ダージリン→ダー
オレンジペコ→ペコ
アッサム→アッサ
ルクリリ→ルク
ローズヒップ→ローズ
ニルギリ→ニル
第1話・お目にかからなイカ?
イカ娘がみほたちと初めての試合を行ったその日の夜更けの、聖グロリアーナ女学院。
ダージリンは一人、資料室でとあるものを探していた。
ペコ 「ダージリン様」
手提げ式の電燈カンテラを携えたオレンジペコが姿を現した。
ダー 「あら、どうしたのかしら?こんな所で」
ペコ 「それはこちらの台詞ですよ・・・・。調べものですか?わたしたちに言って下されば良かったのに」
ダー 「確信の持てない事だったから。それに、これは私の目で確認したいことでもあったのよ」
ダージリンが探している場所は、聖グロリアーナ戦車道チームの過去の活動記録が保管されている棚だった。
ペコ 「活動記録、ですか。いつ頃のをお探しなのですか?」
ダー 「それほど前のものではないわ。せいぜい・・・・五、六年前後かしら」
ペコ 「お手伝いします」
ダー 「気遣いは無用よ。それに、もうすぐ見つかるはずだから」
ペコ 「はあ・・・・」
無言で黙々と資料のページをめくり、目を運ぶダージリン。
そんなダージリンを横からカンテラで照らしながら見つめるオレンジペコ。
ダー 「・・・・いつ頃からかしら?」
ペコ 「親睦会の後、みほさんから不思議な海の家のお話をお聴きしてから、です」
ダー 「ふふ、相変わらず優秀ね」
ペコ 「ダージリン様のそんなお顔、はじめて拝見しました」
ダー 「私はこれまで、そんなに貴女の前で表情を変えていたかしら?」
ペコ 「はい、ずっとお傍にいましたし、大洗の方々と関わられてからは、特に」
ダー 「今はどんな表情をしているかしら?」
ペコ 「長年の探し物をついに『見つけてしまいそう』、そんな風に見えます」
ダージリンは、ただクスリと笑みを浮かべた。
やがて、ダージリンの手が止まった。
ペコ 「見つかったのですか?」
ダー 「ええ。私の求めていた、答えそのものが」
次の日の正午。
ルクリリとローズヒップは、由比ヶ浜で海水浴をしていた。
ローズ「行きますわよルクリリ様!」
ルク 「甘い甘い!その程度のスパイク、八九式より軽すぎる!」
膝下辺りまで海に浸かりながら、ローズヒップのビーチボールスパイクを、難なくレシーブし返すルクリリ。
ローズ「おやりになりますわね!では……これでいかがですの!」
更に高く跳んだ高角度からスパイクは、ルクリリには捉えきれなかった。
ルク 「あーくそっ!今のは九五式くらいはあったかもな!」
ローズ「あー、楽しいでございますわー♪これならルクリリ様には遅れはとらなくてよ!」
ルク 「言ったな!今度はあたしの番だからな!」
ひとしきり遊んだあと、二人はその場に座りこんだ。
ルク 「ふー!久し振りに体動かしたなー」
ローズ「あれ以来、戦車漬けでおりましたものねー」
ルク 「それにしてもダージリン様、急に今日の戦車道訓練はお休み、なんてどうしたんだろな」
ローズ「グロリアーナの誰よりも戦車道の邁進に勤めていらしたのに。お尻でも痛くなっちゃったのでございましょうか?」
ルク 「・・・・それ、ダージリン様に直接言うなよ?」
ふと、どこかからビーチボールが飛んできた。
ローズ「おっと」
ボールに気がつくローズヒップに、子供の声がかかる。
たける「ごめんなさーい、とってくださーい!」
ローズ「お任せあれー!」
大きく振りかぶってビーチボールをノーバウンドてたけるに投げ返す。
たける「ありがとー!」
手を振るたけるに気さくに振り返すローズヒップ。
たけるはボールを担いで友達のところへ駆けていく。
ローズ「可愛い子でしたわね。ああいう弟が欲しかったですわ」
ルク 「そういえばお前末っ子だったな」
ローズ「そうですわよー。きょうだいが七人もいるとそれはもう大変ですのよ!わたくしもお姉さんぶってみたかったですわ」
ルク (どっちかと言うとお前の姉兄たちが苦労してたんじゃないか?)
