すみません。いきなりバットエンドです。
ゼロの剣があったことについても含めメチャメチャ考えました
もしもワルドを選んだら
「いよいよ。聖地に着く。」
「うん…。」
ゲニマニアの彼方。
聖地と呼ばれる場所へ、ワルドとトゥは、アルビオン軍と共に辿り着いた。
時は、少し過去に戻り。
あの日。
アルビオンへの道中、ラ・ローシェルの港町でワルドにレコン・キスタに来ないかと誘われたトゥは、その誘いに乗った。
ルイズと共にいても楽しくない。剣の腕が鈍る。理由を付けるなら、色々とあったが、トゥは、ワルドの誘いに乗った。
アルビオンでワルドがウェールズを殺し、トゥが内部からニューカッスル城内部を蹂躙したことで王党派は、貴族派に痛手を与えることなく、あっという間に崩壊した。
王党派の中心にいたアルビオンの国王の首を取ってきた功績とワルドの紹介もあり、トゥは、先陣を切って戦える立場をもらえた。
「…トゥ…、どうして? どうしてなの?」
ワルドに囚われ、牢にいられられているルイズは、牢に来たトゥに悲しい顔で聞く。
「なんでかなぁ?」
トゥは、宙を仰ぎ見る。
その様子は、トゥが召喚された時のような空虚な感じを思わせる。
何もない、どこまでも暗い暗い…、そんな底なしの闇を思わせるなにか。
右目の花が薄暗い牢屋のある通路の中で怪しく光って見えた。
「分かんないや。」
「トゥ! 待って、トゥ! お願い、ここから出して!」
行こうとするトゥをルイズが呼び止めた。
「どうして?」
「あなた、私の使い魔でしょ! 使い魔なら…。」
「使い魔だからって言うこと聞くとは限らないよ?」
トゥは、そう言って去っていった。後ろでルイズの声が聞こえてきたがトゥは振り向かなかった。
トゥの目には、暗い闇が宿っていた。
「ところで、なぜ君は、僕の誘いに乗ってくれたんだい?」
「急に何ですか?」
戦場で、ワルドが何気に聞いてきた。
「いや、純粋に興味があっただけさ。」
「…会いたいから。」
「誰に?」
「……あそこに行けば、会える気がしたの。」
「あそことは、聖地のことかい?」
「うん。」
「そうか…。会えるといいね。」
「うん!」
トゥは、剣を持って、クルクルと踊った。
「…狂ってるよ。」
フーケが吐き捨てるように言った。
***
トリスティン城下町を舞台にした戦場で、トゥは踊っていた。
いや、踊るように剣を振るい、敵を斬っていた。
メイジ達が放つ魔法は、彼女のウタの前には歯が立たず、メイジ達は、次々に切り捨てられていく。
かつて活気のあった城下町は、血生臭い匂いで満ちていた。
「これ以上は行かせない!」
「ねえ、降参して?」
トリスティン軍を前に、トゥが、剣を後ろにやって微笑む。
「するわけがないだろう! 馬鹿か貴様は!」
「待て! あれは、ウタウタイだ! アルビオン共和国軍の突撃隊長だ!」
ウタウタイ。
それは、すでにハルゲニア全土に知れ渡っていた。
ウタを行使して、魔法とは違う力を発揮する者。
貴族派は、彼女のことをこう呼んだ。聖地への道を切り開く、希望の女神だと。
トリスティン軍、魔法衛士達が、グリフォンやヒポグリフを駆り、トゥを取り囲んだ。
素早く魔法を唱え、放つ。更に弓矢がトゥを襲った。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
その魔法も、弓矢も、絶叫のようなトゥのウタに阻まれ、防がれた。
ウタ声に耳を刺されるような気がした彼らの首が、グリフォンとヒポグリフの首と共に落ちた。
自身を取り囲んでいた大軍の中から高く跳躍して飛び出したトゥは、後方にいた平民の部隊を次々に斬った。
その時、『爆炎』が、トゥを襲った。
酸素があっという間に辺り一帯から無くなり、平民の兵士を巻き込んでトゥは、倒れた。
「……よくやりましたな。」
「ああ…、また使うことになろうとは…。」
コルベールが嘆き、額を押さえた。
すると、トゥがむくりと起き上がった。
「なっ!」
コルベールも、トリスティン軍も驚愕した。
コルベールの爆炎は、範囲内のすべての生物の酸素を奪い、窒息死させてしまうほどの殺傷力を持つ残虐で凶悪な技だ。
酸素を必要とする生物ならばこの技を喰らって死なぬはずがない。
なのにトゥは、起き上がった。
ゆらりっとトゥの首が動いた。
ちょっと焦げた薄紅色の花の右目と、光のない左目が、コルベール達を捉える。
