二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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ティファニアとの関係をどうするか悩みましたが、結局ルイズの恋敵にしました。


第九十七話  トゥとティファニアからの告白

 

 

 エルフの国ネフテスの首都、アディールを脱出してから、トゥ達は、ルクシャナの小舟で航海を続けていた。

 トゥは、何度かデルフリンガーに、ブリミルとエルフの関係のこと、そしてそれとなくトゥの姉であるゼロのことを聞こうとしたが、デルフリンガーは、頑として答えてはくれなかった。

 それほどの悲しみを…、無理矢理に聞くのは酷なことだと納得したトゥは、これ以上は聞かないことにした。

 ルクシャナは、やがて小舟に横になってスヤスヤと眠りだした。

「まるで光が、畑になったみたい。」

 夜の海に月明かりが当たり、それがさざ波に反射して銀色に光る。それを見てティファニアがそう呟いた。

「そうだね。」

「……私達、これからどうなるんだろう?」

「うーん…。」

 不安そうにそう言うティファニアに、トゥは、腕を組んで悩む仕草をした。

「聖地に行こう。」

「えっ?」

「そこに何があるか、分かればルイズ達の助けになる。ルクシャナには悪いけど…。」

 トゥは、眠っているルクシャナに済まなさそうな目線を送った。

「トゥさんは、すごいね。」

「えっ?」

 膝を抱えたティファニアの言葉にトゥは、キョトンとした。

「こんな状況なのにちゃんと目標を持ってる。私なんて…怖くって、何にも考えられなくって…。」

「しょうがないよ。こんな状況じゃ無理ない。」

「でも、トゥさんは、ちゃんと考えてるわ。」

「…私が変なだけだよ。」

「昨日だって、怖くって何もできなかった…。」

 昨日のこととは、アリィーとの戦いのことだ。確かにティファニアは何もしていない。

「だからって、ティファちゃんのことを足手纏いだなんて思わないよ?」

「ううん。私ってば足手纏い。どうしてトゥさんは、そんなに冷静に戦えるの? どうしてやらなくちゃいけないことが分かるの?」

「冷静って言うか…、うーん。慣れだね。」

「慣れ?」

「色々とあったし…。私、普通じゃないし。」

「トゥさん!」

「いいの。本当のことだから。庇ってくれるのは嬉しいけど、本当のことなんだよ?」

 トゥは、そう言って苦笑する。

 ティファニアは、納得がいかない顔をしてトゥを見つめた。

「じゃあ、どうして戦うの? この世界は…トゥさんの世界じゃないんでしょ?」

「うーん…。ルイズがいるからかな。」

「ルイズが?」

「私にとって大切な人。もちろんティファちゃん達も大切。だから戦えるの。」

「大切な…人…。」

「ティファちゃんには、大切な人がいないの?」

「えっと…、子供達も大切だし、お友達も大切だし…。」

 頭を抱えてウーンウーンと一生懸命悩んでいるティファニアの様子にトゥは、クスッと笑った。

「わ、笑わないで。」

「ごめんね。でも大切なモノが多いって事は良いことだと思うよ。」

「そうなのかしら?」

「うん。そうそう。」

「でも…、私、トゥさんとルイズが羨ましいな。」

「そう?」

