二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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やっと書けた…。

実家の引っ越しもあったし、書く暇と余裕が無かった…。っと言い訳しておく。


第百一話  トゥの悪い予感

 

 

 潜水艦から洞窟に戻ってきた。

 それからというもの、トゥは、膝を抱えて座り込んでいた。

「ねえ、デルフ…。」

『なんだ?』

「どうしてブリミルさんは、あんな武器をこっちの世界に呼び続けてるんだろう?」

『……そりゃ、相棒が分かってることじゃねぇのか?』

「姉さんのため?」

「ちょっとぉ、悪魔にこれ以上の力をあげてどうしようってのよ?」

 デルフリンガーとの会話を聞き捨てならんとルクシャナが割り込んできた。

「違うよ。ブリミルさんは、姉さんのために武器をこっちの世界に持ってきてるんだよ。」

「だから、悪魔にこれ以上の力をあげちゃうってのはどうなのって言ってるのよ。ブリミルは、悪魔信仰者なの?」

「……違う。姉さんのことが好きだから…。」

「好きだから?」

「……約束を…。」

「やくそく?」

「叶えてあげたいだけなんだよ。」

「悪魔の願いって何よ?」

「姉さんは、生きたいなんて望んでないよ?」

「それって…。」

「すべてを憎んで、恨んで、死んだ瞬間に自分に花がとりついた時点で、自分が良くないモノを宿してるって分かってた姉さんが…、それでも生きたいなんて望むはずがないよ。だから、私達、妹を殺して、花を殲滅しようとしたんだ。」

「でも、あんたは生きてる。」

「……私の世界の姉さんは…、失敗したんだ。」

 トゥは、クシャリッと顔を歪めた。

「自分以外の花を…、妹の私達を殲滅するのに、失敗しちゃったんだよ。」

「失敗したって事は…、あんたの世界の姉さんは…。」

「たぶん…、もう……。」

「そういえば、海母が、シャイターンの門にいるのが、あんたの姉さんであって、姉さんじゃないって言ってたわね。別の世界の同一人物だなんて、ややこしいことだわ。」

 ルクシャナは、大げさに腕をすくめてため息を吐いた。

「だったら、毒をまくことになったとしても、あの船の武器を使うしかないってわけね。」

「でも、それで本当に咲ききった花を倒せるかって言ったら…。」

「ちょっとぉ。花には竜か同じ花を持つウタウタイじゃないと対抗できないんでしょ? あんたはいわば世界を救える切り札なのよ。しっかり考えなさいよ。」

「そんなこと言われても…。」

 トゥは、しゅんと俯いた。

 トゥの隣で、ティファニアは、オロオロとその様子を見ることしかできなかった。

 あの船の武器に、とんでもない毒が入っており、しかもエルフの魔法に匹敵する破壊力もあるとのことだった。それを知ってからのトゥは、元気が無くなり、ティファニアはなんとかしてトゥに元気になってもらいたかった。しかし、方法が分からず、オロオロとしていたのだ。

 ティファニアは、ハッと我に返った。

 気がつけば自分は、トゥのことばかり考えていることに気づいたのだ。

 あの晩、小舟の上でトゥにキスをしてから、ずっとだ。

 一緒に海を泳いでいたこの数日間、ティファニアは、本当に幸せだった。

 思ったらダメなのことも考えてしまう。

 …ずっとこのままだったらいいのにと。

 しかし、それは永遠に叶わないのだと。

 トゥを見れば、イヤでもトゥの右目の花が目に映る。

 あの花がある限り……。

 トゥは、いずれ死んでしまう。それは、避けられない定め。

 世界を巻き込んで死ぬか。竜に食べられて死ぬか。

 せっかく好きになったのに…。好きだと自覚したのに…。トゥは、自分の前からいなくなってしまうのだ。

 そんなのはイヤだ。けれど、運命が許してくれない。トゥと一緒にいることを許してくれない。

 時間も残り少ないのだろう。だからこそ、トゥは気持ちで弱っているのだ。

 ティファニアは、なんとか役に立ちたかった。

 その時、ふと思いついた。

 使い魔だ。

 自分は、まだ使い魔の召喚をしていない。

 使い魔を召喚すれば、役に立つ存在になれるんじゃないだろうか?

