ」

麻子 「夜に出る宇宙人とか変わってるな」

シン 「宇宙人は常に身を潜めているの。だから夜は身を隠しやすいし、宇宙人の技術を使えば暗闇くらい赤外線装置とかでまる見えよ」

麻子 「宇宙人の科学技術ならそうかもな」

シン 「あと大きな特徴として、体が透けて見えるそうよ」

麻子 「透け・・・・?」

 

一瞬、悪寒が走った気がした。

 

シン 「あれはきっと高度な光学迷彩の類に違いないわ。普段から姿を消し、見えなくして人間を観察しているんだわ」

麻子 「そ、そうだな。きっとそうだ」

 

考えを振り払おうとシンディーの説を肯定する。

 

シン (ああ、私の宇宙人考察をこんなにも真面目に聞いてくれるなんて・・・・!麻子ならきっと、私の宇宙人リサーチのいいパートナーになってくっるわ!)

 

ウキウキで足早になるシンディー、それに必死にしがみついて離れまいとする麻子。

気が付けば山の中腹辺りにまで入り込んでいた。

 

シン 「この辺りよ。この辺が一番例の宇宙人目撃例が多いの」

 

そこには休憩用の東屋が設置されており、薄ぼんやりとした明かりがそこだけをかろうじて照らせている。

歩き疲れたのもあり、ふらふらと東屋に入り腰を下ろす。

そこでやっと落ち着いたのか、ケータイを取り出し画面を見る。

 

麻子 (しまった、沙織にキャンベルさんと一緒にいるって連絡するの忘れてた)

 

画面には沙織からの着信履歴が山ほど表示されていた。

 

麻子 (・・・・うるさいから連絡しないでおこう)

 

ケータイをしまう。

シンディーはというと、付近で懐中電灯で周囲を照らしたり装置を使って周囲を調べて回ったりしている。

 

麻子 (生き生きとしているな)

麻子 「キャンベルさん、見つかりそうか?」

シン 「うーん、この辺りで間違いないと思うのだけど・・・・」

麻子 「私も手伝おう。もっと情報はないか?」

シン 「そうね・・・・。ああ、そうだわ」

麻子 「ん?」

シン 「その宇宙人、体の周りが青白く光ってるらしいの」

麻子 「光ってるのか。それは見つけやすそうだ」

シン 「あと、足が完全に透けて見えないそうなの」

麻子 「あしっ__!?」

 

そこで麻子の体が完全に固まる。

・夜の山に出る

・少女の姿をしていて、透けている

・青白く光り、足がない

 

麻子 (そ、それって__それって・・・・!)

 

ガサッ!

 

麻子 「ひいっ!?」

 

背後で草むらが揺れる音がして飛び上がる麻子。

慌ててシンディーにしがみつく。

 

麻子 「キャキャキャキャキャンベルさん、私たち、宇宙人調査に来たんだよな!?な!?」

シン 「?もちろんじゃない」

麻子 「ああああああああ足が透けてって、おおお、お化けとか、そういうんじゃないよな!?」

シン 「?足が透けてるからって、どうしてお化けになるの?」

 

シンディーの言葉にはっとする麻子。

 

麻子 (・・・・そうか、しまった!アメリカじゃお化けは足がないっていう文化が無かったんだ!)

麻子 「にににに逃げようキャンベルさん!こここここここに出るのは宇宙人じゃない、おおおおばけ、幽霊だ!」

シン 「え?何言ってるのよ。つまり宇宙人でしょう?」

麻子 「はあ!?」

シン 「私の独自に調査した見解によれば、世間で幽霊と呼ばれている存在はみんな宇宙人なのよ!」

麻子 「しまった!予想より偏った思想の人だったーっ!」

 

シンディーの言う宇宙人の正体が幽霊だと気づき、途端に恐怖に飲み込まれる麻子。

顔面蒼白で、足もガクガク震え始めている。

 