「だって…、その…、えっと…。」

 ティファニアは、頬を少し赤らめ、モジモジとした。

「だって…、ルイズってば、あんなにトゥさんのこと、好き好きって言ってるし、ちょっと羨ましいなって思って…。」

「ティファちゃんも誰かに好きって言いたいの?」

「えっ!? えっと…その…。」

「言いたい人いないの?」

「えーと…。」

 モジモジモジモジ。ティファニアは、落ち着かない様子で、小舟の床とトゥを交互に何度も見た。そして、カーッと顔どころか耳まで赤くした。

 トゥは、首を傾げ。

「もしかして…、私に言いたいの?」

「違うの、違うの。トゥさんには、ルイズがいるのにそんなこと言えないわ。あ! トゥさんに魅力が無いからじゃないから!」

「分かってるよ。」

 トゥは、微笑んだ。

「で、でもね…。最近ちょっと変なの…。なんて言ったらいいのか…。」

「ドキドキする?」

「う、うん。」

「抱きしめたくなっちゃう?」

「……。」

「抱きしめて欲しい?」

「あ…。」

 トゥは、膝立ちでソッと優しくティファニアを横から抱きしめた。横からなので、ティファニアの凶悪な大きさの胸が当たらず、ポスリッとトゥの胸にティファニアの頭が乗った。

「トゥ…トゥさんって…。」

「うん。」

「柔らかくって、良い匂いがして…。強くって…。どうして、こんなに素敵なんですか?」

「う~ん、そんなこと言われると困るなぁ。」

「そういう控えめなところも…。声も…、好きです。あっ。」

「えっ?」

「違うの違うの! あっ、あの…、嫌いじゃなくって…、その、えっと…。」

「うん。分かってるよ。」

 トゥは、慌てているティファニアの頭をよしよしと撫でた。

「ありがとう。ティファちゃん。」

「トゥさん…。」

「誰かを好きになるって素敵なことだよ。」

「でも、友達の恋人を好きなっちゃうのは…。」

「例えそうでも、心がそうしたいって思うんでしょ? どうしてそれが悪いことなの?」

「でも、でも…。」

「ティファちゃんは、とっても優しくって他の人を思いやれことができる子だね。本当に、良い子。でも、時にはわがまま言ってもいいと思うよ?」

「わがまま?」

「そう。自分の心に正直なるの。」

「……。」

「イヤなら、いいんだよ。無理することはな…。」

「好き。」

「んっ?」

「大好き。大好きよ。トゥさん。」

「ティファちゃん…。」

 ティファニアは、顔を上げ、トゥをまっすぐ見つめる。

 そして両手を伸ばしてきて、トゥの顔を両手で挟むと、自分の顔を近づけてキスをしてきた。

 余韻を残して名残惜しそうに離れていったティファニアは、顔を俯かせた。その耳は赤く、顔も真っ赤になっているだろう。

「はあ…、胸がはち切れそうなほどドキドキしちゃってる。なんだろう、このドキドキ。普通じゃない感じ。」

 それは、なんというか…浮気をするアレだ。そんな暗い喜び。なんとなく分かってるトゥは、苦笑いを浮かべた。

「ルイズに知られちゃったら、私…爆発で殺されちゃう?」

「だいじょうぶ。私が間に入るから。」

「…お願いするわ。」

 一転して顔を青くするティファニアに、トゥはそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 やがて夜が明けた。

