昔、ある所に狐がいた。
この狐は悪賢い奴であったが、それ故にロクな友人に恵まれず1人で狩りをしていた所、虎に見つかってしまった。
このままでは狐は虎に捕食され絶命するは必至。しかし狐もさしたるもの。
頭を必死に捻って漸くここを逃れる為の言い訳を考えつく。
「さぁ、大人しく貴様は俺に食われるのだ。この俺様はここ数日の間何も獲物にあり付けなくて腹が減って仕方が無い。潔さも美徳ではある、故に疾く死ぬるが良い。」
それに対して狐は傲岸不遜な態度でこう言い放つ。
「言葉を慎み給え、君は百獣王の前にいるのだ。」
「何ぃ?」
「聞こえなかったのか、愚かにして無知蒙昧なる虎よ。私は天帝に百獣王の位を授かりし狐であるぞ。」
「何だと?貧弱にして卑怯な知略しか頼るもののない狐が百獣王だと?俺を謀るのもいい加減にするが良い。せめてもの情け、苦しまずに殺してやろうかと思うたがこれ以上戯言を宣うようならば嬲った末に殺してやろうぞ。」
虎のその言葉に狐は思わず内心で震え上がる。
しかしそれで脅えを表に出しては食べられるのは自分だと恐れを飲み込み虚勢をさらに張って言い放つ。
「何を言う。貴様こそ私を殺せば天帝の意に背くことになるぞ。しかし信じられぬというのも道理。ならば私に付いてくるがいい、私が百獣王である証を見せてやろう。」
それを聞くと、虎は余りにも狐が堂々と言うのでまさか本当にこの狐が百獣王ではないかと思い始める。そしてそれが事実ならば確かめねばとついていくことを決めた。
そうして狐に付いていくと狐が通る度にすれ違う動物が皆例外なく平伏していくではないか。これには流石の虎も唸るしかなかった。
さて、ここで時間は戻り視点は変わる。狐には数少ない友人に鶴がいた。この鶴、誠実なのだが如何せん頭が弱く、先を見通せない。それでいて友人想いであった為、狐が虎に食われそうになっているという噂を聞き狐達が見かけられたという方に急いで向かっていく。そうして狐が殺されないよう、全力で向かうと鶴にしては僥倖であることに、未だ狐は存命であった。
しかし鶴から見ると狐は平伏する他の獣の前を虎に促されて歩いているように見えるではないか。それを見て鶴は話に聞く、処刑台へと向かわされる罪人を思い出す。
「狐を救うには僕が謝ってお願いするしかない!」
そう決意を決めて虎と狐の前に入り、狐の頭を下げさせながら謝りはじめる。
しかしここで逆に仰天するのは虎である。彼は今まで狐の言葉を全て事実だと信じ込んでおり、そうしたら突然入ってきた鶴が百獣王である狐の頭を自身に向けて共に下げさせて見逃してもらうように頼んできているではないか。
「鶴、お前は何を言っているのだ。」
「いえ、ですから僕は友人の狐が虎さんに食べられそうだという話を聞いて、急いで飛んできたのです。そうしてみてみれば他の獣が平伏する真ん中を虎さんが狐を歩かせているではありませんか。これはまさに音に聞く処刑を目前にした罪人のようなものだと思い、恩赦を願う為にこうして飛び出した次第でございます。」
これを聞き、虎は漸く自身が狐に謀られていた事に気づいた。
しかし、虎は笑んで語った。
「なるほど、俺は騙されていたのか。しかし狐よ、その智謀は賞賛に値し、鶴の友情には感銘を覚える。よって見逃すこともやぶさかではない。」
その言葉に狐と鶴は互いを見やり涙を流して喜び合う。
しかし、虎はこう続けた。
「と、普段の俺ならば言うのだろうが。先も言った通り俺はここ数日何も獲物にありつけず腹が減っている。故に、貴様らをここで食らわせてもらう。」
その言葉と共に振るわれた爪と牙を狐と鶴が避けられるはずも無く。そのまま狐と鶴は虎に食べられてしまった。
教訓:愚かな友人は友人本人のみでなく、自身すら巻き込み破滅するということ。