――人間達が神より授かった魔法と言う力を持ち、800余年の長い月日が流れた。
そして 歯車は動き出す。
これは、……運命に翻弄された世界を。
最後には繁栄ではなく滅びゆく筈だった
育まれた親愛なる人達を。
愛すべき者達全てを救う為に。
例え その身をも捧げてでも救おうと抗い続ける者達の物語。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そこは、暗黒が周囲を包む中で、ただ唯一存在する真っ白な世界。
真っ白、と言うよりは光で満ちているかの様な世界と言えるだろう。その光の世界には2つの存在があった。
1つは、とてつもなく大きい姿。この世界の光を生み出している大いなる存在。
そして、もう1つは霞む程故、見つけられない程の姿。
小さく儚い程の存在だというのに 時折何にも負けない程の光を時折放っていた。
「あっ! マザーっ! ほらほら、これ見てみてー!」
周囲を飛び回りながら、話しかけている相手は、とてつもなく大きい。光り輝く鱗に包まれた大きな竜。
その者は《
そして、その周囲を元気よく駆けまわっているのは、アルマトラン最弱と言われていた人間と言う種族。
だが、少しだけ身に纏う雰囲気が違う。
マザードラゴンは 慈しむ様な視線を、彼の者に向けて静かに微笑みを浮かべ 話をしていた。まるで種族さえ違えど親子と言わんばかりの雰囲気だった。
「ほっほ……、また 何かを見つけてきたのか?」
「うんっ! 凄く珍しいんだよ。これなんだけどっ!」
「ほほぅ……、それは人間たちが
「ん? えーっとね、丁度この上の辺りかな? 空から落ちてくるのが
笑顔で話しをする彼と原始竜。
落ちてきた何かの事が判った彼は、更に楽しそうに 嬉しそうに笑っていた。
「へー、これ神杖って言うんだ。大体の使い方は……ん。判るんだけどー。んんっと。……うーん、ちょっとボクが扱うのは難しいみたいだね」
「それは仕様がない事。……お主の
「そっかー……、でもまぁ 別に良いかな? 使ってみたいから拾ったってわけじゃないし。……それに」
彼は頭上を眺めた。
白い世界の周囲は暗黒に染まっている。底さえ見えない黒い世界の先を見据えた。
「もっともっと、面白い事が起きそうだから! うん。きっと これを取りに来たんだよ」
「ほう。……成る程。また、小さき者がここへやってくるか。ここも更に賑やかになるな」
目を細くさせて、彼同様に黒い空を眺めるマザードラゴン。
彼はマザードラゴンとは少しだけ表情が違った。同じく笑っていて 笑っているのは間違いないのだが、その質が少しだけ違った。
「小さき者じゃないって。名は《ソロモン》だよ。名前、もう そろそろ覚えたてよマザーっ!」
「ふむ……。そうだったな。……小さき者の名は ソロモンだった」
名を中々覚えないマザードラゴンに苦言を呈する。この会話も何度したかもう数えきれない。その理由も以前から訊いていた。その身体同様に 大いなる存在であるマザードラゴンにとって、人と言う種族はどうしても小さく感じてしまうからだ。
そして そのマザードラゴンが初めて覚えた人の名が……目の前の彼だった。
「ソロモンが最初はほんっと傲慢な感じで、ろくでもない、ってマザーから聞いたけど、ボクは 全然そうは見えないんだけどなぁ? すっごい楽しそうな感じがしたよ? 初めからさ」
「お主がここへ来る随分と前の話だからな。……だが、それも私にとってはあっという間の出来事。昨日の事の様に思い出せる。私との話で、あの小さき者…… ソロモンも徐々に変わっていた」
「あははは。それはそうだろうね。だって マザーは生きてきた時間が違うじゃん。それは仕方ないって思うよ。体感時間の差ってやつだよ」
笑顔を見せる彼を見たマザードラゴンは、同じく笑顔を見せた。
マザードラゴンは 今まで無数の世界を見てきた。だからこそ 長く 長く見続けてきたからこそ、全てが小さく見えてしまう。無限ともよべる生命は 無限とも言える時を眺め続けてきて 軈て――全てが無になった。
何をするつもりも無く、する気力も無く 考える事すら放棄して、時間の中をただ漂うだけの存在になりかけていた。
そんな時に、眼前に現れた2人。
そう――初めてあったその時から、マザードラゴンは、彼らの特異さには気が付いていた。
マザードラゴンは、この世に生を受けて8,000年と言う膨大な時の中で、何度も見続けてきた。生命の営みと言うものを見続けてきた。幾つもの命が滅び、また生まれていった。そう、人間がこの世を統べるまでに強大になった800年と言う時も
――――だというのに、これは一体どうだろうか。
彼と出会った時の事は……、これまでには無い程の衝撃だった。新しい出来事は、幾年月の間に何度もあった。だと言うのに、今だ嘗て感じた事の無い衝撃だった。
そして過ごす時間は、僅かでしかないというのに、その濃密さは、言葉では表せる事が出来ない程だった。
彼との出会いは、まるで全く別のモノ。
この世界に 新たな生命が生まれる事は、何度も目にしてきている。……が、新たな世界が(厳密には不明だが)生まれる様な感覚は無かった。
別の世界がこの世界に現れる等とは有り得なかった。
8000もの年月を過ごしてきても、一度たりとも無かったから。
「(だから、かもしれないな……。これほどまでに 惹かれるのは……)」
笑顔で話しをしている彼を見て、そっと微笑む。
軈て、そんな2人きりの世界に新たな来訪者が現れた。
「あ! やっと来た」
彼がいの一番に気付いて、迎えていた。上から降りてきたのは。
「よぉー! 久しぶりだな。フレイド! オレが来る事判ってたんだよな? お前は」
「ほんとだよねー。沢山来るって言ってたのに、最近はここに来る回数が減ってるし、結構ルーズだよねぇ、ソロモンは」
歓迎。それは友人同士のやり取りそのものだった。
簡単に出てきたが――彼の名は《フレイド》
「友が欲しい――そういってた頃が昨日の事の様に感じるよ。……小さき者よ」
「お久しぶりです。
「あはははっ。ほんとレアだと思うよねー。こーんなかしこまってるソロモンってさ! マザーには頭が上がらないんだ?」
「うるっさいっ! 話があってきたんだから、ちょっと黙っててくれ。フレイド!」
出鼻をくじかれたソロモン。そして 楽しそうに笑うフレイド。
マザードラゴンは また確かに見た。
2人が出会い、語り合い、笑い合う。
そんな他愛のない出来事だと言うのに、2人が出会う度に何度も感じる。儚く小さな者達だと言うのに、大いなる光を宿した者達がこの場に集ったと言う感覚だった。
「……始まり、動き出すのだな。
マザードラゴンは2人を見つめ、そっと呟くのだった。