「これがウタウタイか! 化け物め!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
トゥの体が絶叫のようなウタで青く輝いた。
その姿に恐れをなしたトリスティン軍に、トゥが襲い掛かる。
腕が、足が、胴体が、首が、転がり、地面を、そしてトゥ自身の体を赤く染める。
「うふふふふふ、あははははは。」
トゥは、笑う。
やがて体の輝きが消えた。
「もうやめなさい!」
「なんでぇ?」
「自分が何をやっているのか分かっているのか!?」
コルベールの叫びに、トゥは首を傾げた。
青い髪も、青い衣装も真っ赤に染めたトゥがコルベールに近づく。
コルベールは同じだけ後退った。
「あそこへ、行くためだよ。」
「なにを…。」
「あそこへ行かなきゃいけないの。だから…。」
トゥは剣を振り上げた。
「死んで?」
次の瞬間、蛇のような凄まじい炎がトゥの体を焼いた。
「熱い!」
「私は、君を倒す! 生徒達には指一本触れさせぬ!」
「あ、う……ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」
体が黒焦げになる頃になると、巨大化した右目の花から、鮮血と共にトゥが生えて来た。
「なっ…!?」
コルベールは、その異変を見て杖を落としてしまった。
「まだ…死ねない。会うまでは…、死ねない。」
新たなトゥは、剣を握り、コルベールに近づいた。
コルベールは、尻餅をつき、無様に後退った。
「絶対に、会いに行く。」
トゥは、コルベールに剣を振り下ろした。
***
やがてアルビオン軍は、魔法学院を包囲した。
従軍しなかった教師や生徒達が降伏し、広場に集められた。
「トゥさん!?」
「あれ? シエスタ?」
「知り合いかい?」
「うん。」
「トゥさんが…どうして、アルビオン軍に…?」
「私、今アルビオン軍にいるんだよ?」
「えっ?」
「連れていけ。」
軍の隊長の指示で、平民達がどこかへ連れていかれた。シエスタは見えなくなるまでトゥの方をチラチラ見ていた。
連れてこられたオスマンは、トゥを見て、深く息を吐いた。
「これが君の選択かね?」
「なんのこと?」
「いや、こっち話じゃよ…。」
「?」
トゥは、首を傾げた。
やがてオスマンも連れていかれた。
教師や生徒達は、アルビオン軍の貴族派に従軍するか否かを問われ、従わなかった者は殺された。
それを見て恐れをなした子供達や教師は、次々に従軍すると言った。
トゥは、その様子を見ることなく、歌いながらクルクルと踊っていた。
***
それが少し過去の出来事である。
聖地と呼ばれるその大地を進んでいくと、やがて門のようなものを発見した。
「これが聖地?」
「これ…。」
「トゥ君?」
トゥが巨大な門に近づいた。
「あれに似ている…。」
「何に似ているんだい?」
「メルクリウスの扉。そこで私、ワン姉さん達とすごい力を手に入れたの。」
「ほう…。それはそれは。」
クロムウェルが前に出てきて言った。
「つまりこの扉の向こうには、強大な力をもたらす何かが封印されているのだね?」
「うん。」
「例えば、君の力とか?」
「うん。」
「…それはぜひとも欲しい。皆の者! 扉を破れ!」
クロムウェルの号令のもと、兵達が一斉に扉に殺到し、メイジ達は魔法を使って扉を壊そうとした。
一番目の扉は、腐食しており、すぐに壊れた。二つ目は、メイジ達が総攻撃を与えてやっと壊した。
三番目の扉は…。
「ううむ…、なんと強固な扉だ。」
「私がやる。」
「うむ、そうか。頼むぞ。」
トゥが剣を握り、ウタを歌いだした。
すると、扉の隙間が共鳴するように輝きだした。
「これは! 彼女に共鳴しているのか!?」
「おおお! やはりこの扉に向こうには、彼女と同じ力眠っているのか! これが聖地の真実か!」
「ウタウタイ! 我らが希望の女神!」
クロムウェルを始めとしたアルビオン軍が歓声を上げだした。
やがてピシピシと、扉に亀裂が入りだした。
そして。
「!? あ、あああああああああああああああああああああああ!」
「トゥ君!?」
「扉が!」
ついに扉が砕け散った。
そこから溢れ出たのは、ドロドロとした赤黒いなにか。
それがトゥの足に触れた途端。トゥは、弾かれたように上を向き。
「ラファエル。」