しばらく波に腰を浸からせたのち、
ルク 「そろそろお腹すいてきたな。昼にしないか?」
ローズ「そうですわね。ではどこにいたしましょうか」
たける「イカ姉ちゃーん」
ローズ「あら?」
先程聞いたたけるの声に振り向くと、たけるの側をチャーチルが通るところだった。
ルク 「こんなところにチャーチルが・・・・」
ローズ「ダージリン様のチャーチルではありませんわね」
やがてチャーチルは海の家れもんの前に停まり、イカ娘と栄子が降りる。
たける「どう?うまく動かせた?」
イカ娘「かなりよくなってきたでゲソ。今度たけるも戦車に乗せてやるでゲソ!好きなところに連れてってあげるでゲソよ!」
たける「やったー!」
栄子 「操縦してるのは私だろ!ほれ、仕事の準備しろよー」
ルク 「あの海の家、戦車道やってるのか」
ローズ「チャーチルを選ぶなんて、好感が持てますわ」
ルク 「ちょうどいいから、今日の昼はあそこにするか」
ローズ「かしこまりでございますわ!」
ルクリリとローズヒップが海の家れもんに入る。
栄子 「いらっしゃーい」
ローズ「二名でございますわ!」
栄子 「じゃあ、そこの席へどうぞー」
栄子に案内され席に着く二人。
ルク 「えーと、何にしようかなー」
ローズ「海の家と言えば、やはりラーメンではなくて?定番ですわ」
ルク 「いや待て、焼きそばもあるし、チャーハンも捨てがたい」
ローズ「優柔不断ですわ。戦車道にはもっと迅速で思いきった決断も必要ですわよ?」
ルク 「何で昼飯選ぶだけでそこまで言われなきゃなんないんだよ」
そんな二人が言い合っていると、
???「お邪魔いたしますわ」
栄子 「いらっしゃーい」
ローズ「あらっ!?ダージリン様!?」
ルク 「はっ、使い古された手だな!そんな子供騙しに引っ掛かるわけが」
???「あら、貴女たちもここに来ていたのね」
ルク 「へっ!?」
後ろを振り向くと、そこには水着姿のダージリンがいた。
傍らにはアッサムとオレンジペコもいる。
ルク 「ダッダダ、ダージリン様!それにアッサム様、オレンジペコまで!」
アッサ「奇遇ですわね、お二人とも」
ダー 「同席、よろしくて?」
ルク 「あっ、はは、はいっ!」
テーブル席にダージリンたちが着く。
栄子 「今お冷お持ちしますねー」
ローズ「いかがなさいましたのダージリン様。突然お休みを言い出し方かと思えば、海の家へいらっしゃるなんて」
ルク 「ローズヒップ。淑女たるもの余計な詮索を入れるものではありませんよ」
ローズ「ルクリリ様だってさっきどうしたんだろ、なんて仰っていたじゃありませんか」
ルク 「おまっ!」
ダー 「注文は、もうしてあったのかしら」
ルク 「あ、いえ、まだです」
ダー 「では、焼きそばでよろしいかしら?」
ローズ「かまいませんことよ!」
ダー 「よろしいかしら」
栄子 「あ、はーい」
ダー 「焼きそばを、五人前お願いいたしますわ」
栄子 「かしこまりましたー」
栄子がオーダーを取って去った後、四人はダージリンの言葉を黙って待った。
イカ娘「なんだか、だんまりなお客でゲソね」
栄子 「そーだなー。でも、やたらと優雅な雰囲気があるんだよな。なんていうか、お嬢様っぽいっていうか」
イカ娘「一部はそわそわ落ち着きがないでゲソがね」
渚 「聖グロリアーナの人かもしれませんね」
栄子 「あー、それはあるかもな」
イカ娘「聖グロリアーナ?」
栄子 「聖グロリアーナ女学院、神奈川の代表的な女子高だよ。昨日の大洗女子と同じ、いや規模で言えば段違いで格上か。かなり格式高いお嬢様校で有名なんだよ」
イカ娘「ほー」
千鶴は口を挟まず、テキパキと焼きそばを炒めている。
栄子 「あれ?そいえば姉貴も高校時代、聖グロ通ってたよな?」
千鶴 「!」
一瞬千鶴の手が止まる。
千鶴 「・・・・ええ、そうだったわね。懐かしいわ」
栄子 「?」
イカ娘「聖グロリアーナとやらも、戦車道はあるのでゲソ?」
栄子 「かなり強いらしいぞ?戦車道の大会ではしょっちゅうベスト4に残るくらいの実力らしい」
イカ娘「おお!それは是非相手してみたいでゲソ!」
栄子 「また負けても泣き出すんじゃねえぞー?」
イカ娘「むっ!もう済んだ話でゲソ!蒸し返すでないでゲソ!」
千鶴 「焼きそば、上がったわよー。お願いね?」
イカ娘「はーい」
一方五人の座った席は、まだ沈黙が続いていた。
ルク (き、気まずい!)
