侵略!パンツァー娘   作:慶斗

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※形式の都合上、キャラの名前が一部略称になっています。


アンチョビ→チョビ
ペパロニ→ペパ
カルパッチョ→カル

シンディー→シン
ニセイカ娘→ニセ娘


Chapter02:お別れです!

みほ 「ふう」

 

夜の大洗女子の寮。

自室に戻って来たみほは荷物を置いて一息ついた。

 

みほ (思わぬ展開になってきたなあ)

 

などと呆けていると__

 

プルルルルルル

 

みほのケータイが鳴る。

 

みほ 「あっ、着信。(ピッ)はい、もしも__」

???『聞いたわよミホーシャ!』

みほ 「はうっ?!」

 

電話に出た瞬間鳴り響く大声に思わずのけ反るみほ。

 

みほ 「あの・・・・もしもし?」

???『カチューシャ、そんなに大声でまくし立ててはみほさんが驚いてしまいますよ』

 

電話の向こうで聞き覚えのある声と名前が聞こえてくる。

 

みほ 「あっ、もしかして・・・・カチューシャさんですか?」

カチュ『そうよ!いったい誰だと思ってたの!』

みほ 「ごっ、ごめんなさい!」

 

非はないのに反射的に謝ってしまうみほ。

 

ノンナ『カチューシャ、お話が進みませんよ』

カチュ『ああ、そうだったわね。ねえ!聞いたんだけど、ミホーシャたちがイカチューシャたちと一緒に映画を撮ってるって本当!?』

みほ 「えっ__あ、ああ、あのことですか。あれは映画ではなくて、町のPRビデオの撮影で__」

 

かくかくしかじか。

 

カチュ『なるほど、そうだったのね。どこかで聞き間違えちゃったのかしら』

 

そもそもどこでその話を聞いたのだろう、と気になるみほ。

 

みほ 「それで、イカちゃんとしては受けるつもりはあるみたいなんですけど、一つ問題があって」

カチュ『問題?』

みほ 「イカちゃんのチームの__シンディーさんがいなくなってしまっていて、砲手がいない状態なんです」

カチュ『あのアメリカ人が?そうだったの』

みほ 「はい。それで、次の撮影までに砲手が見つかれば撮影に参加するっていうお話になりまして」

カチュ『なんだ。それなら簡単に解決するじゃない!』

みほ 「えっ、そうなんですか?」

カチュ『ええ。なんていっても、こっちには戦車道史上最高の砲手がいるのよ!ねえノンナ!』

ノンナ『恐縮です』

みほ 「ええっ!?」

カチュ『という訳だから!これからそっちに向かってノンナを合流させれば万事解決よ!』

みほ 「で、でも今カチューシャさんたちは日本海側にいるって__」

カチュ『そうね。遠目に能登半島が見えるわ』

みほ 「えっ、えっ、それっていしか__」

カチュ『とにかく!今から全速力で向かうから、イカチューシャによろしく言っといてね!(ガチャッ)』

 

一歩的に電話を切られ、呆然とするみほ。

 

みほ 「・・・・、本気じゃないよね?」

 

と、そこへ__

 

ピンポーン

 

インターフォンが鳴る。

 

みほ 「あ、沙織さんたちもう来たのかな」

 

玄関を開けると__

 

???「よおお嬢さん!一緒にディナーでも行かないかい?」

みほ 「!?」

 

目の前に、タキシードで決めたダンディなボコのぬいぐるみが飛び込んできた。

そしてそれを持っていたのが__

 

沙織 「へへ、なんちゃって」

みほ 「沙織さん」

 

ボコの後ろに悪戯っぽい笑顔を浮かべた沙織や、華たちが立っていた。

 

優花里「お邪魔いたします!」

麻子 「布団借りる」

華  「あらあら、お夕飯に来たんですよ?」

麻子 「食べる専門」

沙織 「手伝え!」

 

そうしてわいわいと楽しく夕飯の準備を追えたあんこうチームの面々は夕飯を囲む。

 

沙織 「それにしても、思わぬ展開になって来たね」

みほ 「うん、そうだね。まさか監督さんがイカちゃんに興味を向けるなんて」

華  「常に新しい視線で物事を見れる方なのですね」

麻子 「しかし思ったが変わった撮影だな。戦車道で町を映そうだなんて」

優花里「あの監督さんは戦車道を通じたメッセージを表現するのが得意な方でして。その界隈では知らぬ者はいないというほどですよ」

みほ (どこの界隈なんだろう・・・・?)

 

やがて食べ終わり、みほは沙織から受け取ったタキシードボコをベッドの横に並べる。

 

麻子 「だいぶ増えてきてる」

みほ 「うん。ここに来た時よりずっと増えてるよ」

 

ひょい、と近くにあるボコを手にする。

 

みほ 「これは大洗に来てから、初めてみんなと一緒に帰った時に会った子」

 

またひとつ手にする。

 

みほ 「これは一回戦、サンダースに勝てた時の記念の子」

 

またひとつ手にする。

 

みほ 「これは、始めてきた江の島で、優花里さんと一緒に見つけた子」

 

と、江の島限定ボコを手にする。

にへら、と優花里の顔が緩む。

 

華  「ひとつひとつ、ちゃんと出会いを覚えてらっしゃるんですね」

みほ 「うん。この子たち一つ一つが大切だから、ちゃんと出会いも覚えておきたくて」

 

ふと、自分を見ている四人に気が付く。

 

みほ 「もちろん、みんなと出会った時のことをよく覚えてるよ」

沙織 「あはは、今思い返すと何だか照れちゃうなあ」

華  「いいえ、とても素晴らしい出会いでした」

麻子 「私の場合は戦車道の練習中だったからな。劇的な出会いと言えるだろう」

みほ 「え?麻子さんとは、登校中に先に会ってたはずじゃ・・・・」

麻子 「ん?」

 

しばらく考え込み__ポン、と手を叩く。

 

麻子 「おお、そういえばあの時のが先だった」

沙織 「覚えときなさいよ!」

みほ 「あはは・・・・」

優花里「・・・・」

 

そして笑顔のまま、何か言いたげな優花里の方を向く。

 

みほ 「もちろん、優花里さんとの出会いも忘れていないよ」

 

ぱあっと表情が明るくなる優花里。

 

優花里「かっ、感激でありますっ!」

 

びしっと敬礼するのだった。

ふと気が付くと、いつの間に取り出したのか掛け布団を取り出して寝る体制に入っている。

 

沙織 「あっ、麻子!何勝手に人の部屋で寝てんの!」

麻子 「眠くてこれ以上動けない。今日はここに泊まる」

 