酷く棒読みな声で、クモのような巨大な魔獣を召喚し、毒をまき散らす魔獣により、アルビオン軍は大混乱に陥った。
「エグリゴリ。」
巨大な二体の魔獣が出現した。
「ファヌエル。」
巨大な甲殻類のような魔獣が出現した。
「アルマロス。」
空に要塞のような物が出現した。
「アルミサエル。」
大きな頭を持つ巨大な人形が無数に出現した。
「ガブリエル。」
かなり大きなドラゴンのような魔獣が出現した。
「アブディエル。」
三体の巨大なゴーレムが出現した。
「ゾフィエル。」
ガブリエルとは違うドラゴンのような魔獣が出現した。
「ガルガリエル。」
ゾンビのような、けれど頭部が光ったアンデッドのような兵士達が出現した。
「イズラエール。」
空から途方もなく巨大な尾を持つ巨大なドラゴンが降臨した。
様々な強力無比の魔獣の出現。それにより、大軍であったアルビオン軍は、なすすべもなく蹂躙された。
応戦しようと試みる者もいたが、ウタの力で強化された魔獣に通用するはずもなく、ただの土のゴーレムは砕かれ、術者も殺された。空中戦艦隊も空に現れた途方もなく巨大なドラゴンと、要塞と、ドラゴンのような魔獣に撃ち落されていった。
背後の惨劇になど気にも留めず、扉の向こうを、トゥは見つめていた。
やがて、扉の向こうから誰かが歩いてきた。
「あ…ああ……。」
その人物を見て、トゥは、酷く懐かしい気持ちになり、涙があふれた。
そして、持ってきていた、ゼロの剣を献上するように差し出した。
その人物は、剣を受け取った。
トゥは、恍惚とした表情でその人物を見つめていた。
「セント…。」
次の瞬間。
ドスッと、トゥの胸がゼロの剣で貫かれた。
「間違えんなよ。馬鹿。」
「あ、…あああ……。」
女性の声がそう罵り、トゥの体からずるりっとゼロの剣が抜かれた。
トゥは、その場に倒れた。
血が地面に広がっていく。
ウタウタイであるため不死身のごとき生命力を持つはずの彼女の傷は、なぜか塞がらなかった。
「……ぜ…、ゼロ…ねえ、さん……。」
トゥが、伸ばしたその手は、ゼロには届かなかった。
意識が遠ざかる中、ゼロが魔獣達が暴れている方へ歩いていくのを見た。
意識が闇の落ちる時、ゼロの狂った笑い声が聞こえたような気がした。
***
報告。
封印されていた花の力により、ウタウタイ・トゥが暴走。
かつて他の姉妹が使役していたすべての魔獣を召喚するほどの力を発揮した。
これは、ウタウタイ・トゥの花の力の増大化と、ハルケギニアに6千年前に封印されていた花、ウタウタイ・ゼロの強大化した花の力によるものと思われる。
これは、かつてウタウタイ・トゥとウタウタイ・ゼロがいた世界で起こったメルクリウスの扉の事件を彷彿とさせる。
ただ結末の違いは、使徒によって暴走の鎮静化がならなかったことだ。
この分岐においてのウタウタイ・トゥに刻まれたガンダールヴの抑止力は微塵であり、花を抑えきれず、花の衝動に動かされたトゥの選択により、ハルケギニアがウタウタイ・ゼロと召喚された魔獣達に破滅に導かれると考えられ、また、ウタウタイ・トゥの死亡により、花に完全に支配されたウタウタイ・ゼロの問題の解決の糸口は見つかりそうもない。
よって、本分岐の封鎖を提案する。
そして、なぜこの時、ウタウタイ・トゥがウタウタイ・ゼロに、竜の牙でできた剣を献上したのか。
恐らくは、彼女の中にある自分自身を殺してほしいと願う気持ちがそうさせたのだろうと推測される。
だがその行動の真意については、ウタウタイ・トゥ自身の死亡により解明することは望めない。
ワルドの誘いに乗ったら、トゥの力により貴族派は、聖地に到達します。
だけどそこに待っていたのは…という展開です。
ゼロがなぜ聖地に封印されていたのか。そのことはまた別の分岐、または本編で語っていきます。
ここでのゼロは完全に花に支配されており、狂っております。
メルクリウスの扉はネタは、ウタヒメファイブを参考にしました。
ここでのトゥは、花の支配がやや強めで、花に誘導されて聖地を目指しました。その結果、ゼロの封印を解き暴走、そして殺されました。
ゼロをセントと間違えたのは、彼女の記憶の混濁によるものです。ですが内に自分を殺してほしいという気持ちが残っており、結果としてゼロに剣を献上して殺し貰うことで達成。だけどトゥが死んだ結果、残されたのは暴走する狂ったゼロと召喚された魔獣達。恐らくハルケギニアは、滅びます…。