ローズ(誰か話を切り出してくれませんの!?ただ黙ってじっとしているだけなんて、耐えられませんわ!)
アッサ(これまでの中で、ダージリンが黙っている時間の最長記録が更新されたわね)
イカ娘「焼きそば、おまたせしたでゲソー」
ルク 「おお、待ってま__うぇっ!?」
嬉々として受け取ろうとしたルクリリが見たのは、両手と触手を使って焼きそば五人前を運んできたイカ娘だった。
ルク 「ななな、ななな・・・・!」
ローズ「あら、ありがとうごでざいますわ」
ペコ 「ありがとうございます」
面食らったルクリリ以外は、至って平静に触手から焼きそばを受け取っていった。
イカ娘「ごゆっくりでゲソー」
ダー 「では、いただきましょう」
アッサ「いただきます」
ペコ 「はい、いただきます」
ローズ「いただきますわー!」
ルク (なんでみんな動じないんだよ!)
自分だけ仲間はずれな気分がして、ルクリリは一気に焼きそばをすすり始める。
ルク (!こりゃうまい!)
夢中になって焼きそばを食べ続けていくルクリリ。
ローズ「ルクリリさま、麺をすすって音を立てるなんて、淑女のすることではありませんわ」
ルク 「焼きそばだろこれ。スパゲッティじゃないんだぞ?」
ローズ「ダージリンさまがたは音一つ立てておりませんのよ?」
ルク 「そういうお前はどうなんだよ」
ローズ「当然でございますわ、ご覧あそばせ!ズズズバー」
ルク 「出来てないじゃんか!」
やがて全員食べ終わりり__
ダー 「もし、よろしいかしら」
ダージリンが近くで片づけをしていた栄子を呼び止める。
栄子 「はい、何でしょう」
ダー 「お飲み物を頂けるかしら」
栄子 「追加の注文ですか。何にします?」
ダー 「セイロンティーをお願いいたしますわ」
アッサ「!」
ペコ 「!」
栄子 「は?セイ、ロン・・・・?」
ダー 「茶葉はお任せいたしますわ」
栄子 「えっと、もしかして紅茶、ですか?すいません、ウチは紅茶は・・・・。なあ、姉き__」
栄子が振り返ると、どこから出したのか千鶴がポットに湯を沸かし、五人分のティーカップと茶葉を用意していた。
栄子 (いつの間に!?つかどっから出したそれ!)