 そんな浅はかな考えが思い浮かんだティファニアは、決心したら早かった。

 ティファニアは、洞窟の隅に向かうと、授業で習った、コモン・マジックを唱えるべく杖を握った。

「我が名は、ティファニア・ウェストウッド。五つの力を司るペンタゴン……。」

 呪文を唱えかけて、ティファニアは、思い直した。

 使い魔とは、主人の目となり、盾となる存在。そしてかけがえのないパートナーなのだ。

 使い魔とは、運命が引き寄せる存在。ルイズとトゥは、あんなにも固い絆で結ばれている。お世辞にも性格が合うとは言えない二人だけど、お互いを大切にしている。

 自分にもそんな存在がいたら…。

 そうなったら、トゥへの想いも消えてしまうのだろうか?

 ティファニアは、呪文唱えるのを止めた。

 こんな気持ちで使い魔を召喚したら、使い魔が可哀想だ。そして、良い信頼関係を築けるとは思えない。そんなんじゃ、誰かの役に立つなんてできやしない。

 ティファニアは、杖を納め、膝を抱えた。

 やがて、ティファニアは、自分の指にはまっている母の形見の指輪を見つめた。

 そこには、光る精霊石がはまっていた。もう何度も使ってずいぶんと小さくなってしまったが、まだ光っている。

 指輪を見つめていると決まって思い出すのは、母の顔だ。

 ハーフエルフだったティファニアには、遊び相手がおらず、家から出ることも禁じられていた。

 なのでいつも母が遊び相手だった。そんな母は、よく故郷の砂漠の話をしてくれていた。オアシスや、大きな都市。まさに、今自分が来ているエルフの国そのものだった。

 エルフは、母のように優しい人達ばかりではなかった。そんなことを想うと心が痛む。

 エルフの世界には自分の居場所はない。人間の世界には自分の居場所はあるのだろうか? 仲間いる。でも……。

 初めて好きになった人の傍には、もう自分の居場所はない。そこは、もう自分ではない、他の女の子がいて、固い絆で結ばれているから。

 そう思うと人間の世界に居ても辛い気持ちになる。

 自分の居場所……。ティファニアは、それを考えて思いついたのは、母の親族のことだった。

 もしかしたらそここそが、自分の居場所かもしれない。

 母の一族に会ってみたいっと、ティファニアは想ったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「一体何を悩んでいるのだね?」