沙織が麻子のくるまった布団を引っぺがそうとふぎぎぎと力を込めて引っ張るが、びくともしない。

 

華  「そうですね。麻子さん、それはいけませんよ」

沙織 「さすが華、常識ある!」

 

すると、華はささっと手際よく敷布団を敷き、その上に掛け布団を乗せる。

 

華  「お布団で寝るときはちゃんと敷布団も敷きませんと」

麻子 「おお、そうだった。さすが五十鈴さん」

 

いそいそとそちらの布団に潜り込む麻子。

 

沙織 「ちーがーうー!」

麻子 「沙織も今日はここに泊まったらどうだ。明日も朝練で早いだろう」

沙織 「何自分の部屋みたいに言ってるの。ここはみぽりんの部屋なんだってば」

みほ 「えっと、私は別にかまわないよ?」

麻子 「ほらみろ、西住さんの許可も出た」

沙織 「みぽりん!麻子のワガママに気を使わなくていいんだよ!ダメなものはダメって言わないとこの子のためにならないんだから!」

みほ 「あ、えっと、沙織さん落ち着いて。別にワガママなんて思ってないよ。__むしろ、友達が部屋に泊まりに来てくれるっていうの、ちょっと憧れてたって言うか」

沙織 「よし麻子、もう一組敷くから横にずらしなさい」

華  「お手伝いします」

 

即座に方針を曲げ、もう一組の布団をセットする。

 

沙織 「まあ、ちょっと狭いけど一組に二人寝れなくはないか。こっちは華と麻子として・・・・ゆかりんはどうする?今日泊っていく?」

優花里「ええっ!?わ、私も泊まっていってい、いいのでしょうか!?」

 

みほの方をうかがうと、にっこり笑顔が返って来た。

 

優花里「お、お母さんに泊まると報告してきますであります!」

 

ケータイを握りしめ優花里は外に飛び出していった。

 

麻子 「せわしないな」

沙織 「いいからとりあえず布団から出てきなさい」

 

かくして秋山家からもお泊りの許可が下り、優花里もみほの部屋に泊まることになった。

沙織たちは急なお泊りのせいでパジャマを持っていなかったので、みほのを借りている。

 

みほ 「ごめんね、私のだとパジャマのサイズあわないかもだけど」

優花里「そそそそそんなことはありません!ジャストフィットです!むしろサイズが合わなかったら自分が合わせますので!」

沙織 「さてと。それじゃ電気消すよー」

 

部屋が暗闇に包まれ、沙織は優花里と同じ布団に入る。

 

沙織 「だいじょぶゆかりん?体はみ出てない?」

優花里「はい、ご心配なく」

麻子 「zzz」

華  「麻子さんはもうお休みになられてますね」

沙織 「この寝つきの良さだけはうらやましいかも」

華  「それにしても、急にお泊りだなんていけないことしているみたいでわくわくします」

沙織 「考えてみたら私たちそういうことしたことなかったもんね。女子会とか、パジャマパーティーとかこれからどんどんやっていこうかな」

優花里「でしたら他のチームの皆さんも誘うのはどうでしょう?」

沙織 「うーん、そうなると大人数になっちゃうから泊まれる場所が限られちゃうね。きちんと相談して__」

 

と、ベッドで一人で寝ているみほがこちらを見つめているのに気が付く。

 

沙織 「・・・・」

みほ 「・・・・」

 

そのうらやましそうに見る表情を見た沙織はピンと気が付く。

布団の上に立ち、二組の布団を隙間がないように寄せる。

優花里に耳打ちし、外側に少しずつ体をずらしてもらい、中央になんとか一人入れそうなスペースを確保する。

 

ポンポン

 

沙織はみほに目くばせしながら、空けたスペースを軽くはたいてみせる。

すぐに意図を理解したみほの表情が輝き、いそいそとベッドから降りてくる。

そろりそろりと優花里たちを踏まないように気をつけながら、くっつけた布団のちょうど中心に潜り込む。

結果的に、五人で川の字になって寝る形になった。

満足そうな笑みを浮かべるみほに、沙織も笑顔になる。

 

華  「おやすみなさい、みほさん」

優花里「おやすみなさい、西住殿」

沙織 「おやすみ、みぽりん」

麻子 「zzz」

みほ 「うん・・・・。おやすみ、みんな」

 

そして目を閉じる。

きっといい夢が見れる。

みほは、そう思った。

 

同時刻、黒森峰女学園寮内にて。

 

小梅 (ふう・・・・長湯してたらこんな時間になっちゃった。早く戻らないと)

 

入浴を終えた小梅が早足で廊下を歩く。

と__とある部屋に電気がついていることに気が付く。

 

小梅 (あれ?まだ誰かいるのかしら。__あの部屋は確か・・・・)

 

小梅がその部屋__戦車道会議室を覗き込むと、そこにはまほがいた。

まほはホワイトボードに地図を描き、マグネットを各々の戦車に見立てて陣形や作戦の確認をしているようだった。

一心不乱にホワイトボードに書き込み、マグネットを移動させ、少し考え込んでは書き直しマグネットを動かす。

集中しているのか眺めている小梅には一切気が付きそうにない。

 

小梅 「隊長」

まほ 「ん?・・・・ああ、小梅か。どうしたんだ」

小梅 「遅いお風呂をいただいて戻るところだったんです。隊長こそ、こんな時間まで?」

まほ 「ああ。次の撮影のことを考えたらいてもたってもいられなくてな。どんな動きがいいかイメージしていたところだ」

 

言いながらも腕が動く。

静かにそれを見ながら、まほの横顔を眺める小梅。

 

小梅 「隊長、嬉しそうですね」

まほ 「ん?__そう見えるか?」

小梅 「はい。クリスマスが待ちきれない子供のように__あっ、すいません!失礼な言い方を」

まほ 「いや・・・・図星だから仕方ない。実際、とても楽しみにしている」

 

何かを思い出すかのように、遠い目をするまほ。

 

まほ 「幼い頃__よくみほと一緒に一晩中戦車道について語り合うことがあった。こんなふうに簡単な絵を書いて、おもちゃや人形を戦車に見立てて有効な戦術を模索しあったものだ」

小梅 「そうだったんですか」

まほ 「あの頃は二人で何をするにも楽しくて__よく夜更かしもしてしまってな。次の日起きられなくてお母さまによく怒られていた」

小梅 「・・・・何故か、とてもイメージしやすいです」

まほ 「そうか?」

小梅 「はい」

 

ふふっ、と笑みをこぼす。

 