慣れた手つきで茶葉をすくい、ティーポットの準備も済ます。
お湯を注ぎ、しばし待っている間、栄子たちがその場から動けなかった。
千鶴 「お待たせいたしました」
支度が出来たティーセットを、千鶴自らが運んできた。
イカ娘「千鶴が自分で運ぶのは初めて見るでゲソ」
栄子 「私もだよ・・・・。何かいつもと違うよな」
慣れた手つきで五人分の紅茶を注ぎ、それぞれの前へ配る。
ダー 「ありがとうございます。では」
ダージリンが紅茶に口を付けたのを見てから、残る四人も紅茶を飲む。
ペコ 「!」
アッサ「これは・・・・予想以上に・・・・」
ローズ「なんですのコレは!?」
ルク 「うまっ!!」
紅茶を飲みなれているはずのグロリアーナの面々が、出された紅茶の味に目を丸くしている。
ダー 「雑味もなく、決して濃さはないのに広がる茶葉の香り。そして誰の口にも拒絶されない、優しい口当たり・・・・」
アッサ「これは、まさか__」
ペコ 「・・・・ディンブラ、ですね」
ルク 「ディンブラ?・・・・知ってるか?ローズヒップ」
ローズ「わたくし、頂く紅茶は銘柄に固執しないと心に決めておりますの」
ルク (つまり知らないって事か)
ダー 「やはり、貴女さまが__」
ダージリンは紅茶を飲み終えると、カップを静かに置いた。
ダー 「お会いできて光栄でしたわ。ご馳走様でした」
ペコ 「ありがとうございました。素晴らしいひと時、感謝いたします」
アッサ「私も、お会いできて光栄でした」
ルク 「え?あ、えっと、ごちそうさまでした」
ローズ「美味しゅうございましたわ!」
突然千鶴へ敬意を払うようなダージリンたちの素振りに、慌てて合わせるルクリリとローズヒップ。
お会計を済まし、ダージリンは来た時と同じように四人を引き連れ優雅な佇まいで帰っていった。
栄子 「・・・・何だったんだ?あの子だち」
イカ娘「さっぱりでゲソ」
訳が分からない、という栄子たちとは裏腹に、千鶴は見た目嬉しそうにティーカップを片づけていた。
そして、その後。
聖グロリアーナへ戻ってきたローズヒップは、ずっと首を傾げながら廊下を歩いていた。
ローズ(ダージリン様とご一緒したあの海の家、何だったのかしら?)
ローズ(あれからダージリン様は物思いにふける事が多くなられたし)
ローズ(あのお紅茶が何だったのか、お聞きしても微笑み返すだけ)
ローズ「あーっ、もう!気になりますわーーっ!!」
ふと、遠めにルクリリがとある部屋に入るところが見える。
ローズ(あそこは・・・・)
ルクリリが入っていったのは、資料室だった。
ローズ「ルクリリ様」
ルク 「うおっ!?なんだローズヒップか。こんな所に珍しいな」
ローズ「ルクリリ様こそ。調べ物でございますの?」
ルク 「まあな。あの海の家でのことが忘れられなくてな」
ローズ「わたくしもですわ」
ルクリリはペラペラと無造作にページを開いては、すぐ資料を閉じてしまう。
ローズ「何について調べていますの?」
ルク 「ディンブラについてだよ」
ローズ「あの時海の家で出た、お茶の銘柄ですわね」
ルク 「あの時ダージリン様が注文した紅茶は、セイロンティーとしか指定していなかった。そして来た紅茶はディンプラだった。ダージリン様の反応を見た限り、目的はあのディンブラだったはずだ」
ローズ「あの海の家のお姉さまが、ディンブラを出してくると知っていた、という事ですわね?」
ルク 「そこまでは合っているはず。問題は、そのディンプラがどんな意味を持っているか__」
ローズ「ダージリン様のお好きな銘柄でしたのでは?」
ルク 「いや、これまで何度もお茶会にご一緒したが、ディンブラが出たことはなかった」
ローズ「あそこのお店が、ディンブラがおいしいお店だったとか?」
ルク 「隠しメニューとかか?だとしたら、注文された店員さんが知らなかったのはおかしくないか?」