 眩しい朝日で目を覚ましたトゥの隣には、ティファニアがくっついて寝ている。

 ティファニアを起こさないように起き上がったトゥは、すでに起きているルクシャナの姿を見つけた。

「あら、おはよう。」

「おはよう。」

「昨日はお盛んだったわね。」

「えっ。」

「あなたってば、罪な子ね…。恋人がいるのに、別の子をね~。」

「違うってば、ティファちゃんとはそういう関係じゃ…。」

「またまた~。じゃあどうしてキスなんて許してんのよ。」

「だから…。」

「もう言い訳はいいわ。」

「良くない。」

「……トゥさん…。」

 するとティファニアが起きた。

「おはよう。トゥさん。」

 ティファニアは、ふにゃりっとした寝ぼけ眼と、ほんのりと色づいた頬をしてトゥを見つめて挨拶をしてきた。

「あ~らあら…、なんだかヤバい雰囲気ねぇ。」

 ルクシャナが笑いを堪えている様子で言った。

「ティファちゃん、ティファちゃん、ちょっと…。」

「えっ、なぁに? ……あっ。」

 甘えたような声で言っていたティファニアだったが、ルクシャナの存在に気づいて顔色を無くした。

「ほんっと、可愛いわね~!」

「わ、笑わないでー!」

 可愛い可愛いと笑うルクシャナに、ティファニアは、顔を赤くしてワタワタと手を振った。

 トゥがオロオロしていると、ふと気づいた。

「あれ…、なに?」

 トゥが指さした先には、島のようなものがあった。

「ああ、あれ? 竜の巣って呼ばれてる群島よ。」

「ぐんとう?」

 言われてもそうは見えなかった。

 うねうねと動く触手のような岩が水面から伸びており、その長さはかなり長く、一本一本が数十メートルはあった。それが四方八方に伸びている。

「あそこに、ルクシャナの友達がいるの?」

「そうよ。」

「誰が住んでるの? エルフが住んでるようには見えないけど。」

「そりゃあんなところ、エルフは住めないわ。」

「えっ? じゃあ誰がいるの?」

「ついてからのお楽しみよ。」

『とか言いつつ、とんでもない怪物がいたりしてな。』

「えっ…。」

「ちょっと、デルフ。」

 茶々を入れてくるデルフリンガー。

『タコの十倍ぐらい触手がついてて、そいつでハーフの嬢ちゃんをがっしりと捕まえてだな…。』

「ひう…。」

「もうやめて。」

 怯えるティファニアの頭を撫でながら、トゥは、デルフリンガーをペシッと叩いた。するとデルフリンガーは、アデッ!と悲鳴を上げた。

『イテーな。まあ、そんなのが出ても相棒が守ってやるだろ?』

「当たり前だよ。」

「そ、そうだよね。」

 デルフリンガーの言葉とトゥの言葉にティファニアは、ホッとした顔をした。

『相棒は、とんでもなく強いから安心しな、じょーちゃん。』

「そうですよね! トゥさん、とーっても強いもん!」

 キャーキャーとはしゃぐティファニア。

 トゥは、額を押さえて、はあっと息を吐いた。

 自分でそう導いたとはいえ、わがままを覚えたティファニアがこうなるとは思わなかった。なんだかはしゃぎ方がシエスタと被るな~っと思ったのだった。

 やがて彼女らを乗せた小舟は、触手のような岩をくぐり抜け、いくつものその岩を抜けた先にある高くそびえる岩のところで、ルクシャナは小舟を止めた。

「? 上陸しないの?」

「ここでいいの。」

「ここ、海だよ。」

「海からじゃないと入れないの。」

「えっ?」

 ルクシャナの言葉に、トゥとティファニアは顔を見合わせた。

 ルクシャナは、海水をすくい上げ、呪文唱えた。すると手のひらにある海水が光り始めた。

「これを飲んで。」

 言われるままその光る海水を飲む。

「これで水中でも息ができるわ。効果が限られているけど。」

『おい! 俺にもなにか魔法をかけてくれ! この身体、錆びやすくって…。』

「もう、世話がやける…。」

 そう文句を言いつつ、ルクシャナは、デルフリンガーに魔法をかけた。

「これで海水に触れても大丈夫よ。」

 そう言うと、ルクシャナは、下着姿になって海に飛び込んだ。

「水中呼吸の効果は限られてるわ、あなた達も早く。」

「う、うん。行こう、ティファちゃん。」

「ええ…。」

 トゥはマントを脱ぎ、ティファニアは、ゆったりしたエルフの服を脱いだ。

 トゥが飛び込もうとすると、待て、っとデルフリンガーが止めた。

『嬢ちゃんがビビッてる。』

「ティファちゃん、大丈夫だよ。一緒に行こう。」

 トゥは、ティファニアの手を握った。

 ティファニアは、その握られた手を見てからトゥの顔を見て、コクリッと頷いた。

 そして二人は、海に飛び込んだ。

 




牢屋での告白劇がなかったので、ここで告白させました。
でもルクシャナに聞かれて見られてた…。

次回は、海母との会話。

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