まほ 「きっと今の私はあの時くらい、次の撮影を__戦車道をするのを心待ちにしているんだと思う」

小梅 「せっかくみほさんと一緒のチームで活動できますものね」

まほ 「それもある。・・・・だが、今度の撮影には更に『彼女』も加わることになったからな」

小梅 「そうですね。まさか、あの場で急に決まるとは思いませんでした」

まほ 「即答できるのは自信の表れだろう。しばらく触れる機会が無かったようだが、彼女の中でまだ熱は失われていなかったということだ」

小梅 「はい、きっとそうですね」

まほ 「ならば私たちのすべきことは」

小梅 「『彼女』の思い出になるような、楽しい試合をしていってもらうこと、ですね」

 

小梅の言葉にまほは笑みを浮かべる。

その日、会議室の明かりは夜更けになるまで消えることはなかった。

 

更に同時刻・大学学園艦寮内にて。

 

メグミ「隊長~?失礼しまーす・・・・って、あら」

 

そーっと部屋に入るメグミたち。

 

愛里寿「すー・・・・すー・・・・」

 

パジャマ姿の愛里寿が机に突っ伏して眠っていた。

 

ルミ 「あらら、隊長ったらこんなところで寝ちゃって」

アズミ「ちゃんとベッドで寝ないと風邪ひいちゃいますよ~?」

愛里寿「んぅ・・・・」

 

声を掛けるが目覚める気配がない。

 

メグミ「しょうがないわね。ルミ、ちょっと足持って」

ルミ 「はいはい」

メグミ「アズミ、ベッドの準備を」

アズミ「もう準備はオッケーよ♪」

 

先読みしてベッドの用意を終えたアズミがウインクする。

 

メグミ「そーっと、そーっと・・・・起こさないように・・・・」

 

ルミと協力してゆっくり愛里寿をベッドに寝かせる。

幸い愛里寿の目が覚めることはなく、静かな寝息を立てている。

 

ルミ 「これでよし。可愛い寝顔しちゃってもう」

アズミ「こういうところは年相応よねえ」

メグミ「そういうこと面と向かって言っちゃだめだからね」

アズミ「わかってるって♪」

ルミ 「それにしても隊長が寝落ちなんて珍しいわね。いつもはどんなに眠そうでもちゃんとベッドに入って寝てたのに。__あら?これって・・・・」

 

と、おもむろに愛里寿の机を見ると、そこには何やら絵が描いてある用紙とミニチュアの戦車が乗せられていた。

 

メグミ「これ・・・・作戦を立案しようとしていたのかしら?」

ルミ 「きっとそうね。この塔みたいな絵はきっと江の島シーキャンドル。位置関係から見てこれがセンチュリオン、Ⅳ号、ティーガーⅠ、として・・・・何にも該当しないこの戦車。これがきっと__」

アズミ「これって、もしかして?」

ルミ 「うん、きっとそう」

メグミ「隊長、もうここまで見据えてたのね。さすが!」

愛里寿「うーん・・・・」

 

盛り上がりすぎたのか、愛里寿が寝返りを打つ。

 

アズミ「しーっ・・・・。続きはラウンジでやりましょう」

ルミ 「すね。ここにいたら隊長の邪魔だもの」

メグミ「じゃあ私たちは退散、っと。隊長、おやすみなさい」

 

そうしてバミューダトリオは部屋を出た。

 

ルミ 「そうと決まればみんなに伝達しなきゃ。明日隊長が起きたら提案してみるわ」

アズミ「ええ、きっと隊長も喜ぶわ。それと同時にあっちにもこの作戦を伝えておかないと」

メグミ「ふふ、協力してあの西住姉妹をぎゃふんと言わせるチャンス。これはがぜんやる気が出てきたわ!」

アズミ「そうね。それにきっと向こうも今頃試合が楽しみでしょうがないはずよ」

 

そして更に同時刻・相沢家。

 

イカ娘「どうすればいいのでゲソー・・・・」

 

イカ娘は頭を抱えていた。

 

栄子 「だから言ったろ。安請け合いするからだ」

イカ娘「仕方ないじゃなイカ!あそこまで言われて断ってはイカがすたるでゲソ!」

 

~~回想~~

 

監督 「キミッ!是非、キミも出演してくれないか!?キミほどの個性が加わってくれれば、この作品は文句なしの傑作になれるはずだ!」

イカ娘「ほほう、よく分かってるじゃなイカ。そこまで言うのならやぶさかではないでゲソよ」

 

~~回想終了~~

 

栄子 「ああいうのは計画性のない行き当たりばったりって言うんだよ。どーすんだ?砲手もなしに戦車道の撮影何て参加できるわけないだろう」

イカ娘「い、今から探すでゲソ!」

栄子 「そんないきなりポッと砲手なんて見つかるわけないだろ。そもそも仮に砲手できる人が見つかったところで、イギリス戦車の砲撃ができるかどうかという確証もないだろ。国籍によって照準器や構造、クセも違うってこと分かってるのか?」

イカ娘「うっ」

カル 「それにもしイギリス戦車の砲手経験者が見つかったとしても、私たちと一緒に訓練していない人が急に息を合わせられるとは思えませんよ」

栄子 「それなりに仲の良かったシンディーでさえあそこまで気の合った連携を取るのには日数がかかったんだ。一日やそこらでそれを上回れるとは思えないぞ」

イカ娘「じゃあどうしろっていうのでゲソか!」

栄子 「逆切れすんじゃねえよ!」

ペパ 「揉めてるっすねえ、あちらさん」

チョビ「まあ、砲手がいなきゃ魅せる試合なんて出来っこないからな。慌てもするだろ」

カル 「私たちもイタリア戦車なら一通りはこなせますが、イギリス戦車となるとやはり訓練が足りませんね」

 

一緒になってアンチョビたちもどうしたものか、と考えている。

と、そこへ__

 

早苗 「イカちゃんが困ってると聞いて!」

 

どこからともなく早苗が現れた。

 

チョビ「うおっ!?どこから現れたんだフェットチーネ!?(アンツィオで決めた早苗のあだ名)」

早苗 「イカちゃんのためだったら、例え海の向こう側からだって駆けつけてみせるわ!」

カル (たぶん、陰からイカ娘ちゃんを見つめてたのね)

ペパ (張り付いてたのか)

栄子 「んで、何しに来たんだよ」

早苗 「イカちゃん、砲手がいなくて困ってたんでしょ?なら私が一肌脱ぐわ!」

イカ娘「げっ!」

ペパ (げって言った)

チョビ「フェットチーネがか?」

カル 「確かにフェットチーネさんはサハリアノの砲手としてかなりの腕前だと思います。それにサハリアノの主砲は75mm砲。チャーチルの主砲も75mm、差異はさほどありません」