ローズ「じゃあ見当つきませんわ。ディンブラ、ディンブラ・・・・。・・・・あら?」
ルク 「どうした?」
ローズ「そういえば、わたくしたちの中でディンブラの名前を頂いた子、いらっしゃいませんわね」
ルク 「!」
ローズ「あれ?いらっしゃったかしら?」
ルク 「それだ!」
ローズ「どれですの」
突如ひらめいたルクリリは、過去の戦車道チームの活動記録の棚へ走った。
そして片っ端から資料に目を通し、やがて__
ルク 「あった!」
ローズ「何ごとですの?」
ルクリリが手を止めたページ、ほんの数年前の戦車道履修者のリストの中に、記憶に新しい人物の写真があった。
ルク 「相沢千鶴、ティーネームは・・・・『ディンブラ』!」
そのころ、相沢家のリビングにて。
栄子 「はー・・・・」
イカ娘「驚きでゲソ」
二人は椅子に座りながら呆気にとられていた。
栄子 「聖グロに通ってたのは知ってたけど、まさか姉貴も戦車道やってたのか」
千鶴 「隠してたわけじゃないのよ?でも、わざわざ言うほどの事でもないと思ったのよ」
栄子 「聖グロで戦車道やってたってだけで十分自慢だよ」
イカ娘「千鶴が戦車道・・・・。戦車必要だったのでゲソ?」
千鶴 「どういう意味かしら?」
イカ娘「般若!」
栄子 「しかし、それでどうして聖グロの戦車道の隊長さん、ダージリンさんが姉貴に会いに来るんだ?ただのOBなんだろ?」
千鶴 「そうね。私もわざわざ会いに来てくれるとは思わなかったわ」
イカ娘「しかも紅茶を飲みに来てたでゲソ」
千鶴 「グロリアーナでは好敵手に足る、それかもっと親しくしたいと思える人に自分のティーネームと同じ名前の茶葉のティーセットを送る風習があったの。だから私も自分のティーセットは一応持っていたのよ。渡す相手がいなかったから、そのままだったんだけれどね」
栄子 「それで、ダージリンさんは姉貴がディンブラだと知ったうえで、確信を得るために紅茶を注文したのか」
千鶴 「きっとそうね」
イカ娘「回りくどいでゲソ」
率直な意見を述べるイカ娘に、千鶴は少し苦笑する。
イカ娘「それにしても、千鶴が戦車道やっていたという事は、その頃のグロリアーナは連戦連勝だったんじゃなイカ?」
栄子 「でも姉貴が通ってた頃、聖グロがそんな強かったって話聞かなかったよな?」
千鶴 「私、試合には出なかったし」
栄子 「ええっ!?」
イカ娘「どういうことでゲソ!?」
再び、聖グロリアーナ女学園、ティーサロンにて。
ペコ 「では、ディンブラ様は一度も戦車道大会に出られたことはなかったのですね」
ダー 「ええ。当時の風潮__『学年序列』によって、一年生の頃は戦車に乗せてすらもらえなかったと聞くわ。もちろん、お茶会にも呼ばれずに」
アッサ「悪しき風潮ですね。戦車道は実力が全てだというのに。あの頃のOBの方々には、見る目が無かったようです」
ダー 「ディンブラ様が戦車道の才能を現した二年生の時も、先輩方の態度は変わらなかった。__いえ、ディンブラ様の才能を知ったからこそ、戦車に乗せることを頑なに禁止したのでしょうね」
ペコ 「嫉妬、・・・・ですか」
ダー 「恥ずべきお話だわ」
アッサ「そして残った記録によれば、三年に上がった際、ついに周囲にはディンブラ様を慕うご同輩・後輩のみになり、戦車道やお茶会にも堂々と参加されるようになったとか。その時一番好んで飲まれていた紅茶の名前から、ディンブラと呼ばれるようになったそうよ」
ペコ 「すごい忍耐力の持ち主だったのですね」
ダー 「三年に上がってからの彼女の才能は目を見張るものだったそうよ。砲手を任せれば百発百中、装填手を担えば装填速度は神がかり、操縦主になればかすりもせず、車長においてはチーム全体の勝利が約束される、とうたわれた。わずか二か月の間に、聖グロリアーナの戦車道の歴史と記録をことごとく塗り替えていったそうよ」
