ウーイッグのカテジナ・ルース   作:Mariah_Bastet

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最後のお話です。
ルース家の寝室でマーベットは――。


最終話 薄紅色のカルテ

マサリク兄弟の父バーツラフは、ウッソ以上に日曜大工が得意だ。

 

スペースノイドにとって木材は貴重品のはずなのだが、挽くも打つもひと通り心得ている。

 

要はかつて金のかかる趣味をひとつ持っていた、ということらしい。

 

彼はマーベットが乗るバギー型のワッパに、木組みのチャイルドシートを拵えてくれた。

 

これが便利な代物で、台座から取り外せばそのままベビーベッドになる。

 

マーベットはオリフィアをおぶったまま、それをそっとルース家の2階まで運んだ。

 

かつては、カテジナの母が使っていた寝室だ。

 

いやに簡素なこの部屋は、ドレッサーの上だけがやたらと賑やかだった。

 

化粧品、香水、ジュエリーボックスの横には夫婦の誓いの残骸、プラチナの指輪が転がしてある。

 

17歳の娘がいる母親の寝室がこれだ――変に勘ぐらずとも、

その生活の想像がつくというものだ。

 

マーベットはヒーターから少し離れた場所にベビーベッドを置いて、

オリフィアを寝かせた。

 

丸いくちびるを半分開いて、すやすやと眠っている。

 

その額にキスをして、マーベットはベッドに入った。

 

木のにおいのするシャクティの家の寝床も気に入っているけれど、

クイーンサイズの柔らかいベッドに、長い手足をのびのびと伸ばして寝転がるのは、

とても気持ちの良いものだ。

 

ルース氏は彼の兄の部屋に、ベネシュ医師は客用の寝室に泊まっている。

 

 

「世間は狭いのか、広いのか……」

 

 

リガ・ミリティアの構成員の中で、実際に戦闘に携わった者は1割に満たない。

 

エドヴァルドのように社会生活を営みながら、

物資の調達や資金提供に協力するといった者がほとんどだった。

 

当然その能力や貢献度に応じて、組織内での立ち位置が決まるわけだから、

彼のような実業家が、ディープヨーロッパ支局長をもって任じているのは、

何も不思議な話ではない。

 

 

――もし彼がカミオン隊にいれば、カテジナさんの運命も変わっていたのかしら。

 

 

顔を合わさない限り、互いの名を知ることがないというのが、

リガ・ミリティアの鉄則だった。

 

オイ・ニュング伯爵のような指導者ならともかく、

実業家の彼が実戦部隊に入るなどあり得ないことだ。

 

明かりを消した部屋でそんなとりとめもないことを考えていると、

誰かがドアがノックした。

 

どうぞ、と答えると、入ってきたのはカテジナだった。

 

 

「どうしたの、もう真夜中よ」

 

 

マーベットは問いかけながら、ベッドサイドランプを灯した。

 

 

「私とても不思議なの」

 

 

枕元の小さな明かりでは、カテジナの表情は読みとれない。

 

 

「夜がこんなに暗いのが、信じられないの。

 何も見えないことが分かっているのに、足下が分からないのよ。

 ベッドに横になっても、どこまでも落ちていくという気がするの。

 暗闇というのは、宇宙と同じよ。上も下も無いんだわ」

 

 

その言葉を聞いて、マーベットの脳裏にヘキサで駆けたあの宇宙が思い浮かんだ。

 

装甲を通して感じる、冷たくヒリつくような無限に広がる皮膚感覚。

 

手のひらにも、足の裏にも、頭の上にも、生と死の可能性が等しく横たわっている。

 

 

――彼女は今、地球の大気に素肌を晒しながら、あれと同じものを感じているというの?