栄子 「つっても、照準器の違いとかがあるだろうからその調整で時間食っちゃわないか?」

早苗 「その点は心配ないわ!あの子を手に入れた時、一通りの操作訓練は受けておいたから!」

栄子 「ああ__そういえばあいつ、早苗の借りてたんだったな。すっかり忘れてたわ」

ペパ 「太っ腹だよなあ。私らの周りに何て戦車貸してくれる人なんていないのに」

チョビ「普通いないだろ!・・・・それでフェットチーネ、自信はあるんだな?」

早苗 「もちろん!」

チョビ「__こいつもこう言ってるんだ。イカ娘、協力してもらったらどうだ?」

イカ娘「うぇー・・・・」

 

露骨に嫌そうな顔をする。

 

栄子 「ここは折れるしかないぞイカ娘?撮影は明後日、訓練できるのは明日一日しかない。この場において間に合うのは早苗以外にあり得ない。もし早苗すら断れば、撮影には参加できないと伝えるしかないぞ?」

イカ娘「うう、ううううううう・・・・!」

 

次の日、由比ヶ浜の砂浜演習場。

 

早苗 「さあイカちゃん、い~~~っぱい練習しましょうね~♪」

 

早苗は満面の笑みを浮かべながらスタンバイしている。

それに反比例してイカ娘の表情は浮かない。

 

渚  「イカの人、ものすごい表情をしてますよ。まるで世界の終りのような」

栄子 「ホレ、観念しろイカ娘。今のうちに練習しておいて、明日西住さんや愛里寿ちゃんと撮影に参加するんだろ?」

イカ娘「少しでも変なことしたらすぐ外に放り出すでゲソからね」

チョビ「気持ちはわかるが、少しくらいフェットチーネを信じてやってくれ。私たちと組んでいる間も、砲手として真剣に取り組んでくれていたんだ。私はあいつを信じる」

早苗 「ドゥーチェ・・・・!」

カル 「はい。それに早苗さんは仲間のクセを瞬時に把握し合わせてくれる柔軟性を持っています。少し組めばきっと彼女のいい所が見つかりますよ」

早苗 「カルパッチョも・・・・!ありがとう!」

ペパ 「あと早苗はパスタを茹でるのがうまい!あそこまで完璧なアルデンテができる奴はそうはいないぞ!」

早苗 「ペパロニ・・・・!あ、ありがとう?」

イカ娘「うむ・・・・アンチョビたちがそこまで言うのなら信じないこともないでゲソ」

 

アンチョビからの助け舟に涙ぐむ早苗。

 

イカ娘「戦車前進でゲソ!」

 

ギャルギャルギャル

 

かくして新たに早苗を加え始まった戦車道訓練。

まずは遠くに設置されている的を静止状態で狙う。

 

ドオン!

バアアン!

 

軽く照準をつけ、即座に放たれた砲撃は吸い込まれるように的を捉えていた。

 

鮎美 「すごい・・・・」

栄子 「一発で当てちゃったよ」

渚  「あの距離、確かシンディーさんも当てるのに苦労してましたよね」

イカ娘「う、うむ・・・・まあ確かにちょっとはやるようでゲソ。しかし、戦車道は常に動きながら動く相手を狙うのが普通でゲソ。止まってる的に当たったからと言ってうぬぼれてはイカんでゲソ」

 

と、そこへ通信が入る。

 

カル 『動く的、予定位置に準備完了しました』

ペパ 『いつでもいいっすよー』

イカ娘「さて、お手並み拝見でゲソ。言っておくでゲソが、この訓練ではシンディーでも半分当てられればいいくらい難しい訓練でゲソ。果たして当てられるのでゲソかねえ?」

栄子 (目的がすり替わって来てるぞ)

 

十分後。

 

ドオオン!

 

最後の動く的が粉々になった。

 

チョビ『標的の全破壊を確認した。さすがフェットチーネ、相変わらずの腕前だな』

早苗 「はーい。ドゥーチェ、ありがとうございまーす♪」

イカ娘「」

 

当の早苗は鼻にかける様子もなく、称賛するアンチョビに笑顔で返す。

その様子に、もはや早苗の実力を疑う余地はなかった。

 

栄子 「いやはや驚いたな。何度も一緒に試合はしたけど、ここまでの実力があるとは思わなかった」

渚  「私もそう思います。外から見ているだけと一緒に乗り込んでみるのとでは見え方が全く違うんですね」

鮎美 「さすが早苗さん、人間離れした腕前です!」

栄子 「どうするイカ娘?これで早苗の腕は証明されたんじゃないか?」

イカ娘「うううう・・・・」

 

何とか反論したいイカ娘だったが、ここまではっきりとした実力を示されては言い返す余地がない。

 

イカ娘「分かったでゲソ。早苗、どうか私に力を貸してほしいでゲソ」

 

がっくりとうなだれながらも、素直に早苗に助力を申し出た。

 

早苗 「イ、イカちゃんが私を必要としてくれてる・・・・!」

栄子 「よかったな早苗」

渚  「おめでとうございます」

鮎美 「ようこそ早苗さん。歓迎します!」

チョビ『コングラトゥラツィオーニ!』

ペパ 『おめでとうっす!』

カル 『おめでとうございます』

早苗 「み、みんな・・・・!」

 

周囲から贈られる称賛と歓迎の言葉に打ち震える早苗だった。

 

チョビ『よーし、そうと決まったら作戦会議だ。明日完璧な立ち振る舞いを見せつけるための計画を立てよう!』

 

アンチョビから呼び戻され、帰路に就くことになった。

 

渚  「一時はどうなることかと思いましたが、綺麗にまとまってよかったですね」

栄子 「そうだな。早苗もアンチョビさんたちとチームを組んで、協調性を養ったということだな」

早苗 「ひどいわよ栄子。それじゃ私がこれまで自分を欲望のままに抑制できていなかったみたいじゃない」

栄子 「自覚無かったのかよ・・・・」

イカ娘「まあまあいいじゃなイカ。心強い仲間が加わったのは喜ばしいことでゲソ」

 

すっかり早苗を受け入れたイカ娘も前向きな意見が出る。

そんなイカ娘の言葉に嬉しくなり、つい後ろを振り返る。

__そして、早苗は見てしまった。

 

早苗 (め・・・・目の前に、イカちゃんの生足!?)