ペコ 「そして、その二か月間の後に・・・・」
アッサ「彼女はグロリアーナ戦車道から姿を消した」
そして再び、ルクリリとローズヒップのいる資料室へ。
ローズ「どうしてですの?やっと敵もいなくなり、周囲は慕ってくれる仲間だけになったですのに」
ルク 「理由は記されてない。そしてディンブラ様も何も語らず卒業、戦車道関係の道にも進まなかったらしい。・・・・もしかしたら、グロリアーナに、戦車道に、愛想が尽きたのかもな」
ローズ「悲しすぎますわ・・・・」
ルク 「それから残された戦車道メンバーは学年序列の風習を完全に断ち切り、人望と実力を重視する現在のグロリアーナの戦車道の方針が構成されていったらしい」
ルクリリは資料を閉じ、棚に戻した。
ルク 「『ディンブラ』の名は、過去の過ちを忘れないために、それから誰も名乗らず、引き継がれたりもなかったそうだ。所謂『永久欠番』みたいなものになったんだろうな」
ローズ「だからダージリン様は、わたくしやオレンジペコさんのような一年生でも大事にしてくださっていますのね」
ルク 「そうなんだろうな。ついでに私みたいな跳ね返りも受け入れてくれたんだろう」
ローズ「自分で言ってはおしまいですわ」
ルク 「うっさい!」
サロンにて。
ペコ 「私がダージリン様と同じ戦車に乗れるのも、ディンブラ様の存在や当時の先輩方の努力ががあってこそなんですね。感謝いたしませんと」
アッサ「そうね。でも、それだけでもないわ」
ダー 「仮に今も学年序列の風潮が色濃く残っていたとしても。私の戦車に同乗するのは、アッサムとペコ。あなた方以外にはあり得ないわ」
ペコ 「ダージリン様」
ダー 「周囲がなんと言おうとも。優秀な人材を見栄や体裁にかまけて切り捨てようなどと、戦車道を志すものにとってはあってはならないことよ」
アッサ「そしてこれは、これからの貴方たちへの課題でもあるのよ。これからのグロリアーナ戦車道を担うものとして、決して間違った選択はしない事を、切に願うわ」
ダー 「聖グロリアーナ戦車道は旧体制の拭払と新たな道を確立させるためにこれまでの時を費やしてしまったわ。オレンジペコ、これからの貴女達が、これからの新しい聖グロリアーナ戦車道の模範となるの」
その言葉の重みに少し目を伏せたが、
ペコ 「はい。心得ています」
オレンジペコは真っ直ぐ、微笑みでダージリンへ返した。
後日。
ダー 「アフタヌーンティーをお願い致しますわ」
ローズ「わたくしにもおねがいいたしますわ!」
ペコ 「すいません。全員分でお願いします」
ダージリンたちは、海の家れもんでティータイムをとることが多くなった。
ルク 「結局さ、どうなったんだろうな、あれから」
ローズ「どう、とは何のことでございますの?」
ルク 「つまるところ、ダージリン様はディンブラ様に面会叶ったわけだが」
イカ娘「お待たせしましたでゲソー」
今は千鶴が紅茶を淹れ、イカ娘や栄子が運んでいる。
今はディンブラに固定せず、様々な種類のお茶が淹れられている。
ルクリリはローズヒップ、ニルギリと同じテーブルに着いている。
ルク 「だけどダージリン様はディンブラ様に直接名乗って挨拶はしていないし、ディンブラ様もダージリン様を後輩という風には見ていない。普通に客の一人としてしか対応してないよな」
ニル 「つまり、そういうことではないでしょうか?」
ルク 「ニルギリ」
ニル 「ダージリン様はディンブラ様を、千鶴さんを『ディンブラ様として接していない』。千鶴さんの事情を鑑みて、大先輩としてではなく海の家の店長さんとして接していらっしゃるんですよ」
ルク 「あー、そうなのかもしれないなあ。あんなことがあったのなら、あまりOBとして扱われるのも気分良くないかもだからな」