麻子 「キャキャキャキャンベルさん、ももももう帰ろう!きっと今日は見つからない、また明日来ればいいじゃないか!」

シン 「ええっ!?ちょっと待ってよ、来たばかりじゃない!それに今夜は宇宙人の目撃条件が揃っている日なのよ!絶対に今日なら見つけられる!」

麻子 「みづげなぐでいいーーーーーっ!」

 

恐怖のあまり半泣きになり始めた麻子。

慌ててケータイを取り出し、沙織にメールを打ち始める。

 

件名:なし

内容;たけすけさおりてたすけてさおりたすけてさおりたすけてさおり

 

震える手で送信ボタンを押す。

足の震えのあまり、立っていられなくなりその場にへたり込む。

そんな麻子の様子には気づかず、シンディーは周囲を探し回っている。

 

麻子 (キャンベルさんは頼りにならない・・・・。こうなったら、這ってでも一人で山を下りるしか__)

 

帰路を見るが、その先は闇に包まれた山道。

一瞬のうちに一人で帰るのを諦めた。

 

麻子 (す、少しでも明かりのある所へ・・・・!)

 

四つん這いになって東屋に辿り着く。

椅子に座り、両ひざを抱えて震えて縮こまる。

 

麻子 「来なきゃよかった・・・・」

 

涙目になりながら後悔していると・・・・

 

???『大丈夫?』

 

心配する声が聞こえた。

明かりで照らしてくれているのか、青白い光を閉じたまぶたから感じる。

 

麻子 「・・・・だいじょうぶ」

 

膝を抱え込んだまま丸まった麻子が応える。

 

???『気分でも悪いの?』

麻子 「お腹痛い」

???『そう・・・・。でも私、お薬とか持ってないの、ごめんね』

麻子 「いや、気にしないでいい。ちゃんと確認せずについてきた私が悪かったんだ」

 

しばしの沈黙。

その間、麻子は自分が真っ暗な空間に一人だけ浮かんでいるかのような錯覚に陥っていた。

 

麻子 「・・・・今思い返してみれば、私は一人じゃ何もできなかった」

 

ぽつりとつぶやく。

 

麻子 「沙織がいないと朝も起きれない。そど子がいないと学校に行かなくちゃとも思えない。西住さんがいないと戦車を動かせない。・・・・おばあがいなかったら、私は普通の人生を歩めなかった。私は一人だとこんなにもちっぽけだったんだ」

???『・・・・』

 

恐怖のせいか、弱音を吐く麻子。

 

麻子 「何でもできるつもりでいた。何でもこなせるつもりでいた。でも違った。私はみんなに支えられてたからに過ぎなかったんだ」

???『・・・・私もね』

 

ぽつりとつぶやく。

 

???『中学の頃、仲のいい友達と戦車道をやってたの。役割は車長、しかも隊長』

麻子 「・・・・そうだったのか。すごいな」

???『けっこういいチームでね。大会でもけっこうな順位を取れたのよ』

麻子 「中学でそれは大したもんだ」

???『・・・・そのせいでね。私、天狗になっちゃって。『チームが勝てたのは私のおかげ、私が一番すごい、だからみんな私の言うことを聞いて当然』って本気で思ってた。同い年の友達にも上から目線』

麻子 「・・・・」

???『そしたら、みんな離れて行っちゃった。友達にも去られて、戦車道どころじゃなくなっちゃったんだ』

麻子 「それは、辛かったろうな」

???『うん、すごく後悔した。でも、もう遅かった。もう謝ることもできないし、仲直りなんてできなくなっちゃった』

麻子 「遅いことなんてないんじゃないか」

???『え?』

麻子 「ようは自分の気持ち次第なんだ。今の自分がどうであれ、自分が本当に謝りたい、仲直りしたいと思ってるならできるはずだ」

???『・・・・』

 

しばし沈黙。

 