 

さっきまでは試験のために照準器に集中していたが、いざ終えて冷静に周囲を見渡すと、位置関係的に自分の真後ろにイカ娘の下半身がキューポラから伸びているのに気が付く。

気が付けば、早苗はイカ娘の下半身から目が離せなくなっていた。

周囲のチームメンバーや車内が暗闇に包まれたかのように見えなくなり、イカ娘の下半身しか映らない。

声も聞こえなくなり、ただ真っ暗闇の空間に中にイカ娘の下半身と自分だけが存在するようになった。

息遣いが荒くなり、ハアハアハアハアと荒く呼吸をし始めた。

そして__

そして__

そして__

 

ガバッ!

 

イカ娘「!?」

 

イカ娘は急に自分の下半身が締め付けられるような感覚に陥った。

何ごとかと咄嗟に下を見ると__

 

そこにはイカ娘の太ももあたりに抱き着いた早苗の姿があった。

そんな早苗と目が合う。

 

イカ娘「・・・・」

早苗 「・・・・」

 

シュポーーーーーーン!

 

小粋な効果音と共に、ものすごい勢いで早苗が空中へ飛びあがった。

実際には、イカ娘の触手が瞬時に早苗を車内から上空へと引っこ抜いたのである。

そしてその勢いを消すことなく__

 

ドッシャアアアン!

 

触手で捕らえた早苗をそのまま砂山に突き刺したのだった。

 

チョビ「やはり持たなかったか・・・・」

 

アンチョビは呆れ半分、予想通り半分といった様子でため息をついた。

 

ペパ 「まあ、だいぶ持った方じゃないっすか?これまでなんて目を合わせたら飛び掛かってましたし」

カル 「そうですね。最初の頃よりずっと長く乗れるようになっていましたし」

チョビ「そうだな。そういうところは評価してやりたいんだが・・・・」

イカ娘「一試合持たないんじゃどっちにしろ無理でゲソ!」

 

結局、早苗の砲手採用は却下となった。

その夜、相沢家にて。

 

千鶴 「えっ、それじゃあ結局砲手は見つからなかったの?」

栄子 「そうなんだよ。清美ちゃんたちは学校あるし、他に戦車道に通じる知り合いはいないし、もう八方ふさがり」

たける「それで、イカ姉ちゃんは?」

栄子 「今は私の部屋にいるよ。落ち込んでたみたいだからそっとしておいたほうがいいかもな」

千鶴 「でもどうしましょう。監督さんもイカ娘ちゃんありきで撮影スケジュールを立ててるみたいだけれど」

栄子 「明日会った時に説明して、申し訳ないけど辞退させてもらうしかないかもな。その場しのぎで誰かに砲手してもらっても、満足できる試合を見せられないだろうからな」

千鶴 「残念だけど、仕方ないわよね」

たける「ぼく、イカ姉ちゃんの所に行ってくる」

 

たけるは階段を上がっていった。

 

栄子 「今後も考えないといけないな。これからも戦車道を続けるなら、一緒にチームを組める人じゃないといけないし。クラスメートでやりたがってる子とかいたっけかなあ・・・・」

 

たける「イカ姉ちゃん」

イカ娘「・・・・」

 

部屋に入ったたけるは、机に向かっているイカ娘に声を掛けた。

イカ娘は机に向かったまま振り返らない。

 

たける「イカ姉ちゃん。今回は残念だったね」

イカ娘「・・・・」

たける「でも次もあるよ!だから諦めないで__」

イカ娘「たけるよ」

たける「?」

 

振り向いたイカ娘の顔は、落ち込むどころか余裕の笑みを見せている。

ずい、とたけるの眼前に髪を突き出す。

見るとその紙には何やら四角と丸がいくつも描かれているが、それの意味するところが分からない。

 

イカ娘「ふっふっふ、どうでゲソか?」

たける「えーっと・・・・」

たける(どうしよう、さっぱりわからない)

イカ娘「ふむ、たけるにはまだ高度すぎる戦術だったようでゲソね」

たける(戦術?ということは、これは戦車道のイラストだったんだ・・・・)

 

イカ娘は描かれている四角を指さす。

 

イカ娘「これは戦車を示しているのでゲソ。これが私のチャーチルでゲソ」

たける「そうだったんだ。一両だけ孤立してるみたいだね」

イカ娘「うむ。そしてこの丸が__」

 

嬉々としてたけるに説明するイカ娘。

それをドアの隙間から覗いているのは__アンチョビだった。

 

チョビ(どうやら心配する必要はなかったようだな。あいつはまだ何も諦めていない)

 

そしておもむろにケータイを取り出し、どこかけかけ始める。

 

チョビ「チャオ、私だ。・・・・ああ、折り入って頼みたいことがあるんだが。実は__」

 

そして次の日。

イカ娘・栄子・渚・鮎美らの乗りこんだチャーチルは道路を進み、江の島へと向かっていた。

 

イカ娘「__以上が私の立案した作戦でゲソ!」

栄子 「・・・・」

渚  「・・・・」

イカ娘「ふっふっふ、完璧な計画の前にぐうの音も出ないようじゃなイカ!」

栄子 「いや、予想の斜め上過ぎて呆れてんだよ。近代戦車道のこの時代にこんな手を使う奴なんざお前しかいないぞ」

イカ娘「仕方ないじゃなイカ!これ以上にいい作戦は思いついたのでゲソ?」

栄子 「いや、無いけどさあ・・・・」

イカ娘「心配するなでゲソ!計画は完璧でゲソ!」

 

などと話しているうちに、江の島へ続く弁天橋に辿り着いた。

これからの激戦を予想し、顔が引き締まる。

 

イカ娘「さあ、行くでゲソ!」

 

イカ娘の合図に栄子がアクセルを入れようとした瞬間。

 

???『ウェイト!』

 

突如、どこからか聞き覚えのある声がした。

 

栄子 「ん!?今の声・・・・」

イカ娘「どこからでゲソ!?」

 

きょろきょろと周囲を見渡すが、声の主は見当たらない。

 

???『こっちこっち、もうちょっと右』

 

言われて振り向くと、そこには__

 

<ニセイカッ

 

ニセイカ娘がちょんと鎮座していた。

 

イカ娘「って、なんだニセイカじゃなイカ」

 

拍子抜けしていると、

 

???『何だとはご挨拶ね。久しぶりの再会だっていうのに』

 

ニセイカ娘から聞き覚えのある声が流れてきた。

 

栄子 「えっ、その声、まさか・・・・」

渚  「シンディーさんですか!?」

 

思いもよらぬ展開に渚たちがチャーチルから身を乗り出す。

 

シン 『イエス!』

イカ娘「どうしてニセイカからシンディーの声がするのでゲソ!?」

シン 『うーん、話せばちょっと長くなるんだけど。__あ、代わってくれる?』

 

何やらゴソゴソする音が聞こえる。

 

ケイ 『ハーイスクイーディ、アローングタイム』

イカ娘「ケイ!?」

 