 

 

カテジナは続けた。

 

 

「あなたの感覚は覚えているわ。敵モビルスーツの編隊の中に、

 何度か暖かいものを感じることがあった……感じて、私は腹を立てていたのよ」

 

「今も腹が立つの……?」

 

「いいえ、それよりも暗いわ。夜って、こんなに暗いものだったかしら」

 

 

見えない目で辺りを見渡そうとする、カテジナの影は不安げに揺れ動いていた。

 

 

――きっと彼女の心は今、宇宙の戦場にいるんだわ。

  見失ったものを辿って、壊れた心の辻褄を合わせようとしている。

  母艦のない宇宙を、ひとりでさまよっている……。

 

 

マーベットもまた、カテジナの言葉に喚起されて宇宙の中にいた。

 

しかし背中には、頼もしいスプリングのクッションがある。

 

不貞の人工衛星のようなドレッサーを除けば、この寝室は殺風景な小宇宙だ。

 

クイーンサイズのベッドは、そこに浮かぶ箱船だった。

 

 

「……こっちへいらっしゃい」

 

 

マーベットは掛け布団の片側を開いた。

 

カテジナは壁に左手をつきながら、右手でベッドの端を探っている。

 

やがてそこにたどり着くと、幼い少女のようにベッドに転がり込んだ。

 

 

「暗いわ……マーベットさん。暗いのよ……」

 

 

ベッドに潜り込んできた身体が思ったよりも大きくて、少しぎょっとしないでもない。

 

しかしマーベットは、カテジナの脚まできちんと布団を被せると、

 

 

「ドアを閉めてくるわね……」

 

 

そうっとベッドから立ち上がって、宇宙のフタを閉じた。

 

カーテンの隙間から、月明かりが漏れている。

 

マーベットはベッドに戻ると、カテジナの首の下に右腕を回して、

冷えた丸い肩を抱いてやった。

 

 

「大丈夫よ、なんにも心配することはないの……」

 

 

空いた方の大きな手のひらで、背中をゆっくりと撫でた。

 

 

「ここはあなたの家なんだから……」

 

 

そう言い聞かせながら背中を撫でていると、固く丸まったカテジナの身体から、

徐々に力が抜けていくのが分かった。

 

二の腕に、ころりと頭の重みが加わった。

 

身体の成熟した背の高い彼女を、まるで幼児のようにあやすのは、

なんだか奇妙な感じもする。

 

それでもマーベットはこの孤独な少女を抱いて、今だけはその母でありたいと思った。

 

 

「あなたの家なんだから、何も心配ないのよ……」

 

 

ポン、ポン、と眠りのリズムで背中を叩いてやると、

その想いがカテジナの身体に染み込んでいくように感じた。

 

 

――もともとの平和とは、

 

 

どこで聞いた言葉だろう。

 

 

――魂がそれぞれの家にもどることでありましょう。

 

 

マーベットには思い出せないが、背中を叩くのと同じリズムで、

カテジナに言って聞かせてやりたいのは、そういうことなのだ。

 

 

――これが、情緒的リハビリテーションというのかしら。

 

 

気づけばカテジナの穏やかな寝息が、マーベットの寝間着の襟元を、ほんのり湿(しめ)していた。

 

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

マーベットが目を覚ますと、ベッドにカテジナはいなかった。

 

ベビーベッドの方を見ると、ネグリジェの背中がある。

 

思わず飛び起きて、オリフィアに駆け寄った。

 

 

「ん……ぱぁ」

 

 

オリフィアはカテジナの白い手首を両手で掴んで、

その人差し指を歯のない口ではむはむと噛んでいた。

 

オリフィアが口と手を離すと、カテジナは不思議そうな顔で、

唾液のついた人差し指を親指に擦りつけたり、においを嗅いだりしている。

 

それを見てほっとしていると、足音を聞いたのか、

カテジナはマーベットの方に顔を向けた。

 

 

「おはようマーベットさん。なんだって甘ったるいのね、この子は」

 

「おはよう。私、あなたは赤ん坊が嫌いなんだと思っていたわ」

 

「そうだったのかしら。何もかも変わりすぎて、自分でも良く分からないの。

 何にこだわっていて、何と戦っていたのか……」

 

 

そう言いながら不思議そうに、見えない目で見つめている指先を、

マーベットはガーゼのハンカチで拭ってやった。

 

 

「それはきっと良い兆候よ。さあ、朝食にしましょう。あなたもね、オリフィア」

 