???『・・・・そうだね。私、また嫌われるのを怖がってたのかもしれない』

 

ふふっ、と失笑する。

 

???『励ますつもりだったのに、励まされちゃった。__うん、私、がんばってみるよ』

麻子 「いや・・・・すごく助かった。話ができたおかげで私も気持ちが落ち着いた」

 

そう言って麻子が顔を上げると__そこには誰もいなかった。

 

麻子 「・・・・あれ?キャンベルさん?」

 

麻子がシンディーを呼ぶと__

 

ガササササ

 

離れたところの茂みからシンディーが現れた。

 

シン 「うーん、どうにも反応がないわね。今日は外れかしら」

麻子 「・・・・え?キャンベルさん?」

シン 「?どうしたの?」

麻子 「いや、だって、今さっき、私の話し相手になってくれてたんじゃ__」

シン 「え?私はずっとあっちで調査してたんだけど。誰かいたの?」

 

きょろきょろとあたりを探すシンディーの様子は、嘘を言っているように見えない。

途端、麻子の背筋を冷たいものが走った。

 

麻子 (まさか・・・・まさかまさかまさか!)

 

すると、頭上の少し高い場所から声が聞こえた。

 

???『ありがとう・・・・』

麻子 「!」

シン 「あら?今の、誰の声?」

麻子 「う・・・・」

シン 「う?」

麻子 「うぎゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

 

その後。

完全に腰の抜けた麻子は、シンディーにおんぶされながらやっとのことで山を下りてきた。

 

シン 「惜しかったわ、そっちにいたなんて。コンタクトの機会を不意にしちゃったわ」

麻子 「そんな機会なくていい・・・・」

 

するとそこに、沙織が血相を変えて駆けつけてきた。

 

沙織 「麻子!?だいじょうぶ!?メール見て駆けつけたけど、何があったの!?」

麻子 「さささ、沙織・・・・!」

 

シンディーの背中から降りた麻子は、沙織に全力でしがみついた。

 

沙織 「わぷっ、麻子、きついきつい!力入れすぎだって!」

麻子 「沙織はどこにも行かないでくれ、ずっとそばにいてくれ・・・・」

 

ただならぬ麻子の様子に、事態を把握できずとも麻子を優しく撫でる沙織。

 

沙織 「だいじょうぶ。みんなそばにいるよ。こんな手のかかる子、ほっといたらそれこそ大変だもん」

 

そうして麻子は沙織におんぶされて帰路についた。

未だ麻子は震えてはいたが、やっと落ち着きを取り戻せていたようだった。

数日後、シンディーは再び例の山の入り口に立っていた。

 

シン 「今は昼だけど、探せばきっと見つかるはずよ!次こそは未知との遭遇を果たしてみせるんだから!」

 

いざ吶喊、と思った矢先、

 

女性A「あのー」

シン 「?」

 

四人組の女性に声を掛けられた。

 

シン 「何か用かしら?」

女性B「あの、私たち由比ガ浜霊園に行きたいんですけど、道に迷っちゃって」

シン 「ああ、そこならあっちの道を右に曲がった先よ」

女性C「ありがとうございます」

 

お礼を言って女性たちは去っていった。

 

女性D「仏花にサルビアって、やっぱり変だったかな?」

女性A「大丈夫だと思うよ、あの子の好きなお花だったもん」

女性B「喜んでくれるといいね」

女性A「・・・・うん」

 

そんな会話をする女性たちを見送り、シンディーは山に入っていくのであった。




(色んな意味で)色んなものがよく出る倉鎌の山。
そのうち本当に宇宙人も出てきちゃうかもしれません。

麻子がお化けの類を怖がるのは、両親を失ったことにより『死』に関する事象すべてに恐怖を感じるせいではないか、と思ったりしています。

でも、みほや沙織が周りにいる限り、麻子にそう言った不安は無縁になるのでしょう。

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