アメリカ沿岸部に停泊する、サンダース大付属高校学園艦。

そこに存在する大掛かりな通信室に、シンディーとケイが座っていた。

そばにはナオミやアリサも座り、装置の調整をしている。

 

ケイ 「実は昨日のお昼__そっちで言えば夜ね。アンチョビから連絡があったの」

栄子 『アンチョビさんから?』

ケイ 「イエス。かくかくしかじかこういう訳だから、何とかシンディーさんを見つけてもらえないか、ってね」

ナオミ「それでサンダースの情報網と人材をフル活用して、シンディーさんを探し当てて来てもらったんだ」

アリサ「感謝しなさいよ?このためにかなりの子たちに協力してもらったんだから」

ケイ 「あとは簡単。南風のニセイカとこっちを繋げて、ラジコン操作でこっちから動かしているの」

シン 「ちょっとぎこちないかもしれないけど、これなら砲手としての役割も果たせるわ」

栄子 『すげえ!』

鮎美 『あっ・・・・ありがとうございます!』

ケイ 「ノンプロブレム。スクイーディたちの試合、私たちもみたいからね。PVが完成したら、こちらに送ってちょうだい」

イカ娘『うむ!』

 

かくしてシンディー(ニセイカ娘)を加え、フルメンバーとなったイカ娘たちは意気揚々と江の島へと向かうのだった。

 

監督 「では皆さん、本日の撮影も頑張っていきましょう!」

 

全員が集まり、監督の挨拶も終わり今日の撮影が始まろうとしていた。

 

沙織 「イカちゃん、砲手が見つかってよかったね!しかもシンディーさんがアメリカのサンダースから通信で参加してくれるなんて!」

麻子 「技術の進歩を感じるな」

華  「でも、これでお互い気を遣うことなく全力を発揮できます。良かったですね、みほさん」

みほ 「えっ?あ、うん」

優花里「?西住殿、どうかさなれましたか?」

みほ 「えっ!?ううん、何でもないよ!?」

みほ (どうしよう、砲手の穴を埋めるためにカチューシャさんたちがこっちに向かってるかもしれないなんて言い出せなくなっちゃった)

優花里「?」

監督 「さっそくですが戦車戦から撮りたいと思います。イカ娘さんが名乗りを上げ、島田さん、西住さんらがそれに抗う態度を示してから開戦してください。演出や展開、編集はこちらで行いますので、皆さんは心のままの戦車道を行ってください!」

愛里寿「はい」

まほ 「了解しました」

みほ 「わかりました!」

イカ娘「任せるでゲソ!」

 

そして各々ポジションに着く。

前回カットした位置関係から再開し、イカ娘のチャーチルはさらに後ろの林に身を隠す。

 

監督 「では__アクションッ!」

 

バアアアン!

 

撮影開始直後、茂みの中からチャーチルの砲撃が火を噴いた。

 

愛里寿「!」

まほ 「何!?」

みほ 「えっ!?」

 

一同が一斉にみやると、そこから__

 

イカ娘「はーっはっはっは、はーっはっはっは!」

 

イカ娘が仁王立ちの体勢でチャーチルに跨り姿を現した。

 

イカ娘「私こそ、海を汚す人類を懲らしめるべくやって来た海からの使者、イカ娘でゲソ!今から地上は私が侵略するのでゲソ!」

愛里寿「そんなことはさせない!」

まほ 「そうクラ。地上は私たちクラゲのものになるのでクラ」

みほ 「じゃ、邪魔は許さないクラ!」

イカ娘「ほほう・・・・。やれるものなら、やってみるがいいでゲソ!」

 

バアン!

 

二度目の砲撃が放たれ、すぐ近くで着弾の煙が上がる。

それを合図に各車散開をはじめ、戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

監督 「おお、いいねいいねあの口上!まさに侵略者そのもの!いいセンスしてるねあの子!」

しほ 「・・・・まあ、実際本人はそう名乗っているし」

千代 「うふふ」

 

一時距離を放し機会をうかがうしチャーチル。

林の中を進みながら機会をうかがう。

と、

 

イカ娘「あっ、栄子!そっち行っちゃだめでゲソ!」

栄子 「あ、やべっ!」

 

何かに気づいて慌てて曲がる栄子。

しかし急な方向転換のせいか、進行方向先にティーガーⅡの姿が見えた。

 

エリカ「!見つけたクラ!」

イカ娘「げっ、エリカでゲソ!」

 

手加減なしとばかりに砲口を向ける。

 

エリカ「撃て!」

 

ドオン!

ギュイン!

 

だが栄子の咄嗟の操縦で、すんでのところでかわす。

 

エリカ「くっ、かわされた!次の装填、急ぐでクラ!」

イカ娘「今がチャンスでゲソ!シンディーー、撃つでゲソ!」

ニセ娘『オーライ!』

 

サンダースにいるシンディーの操作にリンクして照準を取り、引き金を引く。

 

バアン!

 

だが照準は若干それ、

 

ガインッ!

 

ティーガーⅡの全面装甲の端をわずかに削る。

 

イカ娘「かすったでゲソ!」

ニセ娘『うーん、ほんのわずかにラグがあるみたいね。次はそこも踏まえてやってみるわ』

渚  「次弾、装填しました!」

イカ娘「よーし、続けて撃つでゲソ!」

エリカ「調子に乗るんじゃないでクラ!」

 

装填が先に済んだティーガーⅡが砲口を向けなおす。

 

イカ娘「わわっ!反転、逃げるでゲソ!」

 

形勢不利と見て逃げ出すチャーチル。

 

エリカ「あっ、コラ、逃げるな!待つのでクラ!」

 

追うティーガーⅡ。

 

ドオン!ドオン!

 

背後からどんどん砲弾が飛んでくる。

 

栄子 「背中見せて逃げてたらいつかやられるぞ!」

イカ娘「木に紛れてやり過ごすのでゲソ!」

 

より一層気が密集している場所に逃げ込もうとする。

 

エリカ「逃がさないクラよ!」

 

今度はしっかり照準を合わせ、完璧にチャーチルの背後を捉える。

 

エリカ「終わりよ!撃__」

 

バアン!

 

エリカ「きゃあ!?」

 

次の瞬間、ティーガーⅡの側面に強い衝撃が走った。

被弾した方角を見ると__そこには砲口からコメリが立ち上るセンチュリオンがいた。

 

イカ娘「愛里寿!」

エリカ「くっ、島田流!?邪魔するんじゃないクラ!」

愛里寿「イカ娘はやらせない」

 

涼しい顔で次々と正確な砲撃を繰り出し、ティーガーⅡの動きを止める。

 

エリカ「ぐっ!アンタ人間サイドでしょう!?侵略者の手助けとかどういうつもりクラ!」

愛里寿「監督さんは心のままに戦車道をしてほしいって言った。これが私の心のままに従った行動」

 

ドオン!ドオン!