 

マーベットは我が子を抱き上げた。

 

オリフィアに乳を飲ませ、4人で軽い朝食を済ますと、

マーベットは早速カサレリアに無線を飛ばした。

 

 

『マーベットさん、カテジナさんの所にいたんですか!? オリフィアも!?』

 

 

事情を説明すると、ウッソの素っ頓狂な声がノイズと共に返ってきた。

 

 

「何をそんなに驚くことがあるというの」

 

『何をって……その、大丈夫なんですか?』

 

「何が大丈夫でないというのよ」

 

 

マーベットは当然、ウッソがカテジナに銃撃されたり、

ナイフで刺されそうになったことなど知らない。

 

ウッソはヘッドセットの向こうで、ごにょごにょと言葉を濁している。

 

 

『……大丈夫ならいいんです。でも気をつけて下さいよ、赤ちゃんがいるんですから』

 

「釈迦に説法よ。そういうことはいちど赤ちゃんを産んでみてから言うのね」

 

『無茶言わないで下さい』

 

 

エドヴァルド・ルース氏の話をすると、ウッソはすぐにワッパでとんできた。

 

 

「ドレスデンで一度見た顔だ。君があのウッソ・エヴィンだったとは」

 

 

ルース氏は巨大な手のひらで、ウッソの手を握り込むような熱い握手を交わした。

 

 

「報告は読ませてもらったよ。見事なものだ。ニュータイプはまず行動的なんだな」

 

「そういうんじゃありません」

 

 

ウッソは危く握り潰されそうになった手を、軽く振りながら答える。

 

ルース氏が、その肩を叩いた。

 

 

「ここ百年、街は使い捨てるものとされているが、実はラゲーンの復興計画がある。

 飛行場は連邦軍が接収したが、基地の一部がザンスカールの大使館になったからね。

 そのためのテストを、とそういう話になっているから、これを持って来られた。

 カバーを外すのを手伝ってくれ」

 

 

荷台の覆いを取り払うと、モビルスーツが体育座りの形で収められていた。

 

 

「君にやってもらいたい」

 

 

ウッソは早速荷台に上がって、コックピットに乗り込んだ。

 

回線を開くと、ルース氏の声が入ってきた。

 

 

『ジェムズガンを操縦した経験は?』

 

「ありませんが、だいたい分かります」

 

 

マニュアルを呼び出して、ざっと目を通しながらウッソは答えた。

 

ジェムズガンは、ガンイージのひと世代前の機体だ。

 

しかし戦闘と関係ない作業においては、十分な信頼性を持っている。

 

 

『市街地での作業用に改造したものだから、アポジはすべて取り払ってある。

 あだ名通りの“モビル・ワーカー”だ。バランサーは調整しているが、

 ビクトリーのように動くとは思わんでくれ』

 

「瓦礫掃除と地雷撤去に、あんな出力いりませんよ。お墓を掘るのにも」

 

 

ウッソはトラックの上でジェムズガンの上体を起こした。

 

 

『足場、動かすわよ』

 

「やって下さい」

 

 

マーベットの操作で、トラックの荷台が後ろにスライドする。

 

ウッソはアポジモーターのないジェムズガンの頭を、うんと前に下げさせて、

膝に手をひっかけ、老人のように立ち上がらせた。

 

ビームライフルの代わりに、

反射板付きの蛍光灯のようなものがトラックに乗せられている。

 

 

『君の助言を元に作った電磁波照射装置だ。

 といってもレーダー用のマグネトロンを並列しただけの代物だがね。

 費用はビームライフルの1000分の1だ』

 

 

装置には取っ手がついていて、ジェムズガンに持たせると掃除機のような格好になる。

 

ウッソはコンソール上で装置の接続を確認した。

 

『指向性はもたせてあるが、30メートル以内に人がいないことを確認してから

 起動してくれ。まともに浴びれば全身の血液が沸騰する』

 

「了解です」

 

 

トラックには、スクラップ用のバッカンとコンテナも乗せてあった。

 

地雷はモビルスーツには反応しないから、まずは瓦礫を取り除くのが先だ。

 

