二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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アリィーとの戦いは、原作と違い最初からデルフリンガーあるので、ちょっと悩みました。また水竜を殺すかどうかも。




第九十六話  トゥ、アリィーと戦う

 

 

 アリィーは、呪文唱えると、ひとっ飛びで運河の向こうから飛んできた。

 円曲した剣を振り下ろしてきたので、トゥは、それをデルフリンガーで受け止めた。

「私を殺しちゃダメなんでしょ?」

「困る。でも、勢いが余ることもあるし、もしそうなったら、また悪魔を連れてくるだけだ!」

「それは困るなぁ。」

 アリィーを弾き飛ばしながら、トゥは困ったように言った。

 アリィーが着地すると同時に、懐にトゥが飛び込む。

「気絶して。」

「させるか!」

 アリィーは、にやりと笑い、トゥからの腹への一撃を受けた。

 その硬さに驚いたトゥから、アリィーは後ろに跳び、距離を取った。

「二度も同じ手は食わない。」

「すごいね。」

「蛮人に褒められても嬉しくない。」

 アリィーは、そうは言いつつ、フンッと自慢げに鼻を鳴らしていた。

 どうやら事前に腹を硬質化させる魔法を使っていたらしい。トゥの怪力のこもった一撃をケロっとした顔で受け止めたのだった。

「じゃあ、首とかを狙おうか。」

「やらせると思うか?」

「思わない。」

 トゥは、そう言いながらニッコリと笑ってデルフリンガーを構えた。

「僕は、君達、蛮人のように手で扱うのが得意じゃなくてね。」

 するとアリィーは、曲剣を四、五本出して浮かび上がらせた。持っていた剣も浮かばせる。

「まともにやり合っても、悪魔に勝てるとは思えないからね。悪く思うなよ?」

「面白いね。」

「おもしろい? だと…?」

「だって曲芸みたいなんだもん。」

「きょ、曲芸だと?」

 ピキリッとアリィーは、青筋を立てた。

「馬鹿にするのも大概にしろよ! 蛮人の悪魔が!!」

 次の瞬間、無数の曲剣がトゥに向かって飛んできた。

 トゥは、それをデルフリンガーで弾き落としながら、まるで後ろに目でも付いているかのようにヒョイヒョイと死角から飛んでくる剣を避けた。

「お前は牛か!?」

「なにそれ?」

「後ろまで見えてるって意味よ。」

 ルクシャナが解説した。

 その間に、アリィーが呪文を唱えだした。

「あ、まずいわね。アリィーったら、眠りを使うつもりよ。」

「あのとき、眠くなったのは、そのせいかー。でも、同じ手は通じないよ。」

「くっ!」

 トゥは、微笑み、呪文が完成する前に曲剣を両断していった。

 斬られた剣は、地面に落ちていった。

 すべての剣を斬り終えたトゥがデルフリンガーの切っ先をアリィーに向けた。

 すると運河の水面がボコボコと泡だった。

「?」

 トゥがそちらを見ると、水中から銀色の鱗の巨大な竜が現れた。

「やれ! シャッラール!」

 トゥが一瞬呆気にとられた隙にアリィーが竜に命じた。

 水竜・シャッラールは、口から細い水流を吐き出した。トゥは、それをデルフリンガーでガードしたが、水流の勢いでそのまま運河の壁にたたきつけられた。

「…水の竜もいるんだ。」

 トゥは、頭にかかった水を片手で拭いながら体勢を整えた。

 シャッラールは、再び口を開けた。その口の奥に先ほどよりも大量の水が入っている。

 トゥは、素早く横に転がり、その水鉄砲を避けた。

「ねえ、ルクシャナ!」

「なに?」

「…水竜は、殺しちゃってもいい?」

「えっ…?」

 ルクシャナは、ちらりとアリィーに視線を向けた。

 アリィーは、アリィーで、ルクシャナからの視線に困惑していた。

「…できれば、殺さないで。シャッラールは、アリィーの可愛いペットなのよ。」

「分かった。」

『けどよ、あいつが邪魔で船が出せねぇだろうが。』

 ずっと黙ってたデルフリンガーが言った。

『相棒。勢いでって、あいつ(アリィー)も言ってたんだよぉ。こっちが勢いで、ヤッちまってもおあいこだぜ。』

「悪魔め…、最強の竜に勝つつもりか!?」

「さいきょう? 水竜が? ……ダメ。最強には…ほど遠い。」