 

さすがに愛里寿に張り付かれてはイカ娘に構っている余裕はなく、やむを得ずセンチュリオンへ標的を変えるのだった。

 

イカ娘「どうやら逃げ切れたみたいでゲソ」

栄子 「愛里寿ちゃんが味方してくれるとはな。正直みんなを相手に生き残れる自信は無かったから助かった」

メグミ「あっ、いたいた。おーい、イカ娘ちゃーん」

イカ娘「むっ?」

 

前方からメグミとルミのパーシングが近づいてきた。

 

イカ娘「おお、メグミにルミじゃなイカ。ひょっとしてお主らも味方でゲソか?」

ルミ 「ええ、これは隊長の立案。イカちゃんと対峙するより一緒に戦いたいってね」

栄子 「まあ、味方してくれるのは助かるけど・・・・ストーリー的にいいのか?人間側の大学選抜チームが侵略者に加担して」

メグミ「細かく言うとダメなんだろうけど、そこは監督さんの腕次第。私たちはとにかく魅せる試合ができればいいわけだから」

渚  「丸投げですね・・・・監督さんお気の毒に」

ルミ 「あはは、まあ、心配するほどのことじゃないわよ。あの監督さんリアリティーのためなら想定外も喜んで受け止めるタイプだから」

 

バアン!

ヒュン!

 

と、そこへまたしても砲撃が車体をかすめる。

 

ルミ 「!敵さんのお出ましね!」

メグミ「ここは私たちに任せて!」

ルミ 「体制が整ったらみんなと足並み揃えて反撃と行きましょ!」

イカ娘「うむ!任せたでゲソ!」

 

追っ手をルミたちにまかせチャーチルは奥へと進む。

 

バアン!

ドオン!

 

別の場所ではM3たちとパーシング隊が交戦している。

 

あゆみ「いやー、先手打たれちゃったねえ」

あや 「まさか開始直後に愛里寿ちゃんがイカちゃん側に着くとはねー」

優希 「タイミングを見てイカちゃんの味方しようとしてたのに、先越されちゃった~♪」

紗季 「・・・・」

桂利奈「まずい、このままじゃ私たち完璧に悪役だよー」

梓  「とにかく応戦しよう。不測の事態に備えて私たちはここでパーシング隊を食い止めるの」

あゆみ「・・・・」

あや 「・・・・」

優希 「・・・・」

紗季 「・・・・」

桂利奈「・・・・」

 

が、誰も梓に返事をしない。

 

梓  「み、みんな!?どうしちゃったの!?」

優希 「あ~ずさ~♪」

あや 「撮影中は、車長はどうするんだったっけ~?」

 

ニヤニヤしながら梓を見る一同。

うっ、と言葉に詰まりながらも、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

 

梓  「と、とにかく応戦クラ!不測の事態に備え、ここで敵を食い止めるのでクラー!」

一同 「ラジャ~♪」

梓  「もうやだー!とっととこんな試合終わらせるんだから!」

 

バサササササ

 

木々をかき分けチャーチルが進む。

所々で起きている砲撃の音は、だいぶ遠くに聞こえるようになってきた。

 

栄子 「だいぶ進んだけど、今どの辺だ?」

渚  「あれから南に真っすぐ進みましたから、そろそろ江の島の端っこが見えてくるはずですね」

イカ娘「となればかなり距離は稼いだでゲソ。向こうもこちらを見失ったはずだし、そろそろこちらからこちらから仕かけ__」

 

ヒュンッ

バアアン!

 

言いかけたところに砲弾が車体をかすめていく。

 

栄子 「あっぶな!?」

ニセ娘『後方から敵襲よ!』

イカ娘「!」

 

キューポラから身を乗り出して確認すると、遥か後方からⅣ号が迫ってきている。

 

イカ娘「あれはⅣ号、みほたちでゲソ!」

栄子 「マジかよ!よりによって西住さんたちか!」

イカ娘「とにかく前へ進むでゲソ!距離を詰められたら勝ち目は薄いでゲソ!」

みほ 「チャーチルを発見!追いかけながら砲撃を繰り返してくださいクラ!」

麻子 「よし、追い詰めていくぞ」

 

背面を晒しながら逃げるチャーチル、砲撃を繰り返し追うⅣ号。

 

ニセ娘『このまま逃げてもいずれやられるだけよ。応戦しないと』

渚  「でもこの体勢じゃ撃ち返せませんよ!」

栄子 「まかせとけ!こういう状況になったときのためにペパロニからいい手を教えてもらってある!」

 

言うやいなや栄子はチャーチルを急速旋回、一気に百八十度回って見せた。

そして正面をⅣ号に向けたまま後方へ全速力__ナポリターンを決めた。

 

みほ 「!」

麻子 「おお、やるな相沢さん」

イカ娘「ナポリターンじゃなイカ!?いつの間に会得したのでゲソ!?」

栄子 「お前がやる気でなくて乗ってなかった頃にもわたしゃ練習してたんだよ!」

ニセ娘『ワーオ、やるじゃない!あとは任せなさい!』

 

ドオン!

ドオン!

 

バック走行により狙いをつけられるようになったチャーチルが反撃に出始める。

 

沙織 「イカちゃんたち、前より強くなってるかも?」

華  「ええ、間違いなく」

優花里「もっときれいな戦車道になっています!」

 

バアン!

バアン!

 

Ⅳ号も負けじと撃ち続ける。

思い返してみれば、あの夏以来久しぶりの対峙。

再会を喜ぶように、会話を重ねるようにお互い何発も討ち続けた。

 

___それが悪かった。

 

砲撃戦に夢中になるがあまり、イカ娘たちは後ろに全く気を付けていなかった。

不意に、林から抜けた。

抜け出た先は開けた草地。

思い出したように背後__進行方向を見たイカ娘は真っ青になった。

 

渚  「装填、完了しました!」

ニセ娘『オッケイ、次こそ当てるわよ!』

イカ娘「ええええええ栄子、栄子!ストップ、ブレーキでゲソ!」

栄子 「どうした!?」

 

突如狼狽し始めたイカ娘の様子に戸惑う栄子。

 

イカ娘「いいから止まるでゲソ!急ブレーキでゲソ!」

栄子 「だからどうしたって__」

 

バックミラーを覗いた栄子は絶句した。

ミラーの映し出す先__つまり進行方向には、何もなかった。

そこには草地など何もない。

唯一あるものとしたら、空中。

__林を抜けたすぐ先は、崖になっていた。

 

栄子 「うおおおお!?」

 

ギャイイイイイイイイイ!