ウッソは照射装置をトラックに戻すと、バッカンとコンテナを地面に下ろした。

 

バッカンは、瓦礫を集めるのに。

 

コンテナには、遺体を。

 

 

「ウッソ、30分で交代よ」

 

『分かりました』

 

 

ウッソは無心で作業を始めた。

 

 

「我々は中に入ろう」

 

 

ルース氏にいざなわれて、マーベットはルース商会の中へ戻った。

 

カテジナは、隣室でベネシュ医師の診察を受けている。

 

 

「リガ・ミリティアも柔軟な組織になったんですね。

 彼女ひとりのためにモビルスーツやあんな装置を都合できるなんて」

 

「まさか!」

 

 

ルース氏は巨大な手のひらをゆっくり振って見せた。

 

 

「一度生まれた組織が、月日を経て柔軟になるなどということはあり得ない。

 特に神聖軍事同盟などという代物はね」

 

 

窓の外のジェムズガンの働きを眺めながら、ルース氏は続けた。

 

 

「今やリガ・ミリティアは余剰資産を奪い合う魑魅魍魎(ちみもうりょう)の巣窟だ。

 それを健全化しようとするハンゲルグのような男がいて、

 そのせめぎ合いの果てに組織は硬直化している」

 

「あなたはどちら側の人間なんです?」

 

「私にそれを聞くのかね。私はどこまでも実業家だよ」

 

 

ルース氏はテーブルから円椅子を下ろして、そこに腰掛けた。

 

 

「ただ、彼女に対しては責任がある。彼女の両親を殺し、目を潰したのは私だからだ」

 

 

隣室で目薬を差されているカテジナを、ルース氏はドアの丸ガラス越しに見やった。

 

 

「私は密かに兄の、ベスパとの取引を妨害していたんだよ。

 それが私の、リガ・ミリティアとしての戦いだった」

 

 

ルース氏は悲しげに笑った。

 

 

「私が仕事に手を着けたとき、あの一家がイエロージャケットに

 保護されるという話は、纏まりかけていたんだ。

 

 私が手を出さなければ、彼女たちは今頃ムラダー・ボレスラフか、

 サイド2にでもいただろう。これは贖罪なんだ。公費を用いた、ね」

 

 

マーベットは、黙って頷くしかなかった。

 

 

「うーう……」

 

 

ベビーベッドの中で、オリフィアがむずがり始めた。

 

マーベットは我が子をそっと抱き上げて、しばらく揺すった。

 

ときどきシャクティがうたうあの歌を、途切れ途切れに口ずさみながら。

 

 

 

「………………」

 

 

 

オリフィアが泣きやむと、マーベットは言うべき事を言うことにした。

 

 

「どちらにせよ、カテジナさんはベスパにいたんです」

 

 

ルース氏は眉間に深い皺を寄せた。

 

 

「どういうことかね?」

 

「彼女はベスパのモビルスーツパイロットだったんですよ。

 それも非常に優秀な、手強い敵だったんです」

 

「たとえ話にしてはアクが強すぎるようだが」

 

「カウンターの裏に、袋が落ちているでしょう」

 

 

ルース氏は立ち上がって、言われたとおりカウンターの裏に回った。

 

はたして、それはあった。

 

カテジナが持ち帰った、非常用持出袋だ。

 

食料は残っていなかったが、オレンジ色のケースが残っていた。

 

表面には赤十字のマークと共に、こう刻印されていた。

 

 

Ballistic Equipment & Space Patrol Armory

FIRST AID KIT

GENERAL PURPOSE

 

BESPAの頭文字が、確かにそこには並んでいた。

 

 

「……ベスパの払い下げ品だろう、悪い冗談だ」

 

「それなら、ラゲーンに軍籍を問い合わせればよろしいですわ」

 

「………………」

 

 

ルース氏は、刻印の左下にある“Z”の紋章をじっと見つめている。

 

 

「なぜあの子がウォーム・バイオリレーションの影響を受けたのか、

 疑問ではあった。あそこには軍人とサイキッカーしかいなかったはずだからね……」

 