 トゥは、そう言いながらデルフリンガーを構えた。

 水竜は、ハルケギニアに住む竜の中で大型の竜である。だが、トゥが求める…竜種には及ばないのだ。

 シャッラールが、大きな尻尾を振り上げた。

 トゥは、横に跳んで避けると、運河の石畳が砕けた。

 すかさずシャッラールは、たたきつけた尻尾を横に振ってきた。

 トゥは、眼前に迫る尻尾を、デルフリンガーでたたき切った。

 シャッラールが苦痛の鳴き声を上げた。

 切り落とされてビタンビタンと跳ねるシャッラールの尻尾から血が跳ねる。

 トゥは、まだ動いている尻尾の先を片手で掴むと、苦痛に悶えるシャッラールの頭を、それで思いっきり殴った。

 バーン! バーン!っと十何回か左右に殴っていると、やがてシャッラールは、気絶したらしく、水中に沈み、やがて仰向けになって運河に横たわった。

「わぁお、なんて乱暴な倒し方なのかしら。」

「だって、殺しちゃダメって言うんだもん。」

「すごいわ! トゥさん!」

「ば…、馬鹿な。シャッラールが蛮人に負けるなんて…。」

 アリィーは、シャッラールが負けたことが信じられずショックを受けていた。

「ねえ、小舟を返して。」

 トゥは、ショック状態のアリィーにデルフリンガーの切っ先を突きつけて言った。

「アリィー。早く小舟を返してくれないと、婚約は解消するわよ?」

 その言葉でアリィーは、ハッとして、口笛を吹いた。

 すると運河の向こうから、イルカに引かれた小舟が現れた。

「さあ、乗って!」

 ルクシャナに促され、トゥとティファニアは、小舟に乗った。

「……君は、本当にわがままだな。もう知らんぞ。」

「あら? そこがいいんじゃないの。とにかくこの件が片づいたら、結婚しましょうね! 愛してるわ、アリィー!」

 小舟に乗り込むルクシャナがアリィーにそう言った。

 

「ルクシャナは、アリィーのこと好きなの? 嫌いなの?」

「えっ? 愛してるに決まってるでしょ?」

 呆然とするアリィーを残して運河を航行する小舟の上で聞くと、ルクシャナは、キョトンとした顔でそう答えたのだった。

 アリィーは大変だね~っと、トゥとティファニアは、ヒソヒソと話したのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「それで、どこへ行くの?」

 水しぶきを上げながらイルカと繋がった小舟を運転するルクシャナに、トゥが聞いた。

「言ったじゃない。旧い友達のところよ。」

「それってどこ?」

「それはついてからのお楽しみよ。」

「ねえ、ルクシャナ。」

「なぁに?」

「あなたは、私達のことを研究したいんだよね? その研究が終わったらどうするの?」

「何も考えてないわ。」

「えっ?」

 キョトンとするトゥとティファニアをよそに、ルクシャナは、これは自分の性格なのだと言った。思い込んだら一直線で、後先のことは考えないのだと。

 そして、あっはっはっと大声で笑い出す。

 トゥとティファニアは、そんなルクシャナにポカーンとした。

「でも、どうするの? ルクシャナ、私達を助けたせいで裏切り者になっちゃったんだよ?」

「アリィーがなんとか言いつくろってくれるわ。あの人、私にベタ惚れだもの。」

「わー…。」

「でも、そうね。私もシャイターンの門に何があるのか、興味が出てきたわ。完全に協力するわけにはいかないけど、調べるぐらいなら付き合ってあげてもいいわ。」

「いいの?」

「もちろん。」

「じゃあ、お願いする。」

「同盟成立ね。」

 ルクシャナは、片手を差し出してきた。握手だろうと判断したトゥは、その手を握って握手した。

 それから、ルクシャナは、ティファニアにも手を差し出した。

「あなた、色々と言われたようだけど、私はあなたをちょっと羨ましく思うわ。蛮人との混血なんて、素敵じゃない。」

「そ、そう?」

「ええ。エルフの非礼はお詫びするわ。でも恨まないでね。そういう風に教育されてきたんだから、仕方ないのよ。」

 トリスティンや、その他の国でエルフが無条件で恐れられる存在として言い伝えられているように、エルフ達もまた、人間達を無条件で蛮人と蔑み、嫌う文化を持っているのだ。まあ、これはお互い様であろう。