 

大急ぎでハンドルを切り、横滑りになりながら減速を試みる。

だが全速力で走っていたチャーチルの勢いはすぐには止まらない。

 

ズザザザザザ!

 

加えて草地なため履帯が滑り、即座に泊まれない。

 

栄子 「止まれええええ!」

 

ザザザザ、ザ__

 

そして、崖にぴったり沿うように、チャーチルは横向きに停止した。

崖に面した足元からパラパラ小石が零れ落ちる。

 

渚  「と、止まっ、た・・・・?」

鮎美 「そ、そうみたいです・・・・」

 

頭を抱えていた渚と鮎美が恐る恐る顔を上げる。

栄子は冷や汗をかきながらふう、と座席に倒れこんだ。

 

イカ娘「危ない所だったでゲソ。あとちょっとで真っ逆さまだったじゃなイカ」

栄子 「だったじゃないかって、お前が指示出すのが遅れたんだろ。あやうく大惨事だったぞ」

イカ娘「うっ、すまんでゲソ」

ニセ娘『ああまあ、止まったんだからいいじゃないの』

渚  「そうですよ。栄子さん、ナイステクニックでした!」

鮎美 「人間離れしてました!」

栄子 「そ、そう?あはは、ありが__」

 

ドガアン!

 

次の瞬間、足元に大きな衝撃が走った。

__誰のとも言えない流れ弾が、停車していたチャーチルの側面に直撃したのである。

そして・・・・

 

グラッ__

 

すんでのところで止まっていたチャーチルの車体が衝撃によって履帯が踏み外し、崖側に向かってゆっくり傾き始めたのである。

 

栄子 「うわ、うわわ、うわわわわ!?」

 

どんどん傾くスピードが増していく。

 

そして傾きが四十五度ほどにまでなりそうな時__

 

渚  「と、止まった・・・・?」

 

傾いた角度のままチャーチルが制止した。

 

栄子 「渚ちゃん、鮎美ちゃんも大丈夫!?」

鮎美 「は、はい・・・・」

渚  「もうダメかと思いました・・・・」

栄子 「とりあえずは助かったか。でもどうして・・・・」

 

どうして傾きが止まったのか、と外を見ようとすると__

 

イカ娘「ふぎぎぎぎぎぎぎぎ・・・・!」

 

イカ娘の苦しそうな声が聞こえる。

声につられて見た栄子は絶句した。

 

イカ娘はありったけの触手を使い、チャーチルを縛り上げ近くの木に触手を巻き付け、これ以上落ちないように踏ん張っていたのである。

少しでも力を抜けば崖へ真っ逆さまな状態で懸命に耐えている。

 

栄子 「イカ娘!?おいムチャするな!」

イカ娘「ぐぬぬぬぬ・・・・!ぜ、絶対に離したりしないでゲソ・・・・!」

 

とはいうもののイカ娘の顔は真っ赤で、流石の触手も落ちそうになっている39tの戦車は支え続けられるものではない。

木に巻き付けている触手も痛々しい程にギチギチに伸びている。

 

栄子 (まずい、このままじゃイカ娘が力尽きるのも時間の問題だ!)

 

何とか捜査して脱出できないかとアクセルを踏むが__

 

ギュイイイイイ

 

地面に面している方の履帯は着弾の被害で切れてしまい、転輪だけが空回りしている。

無事な方の履帯は完全に宙に浮いてしまい、用をなさない。

 

栄子 「くそっ、履帯が切れてる!脱出できない!」

 

栄子たちの顔に焦りが現れる。

 

沙織 「み、みぽりん!イカちゃんたちのチャーチルが!」

麻子 「まずい、落ちかけてるぞ」

みほ 「っ!優花里さん、ウィンチの用意を!」

優花里「はっ、はい!」

 

事態に気づいたみほたちが血相を変えて向かう。

しかしその距離は遠く、まだすぐに着きそうにはない。

その間にもイカ娘の触手は伸び、今にもはちきれそうになっている。

 

ピピッ__

 

ついに引っ張っている触手千切れかけてきた。

イカ娘自身の力も限界が来そうになっている。

 

イカ娘「ふぐぐぐぐ・・・・!」

 

ついにイカ娘も限界を悟り始めた。

そして・・・・車内にいる栄子たちとチャーチルを見やる。

その表情は__諦めの色が浮かんでいた。

 

栄子 「おい・・・・イカ娘?」

 

背筋が寒くなる栄子。

 

イカ娘「すまん・・・・すまんでゲソ・・・・!」

 

しゅるっ!

 

瞬間、イカ娘がチャーチルに巻き付けていた方の触手を全部解いた。

 

グラッ__

 

再びチャーチルは崖に向かって傾き始め、ついには落下し始めた。

 

栄子 「__っ!」

 

車内で無重力に似た感覚を感じ、死を悟る栄子。

次の瞬間、

 

しゅるるるるるる!

 

車内に触手が乱入し、瞬時に栄子・渚・鮎美・ニセイカ娘に巻き付き、速やかに車内から引き出した。

イカ娘の触手に持ち上げられ、空中に躍り出る四人。

その眼下では、なすすべもなくなったチャーチルがまるでスローモーションのように海に向かって落ちていく。

 

イカ娘「・・・・!」

 

イカ娘の脳裏に浮かぶチャーチルの思い出。

 

初めてチャーチルに乗った時のこと

みほとの初めての試合のこと

ダージリンのチャーチルと腕を見せあったこと

ケイたちとの合同演習で栄子が暴れたこと

アンチョビのサハリアノと一緒に訓練したこと

役割交換したルールでカチューシャと装填対決したこと

ケンカを売って来たエリカに自分一人で操作して戦ったこと

向かってくる西たちを次々と撃破せしめたこと

愛里寿と二人で大会に出て優勝した時のこと

 

沢山の思い出が走馬灯のように溢れてくる。

 

イカ娘「うう、ううううう・・・・!」

 

なすすべもなくただ落ちていくチャーチルを見ることしかできず、ぎゅっと唇をかむ。

そして__

 

イカ娘「チャーチルーーーーーッ!」

 

イカ娘は大粒の涙を流しながら名前を叫んだ。

 

ドッパアアアアアアアアン!

 

巨大な水しぶきを上げながら__イカ娘たちのチャーチルは海へと姿を消した。




まずは今回も三週間の間をいただいてしまい、失礼いたしました。

ここから物語は大きく変化していくこととなります。

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