 

瓦礫と遺体を運ぶジェムズガンの振動が、グラスの水を波打たせていた。

 

 

「ひとつあなたに、伺いたい」

 

 

ルース氏が言った。

 

 

「あの娘は……カテジナを良い娘だと思うかね」

 

 

マーベットは、大人しくなったオリフィアをベビーベッドに寝かせた。

 

 

「……私はウーイッグのカテジナ・ルースさんに出会って、まだ3日目なんです。

 人なんて、いる場所や立場で変わるものでしょう。彼女は今、ひとりの被災者です。

 その善悪を問うなんてこと、私にはできません」

 

 

マーベットは我が子の頭を撫でながら、背中越しにそう答えた。

 

 

「それは、その通りだ。ありがとう」

 

「いえ……そろそろ、交代の時間ね」

 

 

マーベットが店を出て、しばらくするとジェムズガンの駆動音が止んだ。

 

そのうちにまたグラスの水が震え始め、入れ替わるようにウッソが帰ってきた。

 

隣室からカテジナとベネシュ医師が出てきたのが、ちょうど同じタイミングだ。

 

ベネシュ医師はずれた眼鏡を直しながら言った。

 

 

「彼女を診るに、ここは思っていたほど悪い環境ではないようだ。

 昨日よりずっとはっきりしてきている」

 

「環境は人だよ、ドクター・ベネシュ」

 

 

ルース氏が答える。

 

 

「あの、」

 

 

ウッソが後ろ手に、もじもじしながらカテジナの前に進み出た。

 

 

「どうしたの、ウッソ君」

 

「カテジナさん、色は見えるんですよね。これ、たくさん摘んできたんです。

 その、ひなげしの花……」

 

 

ウッソの手には、小さな花束が握られている。

 

カテジナの右手をそっと取って、手渡した。

 

 

「………………」

 

 

カテジナは、花束を明るい方に――窓外の光に照らして、顔を近づけた。

 

視界が柔らかな薄紅色に染まり、乾いたものが焦げたような、

不思議な香りが鼻腔をくすぐった。

 

 

「ありがとう、ウッソ君……」

 

 

カテジナからこんなふうにまともにお礼を言われたのは初めてで、

ウッソの顔は花束のように赤くなった。

 

 

「贈り物の趣味が良くなったじゃない」

 

「いえ、そんな、道端に生えていたものでっ!」

 

 

カテジナはもう一度花束に鼻をうずめて、顔を上げた。

 

それから眉間に軽く皺を寄せ、少し歯痒そうに、こう言った。

 

 

「でもね。ひなげしって、どんな形をしていたかしら。私、思い出せないのよ……」

 

 

その様子を見て、ルース氏とベネシュ医師は目を見合わせた。

 

 

「意外に早い頃合ですな」

 

 

ベネシュ医師は、無線機のあるオフィスへと入っていった。

 

 

「ウッソ君、これ飾っておいてちょうだい。応接間に花瓶があるから、ここの窓辺にね」

 

「……はい」

 

 

カテジナが差し出した花束を、ウッソは両手で受け取った。

 

小走りで応接間に入り、埃だらけの花瓶を持って洗い場に向かう。

 

古い花が内側に黒くこびりついた花瓶を洗いながら、

ウッソはシンクの傍らに置いたひなげしに声をかけた。

 

 

「カテジナさんの眼が治るまで、咲いててよね」

 

 

部屋に戻ったウッソは、花瓶に差したひなげしを窓辺に飾った。

 

夕陽の反射光が花びらを透かして、揺り椅子に座るカテジナの視界を染めた。

 

 

――了

 

 

【挿絵表示】

 

 




初めての二次創作小説を、最後まで読んで頂きありがとうございました。

スージィとシャクティの友情なんかも書きたかったんですが、
あくまでカテジナさんのお話なので、諦めました。

この小説の感想や、ひょっとしたらこうだったんじゃないか、
この先こうなるんじゃないか、この間、誰々がどうしていたんじゃないか。

そういったいろいろな語りを、お待ちしています。
感想には、すべて返信を送るつもりです。

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