ニル 「そして千鶴さんも、ダージリン様を後輩として見ず、お客さんとして見てる。けれど、ダージリン様を通じてグロリアーナ戦車道の今を観てらっしゃるのですね。だから、ダージリン様はティータイムをここにしていらしているのでしょう」
ローズ「??つまり、どういうことですの?」
ルク 「ディンブラ様をディンブラ様としてではなく、海の家の千鶴さんとして見て接しろ、ということだよ」
ローズ「えー、せっかく戦車道についてご教授願おうと思っていましたのに!」
ルク 「いいな!絶対に言い出すんじゃないぞ!」
ローズ「ぶー」
やがてティータイムも終わり、グロリアーナの面々が店を出る。
ダー 「ご馳走様でした。またお邪魔いたしますわ」
千鶴 「ええ。待ってるわ」
そんなダージリンと千鶴を見ている、栄子とイカ娘。
栄子 「思い出したよ」
イカ娘「何をでゲソ?」
栄子 「姉貴、三年生になって少ししてから、よく砂浜をランニングするようになってたんだ。今まであんまりそういうことしてなかったから、どんな心変わりかと思ってたんだけどな」
イカ娘「ストレス発散には運動がいいって、清美も言っていたでゲソ」
栄子 「そうだな。きっと色々気苦労があったんだろ。まあ、姉貴も人間だったってことだ。・・・・、ん?」
そこまで言いかけて、栄子は何かに気が付いた。
何かを考え込む素振りをしている。
イカ娘「どうしたでゲソ、栄子?」
栄子はそのまま、後片付けをしている千鶴に近づいた。
栄子 「なあ姉貴。三年まで、先輩に戦車道から遠ざけられてたんだよな?」
千鶴 「ええ」
栄子 「お茶会にも誘われず」
千鶴 「・・・・そうだけど、どうしたの?栄子ちゃん」
栄子 「そして、三年で戦車道ができるようになって、お茶会にも参加できるようになった」
千鶴 「・・・・」
栄子 「グロリアーナのお茶会って、お茶菓子がスコーンとかビスケットとか、キャンディも出るんだっけ?」
千鶴の顔が青くなる。
栄子 「あと姉貴、三年になってからよく砂浜走ってたよな?」
千鶴 「あれは、戦車道のために体づくりを・・・・」
栄子 「三年になるまでお茶会に出られず、三年になってから走り始めた・・・・」
千鶴がカタカタと小さく震え始める。
栄子 「姉貴、もしかしてお茶会でお茶菓子食いすぎて太__」
千鶴 「やめてー!それ以上言わないでーーー!!」
ついに涙目になって千鶴はその場にしゃがみこんでしまう。
栄子はやっぱり、と呆れたようにため息をつく。
千鶴 「だって・・・・だってしょうがないじゃない!今までお茶会なんて参加できなかったし、やっと友達とお茶会を楽しめるようになって・・・・!お茶菓子も、あんなにおいしいのが沢山あって・・・・!」
栄子 「で、食べ過ぎたのか」
千鶴 「栄子ちゃんにはわかる!?一年生の頃からずっと着られたパンツァージャケットが、急に着られなくなる悲しさが!」
栄子 「いや、私そういう経験ないから・・・・。サイズが合わなくなったんなら、サイズが合うの貰えばよかったじゃないか」
千鶴 「そんな恐ろしいこと・・・・!女の子が着るもののサイズが一つ上がるなんて、死刑宣告にも等しいのよ!?」
イカ娘「そこまで大事なのでゲソ!?」
栄子 「だから、サイズを落とそうと必死にランニングして・・・・」
イカ娘「結局、サイズが落とせなかったのでゲソね」
栄子 「つまり、戦車道ではなく、お茶会で太ることから逃げたのか・・・・」
床に突っ伏し力なくうなだれる千鶴。
栄子 「こりゃ、ダージリンさんたちには絶対内緒だな。こんな話、聞かせられん」
イカ娘「同感でゲソ」
投稿間隔を一週間より縮めたい、と思い執筆するも、誤字脱字やキャラ設定を間違えて書き直したりで何日もつぶす毎日です。
もっと沢山書きたい話もありますので、がんばってどんどん書いていきたいです。
ちなみに、千鶴=グロリアーナ出身という設定は、執筆を始める前に一番最初に思いついた設定でした。