 潜水艦の中を見て、洞窟に戻ってきたからその翌日、海母がぼんやりしているトゥに話しかけてきた。

「大変な武器を見つけちゃったの…。ここから、イルカで十分くらいで行ったところにある、潜水艦の中にあるの。」

「おやおや。」

「爆発したら…、大変なことになっちゃう…、たくさんの命を奪って、長い時間あらゆる生き物を苦しめる。」

「ほうほう。」

「あの…、真面目に聞いてます?」

「聞いてるよ。ただね、わらわぐらい長生きすると、大概のことでは驚かなくなるものさ。」

「ブリミルさんは、何千年も前からそんな武器をこっちの世界に送り続けているんだ。」

「その武器のことで悩んでいるのかえ?」

「うん。」

「お前のために…、そしてお前の姉のために送られてきたのだろう? よいではないか。」

「……咲ききった花に効き目があるかどうか分からないの。」

「…なるほど。」

「ブリミルさんは、必死だったんだね。でも必死すぎた。後のこと、考えてない。」

 後のことを考えていたなら、あんな武器まで召喚するはずがないとトゥは思った。それにロマリアで見た、あの武器庫の大量の武器に、タイガー戦車も…。

「……確かに、虚無の始祖は、後先を考えている場合ではなかったやもしれんな。それほどに切羽詰まっていたのだろう。」

「姉さんの花が咲ききろうとしてたから?」

「それは、分からぬ。わらわの祖母もそこまでは知らんようじゃったからのう、聞いてはおらぬ。ただ、よほどの理由があったのは間違いないじゃろうな。」

「そう……。」

「しかし、そんな武器が海にあったとはのう。わらわは、この辺りの海で知らぬことはなかったが、あれがそうであったか。」

「うん。」

「ここにも色々とあるが、見ていくか?」

「あるの?」

「ああ。わらわの背にお乗り。」

 海母に促され、その背中に乗ったトゥは、海母と共に洞窟の奥へと向かおうとした。

「どこ行くの?」

 すぐにルクシャナとティファニアが気づいてやってきた。

「他にも武器があるんだって。だから見に行くの。」

「私も行く。」

「私も見るわ。」

 そして三人を乗せ、海母は、洞窟の奥へと向かった。

 海母は、海水が満ちた穴に入っていった。

 末広がりのこの岩山の内部は、アリの巣のように広がっており、潜って数十秒してすぐに別の洞窟に顔を出した。

 そこは比較的に明るく、打ち寄せる外へと通じる穴らしかった。

 しかし、そこにあるは、神秘的なこの洞窟には似つかわしくないものばかりだった。

 トゥは、ロマリアのカタコンベを思い出した。

 銃、大砲、戦車、そして戦闘機もある。

 しかしそれらは、ロマリアのと違って固定化の魔法をかけていないので塩で錆び錆びになっており、朽ち果てていた。

 トゥは、その中から何か使えそうな物を探した。

 そして…。

「あっ!」

「何? 使えそうなのが見つかったの?」

「これ!」

 トゥは、嬉しそうにそれを両手で持ち上げた。

 それは、哨戒艇だった。一見するとボートだが、機銃がついている。

 トゥの怪力によってガラクタの中から盛り上げられたソレが、海に浮かべられた。

 ところどころさび付いてはいるものの、トゥが左手を触れると、ルーンが光った。

「よかった。動くよ。」

「どうやって動かすの?」

「こうやって。」

 トゥは、嬉しそうにエンジンの始動の操作をした。

 そしてかかるエンジン。幸いにも燃料が満タンな状態であったため、エンジンはすぐにかかった。

 そのエンジン音に海母が跳ねた。

「なんだね? その音は!」

「エンジン音だよ。」

「えんじん?」

「強いて言うなら…、油を燃やす力で動く金属のカラクリかな?」

「油を燃やすなんて私達にだってもできるわ。効率悪そうじゃない。」

「これが科学の力なんだよ。精霊や魔法を使わないの。」

「あの毒をまき散らすって言う爆弾も?」

「…うん。」

「……野蛮ね。かがくって。」

「でも魔法が使えない人達が作り出した物なんだよ。生きるために。」

「毒をまき散らすのが生活の役にたつわけ?」

「それはそれ。これはこれ。」

「屁理屈言って…。」

 ルクシャナは、プイッとそっぷを向いた。

 トゥは、とりあえずエンジンを止めた。

 哨戒艇から下りると、ふと思い立ち、デルフリンガーに聞いた。

「ねえ、デルフ。」

『あんだ?』

「こういう武器とかって聖地から流れてくるの?」

『どうだろうな…。昔と地形が違うからよぉ。』

「海母さん。この辺りは、昔地面があったんですか?」

「わらわが生まれた頃から、ここらは海だったよ。」

「それっていつ頃ですか?」

「千年ぐらい前かねぇ。」

「それよりも前は?」

「ああ、そういえば、わらわの祖母が言っていたような気がするよ。祖母の祖母がいたころは、この辺りは陸地だったって。」

「ってことは…。」

「バカじゃないの?」

 ルクシャナが呆れた声で言った。

「ここがシャイターンの門だって言うの? あのね、ここは竜の巣。誰からも忘れ去られた場所。ここがシャイターンの門だって言うなら軍が守ってるはずだわ。」

「でもそれだと、ここがそうですって言ってるようなものだよ? 目立っちゃうよ。」

「だからと言ってここに私達がいることを知ってたら、こんなにのんびり……。」

「だから変なんだよ。」

 トゥが言った。

「あまりにも簡単に逃げ出せるなんて、おかしいよ。」

 っと、その時。

 海母の巣である洞窟の壁の外から何かがぶつかる音がして、地震が来たように激しく振動した。

「……私達…、泳がされたんだ。」

 トゥは、そう呟いた。

 

 




次回は、やっとリーヴスラシルの回になるかな?


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