「ちょっと。いつにも増して暗い顔してどうしたのよ?」
「イシュタルか……」
はあ、と大きな溜め息を吐く青年。イシュタルと呼ばれた黒髪ツインテールの少女は、むっとした表情で彼の手を引く。
「また何かやらかしたの?とりあえず食堂で話を聞かせてもらうわ」
「あー……いや、それはやめといた方がいいと思うぞ」
「え?どうして?」
「どうしてって言われても……まあいつかは出会うわけだし、いいか。行こうぜ」
うねるような形状の長い廊下の最奥に、カルデアの食堂は存在する。本来のスタッフやマスターの人数を考えてなかなかに大きく造られているのだが、お昼時を通り越しておやつどきのこの時間にはほとんど英霊もスタッフもおらず、だだっ広い食堂は実質イシュタルと青年と
「おやマスター、何か食べに来たのか?」
「あーエミヤ。俺と彼女に甘い物でも一つお願いしたいな」
「ふむ、了解し……た………!?」
キッチンから顔を出したのは白髪をオールバックにしたような褐色の英霊。妙にエプロンが似合っている。クールな表情で応対していたが、青年が指差したイシュタルを見た瞬間に、顔色が悪くなった。
「なんでさ!?」
「ハア?」
それはこっちのセリフだ、とイシュタルは思う。突如見知らぬ英霊に目を合わせた瞬間動揺され、しかも"なんでさ!?"などというよくわからない言葉を吐かれた。面識があっただろうか、と己が記憶を遡るが、こんな人相の男は知らない。一言文句でも言ってやろうかと口を開きかけたが、遮るようにエミヤが喋った。
「大変失礼した、レディ。少々取り乱してしまった。お詫びに何でも好きなものを作るから、非礼を許してもらいたい」
「ふうん……まあいいけど。不味いもの作ったら承知しないわよ?作る物は何でもいいから、オススメのを頂戴」
「了解した。十分ほど待っててくれ」
厨房に戻っていくエミヤを見送り、何となしに隣のマスターを見ると何やら笑いを堪えているようだった。ククククク、と品のない掠れた声が漏れている。
「何が面白いのよ」
「ハハハハハ!いやあ、何でもない!何でもないから!あっやめてそのデカイ弓こっちに向けるのやめて!!」
マスターも先程の英霊の態度も何となく不愉快だった。甘い物なんてどうでもいいから部屋に帰って休もうか、なんて思ったときに本題を思い出す。
「……そういやアンタ、なんで暗い顔してたのよ」
「……あっ…………」
言われるまで完全にそのことを忘れられていたのか、咄嗟に青い顔になる青年。半泣きになりながら机を叩く。
「うああああ!聞いてよイシュタルうううう!頼光さん出なかったああああああ!!」
「頼光ってあの、鬼ヶ島にいた女?」
「そうそう」
鬼ヶ島に共にレイシフトしていたイシュタルは頼光のことを思い出そうとしたが、大して興味を持って見ていなかったというのもあって全然浮かんでこなかった。浮かんだものといえば、胸部面積を押し広げていた邪魔そうな肉塊程度だった。
「出なかった……来てくれなかった……」
「でも確か……ドクターの話だと、あと二日くらいは特異点が塞がらないから縁が切れてないんじゃなかった?」
「うん……まあそうなんだけど……あと二日で石は集まらないし今月分の呼符はとっくに取り終えてるし……あと出来ることと言えば課金なんだけど……」
課金。ダ・ヴィンチちゃんに紙幣を渡し、その金額にあった石を受け取る現代社会の悪い文明。
「すればいいじゃない、そんなに呼びたいなら」
「やだ……お金、使いたくない……」
「……今日までに課金は?」
「今回は……してない……」
「対価を払わずに何かを得ようとは土台無理な話だ」
出来たぞ、とエミヤは運んできたショートケーキを二人の前に置く。
「おいちょっと待てエミヤ、え、ケーキって十分で出来るの?」
「何を馬鹿なことを。前持ってある程度作っておいた物を完成まで持っていっただけだよ」
「ふうん……なかなか美味しそうじゃない」
いただきますも言わずにフォークをケーキへ伸ばす。一口分カットして口に運ぶ。噛む。味わう。美味しい。甘い。美味しい。
「美味しいじゃない!」
「口に合ったならよかった。あと数個余ってるから、欲しければ運んでくるが?」
「全部お願い!」
「わかった」
再び厨房に戻っていくエミヤを見て、青年は満足そうな顔を浮かべる。
「まあでも……良かったかな……」
「もしかして、その女を喚ぼうとしたときにアイツが来たの?」
「うん。でも、今となっては彼で良かったなと思うよ」
料理上手いしね、と言ってケーキを食べる青年。イシュタルは軽くなった皿を見つめて何故か複雑な気持ちになった。自分の好みにピタリと合わせたかのような味。甘ったるい、不思議な気持ち――
「待たせたね、マスターも食べた方がいいぞ?多分すぐなくなるからな」
「人を多喰らいみたいに言わないでもらえるかしら!?」
人というか女神なのだが。全く、と呟いて新たなケーキに手を伸ばすイシュタル。初対面だったはずなのに、不思議と目の前の英霊には懐かしい印象を覚えた。
「本当に良かった……本当に……」
普段から変だが、いつにも増して変な様子のマスターを見て再びイシュタルは嘆息する。
「というか、そんな女なんかいなくても私がいれば十分でしょう?感謝しなさいよ」
「そりゃあ感謝してるさ。でも、感謝してるからこそイシュタルの負担を減らしてあげたいというか……」
お、とイシュタルの中でのマスターの評価が高まる。
「っていうか、イシュタルと頼光さんじゃ全然違うというか……主に……なんか大きく違う箇所がほら……」
青年の視線の先が己の胸部だということに気づいて、咄嗟に弓を構えるイシュタル。
「だ!か!らー!私の本来の体はもっとグラマラスだって言ってるでしょ!依代に引っ張られてるだけよ!気になるならあの金ピカにでも聞いてみたら!?」
「いや、そもそもあの人うちのカルデアにはいないし……っていうかその、なんか……ごめんね?」
「謝るな!!」
「理不尽だ!?」
「……フフフ」
賑やかな二人を見て、無銘の英霊は微かに微笑んでいた。
らいこうさんこないかなあ……単発で……こないかなあ……えみやきてくれたし……もう……いいか……
あっ、ちなみに最近更新出来てなかったのはイシュタルと酒呑ちゃんが単発で来てくれて爆死してなかったからです(唐突な報告)