「それにしても、あんた…。すごいわね。蛮人の血が混じると、こんなになっちゃうわけ?」

「ひゃん!」

 ルクシャナがティファニアの凶悪な大きさの胸を鷲掴み、こねくり回した。

「あう! やん! ひう! やめて! やめて!」

「ティファちゃんを虐めないで!」

「虐めてないわよ~。本物かどうか確かめただけじゃない。」

 ルクシャナは、パッと手を放し、今度は、ジッとトゥの胸を見た。

「あんたも…、なかなか綺麗な胸してるわよね。」

「へっ? ひゃっ!」

 今度は、トゥが胸を鷲掴みされた。

「や~ん、何コレ。すっごい良い感じの柔らかさじゃない! 巨乳と美乳…どっちも捨てがたいわね。」

 ルクシャナは、自分の胸とティファニアの胸とトゥの胸をそれぞれ見比べていたのだった。

 どうやら、彼女は自分の胸の大きさにコンプレックスがあるらしかった。なんだかそこもまたルイズっぽかった。

 ルイズのことを思い出したトゥは、俯いた。

『娘っ子は、断然、相棒派だけどな。』

「…ルイズ…。」

『でーじょーぶだ、相棒。生きてりゃ必ず娘っ子に会えるさ。』

「…うん。」

 デルフリンガーの言葉に、トゥは頷いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ティファニアは、その後気絶するように眠ってしまった。

 精神的な疲れが溜まっていたのだろう。

「そういえば、その剣、インテリジェンスソードだったわね。」

「そうだけど?」

「まったく。マネしないで欲しいわ。」

「マネ?」

「そうよ。インテリジェンスソード…、というか、剣やモノに意思を付与するのは、私達エルフの十八番なのよ。さっきのアリィーの意思剣だってそうよ。その剣作ったのだってエルフでしょ?」

「そうなの、デルフ?」

『…ああ。そうだよ。確かにおりゃあ、昔お前さん達エルフが作ったもんさ。』

「そういえば…、初代ガンダールヴってエルフだったよね? もしかして、サーシャさんが作った剣なの?」

「なんですって?」

 ルクシャナが目を丸くしてトゥに詰め寄った。

「初代ガンダールヴって、エルフなの?」

「えっと…、そういう夢を見ただけで…。本当なのかは…。」

「あのね…。」

 それからサーシャは、興奮した様子で語り出した。

 エルフの間に伝わる伝説で、ブリミルを倒したとされるアヌビスという聖者がいたのだそうだ。そのアヌビスも光る左手を持っていたという。だからビダーシャルは、ガンダールヴ=(イコール)アヌビス説を唱えたのだという。学会からは、白眼視されているが、トゥの話が本当なら俄然信憑性を帯びるとルクシャナは言った。

「でも…、そのアヌビスは、始祖ブリミルを倒したんでしょう? ガンダールヴが、始祖の倒すなんて…。あれ?」

「どうしたの?」

「じゃあ…、姉さんは…。」

「ねえ、その姉さんって何? ずっと気になってたのよ。」

『ブリミルを…。』

「デルフ?」

『ブリミルを殺したのは、ガンダールヴだ。』

「えっ…?」

 とんでもない言葉がデルフリンガーから飛び出した。

『思い出したんだぜ。鞘に収められてる間…、この国に来てから悶々としていたもんが晴れた。ったく、ずっと忘れていたかったぜ。』

「サーシャさんが…ブリミルさんを?」

『あいつの胸を貫いたのは、他でもねぇ、このオレだからな。』

「デルフ!」

『そして…そしてな…。ダメだ! 思い出したくねぇ!』

「デルフ…。」

 それっきりデルフリンガーは、黙ってしまった。

「デルフ…。」

「そんなことがあったなんて…、俄然興味がわいてきたわ。」

「姉さん……、何をしたの…?」

「だから、その姉さんってなに?」

「ごめん。私もよく分からないの。ただ…、ずっと待っている人がいるのがなんとなく…分かる気がするの。」

「なにそれ?」

「あそこに…。」

「それってシャイターンの門?」

「たぶん…。」

 トゥは、空を見上げた。

 空は、どこまでも澄み切った青さをしていた。

 




鞘に収められている間に、エルフの国に来たことなどから色々と思い出したデルフでした。
ゼロが六千年前に何をしたのか。デルフは知ってますが語りません。

実は、最初の頃、ゼロの剣にデルフが宿るという案も考えましたが、物語の都合上あんまりよくないと思ったのでボツにしました。

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